- 寿命試験をしたけど、まだ壊れていない製品がある…このデータどうするの?
- 「打ち切りデータ」って何?なぜ無視してはいけないの?
- 定時打ち切り・定数打ち切り・中途打ち切りの違いがわからない
- 実務で信頼性データを取るとき、何に注意すればいい?
- 打ち切りデータとは何か、なぜ発生するのかをイメージで理解
- 3種類の打ち切り(定時・定数・中途)の違いと使い分け
- 打ち切りデータを「捨ててはいけない理由」を直感的に理解
- 実務で信頼性データを取るときの注意点
信頼性工学でデータを取るとき、必ず直面する問題があります。
それは「試験が終わっても、まだ壊れていない製品がある」という状況です。
たとえば、LED電球100個の寿命試験を1年間行ったとします。1年後、70個は切れましたが、30個はまだ点灯しています。
この「まだ壊れていない30個」のデータ、あなたならどう扱いますか?
- ❌ 「壊れてないから無視する」→ 大きな間違い!
- ❌ 「1年で壊れたことにする」→ これも間違い!
- ⭕ 「1年以上は持つ」という情報として活用する → 正解!
このような「まだ壊れていないデータ」を打ち切りデータ(Censored Data)と呼びます。
この記事では、打ち切りデータの種類と扱い方を、図解でわかりやすく解説します。
目次
そもそも「打ち切りデータ」とは?
完全データと打ち切りデータの違い
信頼性データには、大きく分けて2種類あります。
| データの種類 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 完全データ | 故障した時刻が正確にわかるデータ | 「この電球は1,523時間で切れた」 |
| 打ち切りデータ | 故障した時刻がわからないデータ (観測期間内に故障しなかった) | 「この電球は2,000時間の試験終了時点でまだ点灯していた」 |
イメージで理解:LED電球の寿命試験
LED電球5個を2,000時間点灯させる寿命試験を行ったとします。
【寿命試験の結果】
電球① ████████░░░░░░░░░░░░ 800時間で切れた → 完全データ ✓
電球② ████████████░░░░░░░░ 1,200時間で切れた → 完全データ ✓
電球③ ██████████████░░░░░░ 1,400時間で切れた → 完全データ ✓
電球④ ████████████████████ 2,000時間でもまだ点灯 → 打ち切りデータ ?
電球⑤ ████████████████████ 2,000時間でもまだ点灯 → 打ち切りデータ ?
0h 1,000h 2,000h(試験終了)
電球④と⑤は、試験終了時点でまだ切れていません。
正確な寿命はわかりませんが、「少なくとも2,000時間以上は持つ」という情報はわかっています。
これが「打ち切りデータ」です。

なぜ打ち切りデータを「捨ててはいけない」のか?
「まだ壊れていないデータなんて、使えないから無視しよう」
これは絶対にやってはいけないことです。なぜでしょうか?
