検定・推定

母比率の区間推定|テレビの視聴率や内閣支持率の「誤差±3%」はどう計算されているか?

こんにちは、シラスです。

テレビのニュースや選挙速報を見ていると、画面の端っこにこんな小さな文字が表示されているのを見たことがありませんか?

「全国の有権者 1,000人 に電話調査を行いました」

これを見て、「たった1,000人? 日本には1億人もいるのに、そんな少人数で何が分かるの?」と疑問に思ったことはないでしょうか。

しかし、統計学的に計算すると、1,000人調べれば十分なのです。
その根拠となるのが、今回解説する「母比率の区間推定」です。

今日は、世の中のアンケート結果に必ずついている「見えない誤差(±〇%)」の正体を暴いていきましょう。

1. 計算式:比率の「幅」を求める

母平均の区間推定と同じく、この式も検定統計量(Z値)の式を逆算して作られています。

📊 母比率の95%信頼区間
$$ P = \hat{p} \pm 1.96 \times \sqrt{\frac{\hat{p}(1-\hat{p})}{n}} $$
  • $\hat{p}$: 手元のデータでの比率(標本比率)
  • $n$: サンプル数(調査人数)
  • 1.96: 正規分布の95%係数(Z値)

この式の後半部分、$1.96 \times \sqrt{\dots}$ こそが、ニュースで言うところの「誤差」の正体です。

2. 実践:視聴率の誤差を計算する

具体的な数字で計算してみましょう。

📺 ケーススタディ

ある地域で $n=400$ 世帯の視聴率調査を行いました。
その結果、ドラマAを見ていたのは $40$ 世帯(視聴率 $10\%$)でした。

「この地域の真の視聴率は、95%の確率で何%〜何%の間にあるか?」

ステップ1:標準誤差を出す

$\hat{p} = 0.1$ ($10\%$) なので、ルートの中身を計算します。

$$ \begin{aligned} \sqrt{\frac{0.1 \times 0.9}{400}} &= \sqrt{\frac{0.09}{400}} \\[10pt] &= \sqrt{0.000225} \\[10pt] &= \mathbf{0.015} \quad (1.5\%) \end{aligned} $$

ステップ2:幅(誤差)を出す

標準誤差に 1.96 を掛けます。

誤差 $= 1.96 \times 0.015 \approx \mathbf{0.03} \quad (3\%)$

ステップ3:結論

手元の視聴率 $10\%$ に、誤差 $\pm 3\%$ を付け加えます。

  • 下限: $10 - 3 = 7\%$
  • 上限: $10 + 3 = 13\%$

答え: 真の視聴率は 7% 〜 13% の間にある。

「視聴率10%!」と発表されても、実際にはこれくらいのブレ幅(誤差)があるということです。
400世帯程度の調査では、数パーセントの違いは「誤差」でしかないことが分かります。

3. なぜ世論調査は「1000人」なのか?

ここで冒頭の疑問に戻りましょう。
なぜ、内閣支持率などの世論調査は、判で押したように「1,000人〜2,000人」なのでしょうか?

それは、「最悪のケースでも誤差を ±3% 以内に抑えたいから」です。

誤差が最大になるのはいつ?

誤差の式 $\sqrt{p(1-p)/n}$ を見てください。
この値が最大になるのは、比率 $p$ がいくつの時でしょうか?

答えは $p = 0.5$(50%) の時です。
(支持する・しないが半々に割れている時が、一番バラつきが大きくなります)

1000人で計算してみる

もし $n=1000$ 人で、$p=0.5$ だった場合の誤差を計算してみます。

$$ \begin{aligned} \text{誤差} &= 1.96 \times \sqrt{\frac{0.5 \times 0.5}{1000}} \\[10pt] &= 1.96 \times \sqrt{0.00025} \\[10pt] &= 1.96 \times 0.0158\dots \\[10pt] &\approx \mathbf{0.031} \quad (\pm 3.1\%) \end{aligned} $$

見事! およそ $\pm 3\%$ になりました。

つまり、1,000人調べておけば、どんな結果(支持率)になろうとも、「誤差は最大でも3%くらいだ」と保証できるのです。
これが、統計学的なコストパフォーマンスの最適解が「1,000人」とされている理由です。

まとめ

比率の区間推定も、Z検定(1.96)を使って幅を出す。
✅ 誤差の大きさは $\sqrt{p(1-p)/n}$ で決まる。
$n=1000$ あれば、誤差はだいたい $\pm 3\%$ に収まる。

この感覚を持っていると、ニュースの数字に踊らされなくなります。
「支持率が40%から42%に上がった!」と言われても、「サンプル1000人なら誤差の範囲内(有意差なし)だな…」と冷静に見ることができるからです。

さて、ここまでは「電卓」や「Excel」を使って計算してきました。
しかし、PCがない現場で、とっさに検定や推定をしたい時はどうすればいいでしょうか?

次回は、QC検定独自のレガシー技術でありながら、直感的な理解に役立つ「二項確率紙」という魔法のグラフ用紙について解説します。

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