こんにちは、シラスです。
実験計画を立てるとき、こんな「板挟み」に遭うことはありませんか?
「でも、総当たり実験をする時間も予算もない!」
例えば、3つの因子をそれぞれ3水準で試そうとすると、$3 \times 3 \times 3 = 27$ 回 の実験が必要です。
これを、たった「9回」に減らす魔法があったらどうでしょうか?
それが、今回紹介する古典的テクニック「ラテン方格法(Latin Square Design)」です。
難しそうな名前ですが、仕組みはパズルゲームの「数独(ナンプレ)」と全く同じです。
今日は、パズルを解く感覚で、効率的な実験計画を組む方法を解説します。
目次
1. ラテン方格の仕組み:「数独」と同じ
まずは、ラテン方格の実物を見てみましょう。
3水準(A, B, C)の因子を配置した $3 \times 3$ のマス目です。
| A | B | C |
| B | C | A |
| C | A | B |
何か気づきませんか?
そうです。「縦の列」を見ても、「横の行」を見ても、A・B・Cが一度も被らずに1回ずつ登場しています。
これが「ラテン方格(数独)のルール」であり、実験回数を減らせる秘密なのです。
2. 実践:車の燃費テスト
具体的なイメージを持つために、「車の燃費」をテストする実験で考えてみましょう。
- 因子1(縦): タイヤの種類(3種類)
- 因子2(横): 路面コンディション(3種類)
- 因子3(中): ドライバー(3人)
これら3つを総当たりでやると27回も走らなければなりません。
しかし、ラテン方格を使えば、以下のように割り付けることができます。
| タイヤ \ 路面 | 乾燥路 | 雨天路 | 砂利道 |
|---|---|---|---|
| タイヤX | 佐藤 (A) |
鈴木 (B) |
田中 (C) |
| タイヤY | 鈴木 (B) |
田中 (C) |
佐藤 (A) |
| タイヤZ | 田中 (C) |
佐藤 (A) |
鈴木 (B) |
なぜこれでOKなのか?
「タイヤX」の列(横一列)を見てください。
路面は「乾燥・雨・砂利」を網羅し、ドライバーも「佐藤・鈴木・田中」を網羅しています。
つまり、「タイヤ以外の条件(路面・ドライバー)は、全員平等に割り当てられている」のです。
これにより、たった9回の実験で、特定のタイヤが有利になることなく公平な比較(直交化)が可能になります。
3. メリットと強烈なデメリット
非常に便利なラテン方格ですが、万能ではありません。
強力な副作用(デメリット)があります。
ラテン方格は、実験回数を限界まで削っているため、「特定のタイヤと、特定の路面の相性」といった交互作用は、すべて誤差の中に埋もれてしまいます。
もし強い交互作用があると、主効果の計算結果まで狂ってしまいます。
ですので、この手法を使うのは以下のケースに限られます。
- スクリーニング(初期検討): とりあえずどの因子が効くかざっくり知りたい時。
- 交互作用がないと分かっている時: 経験的に「相性問題は起きない」と知っている時。
- 局所管理(乱塊法): 「実験日」や「実験者」といったノイズを除去したい時。
まとめ
ラテン方格法は、L12直交表やL18直交表の「ご先祖様」のような存在です。
現代ではL9やL27直交表を使うことが多いですが、この「パズルのように配置してバランスを取る」という感覚は、実験計画法のセンスを磨く上で非常に重要です。
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