こんにちは、シラスです。
前回まで、L4やL8直交表を使って「交互作用(相性)」を見抜く方法を解説してきました。
しかし、開発の現場では、こんな切実な叫びが聞こえてくることがあります。
とにかくたくさんの因子(10個以上)を、手っ取り早く(12回くらいで)評価したいんだ!」
初期検討(スクリーニング)の段階では、相性をチマチマ調べるよりも、「どの因子が重要か?」をざっくり知ることの方が優先される場合があります。
そんな欲張りな願いを叶えるのが、今回紹介する異端の直交表、「L12直交表」です。
この表は、ある「犠牲」を払うことで、驚異的な実験効率を実現しています。
今日は、その犠牲の正体と、L12が最強と呼ばれる理由を解説します。
目次
1. L12直交表の「スペック」
まず、L12直交表の実力を見てみましょう。
比較対象として、メジャーな「L16直交表」と並べてみます。
| 種類 | 実験回数 | 扱える因子の数 | 交互作用 |
|---|---|---|---|
| L16直交表 | 16回 | 最大 15個 | 特定の列に出る (見れる) |
| L12直交表 | 12回 | 最大 11個 | 全列に分散する (見れない) |
L16よりも少ない実験回数(12回)で、ほぼ同じ数(11個)の因子を調べることができます。
非常にコスパが良いですね。
しかし、右端の項目に注目してください。
「交互作用が見れない」と書いてあります。
2. 交互作用を「ミキサーにかける」
L8やL16では、「1列と2列の交互作用は、3列に出る」という決まりがありました(線点図)。
だから、3列を空けておけば、交互作用を評価できました。
しかし、L12直交表には、そんな決まった場所はありません。
どうなっているかと言うと…
🌪️ 交互作用のスムージー化
L12では、発生した交互作用(相性)を、特定の列に集めるのではなく、
「すべての列に均等に、薄くバラ撒く」
という特殊な設計になっています。
まるで、具材(交互作用)をミキサーにかけて、ジュースにして全体に混ぜ込んだような状態です。
全体に薄く混ざってしまうので、特定の交互作用を取り出して評価することは不可能です。
その代わり、「どの列にも、致命的な交互作用(お化け)が出ない」という安全性が保証されます。
3. なぜそれが「最強」なのか?
「交互作用が見れないなんて、欠陥品じゃないか?」
そう思うかもしれません。しかし、以下のシチュエーションでは、これこそが最強の武器になります。
開発の初期段階では、「温度、圧力、材料、時間、速度…」など、怪しい因子が山ほどあります。
この段階で知りたいのは、細かい相性(交互作用)ではありません。
L12を使えば、交互作用のことを一切気にせず、空いている列に片っ端から因子を詰め込むことができます。
(L8やL16だと、交互作用が出る列を避けながら割り付けるので、空き部屋が無駄になります)
- L16: 交互作用を避けると、実質5〜6個しか因子を入れられない。
- L12: 交互作用を無視して、最大11個までギチギチに詰め込める。
この「収容力の高さ」こそが、L12がスクリーニング実験の王様と呼ばれる所以です。
まとめ
「木を見て森を見ず」にならないように。
最初はL12で「森(主効果)」をざっくり把握し、重要な因子が見つかったら、L8などで「木(交互作用)」を詳しく調べる。
この「L12 → L8」の黄金リレーを使えるようになれば、実験の効率は劇的に向上します。
さて、ここまでは「2水準(High/Low)」の話でした。
しかし、現場では「材料が3種類ある(A, B, C)」といった3水準の因子を扱いたいこともありますよね?
「2水準の直交表(L8)に、無理やり3水準を入れることはできないの?」
次回は、そんな無茶振りを解決する裏技、「ダミー水準法(擬水準)」について解説します。
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