客先の松本部長から「この2工程、不良率に差があるんですか?データで示してください」と言われた。でも、それぞれのサンプルが5個ずつしか取れていない。Excelでカイ二乗検定を試したら「期待度数が小さすぎます」みたいな話になって、これでいいのか自信が持てない…。
先輩に聞きたいけど、佐藤先輩は今日も別件で機嫌が悪そう。「サンプルが少ないときの検定なんて、4年目なら知ってて当然」と思われるのが怖くて、結局自分で調べることにした——。
- サンプルが数個しか取れず、カイ二乗検定でいいのか不安になった
- 「期待度数が5未満」という言葉は聞くが、何がダメなのか説明できない
- 両側と片側、どっちで検定すればいいのか毎回迷う
- フィッシャーの正確確率検定とは何か(中学生でもわかる説明)
- 5個ずつのデータでの計算手順(途中式を省略しません)
- 両側・片側の選び方と、実務でつまずくポイント
目次
フィッシャーの正確確率検定とは?まず結論から
先に結論を言います。フィッシャーの正確確率検定とは、サンプルが少なすぎてカイ二乗検定が使えないときに、近似を使わず「正確な確率」を直接計算して差があるか判定する検定です。
主に「合格/不合格」「良品/不良品」のような2×2の表(2行2列)で、2つのグループの比率に差があるかを調べるときに使います。
カイ二乗検定は「近似」で計算するため、サンプルが少ないと誤差が大きくなります。フィッシャー検定は近似せず、起こりうる組み合わせの確率を1つずつ足し上げるので、サンプルが少なくても正確です。だから「最終兵器」と呼ばれます。
なぜカイ二乗検定が使えないのか?
カイ二乗検定には「期待度数が5以上であること」という使用条件があります。期待度数とは、ざっくり言えば「もし差がなかったら、各マスに入るはずの理論上の個数」です。
寸法検査で例えると分かりやすいです。1個や2個の測定値で「この工程は規格を満たしている」と言い切れないのと同じで、各マスの個数が少なすぎると、カイ二乗検定の計算結果がブレて信用できなくなります。
判断基準はシンプルです。期待度数が5未満のマスが1つでもあれば → フィッシャー検定。すべて5以上なら → カイ二乗検定。迷ったら期待度数を計算して、この基準で機械的に決めればOKです。
どの検定を使えばいい?検定の選び方をわかりやすく解説 →

イメージは「箱からボールを取り出す確率」
フィッシャー検定がやっていることは、実は単純です。「もし2つのグループにまったく差がないとしたら、今手元にあるデータみたいな偏った結果が、偶然どれくらいの確率で起きるか」を計算しているだけです。
これは、1つの箱にボールを全部入れて、目をつぶってランダムに取り分けたとき、たまたま今のような偏りが出る確率を計算するのと同じです。その確率がものすごく低ければ(5%未満なら)、「偶然じゃない=差がある」と判断します。
「正確確率」という名前が難しそうに聞こえますが、やっていることは中学校の確率の問題と同じです。組み合わせ(C=コンビネーション)を使って、起こりうるパターンの確率を数えているだけ。身構えなくて大丈夫です。
フィッシャー検定の公式
2×2の表を下のように置きます。a・b・c・dは各マスの個数です。
| 成功 | 失敗 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| グループ1 | a | b | a+b |
| グループ2 | c | d | c+d |
| 合計 | a+c | b+d | n |
P = ( (a+b)! × (c+d)! × (a+c)! × (b+d)! ) ÷ ( n! × a! × b! × c! × d! )
「!」は階乗です。たとえば 5! = 5×4×3×2×1 = 120 のこと。記号が並ぶと難しく見えますが、表の周辺の合計(行と列の合計)の階乗をかけて、全体と各マスの階乗で割っているだけです。
計算例:5個ずつのデータで差があるか判定する
具体的な数字でやってみましょう。次のようなデータが取れたとします。横にExcelを開いて、一緒に計算してみてください。
| 成功 | 失敗 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| グループ1 | 4 (a) | 1 (b) | 5 |
| グループ2 | 1 (c) | 4 (d) | 5 |
| 合計 | 5 | 5 | 10 |
グループ1は5個中4個成功、グループ2は5個中1個成功。見た目には大きな差がありそうですが、サンプルが少ないので「偶然この差が出ただけかも」と疑ってかかる必要があります。それを確率で確かめるのがこの検定です。

