- 「MOSFETの型番が多すぎて、どれを選べばいいかわからない」
- 「データシートの数字の意味がわからない」
- 「耐圧と電流だけ見て選んでいいの?」
- 「選んだMOSFETが発熱してしまった…何が悪かった?」
- MOSFETを選ぶときに確認すべき「6つのチェックポイント」
- 各パラメータの意味と「どれくらいの値を選べばいいか」の目安
- データシートの読み方と注意点
- 用途別(DC-DC、モーター駆動など)の選び方のコツ
パワーエレクトロニクスの設計において、MOSFETの選定は最も重要な工程の一つです。
しかし、半導体メーカーのサイトには数千種類ものMOSFETが並び、データシートには見慣れない記号と数字が羅列されています。「どれを選べばいいの?」と途方に暮れた経験はありませんか?
この記事では、パワーMOSFETを選ぶときに必ず確認すべき6つのパラメータを、データシートの読み方とともに完全図解します。これを読めば、自信を持ってMOSFETを選定できるようになります。
📋 6つのチェックポイント一覧
目次
チェック①:耐圧 VDSS|「どれくらいの電圧に耐えられるか」
最初に確認すべきは耐圧(VDSS)です。これはMOSFETがOFF状態のとき、ドレイン-ソース間に印加できる最大電圧を示します。
耐圧とは「絶対に超えてはいけない限界値」
耐圧を超える電圧がかかると、MOSFETは「絶縁破壊」を起こして一瞬で壊れます。これは回復不可能な故障です。
正常動作
印加電圧 < VDSS
MOSFETは正常にON/OFFする
絶縁破壊
印加電圧 > VDSS
MOSFETが破壊される(回復不可)
耐圧の選び方:電源電圧の1.5〜2倍を目安に
「電源電圧が48Vだから、耐圧60VのMOSFETでいいかな?」——これは非常に危険です。
実際の回路では、スイッチングの瞬間にサージ電圧が発生し、電源電圧を大きく超えることがあります。安全のために、以下のマージンを確保しましょう。
| 電源電圧 | 推奨耐圧 | 一般的な選択肢 |
|---|---|---|
| 5V | 10V以上 | 20V, 30V |
| 12V | 24V以上 | 30V, 40V |
| 24V | 48V以上 | 60V, 80V |
| 48V | 96V以上 | 100V, 120V |
| 400V(AC整流後) | 600V以上 | 650V, 800V |
耐圧が高いMOSFETは、一般的にオン抵抗が高くなります(同じダイサイズの場合)。必要以上に高い耐圧を選ぶと、損失が増えて効率が下がることがあります。

チェック②:電流 ID|「どれくらいの電流を流せるか」
次に確認するのはドレイン電流(ID)。MOSFETに流せる最大電流を示します。
データシートの電流定格は「理想条件」での値
データシートに「ID = 100A」と書いてあっても、実際に100A流せるとは限りません。これは以下の「理想的な条件」での値だからです。
🚨 データシートの電流定格の条件(例)
- ケース温度 TC = 25℃(巨大ヒートシンクで冷却した状態)
- 連続通電(スイッチングなし)
- VGS = 10V(十分なゲート電圧)
実際の回路では、ケース温度が100℃を超えることも珍しくありません。
高温では電流定格が大幅に低下します。
電流の選び方:実使用電流の2〜3倍を目安に
例えば、実際に10A流す回路なら、ID = 20〜30A以上のMOSFETを選びましょう。
「パルス電流」と「連続電流」の違いに注意
データシートには、ID(連続電流)とIDM(パルス電流)の2種類が記載されていることがあります。
| 記号 | 意味 | 用途 |
|---|---|---|
| ID | 連続ドレイン電流 | 定常的に流れる電流の目安 |
| IDM | パルス(瞬間)ドレイン電流 | 突入電流やサージへの耐性 |
モーター駆動など、突入電流が大きい用途では、IDMも確認しましょう。モーターの起動電流は定常電流の5〜10倍になることもあります。

