実験計画法

【実験計画法】母平均の推定(一元配置)|「最適な温度にしたら、強度はいくつになる?」点推定と区間推定

こんにちは、シラスです。

前回、F検定によって「温度を変えると強度が変わる(有意差あり)」ことが証明されました。

しかし、現場の仕事は「差がありました!」と報告して終わりではありません。
上司やクライアントは、必ずその先の「未来」を知りたがります。

「じゃあ、成績の良かった『高温(A2)』で量産したら、強度は具体的にいくつになるの?」

この問いに答えるのが、実験計画法のゴールである「推定(Estimation)」です。

今日は、実験データを使って、最適な条件を選んだ時の実力値を「点(ズバリ)」「区間(幅)」で予測します。

1. 準備:分散分析表を思い出そう

推定を行うには、前回の「分散分析表」の情報を使います。
特に重要なのが、「誤差分散($V_e$)」です。

【前回の解析結果】

  • 温度A1(低温): データ $\{3, 4, 5\}$ → 平均 $\bar{A}_1 = 4.0$
  • 温度A2(高温): データ $\{7, 8, 9\}$ → 平均 $\bar{A}_2 = 8.0$
  • 誤差分散 $V_e$: 1.0
  • 誤差自由度 $f_e$: 4

今回は成績の良い「温度A2(高温)」を採用することにします。
この条件での母平均 $\mu$ を予測しましょう。

2. 点推定:ズバリいくつ?

まずは「点推定」です。
これは非常にシンプルです。

点推定値 = その水準のデータ平均

温度A2のデータは $\{7, 8, 9\}$ だったので、その平均値がそのまま推定値になります。

$$ \hat{\mu} = 8.0 $$

つまり、「平均的には強度 8.0 くらいになるでしょう」ということです。
簡単ですね。

3. 区間推定:最悪ケースはいくつ?

しかし、「平均8.0です」と言い切るのは危険です。
バラつきがある以上、運が悪ければ 6.0 になるかもしれないからです。

そこで、「95%の確率で収まる範囲」を計算します。
公式は以下の通りです。

$$ \mu = \bar{A}_i \pm t \times \sqrt{\frac{V_e}{n_{eff}}} $$
  • $\bar{A}_i$:その水準の平均値
  • $t$:t分布の値(自由度は誤差の$f_e$を使う!)
  • $V_e$:誤差分散(ANOVA表から持ってくる)
  • $n_{eff}$:有効反復数(その水準のデータ数)

なぜ「Ve」を使うのか?

ここがポイントです。
温度A2のデータだけ(3個)でバラつきを計算するのではなく、実験全体から求めた「誤差分散 $V_e$(データ6個分)」を使います。

こうすることで、少ないデータ数でも精度の高い予測(プールされた分散の活用)が可能になるのです。

4. 実践計算:95%信頼区間を出す

では、数字を当てはめていきましょう。

ステップ1:t値を探す

使う自由度は、A2のデータ数($3-1=2$)ではありません。
誤差分散 $V_e$ の自由度($f_e = 4$)を使います。
(ここ、試験で一番間違えやすいポイントです!)

  • 自由度4
  • 有意水準: 両側 5% (0.05)

t分布表を見ると、2.776 です。

ステップ2:幅(誤差)を計算する

公式の $\pm$ の後ろの部分を計算します。
$V_e = 1.0$、データ数 $n = 3$ なので、

$$ \begin{aligned} \text{幅} &= 2.776 \times \sqrt{\frac{1.0}{3}} \\ &= 2.776 \times 0.577 \\ &\approx \mathbf{1.6} \end{aligned} $$

ステップ3:結論

点推定値(8.0)に幅(1.6)をプラスマイナスします。

  • 下限: $8.0 - 1.6 = 6.4$
  • 上限: $8.0 + 1.6 = 9.6$

答え: $6.4 \le \mu \le 9.6$

📋 報告書の書き方

「温度を高温(A2)に設定すれば、強度は平均で 8.0 程度になります。
ただし、バラつきを考慮すると、最悪の場合 6.4 まで下がるリスクがあります」

もし製品の規格が「強度 6.0 以上」なら、この条件で合格です。
しかし、規格が「7.0 以上」なら、下限(6.4)が割れているので、「もっとバラつきを減らす(nを増やすか、管理を厳しくする)」などの対策が必要になります。

まとめ

点推定は、その水準の平均値そのまま。
区間推定では、分散分析で求めた「誤差分散 $V_e$」を流用する。
t値の自由度は、誤差の自由度($f_e$)を使うことを忘れない。

これで、一元配置実験の全工程が完了しました。

次回は、少し視点を変えて、「データに変なクセ(異常)はなかったか?」を事後チェックする健康診断、「残差分析(Residual Analysis)」について解説します。

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