打ち切りデータを無視すると、寿命を「短く」見積もってしまう
先ほどの例で考えてみましょう。
❌ 間違った計算:打ち切りデータを無視
故障した3個だけで平均寿命を計算:
MTTF = (800 + 1,200 + 1,400) ÷ 3 = 1,133時間
⭕ 正しい考え方:打ち切りデータも考慮
5個中2個は2,000時間以上持っている。
この情報を使うと、真の平均寿命は1,133時間より長いはず。
打ち切りデータを無視すると、「長生きした優秀な製品」の情報が失われ、寿命を実際より短く見積もってしまいます。
打ち切りデータは「最低限の情報」を持っている
打ち切りデータは、正確な故障時刻はわかりませんが、「少なくとも○○時間以上は持つ」という情報を持っています。
「2,000時間でまだ動いている」というデータは、
「この製品の寿命は2,000時間より長い」ことを教えてくれる。
数学的には「T > 2,000」という不等式の情報
この「最低限の情報」を統計的に活用するのが、信頼性データ解析の重要なポイントです。
実務では「打ち切りデータばかり」になることも
高信頼性の製品ほど、試験期間内にほとんど故障しません。
たとえば、MTBF = 100,000時間(約11年)の製品を1年間試験しても、ほとんど故障しないでしょう。
つまり、データのほとんどが打ち切りデータになることも珍しくありません。
だからこそ、打ち切りデータを適切に扱う方法を知っておくことが重要なのです。
- 試験期間が限られている(予算・納期の制約)
- 製品が高信頼性で、なかなか壊れない
- 故障データが少なく、打ち切りデータが多い
→ このような状況でも正しく解析するために、打ち切りデータの扱い方を理解しておく必要があります。

打ち切りデータの3つの種類
打ち切りデータは、なぜ打ち切りが発生したかによって3種類に分類されます。
| 種類 | 英語名 | 打ち切りの理由 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 定時打ち切り | Type I Censoring | 決めた時間で試験終了 | 試験期間が予測可能 |
| 定数打ち切り | Type II Censoring | 決めた故障数に達したら終了 | 故障データ数が確定 |
| 中途打ち切り | Random Censoring | 予定外の理由で離脱 | 実務で最も多い |
それぞれを詳しく見ていきましょう。
① 定時打ち切り(Type I Censoring)
「あらかじめ決めた時間」で試験を終了する方法。
試験終了時点でまだ故障していない製品が「打ち切りデータ」になる。
具体例:1,000時間の寿命試験
【定時打ち切り:1,000時間で終了】
製品A ████████░░░░░░░░░░░░ 300時間で故障 ✗ → 完全データ
製品B ████████████████░░░░ 600時間で故障 ✗ → 完全データ
製品C ██████████████████░░ 800時間で故障 ✗ → 完全データ
製品D ████████████████████▶ 1,000時間でまだ稼働 → 打ち切り(>1,000h)
製品E ████████████████████▶ 1,000時間でまだ稼働 → 打ち切り(>1,000h)
0h 500h 1,000h ← 試験終了
⏰
定時打ち切りのメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
|
|
使われる場面
- 保証期間の確認試験(例:「1年間使っても壊れないか?」)
- 加速試験(例:「高温で1,000時間動かしても大丈夫か?」)
- 予算・納期が決まっている試験

② 定数打ち切り(Type II Censoring)
「あらかじめ決めた故障数」に達したら試験を終了する方法。
その時点でまだ故障していない製品が「打ち切りデータ」になる。
具体例:3個故障したら終了
【定数打ち切り:3個故障で終了】
製品A ████░░░░░░░░░░░░░░░░ 200時間で故障 ✗ → 1個目
製品B ████████░░░░░░░░░░░░ 400時間で故障 ✗ → 2個目
製品C ██████████░░░░░░░░░░ 500時間で故障 ✗ → 3個目 → 試験終了!
製品D ██████████▶ 500時間でまだ稼働 → 打ち切り(>500h)
製品E ██████████▶ 500時間でまだ稼働 → 打ち切り(>500h)
0h 500h(試験終了)
🏁
「3個故障」という目標に達した時点(500時間)で試験終了。製品D・Eは500時間以上持つことだけがわかります。
定数打ち切りのメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
|
|
使われる場面
- ワイブル分布のパラメータ推定(一定数の故障データが必要)
- 新製品の信頼性評価(十分な故障データを確保したい)
- 研究目的の試験(統計的な精度を優先)
③ 中途打ち切り(Random Censoring / ランダム打ち切り)
予定外の理由で、試験の途中で観測が終了してしまうこと。
故障とは関係ない理由で、製品が試験から「離脱」する。
