「転職のタイミングは何歳が正解なんだろう?」——そう検索してこのページにたどり着いた方が多いと思います。35歳を過ぎると不利、30代前半が黄金期、いや今は40代でも動ける。ネットには真逆の意見が並んでいて、どれを信じればいいのか迷いますよね。
この記事では、意見ではなく公的な統計データと統計学の考え方だけを使って、この問いを整理します。数式はほとんど出てきません。出てくる計算も、電卓で足し算とかけ算をするだけです。
- 「35歳を過ぎたらもう遅い」と聞いて焦っている
- 体験談ばかりで、結局どれが本当なのかわからない
- 「石の上にも三年」を守るべきか、いつも迷ってしまう
- 感覚ではなく、数字で判断できる方法がほしい
- 公的データが示す「転職した人の年齢」のリアルな数字
- 「平均32.9歳」を読み間違えないための統計の基本
- 成功体験談が当てにならない、統計的な理由
- 自分の数字で「残る/動く」を比べる計算のやり方
転職のタイミングに「何歳がベスト」という正解の年齢はありません。転職した人の平均年齢は32.9歳(doda調査)ですが、平均値(データの真ん中あたりを表す数字)は「その年齢が有利」という意味ではないからです。年齢という1つの数字で決めるより、自分の状況に確率をかけた期待値(起こりうる結果を平均した見込み)で比べるほうが、判断としてはずっと正確になります。
そもそも「統計で転職を考える」とはどういうこと?
統計で考えるとは、「たくさんの人に起きたことの割合を見て、自分に起きそうなことを見積もる」ということです。占いでも精神論でもありません。数を数えて、割合にして、それを判断材料にするだけです。
ここで大事なのは、統計は「あなたがどうなるか」を当てるものではないという点です。統計が答えられるのは「同じような状況の人が100人いたら、だいたい何人がどうなったか」までです。ここを取り違えると、データに振り回されてしまいます。
統計は「天気予報」とまったく同じ性質のものです。降水確率70%は「今日あなたが濡れる」という予言ではなく、「同じ気圧配置の日が100日あれば、70日は雨が降った」という記録です。だから予報を見た人がやることは、外出をやめることではなく傘を持つこと。転職の統計も同じで、行くか行かないかを決めてくれるものではなく、持っていく傘を教えてくれるものです。
この記事で使う統計の道具は4つだけ
これから使う統計の考え方は次の4つです。今わからなくて大丈夫です。すべて本文の中で、その場で説明します。
| 道具 | 一言でいうと |
|---|---|
| 平均値と分布 | 「真ん中の数字」だけ見ると全体を見誤る |
| 生存者バイアス | 成功した人の話だけが自然と目に入る現象 |
| サンクコスト効果 | 「今までかけた時間がもったいない」で判断が歪む |
| 期待値 | 起こりうる結果に確率をかけて足した「見込みの平均」 |
つまり、この記事がやることは「感覚で判断していた部分を、数えられる形に置き換える」ということです。それでは、実際のデータから見ていきます。

データ①:転職した人の平均年齢は32.9歳、しかも上がり続けている
まず、いちばん有名な数字から確認します。転職サービスdoda(パーソルキャリア)の調査によると、2025年に転職した人の平均年齢は32.9歳でした。男女別では男性33.8歳、女性31.4歳です。
注目すべきは、この数字が年々上がっていることです。調査開始の2022年が32.2歳、そこから32.4歳、32.7歳、32.9歳と、3年連続で上昇しています。1年あたり0.2〜0.3歳ずつ、転職する人の年齢層が上にずれているということです。
「毎年0.2歳ずつ上がる」は小さく見えますが、方向が3年連続で同じという点が重要です。統計では、1回のブレより同じ向きが続いていること(トレンド)のほうが信頼できる情報になります。
転職している人の総数も、決して少なくない
総務省の「労働力調査」によると、転職者数はここ数年330万人前後で推移しています。日本の就業者はおよそ6,700万人ですから、ざっくり20人に1人が1年のあいだに勤め先を変えている計算になります。
つまり、転職は「一部の特別な人がする例外的な行動」ではなく、毎年数百万人規模で起きているごく普通の出来事だ、ということです。ここまでが事実の確認です。
dodaの32.9歳と、総務省の330万人は、数えている対象が違います。dodaは同社のサービスを通じて転職した人、総務省は全国の働く人への調査です。母集団(データを集めた元の集団)が違う数字を並べて「だから◯◯だ」と結論づけるのは、統計ではやってはいけない典型的なミスです。この記事でも、あくまで別々の話として扱います。

