日常統計学

【統計学】「アイスが売れると事故が増える?」擬似相関の罠と、データに騙されないための思考法

こんにちは、シラスです。

統計学の世界には、あまりにも有名で、そして恐ろしい「ミステリー」が存在します。

「ある町で、アイスクリームの売上が増えると、
なぜか水難事故(溺れる人)が急増する」

データは嘘をつきません。散布図を描くと、見事な右肩上がりの相関が見えます。
相関係数も $r=0.8$ を超えるかもしれません。

さて、このデータを見た市長は、事故を減らすためにこう命令しました。

「ただちにアイスクリームの販売を禁止せよ!」

……もちろん、これは間違いです。
アイスを禁止しても、事故は一件も減りません。

なぜなら、ここには隠れた「真犯人」がいるからです。
今日は、データ分析の最大の落とし穴、「擬似相関(ぎじそうかん)」について解説します。

1. 真犯人は誰だ?:交絡因子の存在

アイスと事故、この2つを裏で操っていた黒幕。
それは「気温(夏)」です。

因果の構造図

☀ 気温 (Z)
↙  ↘
アイス (X)
暑いから売れる
水難事故 (Y)
暑いから泳ぐ

「気温」が上がると「アイス」も売れるし、「事故」も増える。
それぞれが気温と繋がっているだけなのに、あたかも「アイスと事故が直接繋がっている」かのように見えてしまう。

これが擬似相関の正体です。
そして、この真犯人(気温)のことを、統計用語で「交絡因子(こうらくいんし)」と呼びます。

2. 他にもある「騙されやすい事例」

「アイスの話は極端でしょ?」と思うかもしれません。
しかし、ビジネスや生活の中には、もっと巧妙な擬似相関が潜んでいます。

事例①:警察官が多い地域ほど、犯罪が多い?

データを見ると、警察官の数と犯罪件数には正の相関があります。
「警察がいるから犯罪が増えるんだ!警察を減らせ!」というのは暴論です。

  • 真犯人(交絡因子): 「人口の多さ(都市化)」
  • 人口が多いから犯罪も多いし、警察もたくさん配置されているだけ。

事例②:年収が高い人ほど、ゴルフをしている?

「よし、俺も年収を上げるために明日からゴルフを始めよう!」
残念ながら、ゴルフをしても年収は上がりません。

  • 真犯人(交絡因子): 「年齢(役職)」や「元々の富裕度」
  • 偉くなると付き合いでゴルフをする機会が増えるだけ。

3. どうすれば見抜けるのか?(対策)

回帰分析や相関分析は、計算ソフトにデータを入れれば一瞬で終わります。
しかし、ソフトは「それが擬似相関かどうか」までは教えてくれません。

騙されないためには、私たち人間が以下の「ツッコミ」を入れる必要があります。

🕵️‍♂️ データへの尋問リスト

  • 「逆はありえるか?」(雨が降るから傘をさす $\leftrightarrow$ 傘をさすから雨が降る)
  • 「メカニズム(理屈)はあるか?」(アイスで溺れる物理的な理由は?)
  • 「第三の要因はないか?」(時代、景気、気温、人口…)

この「メカニズムを考える力」のことを、専門用語で「ドメイン知識(現場の知見)」と呼びます。
統計学の計算式を知っているだけではダメで、その業界や現場の常識を知っていないと、正しい分析はできないのです。

まとめ

相関関係 $\neq$ 因果関係。一緒に動くからといって、原因とは限らない。
✅ 隠れた第三者(交絡因子)による「擬似相関」に注意せよ。
✅ AIやソフトは因果を判定できない。最後に決めるのは人間の常識(ドメイン知識)

データ分析の結果が出たとき、すぐに「これが原因だ!」と飛びつく前に、一呼吸置いて周りを見渡してください。

「夏だからじゃない?」
その冷静な一言が、組織を誤った判断から救うことになるかもしれません。

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