チェック③:オン抵抗 Rds(on)|「効率を決める最重要パラメータ」
3番目はオン抵抗(Rds(on))。MOSFETがON状態のときの、ドレイン-ソース間の抵抗値です。
これは効率と発熱を決める最重要パラメータであり、MOSFET選定の核心といえます。
オン抵抗が発熱に直結する理由
MOSFETがONしているとき、電流がRds(on)を通過することで「導通損失」が発生します。
電流の2乗に比例するため、大電流ほど損失が急増する
具体例で見てみましょう。
| Rds(on) | 電流 10A | 電流 20A | 電流 30A |
|---|---|---|---|
| 10mΩ | 1W | 4W | 9W |
| 5mΩ | 0.5W | 2W | 4.5W |
| 2mΩ | 0.2W | 0.8W | 1.8W |
Rds(on)を5分の1にすると、損失も5分の1になります。オン抵抗は低いほど良いのが基本です。
Rds(on)の条件に注意:VGSと温度
データシートのRds(on)は、特定の条件下での値です。条件が変わると値も変わります。
① ゲート電圧 VGS
VGSが低いとRds(on)が上昇。データシートに「VGS = 10V時」と書いてあるのに、5Vで駆動すると抵抗値が2〜3倍になることも。
② 接合温度 Tj
温度が上がるとRds(on)も上昇。25℃時の値の1.5〜2倍になることもある。高温での値を確認しましょう。
データシートの「Rds(on) vs Tj」グラフを確認し、実使用温度(80〜100℃)での値で計算しましょう。25℃の値だけで設計すると、実機で発熱してしまいます。

チェック④:しきい値電圧 Vth|「何Vでスイッチが入るか」
4番目はしきい値電圧(VthまたはVGS(th))。MOSFETがONし始めるゲート電圧です。
Vthとは「スイッチが入り始める電圧」
🔑 しきい値電圧の役割
| VGS < Vth | → | MOSFET = OFF |
| VGS > Vth | → | MOSFET = ON開始 |
注意すべきは、Vthを超えたら「すぐに完全ON」になるわけではないという点です。完全にON(低いRds(on))になるには、Vthより数V以上高いVGSが必要です。
標準ロジックレベル vs ロジックレベル
MOSFETには、Vthの異なる2つのタイプがあります。
| タイプ | Vthの範囲 | 推奨VGS | 用途 |
|---|---|---|---|
| 標準タイプ | 2〜4V | 10〜15V | ゲートドライバIC使用時 |
| ロジックレベル | 1〜2V | 3.3〜5V | マイコン直結(小電力) |
「Vth = 2V」のMOSFETを3.3Vマイコンで駆動しようとしても、Rds(on)が高いままで発熱してしまうことがあります。完全ONに必要なVGS(データシートに記載)を確認しましょう。
・ゲートドライバICを使う場合:標準タイプでOK(10〜15V駆動)
・マイコン直結(小電力のみ):ロジックレベル品を選択
・大電力回路:必ずゲートドライバICを使い、標準タイプを選択

チェック⑤:ゲート電荷 Qg|「スイッチング速度を決める」
5番目はゲート電荷(Qg)。MOSFETをONにするために必要な電荷量です。
Qgが小さいほど「速く切り替わる」
MOSFETのゲートは電気的にコンデンサと同じ構造をしています。ONにするには、このコンデンサを充電する必要があります。
Qgが小さい
充電が速い → スイッチング速度が速い
ゲートドライバの負担が軽い
Qgが大きい
充電に時間がかかる → スイッチングが遅い
ゲートドライバの負担が重い
Qgと「スイッチング損失」の関係
スイッチングが遅いと、ON/OFFの過渡期間に電流と電圧が同時にかかる時間が長くなり、損失が増えます。
fsw:スイッチング周波数 tsw:スイッチング時間
Qgが大きいとtswが長くなり、損失が増える
Qgの種類:Qgs、Qgd、Qg(tot)
データシートには複数のQg関連パラメータが記載されています。
| 記号 | 意味 | 影響 |
|---|---|---|
| Qg(tot) | 総ゲート電荷 | ゲートドライバの負担の目安 |
| Qgs | ゲート-ソース電荷 | ターンオンの初期に影響 |
| Qgd | ゲート-ドレイン電荷(ミラー電荷) | スイッチング速度に最も影響 |
・低周波スイッチング(10kHz以下):Qgはあまり気にしなくてOK。Rds(on)優先
・高周波スイッチング(100kHz以上):Qgを重視。スイッチング損失が支配的になる
・MHz帯:Qgが最重要。GaN-FETなど超低Qgデバイスを検討

