ロバスト設計

動特性を直線でつかめ!入力にピタッと追従させる設計術

はじめに

リモコンでテレビの音量を 5 つ上げたはずなのに、実際には 3 段しか上がらず「え、もう 1 回押さなきゃ?」―― そんな “指令どおりに動かないモヤモヤ” を覚えたことはありませんか?
製品設計でも同じで、入力(信号)を変えた分だけ 素直に 出力が動いてくれないと、使い心地も歩留まりもガクッと落ちます。

この記事では、入力と出力を 1 本の直線として考える「動特性ロバスト設計」をかみ砕いて解説。

  • 信号因子・ゲイン・オフセットが 絵でわかる

  • 動特性の S/N 比の式に納得

  • QC 検定 1 級の 計算&記述問題が怖くなくなる

前回扱った静特性 S/N 比の「目標 1 点」世界から、今回は 「入力に合わせて動く」世界へステップアップです。


1 入力–出力モデルをイラストでつかむ

イメージはバネばかり
下ろした荷重(入力 M)が増えるほど、針(出力 Y)が比例して動く――理想はまっすぐな直線です。

1.1 信号因子 (M) = 操作レバー

  • 電圧ダイヤル、ハンドル角度、荷重… 変えたい量

1.2 出力 (Y) = 製品の応答

  • 回転速度、方向変化、ひずみ… 現れる結果

1.3 理想直線:Y = G M + β₀

記号 意味 直感的イラスト
G(ゲイン) 傾き。「1 入れたら 1 出る」度合い 斜面の角度
β₀(オフセット) 切片。ゼロ入力での出力ズレ 直線が Y 軸でどれだけ浮くか

 

オフセットが 0、ゲインが 1 なら“完璧に追従するシステム”になります。


2 ゲインとオフセットを数字でみる

2.1 回帰直線の公式(最小二乗)

 

G=MiYiMi2,β0=YˉGMˉ

(M と Y の平均を

Mˉ,Yˉ

とする簡易式)

2.2 オフセットの不便さ

0 V 入力でもモータが回り続ける、ハンドルをまっすぐにしても車が右へ寄る――すべて β₀ ≠ 0 の影響です。


3 動特性の S/N 比で“ズレ+ばらつき”を一括評価

残差

ei=Yi(GMi+β0)

理想直線からどれだけ外れたか = ズレ

3.1 動特性 S/N 比(タグチ式の一例)

 

η=10log10(Var(e)残差ばらつき  +  (G目標Gゲインズレ)2)

  • 残差ばらつき…入力点に対して散らばる度合い

  • ゲインズレ…平均 G が目標から外れた分

η が大きいほど「直線にピタッ」と張り付く ⇨ ロバスト!


4 例題:モータ速度を電圧に合わせる

4.1 実験設定

項目 因子 水準 配列
制御因子 コイル巻数 (A) 低・高 L4(内側)
制御因子 磁石枚数 (B) 低・高
ノイズ因子 周囲温度 (C) 25 ℃・50 ℃ L4(外側)
信号因子 入力電圧 (M) 2V・4V・6V 3 レベル

4.2 実験→計算フロー

  1. 各 A×B 水準ごとに 外側温度×3 電圧 で速度測定

  2. 直線 Y = G M + β₀ を回帰 → G, β₀ を取得

  3. 残差を取り 動特性 S/N 比 η を計算

  4. 主効果図で η が最大 の A・B を選ぶ

(数値例は割愛:QC 用テキストの表をそのまま写して手計算するのがおすすめです)

4.3 典型コメント(答案用)

「A=高, B=高 の組合せで動特性 S/N 比が 4.2 dB 向上し、ゲインが目標1.0に近づき残差分散も最小となったため最適水準とする。」


5 QC検定 1 級の出題パターン & “書き方テンプレ”

パターン よくある設問 得点のコツ
計算問題 G、β₀、動特性 S/N 比を求めよ 公式を写してから代入=途中点確保
判断問題 主効果図で最適水準を選べ 「η最大」「残差最小」を合わせて書く
記述問題 ゲイン補正が必要か? 「Gが1から外れ○○なので補正要」

テンプレ文

  • 「ゲインが1.0から +0.05 ずれているため補正を行う。」

  • 「オフセット β₀ が 0 に近く、追加調整は不要と判断。」


6 まとめ & 次の記事へ

今日覚える 3 つ

  1. 動特性=入力と出力の直線 (G, β₀)

  2. 動特性 S/N 比 で残差ばらつき+ゲインズレを一括評価

  3. 主効果図の η が一番高い水準を選べばロバスト条件!


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