計算ステップ:途中式を省略せずに追う
まず「今のデータ(a=4)が起きる確率」を公式に当てはめて計算します。これからやるのは、公式に数字を入れるだけです。
STEP1:分母にあたる全体の組み合わせを出す
10個から成功5個を選ぶ組み合わせの総数を出します。これが確率の「分母」になります。
C(10,5) = 10! ÷ (5! × 5!) = 3,628,800 ÷ (120 × 120) = 3,628,800 ÷ 14,400 = 252
STEP2:今のデータ(成功4個)の確率を出す
グループ1で成功4個、グループ2で成功1個になる組み合わせの数を、分母252で割ります。
C(5,4) × C(5,1) ÷ 252
= 5 × 5 ÷ 252
= 25 ÷ 252
≈ 0.0992(約9.9%)
STEP3:もっと極端なデータ(成功5個)の確率を出す
検定では「今のデータ」だけでなく「今より極端なデータ」の確率も足します。なぜなら「これくらい以上に偏る確率」を知りたいからです。今より極端なのは、グループ1が全部成功(5個)のケースです。
C(5,5) × C(5,0) ÷ 252
= 1 × 1 ÷ 252
= 1 ÷ 252
≈ 0.0040(約0.4%)
P値を出して判定する(片側・両側)
STEP2とSTEP3を足すと、「片側のP値」が出ます。これは「グループ1がこれくらい以上に成功する確率」です。
0.0992 + 0.0040 ≈ 0.103(約10.3%)
そして「どちらに偏っても構わない」という普通の検定では、両側で見ます。反対方向(グループ2の方が成功が多い)の同じくらい偏ったケースも足すので、両側P値はおよそ次のようになります。
約0.21(約21%)
片側P値(0.103)も両側P値(0.21)も、有意水準5%(0.05)を上回っています。つまり「4対1」という見た目の差があっても、統計的には『差があるとは言えない』という結論になります。サンプルが5個ずつでは、これくらいの差は偶然でも普通に起こるのです。

両側?片側?どっちを使えばいいのか
ここが実務で一番つまずくポイントです。結論を言うと、「ただ差があるか知りたい」なら両側、「グループ1の方が良いと言いたい」など方向が決まっているなら片側です。
客先監査のように中立に差を見たい場面では、原則として両側を使うのが安全です。理由は、片側は「最初から片方に決め打ち」しているため、有意になりやすく、結論が甘くなりがちだからです。
片側だと有意になるのに両側だと有意にならない、というのはよくあります。ここで「有意にしたいから片側を選ぶ」のは絶対NG。松本部長に「なぜ片側なんですか?」と突っ込まれて答えられなくなります。検定の前に「方向を決めてよい理由があるか」を先に決めておくのが鉄則です。
実務での落とし穴:「有意差なし」の意味
今回のように「有意差なし」となったとき、一番やってはいけない解釈があります。それは「有意差なし=差がない」と言い切ってしまうことです。
正しくは「このサンプル数では、差があるとは言えなかった」です。本当は差があるのに、データが少なすぎて検出できていないだけかもしれません。寸法検査で2個しか測らずに「ばらつきなし」と言えないのと同じ理屈です。
少数データで「差がない」と主張したいなら、検定のP値だけでなく、必要なサンプル数(検出力)も併せて考える必要があります。「何個取れば差を検出できたのか」を示せると、客先への説明が一気に説得力を持ちます。

よくある質問(FAQ)
Q. サンプルが多くてもフィッシャー検定は使える?
使えます。フィッシャー検定はサンプルが多くても正確です。ただし階乗の計算がとても大きくなり、手計算は現実的でなくなります。サンプルが多い(期待度数が全マス5以上)なら、計算が軽いカイ二乗検定で十分です。
Q. ExcelやRではどう計算する?
Rなら fisher.test() という関数に2×2の表を渡すだけで、P値が一発で出ます。Excelには標準関数がないため、今回のように COMBIN関数(組み合わせ)を使って手で組むか、統計アドインを入れる必要があります。実務ではRが圧倒的にラクです。
Q. 2×2より大きい表でも使える?
使えます(拡張版のフィッシャー検定があります)。ただし計算が一気に重くなるので、ソフトに任せるのが基本です。まずは2×2でこの記事の考え方をマスターすれば十分です。
まとめ:少数データの差はフィッシャー検定で
- 期待度数が5未満のマスがあれば、カイ二乗ではなくフィッシャー検定を使う
- やっていることは「箱からボールを取り出す確率」の計算と同じ
- P値は「今のデータ+より極端なデータ」の確率を足して求める
- 中立に差を見るなら両側検定が原則。片側は方向の理由があるときだけ
- 「有意差なし」は「差がない」ではなく「差があるとは言えない」
これで、松本部長に「サンプルが少ないので、フィッシャーの正確確率検定で確認しました。両側P値は0.21で、統計的には差があるとは言えません」と、根拠を持って説明できるようになりましたね。
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製造業の品質保証の現場で、サンプルが数個しか取れない工程比較にフィッシャーの正確確率検定を実務で活用してきました。カイ二乗との使い分けや、両側・片側の選択で客先に説明する場面でつまずいた経験をもとに解説しています。