日常統計学

【日常統計学】年収は「能力」ではなく「業界」で決まる。回帰分析の切片が違う

こんにちは、シラスです。

「もっと給料を上げたい」と思った時、多くの人はこう考えます。

「もっとスキルを磨こう」
「もっと成果を出して評価されよう」

しかし、統計学的に見ると、これは「努力の方向性がズレている」可能性があります。

残酷な事実ですが、年収の大部分を決めているのは、あなたの個人の能力(努力)ではありません。
あなたが属している「業界」という構造です。

今日は、回帰分析の「切片(せっぺん)」という概念を使って、キャリアと年収の身も蓋もない真実を解説します。

1. 年収を決める「方程式」

サラリーマンの年収は、ざっくりと以下の回帰式で表すことができます。

年収($y$) = $a$ × 能力($x$) + $b$

前回学んだ $y = ax + b$ の形ですね。
それぞれの変数は、ビジネスでは以下を意味します。

パラメータの意味

  • $x$(説明変数):個人の能力・努力
    スキル、資格、残業時間、勤続年数など。あなたがコントロールできる部分。
  • $a$(傾き):評価の上がりやすさ
    頑張ったらどれくらい給料が増えるか。「1の努力でいくら稼げるか」という効率。
  • $b$(切片):業界のベース給与
    能力がゼロ(新入社員)でも貰える基本給の水準。ここが一番重要です。

2. 「切片」の格差:努力では埋まらない壁

多くの人は、「頑張って $x$(能力)を増やそう!」と努力します。
しかし、業界によって「切片 $b$」の値が絶望的に違うのです。

業界ごとの回帰直線

例えば、2つの業界を比較してみましょう。

🏢 業界A(商社・金融・IT)

$y = 50x + \mathbf{600}$

切片が高い。新卒でも年収600万スタート。
普通にしていれば1000万に届く。

🏪 業界B(飲食・小売・介護)

$y = 30x + \mathbf{300}$

切片が低い。スタートは年収300万。
死ぬ気で努力しても600万の壁が厚い。

図にすると一目瞭然です。
業界Bで「能力100」の超人が出す成果(年収)は、業界Aの「能力0」の新人と大差ないのです。

これが「構造的な格差」です。
個人の努力不足ではなく、最初から乗っているエスカレーター(回帰式)が違うのです。

3. 戦略:変数を変えるより、式を変えろ

統計学的なキャリア戦略の正解はシンプルです。

$x$ を増やす前に、$b$ を選べ

今の職場で $x$(努力)を増やして年収を100万上げるのと、
転職して $b$(切片)が高い業界に移るのとでは、後者の方が圧倒的に楽で、確実です。

「どの山に登るか」を決めること(ポジショニング)が9割。
「どれだけ速く登るか」の努力は、残りの1割にすぎない。

電験三種などの「業務独占資格」が強いのも、これが理由です。
資格を取ることで、「一般職の回帰式」から「技術職の回帰式(切片が高い)」へと、数式自体を乗り換えることができるからです。

まとめ

✅ 年収は $y = ax + b$ で決まる。
✅ $x$(努力)よりも、$b$(業界の切片)の影響力の方が圧倒的に大きい。
✅ 給料が低いのは、あなたのせいではなく「式のせい」かもしれない。

もし今、「こんなに頑張っているのに報われない」と感じているなら。
一度立ち止まって、自分がいる場所の「回帰直線の切片」を確認してみてください。

努力をする場所を変えるだけで、人生の難易度は驚くほど下がります。

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