中途打ち切りが発生する理由(例)
| 分野 | 中途打ち切りの理由 |
|---|---|
| 製造業 | ・試験機器の故障で観測できなくなった ・製品を別の試験に転用した ・予算カットで試験が中止になった |
| 医療研究 | ・患者が引っ越して追跡できなくなった ・別の病気で亡くなった(研究対象の病気以外で) ・患者が研究への参加を辞退した |
| フィールドデータ | ・顧客が製品を買い替えた(故障ではなく) ・連絡が取れなくなった ・製品を廃棄した |
具体例:フィールドでの追跡調査
【中途打ち切り:フィールドでの追跡調査】
製品A ██████░░░░░░░░░░░░░░ 300時間で故障 ✗ → 完全データ
製品B ████████▶ 400時間で顧客が転居(追跡不能)→ 中途打ち切り
製品C ████████████░░░░░░░░ 600時間で故障 ✗ → 完全データ
製品D ██████████▶ 500時間で顧客が買い替え → 中途打ち切り
製品E ████████████████████▶ 1,000時間でまだ稼働(試験継続中)
0h 500h 1,000h
製品Bは400時間の時点で顧客が転居し、追跡できなくなりました。これは「故障」ではなく「観測できなくなった」だけです。
でも、「少なくとも400時間は動いていた」という情報は得られています。
実際の製品データ(フィールドデータ)では、中途打ち切りが最も多く発生します。
顧客の都合で製品を手放したり、連絡が取れなくなったりすることは日常茶飯事です。
だからこそ、中途打ち切りデータを適切に扱う方法が重要になります。

打ち切りデータの記録方法
打ち切りデータを正しく解析するには、「完全データ」と「打ち切りデータ」を区別して記録する必要があります。
データの記録例
よく使われる記録方法は、「+」や「>」の記号を使って打ち切りを示す方法です。
| 製品ID | 時間 | 状態 | 記録方法① | 記録方法② |
|---|---|---|---|---|
| A | 300 | 故障 | 300 | 300 (F) |
| B | 600 | 故障 | 600 | 600 (F) |
| C | 800 | 故障 | 800 | 800 (F) |
| D | 1,000 | 稼働中 | 1,000+ | 1,000 (C) |
| E | 1,000 | 稼働中 | 1,000+ | 1,000 (C) |
「+」や「(C)」がついているデータが打ち切りデータです。
- F = Failure(故障)= 完全データ
- C = Censored(打ち切り)= 打ち切りデータ
打ち切りデータの解析方法(概要)
打ち切りデータを含むデータセットを解析する方法はいくつかあります。詳細は専門的になりますが、代表的な方法を紹介します。
代表的な解析方法
| 方法 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| カプラン・マイヤー法 | 打ち切りを考慮して生存曲線を推定 | ノンパラメトリック(分布を仮定しない) |
| 最尤推定法 | 打ち切りデータの尤度を計算してパラメータを推定 | ワイブル分布などのパラメータ推定に使用 |
| ワイブル確率紙 | グラフにプロットしてパラメータを読み取る | 視覚的にわかりやすい |
どの方法も、「打ち切りデータは寿命がわからないが、少なくとも○○時間以上」という情報を活用しています。
これにより、打ち切りデータを無視した場合よりも、正確な推定ができます。
まとめ:打ち切りデータの3種類と扱い方
この記事で学んだことを整理しましょう。
✅ 打ち切りデータとは
| 定義 | 故障時刻が正確にはわからないが、「少なくとも○○時間以上」という情報を持つデータ |
| なぜ重要か | 無視すると寿命を短く見積もってしまう。「長生きした製品」の情報が失われる |
✅ 3種類の打ち切りデータ
| 種類 | 英語名 | 終了条件 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 定時打ち切り | Type I | 決めた時間 | 試験期間が確定 |
| 定数打ち切り | Type II | 決めた故障数 | 故障データ数が確定 |
| 中途打ち切り | Random | 予定外の理由 | 実務で最も多い |
✅ 覚えておくべきポイント
- 打ち切りデータを無視してはいけない(寿命を短く見積もる原因)
- 打ち切りデータは「少なくとも○○時間以上」という貴重な情報を持つ
- データを記録するときは、完全データと打ち切りを区別する
- 高信頼性の製品ほど、打ち切りデータが多くなる
- 完全データ vs 打ち切りデータ:故障時刻がわかるかどうか
- 定時打ち切り(Type I):時間で終了、試験期間が確定
- 定数打ち切り(Type II):故障数で終了、データ数が確定
- 中途打ち切り(Random):予定外の離脱、実務で最も多い
- 打ち切りを無視すると寿命を短く見積もってしまう
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