こんにちは、シラスです。
これまで、実験計画法の計算に必要な「部品」を一つずつ解説してきました。
- 👉 修正項(CT): データの底上げ分をキャンセルする
- 👉 平方和(S): ズレの総エネルギー
- 👉 自由度(f): エネルギーの広さ
これらは全て、「分散分析表(ANOVA)」という一枚の成績表を作るための材料です。
今日は、集めた材料(S, f, V)を組み立てて、実験計画法のゴールである「F検定(有意差判定)」を行うまでの手順を完全ガイドします。
目次
1. 今回のモデルケース:プラスチックの強度実験
ただ表を見るだけではつまらないので、架空の実験現場をイメージしながら進めましょう。
あるプラスチック部品の「強度」を上げるために、以下の2つの条件を変えて実験しました。
- 要因A(温度): 200℃ と 250℃
- 要因B(材料): 材料X、Y、Z の3種類
「温度」や「材料」を変えることで、強度は本当に変わるのか? それとも誤差の範囲なのか?
これを判定するのが分散分析表の役目です。
2. 完成形:これが分散分析表だ
計算結果をまとめた表がこちらです。
左から右へ、流れるように見てください。
| 要因 (Source) |
自由度 (f) |
平方和 (S) |
分散 (V) |
分散比 (F値) |
|---|---|---|---|---|
| 温度 (A) | 1 | 100.0 | 100.0 | 20.0 ** |
| 材料 (B) | 2 | 10.0 | 5.0 | 1.0 |
| 誤差 (e) | 4 | 20.0 | 5.0 | - |
| 計 (T) | 7 | 130.0 | - | - |
3. 左から右へ:計算の完全手順
この表は、左の列から順番に計算していけば埋まります。
ステップ1:Sとfを埋める
これまでの記事で計算した「平方和(S)」と「自由度(f)」をそのまま書き写します。
- S:データのズレの総量(総エネルギー)
- f:データの個数的なもの(n-1)
ステップ2:分散(V)を計算する
ここからが新しい計算です。
総エネルギー(S)を個数(f)で割って、「単価」を出します。
表の数字で確認してみましょう。
- 温度(A)の分散: 100.0 ÷ 1 = 100.0
- 材料(B)の分散: 10.0 ÷ 2 = 5.0
- 誤差(e)の分散: 20.0 ÷ 4 = 5.0
ステップ3:分散比(F値)を計算する
ここがクライマックスです。
それぞれの要因の分散(パワー)が、「誤差(ノイズ)」に対して何倍大きいかを計算します。
必ず「誤差(e)の分散」が分母(割り算の下)になります。
- 温度(A)のF値: 100.0 ÷ 5.0 = 20.0
- 材料(B)のF値: 5.0 ÷ 5.0 = 1.0
4. 判定:この数値は何を意味する?
計算された「F値」を見ると、実験の結果が一目瞭然になります。
ノイズの20倍もの影響力を持っています。
これは「偶然」ではありません。「温度を変えれば強度は確実に変わる(有意差あり)」と判定できます。
ノイズと同じレベルの影響力しかありません。
これは「材料を変えても強度は変わらない(誤差の範囲)」と判定されます。
まとめ
分散分析表は、実験の努力の結晶です。
この表が完成すれば、あなたは自信を持って上司にこう報告できます。
「材料費の高い材料Zを使う必要はありません。安い材料Xを使い、温度管理だけ徹底すれば強度は上がります!」と。
これこそが、実験計画法を使う最大のメリット(コストダウンと品質向上の両立)なのです。
