ロバスト設計

静特性 S/N 比は3つだけ!Smaller・Larger・Nominalを一発で選ぶコツ

はじめに

「規格内なのに品質が安定しない」と感じた経験はありませんか。
ロバスト設計の静特性では、ばらつきを評価する指標として S/N 比(Signal-to-Noise Ratio) を使います。

この記事の目標は三つです。

  1. 静特性とは何かをイメージできる

  2. Smaller / Larger / Nominal の 3 つの S/N 比公式を条件反射で選べる

  3. 計算結果を QC 検定 1 級の答案に書ける

前回の記事「制御因子とノイズ因子を見極める 3 ステップ」で因子の仕分けが終わったら、次はこの S/N 比で“数字に強い設計”に踏み込みましょう。


1 静特性とは何か

1.1 目標値が一点の品質特性

静特性は「これが理想!」と決まった数値にできるだけ近づけたい特性を指します。
例 抵抗値 100 Ω、板厚 2.0 mm、糖度 10 % など。

1.2 なぜ S/N 比が必要か

品質を〈目標とのズレ〉と〈ばらつき〉で同時に評価するためです。タグチは目標からのズレ y-m が社会的損失 L に比例すると提案しました。

 

L=k(ym)2

ズレが小さくても数が多ければ損失が積もる――だからばらつき自体を減らす必要があります。

1.3 動特性との違い

動特性は入力(信号因子)M があり、出力 Y が理想直線 Y = G M + β₀ に従うかを評価します。一方、静特性には信号因子が無く、目標値に集めることだけが目的です。


2 S/N 比のしくみ

2.1 Signal と Noise の直感

  • Signal = 欲しい効果(平均や応答)

  • Noise = ばらつき(ランダム誤差)

平均を大きくし、ばらつきを小さくすると S/N 比は大きくなります。

2.2 なぜ dB 表示か

対数を取ると「掛け算→足し算」に変わり、値が大きいほど良いという直感的なスケールになります。

 

η=10log10(ばらつき指標)

2.3 S/N 比は 3 式だけ

特性の種類 使う場面 S/N 比

η (dB)

覚え方
Smaller-the-Better 汚れ量・欠陥数など小さいほど良い  

η=10log10(1nyi2)

スクエア小さく
Larger-the-Better 強度・歩留まりなど大きいほど良い  

η=10log10(1n1yi2)

ワンオーバー大きく
Nominal-the-Best 寸法・濃度など目標値が決まる  

η=10log10(σ2)

ノミナルは分散

3 3 式を選ぶときの判断フロー

  1. 小さいほど良い量か? → Smaller

  2. 大きいほど良い量か? → Larger

  3. 目標値があるか? → Nominal

目標が有限で「上下に外れたら損」という場合は Nominal です。


4 ミニ例題で手計算

パターン データ S/N 比計算
Smaller 2, 3, 4 ppm  

η=10log10((22+32+42)/3)9.9 dB

Larger 45, 50, 55 MPa  

η=10log10((1/452+1/502+1/552)/3)33.9 dB

Nominal (100 Ω目標) 98, 101, 103 Ω  

σ2=6.34

η8.0 dB

計算は「データを式にそのまま入れる」だけ。dB が大きいほどロバストです。


5 試験で狙われるパターンとコメント例

5.1 計算問題

「表の数値から S/N 比を求めよ」
公式選択+計算で 3 点。dB を書き忘れないこと。

5.2 主効果図の読み取り

「S/N 比が最大となる水準を選び、理由を述べよ」
コメント例
「A2 水準は S/N 比が最も大きく、ばらつき低減効果が最大と判断できる」

5.3 損失削減額の算出

dB 差が Δη のとき損失比は

10Δη/10

。3 dB 上がると約 1/2。


6 まとめ

  1. 静特性は目標一点に近づける特性

  2. S/N 比は Smaller / Larger / Nominal の 3 式だけ

  3. 公式を選び dB を計算し、大きい水準を選べば良い

次の記事:

前の記事:

 

次の記事:

-ロバスト設計