実験計画法

【実験計画法】直交表(L8)の仕組み図解|なぜ「間引き」しても正しい結果が出るのか?

こんにちは、シラスです。

実験計画法を学ぶ最大のメリット。それは「実験回数の劇的な削減」です。

例えば、開発中の製品について「7つの条件(因子)」を変えて実験したいとします。
これを総当たり(フルファクトリアル)でやろうとすると、とんでもない回数になります。

$2^7 = 128$ 通り

(もし1実験に1時間かかるとしたら、不眠不休でやっても5日以上かかります…)

しかし、「L8直交表」という道具を使えば、この128回をたった「8回」に減らすことができます。

「1/16 に間引いて、本当に正しい結果が出るの?」
「大事なデータを見落とすんじゃないの?」

そう疑いたくなりますよね。
しかし、これは適当な間引き(手抜き)ではありません。数学的に計算された「究極のバランス」なのです。

今日は、なぜ直交表を使うと実験を減らせるのか? その「魔法のタネ」を図解で解説します。

1. 実物公開:これが「L8直交表」だ

まずは、その魔法の表を見てみましょう。
縦に実験No.(1〜8)、横に条件の割り付け場所(列1〜7)が並んでいます。

No. 第1列 第2列 第3列 第4列 第5列 第6列 第7列
11111111
21112222
31221122
41222211
52121212
62122121
72211221
82212112
  • 1:水準1(例:低温、材料A)
  • 2:水準2(例:高温、材料B)

一見、「1」と「2」がランダムに散らばっているように見えます。
しかし、ここには「直交性(Orthogonality)」と呼ばれる、驚くべき法則が隠されています。

2. 魔法のタネ:「直交性」とは何か?

直交性とは、一言でいうと「どの2列を選んでも、組み合わせが公平(バランスが良い)」ということです。

試しに、「第1列」「第2列」だけを抜き出して、ペアの数を数えてみましょう。

組み合わせ

  • (1, 1)
  • (1, 2)
  • (2, 1)
  • (2, 2)

登場回数

  • No.1, 2 → 2回
  • No.3, 4 → 2回
  • No.5, 6 → 2回
  • No.7, 8 → 2回

見てください。
(1,1), (1,2), (2,1), (2,2) の4パターンが、全て「ちょうど2回ずつ」登場しています。

実はこれ、第1列と第2列に限った話ではありません。
どの列とどの列を選んでも、必ずこの「完全なバランス」が保たれているのです。

3. なぜバランスが良いと「正しい」のか?

「回数が同じだから何なの?」と思うかもしれません。
ここで、「第1列(温度)」の効果を調べたい場面を想像してください。

温度が「1(低温)」の時の平均値と、「2(高温)」の時の平均値を比較したいとします。
この時、他の条件(例えば第2列の圧力)が邪魔をしないでしょうか?

⚖️ 天秤で考える

温度「1」グループ

この中に含まれる「圧力」は?
・圧力1:2回
・圧力2:2回

温度「2」グループ

この中に含まれる「圧力」は?
・圧力1:2回
・圧力2:2回


左右どちらも「圧力条件は全く同じ」!
だから、圧力の影響はプラマイゼロで消える。

もし実験計画が適当だと、「温度1の時は、たまたま圧力も1の時が多かった」なんてことが起きてしまい、温度の効果なのか圧力の効果なのか区別がつかなくなります(交絡)。

直交表は、この「他の条件の影響を完全にキャンセル(相殺)できる配置」になっているため、たった8回の実験でも、各因子の効果を純粋に取り出すことができるのです。

4. 犠牲にしているもの

もちろん、128回やるのと同じ情報量が手に入るわけではありません。
何かを得るには、何かを犠牲にする必要があります。

直交表が犠牲にしているもの。それは「複雑な交互作用」です。

  • 「温度」と「圧力」の相性($A \times B$) → なんとか評価できる。
  • 「温度」と「圧力」と「材料」の相性($A \times B \times C$) → 誤差に埋もれて評価できない。

「3つの条件が特定の組み合わせの時だけ爆発する!」
直交表は、こういった「複雑すぎるレアケースは無視する」と割り切ることで、実験回数を極限まで圧縮しているのです。

まとめ

L8直交表は、7つの因子をたった8回で評価できる最強のツール。
✅ その秘密は「直交性(バランス)」。どの列同士を見ても、組み合わせの数が公平になっている。
✅ おかげで、他の因子の影響をキャンセルして、個別の効果を正しく計算できる。

直交表は、パズルゲームの「数独(ナンプレ)」と同じです。
縦横どこを見ても数字が被らないように配置することで、最小限のヒントで全体像を解き明かしているのです。

さて、仕組みは分かりました。
しかし、実務で使うには「どの列に、どの因子を入れるか?」を決めなければなりません。

適当に入れると、見たいはずの「交互作用」が見えなくなってしまいます。
それを防ぐための地図が、次回紹介する「線点図(Linear Graph)」です。

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