チェック⑥:パッケージ|「放熱と実装を決める」
最後はパッケージ。電気的特性だけでなく、放熱性能と実装方法を決める重要な要素です。
主なパッケージの種類と特徴
| パッケージ | 実装 | 放熱性 | 用途 |
|---|---|---|---|
| TO-220 | スルーホール | ◎(ヒートシンク可) | 電源、モーター駆動 |
| TO-247 | スルーホール | ◎(大型) | 大電力インバータ |
| D-PAK(TO-252) | 表面実装 | ○ | 中電力、車載 |
| D2-PAK(TO-263) | 表面実装 | ○〜◎ | 中〜大電力 |
| SO-8(SOP8) | 表面実装 | △〜○ | DC-DC、小電力 |
| QFN / DFN | 表面実装 | ○(底面放熱) | 高密度実装 |
熱抵抗 RθJC と RθJA
パッケージの放熱性能は熱抵抗で評価します。
| 記号 | 意味 | 使い方 |
|---|---|---|
| RθJC | 接合部→ケース間の熱抵抗 | ヒートシンク使用時に参照 |
| RθJA | 接合部→周囲空気間の熱抵抗 | ヒートシンクなし時に参照 |
Tj:接合温度 TA:周囲温度 Ploss:損失電力
Tjが最大定格(通常150〜175℃)を超えないように設計する
・試作段階:TO-220など大型パッケージが安心。ヒートシンクで調整しやすい
・量産設計:表面実装(D-PAK、QFN)で小型化。基板への放熱設計が重要
・1W以下の低損失:SO-8でも十分な場合が多い

【実践】用途別MOSFET選定ガイド
最後に、代表的な用途ごとの選定ポイントをまとめます。
用途別・重視すべきパラメータ
| 用途 | 周波数 | 重視パラメータ | ポイント |
|---|---|---|---|
| DC-DCコンバータ | 100kHz〜2MHz | Qg、Rds(on) | スイッチング損失と導通損失のバランス |
| モーター駆動 | 10〜50kHz | Rds(on)、IDM | 導通損失重視、突入電流に注意 |
| LED駆動 | 数十kHz | Rds(on)、Vth | 低電圧駆動ならロジックレベル品 |
| ハイサイドスイッチ | DC〜低周波 | Rds(on)、Vth | PチャネルまたはNチャネル+ドライバ |
| 同期整流 | 100kHz以上 | Rds(on)、ボディダイオード | 逆回復特性も確認 |
まとめ:6つのチェックポイント一覧
📝 MOSFET選定チェックリスト
① 耐圧 VDSS:電源電圧の1.5〜2倍以上を確保
② 電流 ID:実使用電流の2〜3倍以上。高温での低減を考慮
③ オン抵抗 Rds(on):低いほど効率良い。高温での上昇を考慮
④ しきい値 Vth:駆動電圧に合わせて標準/ロジックレベルを選択
⑤ ゲート電荷 Qg:高周波ほど重要。スイッチング損失に影響
⑥ パッケージ:放熱性能と実装方法を考慮。熱抵抗で温度計算
MOSFETの選定は、これらのパラメータのバランスが重要です。すべてを最高にすることはできないため、用途に応じて優先順位をつけましょう。
この記事で紹介した目安はあくまで一般的な指針です。実際の設計では、必ずメーカーのデータシートを確認し、グラフや注意事項を読み込んでください。特に「絶対最大定格」と「推奨動作条件」の違いに注意しましょう。
📚 次に読むべき記事
選んだMOSFETを正しく駆動するための知識が身につきます
MOSFET周辺に必要な回路の全体像を把握できます
MOSFETとIGBTの使い分けなど、素子選択の基本を学べます
📌 この記事が役に立ったら、ブックマークしておくと設計時に便利です!