「平均32.9歳」を読み間違えないために|平均はピークではない
ここがこの記事でいちばん大事なところです。「転職者の平均年齢32.9歳」と聞くと、多くの人が「32〜33歳が転職のピークで、そこが有利な年齢だ」と読んでしまいます。これは統計的に間違いです。
平均値は「全員の年齢を足して、人数で割った数字」でしかありません。その年齢の人が多いことも、その年齢が得であることも、一切意味していないのです。
かんたんな数字で確かめてみる
極端な例で考えると一瞬でわかります。転職した人が4人いて、年齢が25歳、26歳、40歳、41歳だったとします。平均を計算してみましょう。
全員の年齢を足します。
25 + 26 + 40 + 41 = 132
人数(4人)で割ります。
132 ÷ 4 = 33
平均は33歳。ところが、33歳で転職した人は1人もいません。
これが平均値の性質です。平均は「山の頂上」ではなく、データ全体のつり合いが取れる支点にすぎません。20代の転職者と40代の転職者が両方たくさんいれば、誰もいない真ん中に平均が来ることさえあるのです。
平均値を見たら、必ずセットで「ばらつき(分布)はどうなっているか」を確認する。これは統計を使う人が最初に身につける習慣です。平均だけを見て判断すると、ほぼ必ず読み間違えます。
つまり、「平均32.9歳」から読み取れる正しい情報は「転職している人の年齢層は、ざっくり30代前半あたりに重心がある」という一点だけです。「32.9歳が有利」も「35歳で終わる」も、この数字からは導けません。
平均値と分布の関係をもっとじっくり学びたい方は、統計学とは?初心者向けに「何の役に立つか」を現場目線で解説もあわせてどうぞ。

「35歳限界説」は今も成り立つのか?データで検証する
結論から言います。35歳限界説は、少なくとも「35歳で線が引かれる」という形では、現在のデータと合いません。根拠を2つ挙げます。
根拠1:転職後に賃金が増えた人は40.5%
厚生労働省の「雇用動向調査」(令和6年)によると、転職して新しい職場に入った人のうち、前の職場より賃金が増加した人が40.5%、減少した人が29.4%、変わらない人が28.4%でした。
さらにニッセイ基礎研究所の分析では、40代後半でも賃金が増加した人の割合が4割を超えていることが示されています。もし35歳で市場が閉じるなら、40代後半でこの数字は出ません。
根拠2:そもそも求人に年齢制限を書けない
2007年10月に施行された改正雇用対策法により、労働者の募集・採用で年齢制限を設けることは原則として禁止されています。「35歳まで」と堂々と書かれた求人が並んでいた時代の常識が、そのまま言い伝えとして残っているのが「35歳限界説」の正体です。
🕰️ 限界説が生まれた時代
- 求人票に「35歳まで」と明記できた
- 年功序列で、途中入社の枠が少ない
- 働き手が余っていた
📊 いまのデータ
- 年齢制限は原則禁止
- 転職者の平均年齢は3年連続で上昇
- 40代後半でも賃金増加が4割超
「40代でも4割が増えた」を「自分も4割の確率で上がる」と読むのは早いです。このデータに登場するのは実際に転職した人だけ。転職を検討したけれど条件が合わずにやめた人は、数字に入っていません。だから実際の見込みは、この4割より低めに見積もるのが安全です。
つまり、「35歳で崖がある」のではなく「年齢が上がるほど、求められる条件が具体的になっていく」というのが、データに合った理解です。壁ではなく、坂だと考えるとイメージが近くなります。
なお、年収を左右する要因は年齢だけではありません。年収は能力より「業界」で決まる|回帰分析の切片でわかる残酷な話では、業界という別の変数の影響力を扱っています。

体験談があてにならない統計的な理由|生存者バイアス
「30代で転職して年収が200万円上がった」という話は、SNSでも記事でもよく見かけます。一方で「転職して年収が下がった」という話は、ほとんど流れてきません。この差は、実力の差ではなくデータの集まり方の差です。
これを生存者バイアス(せいぞんしゃバイアス)と呼びます。うまくいった人だけが語り、うまくいかなかった人は語らないため、見えている情報が最初から成功側にかたよってしまう現象です。
戦争中、帰ってきた飛行機の弾痕を調べて「弾が当たっている場所を補強しよう」と考えた人たちがいました。しかしそれは誤りです。その場所に当たっても帰ってこられたのだから、補強すべきは弾痕のない場所。撃たれて落ちた機体は、そもそも調査対象に入っていないからです。転職の体験談も、これとまったく同じ構造をしています。
数字で見ると、ゆがみの大きさがわかる
先ほどの厚労省データでは、賃金が増えた人が40.5%、減った人が29.4%でした。ほぼ10人に3人は下がっているわけです。ところが、目にする体験談の中で「下がった話」の割合は、体感では1割もありません。
つまり、あなたが受け取っている情報は、実際より成功率が2倍以上高く見える加工がかかった状態だということです。判断の材料としては、かなり危険です。
① 個人の体験談より、母集団が明示された調査データを優先する。
② 「この話は、どういう人が語っていないか?」と一度考える。
③ 成功率を聞いたら「分母は何人か」を確認する。
つまり、体験談を読むのをやめる必要はありません。「これは生き残った人の話だ」と分かったうえで読むだけで、情報の受け取り方は大きく変わります。

