目次
はじめに
QC 検定 1 級の勉強を始めると「ロバストパラメータ設計」という言葉に必ず出会います。ところが「ばらつきに強い設計」という抽象的な説明だけではイメージがわかず、多くの受験者が得点源にできずに終わります。本記事では、まったくの初学者でもロバスト設計の全体像をつかめるように、用語→考え方→手順→簡単な例題の順に解説します。読み終えるころには「ロバスト設計って要するにこういうことだよね」と人に説明できるようになります。
1. まずは「ばらつき」の悩みを思い出してください
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冬はプリンが固め、夏はゆるゆる
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同じレシピなのにクッキーがたまに焦げる
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スマホのバッテリーが人によって持ちが違う
これらは全部「温度」「湿度」「使い方」といった自分では変えられない環境の揺らぎ(=ノイズ)のせいで起きる現象です。
製品を作る側に立つと、不良品でなくても「今日はわずかに厚みが薄い」「今日は目標より抵抗値が高い」という小さなズレが大量に出ます。これが隠れコストとなり、クレームの原因や歩留まり低下につながります。
2. ロバスト設計は“外敵に強い設定”を探す方法
2.1 ふたつの役者:制御因子とノイズ因子
役者 | 例 | あなたが変えられる? |
---|---|---|
制御因子 | 材料の配合比、ネジ締めトルク | はい(工場のダイヤル) |
ノイズ因子 | 周囲温度、ユーザーの使い方 | いいえ(外の揺らぎ) |
ロバスト設計は「外の揺らぎ(ノイズ)に振り回されないダイヤル位置」を探す作業です。
2.2 ここがミソ:ズレ=お金が飛ぶ
タグチという研究者は、目標から外れた量
が大きいほど社会に損失が出る、として
という式を示しました。平方(2 乗)になるので、少しのズレでも損がぐっと増えます。だから「規格内ならいいや」ではなく、ばらつきを根こそぎ小さくしたいわけです。ロバスト設計はその強力な武器になります。
3. 静特性と動特性、たったこれだけで区別
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静特性:いい点は「この高さがベスト!」と決まっている品質。
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例:抵抗値を 100 Ω にしたい
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動特性:入力の大きさに合わせて出力が動く品質。
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例:ハンドルを 2 倍切ったら車が 2 倍曲がるようにしたい
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静特性では「ズレが小さいほど良い」、動特性では「入力―出力の直線が崩れないほど良い」が評価基準になります。
4. ロバスト設計の手順をざっくり道案内
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品質特性を決める
「抵抗値」「回転速度」など、何を良くしたいかをはっきりさせる。 -
ノイズ因子を洗い出す
温度、湿度、電圧変動…「外敵リスト」を作る。 -
制御因子を選ぶ
原料比率、圧力、時間…自分でいじれるダイヤル。 -
直交配列で実験計画を立てる
制御用(内側)・ノイズ用(外側)の表を組み合わせ、最少回数で網羅。 -
実験して S/N 比を計算
平均アップ&ばらつきダウンを同時に評価。 -
主効果図を読み、最適水準を決める
グラフで一番背の高いバーを選ぶイメージ。 -
損失額を計算し「本当に得したか」を確認
これで“外敵に強い設定”が手に入ります。
5. ミニ体験:プリンを失敗しない温度設定
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制御因子:蒸し温度 A(低/高)
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ノイズ因子:季節 B(冬/夏)
4 回蒸してみるとこうなりました(固さを数値化)。
温度 A | 冬 B | 夏 B | 固さの平均 | S/N 比(Smaller-the-Better) |
---|---|---|---|---|
低 | 2 | 5 | 3.5 | -10 log10((2²+5²)/2) |
高 | 2 | 2 | 2 | -10 log10((2²+2²)/2) |
読み取り
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高温のほうが 平均は低く、ばらつきも小さい
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S/N 比も大きい(計算すると高温で 3.0 dB ほど優位)
→ 結論:蒸し温度は「高」に決定!
冬でも夏でも失敗しにくいプリンになります。
6. 試験で狙われる“ここだけは外せない”
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制御/ノイズ/信号の分類:単語穴埋めで 1〜2 点
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S/N 比 3 式:Smaller / Larger / Nominal を瞬時に選ぶ
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直交配列 (L4,L8,L16):因子・水準数からどれを使うか
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主効果図:一番高いバー=最適、とコメントできる
この4つさえ押さえれば、ロバスト設計は毎回 8〜10 点の得点源になります。
まとめ
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ロバスト設計=外敵(ノイズ)に強いダイヤル設定探し
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静特性は「目標に近づけ、ばらつきを減らす」
動特性は「入力と出力の直線を崩さない」 -
S/N 比と直交配列を使えば、少ない実験で最適条件が見つかる
次の記事「制御因子とノイズ因子を見分ける 3 ステップ」に進めば、あなたの現場や試験問題で“誰が外敵で誰が味方か”がすぐに判断できるようになります。お楽しみに!
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