こんにちは、シラスです。
これまで、比率の検定や推定を行うために、複雑なルート($\sqrt{}$)の計算をしてきました。
しかし、PCも電卓もなかった時代、品質管理の先人たちは「定規と鉛筆だけ」でこれらの複雑な統計解析を行っていました。
その魔法のような道具が、今回紹介する「二項確率紙(Binomial Probability Paper)」です。
「今どき紙でやるの?」と思うかもしれませんが、QC検定(特に1級・2級)では出題されることがありますし、何より「検定=距離」という統計学の本質を視覚的に理解するのに最適なツールなのです。
目次
1. 二項確率紙とは?(歪んだ方眼紙)
二項確率紙は、普通のグラフ用紙とは目盛りの打ち方が違います。
【なぜルートなのか?】
比率の分散は $P(1-P)$ で変化してしまいますが、ルート変換することで「どこでもバラつきが一定(1mmの重みが同じ)」になるように補正されているからです。
この特殊な目盛りのおかげで、面倒な標準誤差の計算をしなくても、「定規で長さを測るだけ」で検定ができるようになります。
2. 使い方①:母比率の検定(AとBの比較)
では、「A工場(不良率5%)とB工場(不良率10%)に有意差はあるか?」を確率紙で解いてみましょう。
ステップ1:点をプロットする
それぞれのデータを座標 $(x, y)$ としてプロットします。
(※ $x$ = 不良数, $y$ = 良品数 としてプロットするのが一般的です)
- 点A: A工場のデータ
- 点B: B工場のデータ
ステップ2:距離を測る
プロットした2点(AとB)の間の長さを、定規で測ります。
ステップ3:判定する
確率紙には、グラフの端っこに「有意差スケール(判定用の物差し)」が印刷されています。
(例:有意水準5%なら長さ〇〇mm、といった基準線です)
- 2点の距離 > 基準の長さ: 有意差あり!
- 2点の距離 < 基準の長さ: 有意差なし。
たったこれだけです。
Z検定の複雑な公式 $\frac{p_1 - p_2}{\sqrt{\dots}}$ を計算した結果と、この「定規で測った結果」は一致します。
3. 使い方②:母比率の区間推定
「真の不良率は何%〜何%の間か?」という区間推定も、コンパスと定規でできます。
- データを点としてプロットする。
- その点を中心に、基準の長さ(1.96倍に相当する長さ)で直線を引く。
- 原点(0,0)から、その直線の両端に向かって線を引く。
- 確率紙の外周にある「%目盛り」を読む。
これで、計算することなく「信頼区間は 3% 〜 8% だな」と読み取ることができます。
4. QC検定での出題ポイント
実務で使うことは少なくなりましたが、QC検定(特に1級・2級)では「この図は何を意味しているか?」という問題が出ることがあります。
- ラジアン目盛(Rスケール): 正規分布の標準偏差 $\sigma$ に対応する長さ。
- 逆正弦変換(アークサイン変換): この確率紙の数学的な正体。
$\sin^{-1}\sqrt{p}$ という変換を行っている。
まとめ:統計学は「距離」の学問だ
PCで計算すると「p値 = 0.03」という数字しか見えませんが、確率紙を使うと「AとBはこんなに離れているんだ!」という実感が湧きます。
この「距離感覚」を持っておくと、後に学ぶ多変量解析(マハラノビス距離など)の理解がグッと早くなります。
さて、ここまでは「サンプル数が多い(正規分布が使える)」場合の話でした。
しかし、現場では「サンプル数がめちゃくちゃ少ない(正規分布近似が使えない)」という極限状態に遭遇することもあります。
次回は、そんな時のための奥義、「フィッシャーの正確確率検定」について解説します。
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