「石の上にも三年」の正体|サンクコスト効果という思考のクセ
「せっかく2年半も続けたのだから、あと半年で3年にしよう」。この考え方には名前がついています。サンクコスト効果です。サンクコストとは「もう戻ってこない、すでに使ってしまったお金や時間」のこと。日本語では埋没費用といいます。
意思決定の理論では、すでに戻ってこないものは、これからの判断材料にしてはいけないとされています。過去に何年使ったかは、これから先どうなるかに一切影響しないからです。
2,000円払って観はじめた映画が、30分でつまらないと分かったとします。「2,000円払ったんだから最後まで観よう」と考えるのがサンクコスト効果です。でも、席を立っても座り続けても、2,000円は戻ってきません。これから決められるのは「残り90分をどう使うか」だけ。この90分こそが、本当の判断材料です。
「三年」に統計的な根拠はあるのか
「石の上にも三年」は、忍耐の大切さを説いたことわざであって、労働市場のデータから導かれた数字ではありません。3年という区切りに、統計的な裏づけは存在しないのです。
とはいえ、このことわざが完全に無意味かというと、そうでもありません。短すぎる在籍期間は、採用側から「またすぐ辞めるのでは」と見られやすいという現実はあります。ここは正直にお伝えします。
❌ サンクコスト型の考え
- 「2年半も耐えたのだから」
- 「今までの努力がムダになる」
- 過去に使った時間が主語
✅ これから型の考え
- 「あと1年でスキルが増えるか」
- 「残ると次の1年で何が得られるか」
- これから得るものが主語
つまり、判断の基準を「何年やったか」から「これから1年で何が増えるか」に置き換える。それだけで、サンクコスト効果からはかなり自由になれます。

数字で比べてみる|期待値の計算を1ステップずつ
ここからが実践です。期待値(きたいち)とは、起こりうる結果それぞれに「起きる確率」をかけて、全部足した数字のこと。「平均するとこれくらいになる見込み」を表します。
期待値 =(結果1 × 確率1)+(結果2 × 確率2)+ …
設定:年収400万円の人が転職した場合
確率には、先ほどの厚労省データ(増加40.5%・変わらない28.4%・減少29.4%)を使います。増減の幅は分からないので、ここでは「増えるなら+10%、減るなら−10%」と仮に置きます。年収400万円の10%は40万円です。
増えるケースの「金額 × 確率」を出します。
+40万円 × 0.405 = +16.2万円
変わらないケースも同じように計算します。
0円 × 0.284 = 0円
減るケースを計算します。マイナスの金額なので、答えもマイナスになります。
−40万円 × 0.294 = −11.76万円
3つを全部足します。
+16.2 + 0 +(−11.76)= +4.44万円
期待値は約+4.4万円。プラスではありますが、年収400万円に対して約1%です。「転職すれば年収が跳ね上がる」というイメージとは、だいぶ違う数字ではないでしょうか。
期待値だけで決めてはいけない理由
ここが統計の面白いところです。期待値がプラスでも、約29.4%の人は実際に下がっているという事実は消えません。期待値は「平均するとこう」であって、「あなたがこうなる」ではないからです。
だから、期待値と一緒に必ずばらつき(結果の散らばり具合)を見ます。「平均は+4.4万円。ただし約3割は下がる側に入る」——ここまでセットにして、はじめて判断材料になります。
① 40.5%などの確率は全国平均であり、あなた個人の確率ではありません。
② ±10%という増減幅はこの記事の仮定です。実際の幅は人によって大きく違います。
③ 年収しか計算に入れていません。通勤時間・裁量・身につくスキルは金額になっていません。
つまり、この計算式の価値は「正確な答えが出ること」ではなく、自分の数字を入れて何度でも試せることにあります。確率も金額も、あなたが調べた値に差し替えて使ってください。

何社まで見てから決める?「37%ルール」を使う
転職活動でいちばん悩むのは、実は年齢ではなく「この会社で決めていいのか、もっといい会社があるのか」という問いです。これには、統計学に有名な答えがあります。秘書問題(最適停止問題)と呼ばれるものです。
結論はシンプルです。候補の最初の約37%は「見送って基準をつくる期間」にあて、それ以降で、それまでのベストを超えるものが出たら即決する。これが数学的に最も成功しやすい戦略とされています。
10社を検討する場合のやり方
検討する社数を先に決めます。ここでは10社とします。
37%にあたる社数を計算します。
10社 × 0.37 = 3.7社 → 最初の3〜4社
その3〜4社は「相場を知るための調査」と割り切って見送ります。ただし条件は必ず記録します。
5社目以降で、それまでの最高を超える会社が出たら、迷わず決めます。
この方法で「10社中の本当のベスト」を選べる確率は、およそ4割です。当てずっぽうに1社目を選ぶ確率は10社なら1/10=10%ですから、約4倍。何もしないよりずっと良い、というのが数学の答えです。
秘書問題は「一度見送ったら戻れない」「順番はランダム」「良し悪しは比較でしか分からない」という前提で組まれた理論です。実際の転職活動では、見送った会社に後から応募できる場合もあります。厳密な最適解ではなく、「最初の3割は情報収集にあてる」という目安として使うのが現実的です。
つまりこのルールが教えてくれるのは、「最初の数社で即決しない」と「見すぎて決められないを防ぐ」の両方です。決断が苦手な方ほど、効果を感じやすい考え方だと思います。
この最適停止の考え方は、恋愛にもそのまま応用できます。詳しくは運命の人に出会うには「3人」振る必要がある?数学的に正しい恋人の選び方で解説しています。

やりがちなデータの読み間違い3つ
ここまでの内容を、つまずきやすい順にまとめ直します。この3つを避けるだけで、ネット上の情報にほとんど振り回されなくなります。
| ❌ よくある読み方 | ✅ 正しい読み方 |
|---|---|
| 平均32.9歳=その年齢が有利 | 平均は重心にすぎない。分布を見るまで有利不利は言えない |
| 40.5%が増加=自分も4割で増える | それは転職した人だけの数字。検討してやめた人は含まれない |
| 年齢が上がると成功率が下がる=年齢のせい | 希望年収や役職条件も同時に上がっている。原因は1つではない |
3つ目がいちばん厄介です:相関と因果の混同
「年齢が上がるほど成功率が下がる」というデータがあったとします。これは相関(2つが一緒に動いている関係)です。しかし「年齢が原因で下がった」という因果(原因と結果の関係)までは、このデータからは言えません。
年齢が上がれば、希望年収も上がり、求められる役職も上がり、勤務地の融通もききにくくなります。裏で一緒に動いている要因(交絡因子)がいくつもあるのです。「年齢が壁」ではなく「条件が上がった」だけかもしれません。
年齢は自分では変えられません。しかし条件のほうは、自分で選べます。変えられない変数に注目するより、変えられる変数を1つ動かすほうが、結果は変わりやすい——これは統計の使い方としても、実務の考え方としても共通です。
最後に一つだけ。今の環境で心身の健康が損なわれているなら、それは期待値の計算とは別の次元の問題です。統計は「平均するとどうなるか」しか答えられません。健康や安全に関わることは、統計の外側で、必要な相談先に頼って判断してください。

よくある質問
まとめ:年齢という1つの数字から降りる
- 転職した人の平均年齢は32.9歳。ただし平均はピークでも有利な年齢でもない
- 「35歳限界説」は現在のデータと合わない。40代後半でも賃金増加は4割超
- 体験談は生存者バイアスで成功側にかたよる。分母を確認する習慣を持つ
- 「石の上にも三年」に統計的根拠はない。過去の年数はサンクコスト
- 期待値は約+4.4万円(仮定込み)。ただし約3割は下がる側に入る
- 何社見るか迷ったら、最初の約37%は情報収集にあてる
統計を使う目的は、正解を教えてもらうことではありません。判断材料から、かたよりを一つずつ取り除いていくことです。年齢という単純な1つの数字に人生を預けるより、自分の数字を並べて計算したほうが、納得できる結論にたどり着けます。
今日からできる次の一歩
今の年収と、希望する年収を紙に書き出す。
この記事の期待値の式に、自分の数字を入れて計算してみる。
「これから1年で何が増えるか」を、残る場合と動く場合の両方で書き出して比べる。
計算しても答えが出ないこともあります。それでも構いません。何が分かっていて、何が分かっていないのかがはっきりするだけでも、判断の質は上がります。

メーカーで品質保証とデータ分析に携わり、実務で統計を使い続けてきた経験をもとに執筆しています。この記事はキャリア相談ではなく、公開データを統計の考え方で読み解く記事です。数字の出どころと前提を明示し、読んだ方が自分で計算し直せる形で書くことを大切にしています。
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