実験計画法

【実験計画法】総平方和(ST​)の計算|データの「全エネルギー」を数値化せよ

こんにちは、シラスです。

前回、実験データのバラつきを分解する「一元配置実験」の全体像をお話ししました。

いよいよ今日から、具体的な計算に入ります。
最初に計算するのは、すべての解析の「土台」であり、「源流」となる数値。

総平方和($S_T$)
Total Sum of Squares

「総」平方和という名前の通り、これは実験データの「バラつきの総量(全エネルギー)」です。

温度の効果も、材料の違いも、測定誤差も……
全てひっくるめて「今、目の前のデータは合計でどれくらい暴れているのか?」を数値化する。

ここが計算のスタート地点です。
もしここで間違えると、この後のF検定も推定も、全てドミノ倒しで崩壊します。
気合を入れて、データの「全貌」を捉えに行きましょう。

1. $S_T$ のイメージ:「ホールケーキ」を焼け

分散分析(ANOVA)のゴールは、バラつきを「要因(シグナル)」と「誤差(ノイズ)」に切り分けることでした。

しかし、切り分けるためには、まず「切る前の全体像」を知らなければなりません。

🎂

総平方和($S_T$)とは、「ホールケーキ丸ごと」の大きさです。
この巨大なエネルギーの塊を、後で「温度の効果」や「誤差」にナイフで切り分けていきます。
まずは、このホールケーキの総重量を測るのです。

2. 計算手順:必殺「CT」を使う

では、計算していきましょう。
定義通りにやるなら「すべてのデータから平均値を引いて、二乗して…」となりますが、実務ではそんな面倒なことはしません。

以前習得した必殺技、「修正項(CT)」を使います。

総平方和($S_T$)の公式

$$ S_T = \sum x^2 - CT $$

やることはシンプルに2つだけです。

  1. 全開で二乗する:
    何も考えず、手元の全データを二乗して足し合わせる($\sum x^2$)。
  2. 下駄を引く:
    そこから、データの底上げ分である修正項($CT$)を引く。

たったこれだけで、純粋な「バラつきの総量」が手に入ります。

3. 実践:プラスチック強度の実験

具体的な数字がないと燃えませんよね。
以下のデータで計算してみましょう。

🏭 実験データ(強度)

  • 温度A1(低温): 3, 4, 5
  • 温度A2(高温): 7, 8, 9

(計算しやすいよう簡単な数字にしていますが、単位はMPaだと思ってください)

ステップ1:修正項(CT)を出す

まずは「下駄」の計算です。
全データの合計($T$)は、
$3+4+5+7+8+9 = \mathbf{36}$ です。

データ数($N$)は 6個 なので、

$$ CT = \frac{T^2}{N} = \frac{36^2}{6} = \frac{1296}{6} = \mathbf{216} $$

ステップ2:データの二乗和($\sum x^2$)を出す

ここが一番の力仕事です。全データを二乗して足します。

$$ \begin{aligned} \sum x^2 &= 3^2 + 4^2 + 5^2 + 7^2 + 8^2 + 9^2 \\ &= 9 + 16 + 25 + 49 + 64 + 81 \\ &= \mathbf{244} \end{aligned} $$

ステップ3:引き算して $S_T$ 完了!

最後に、二乗和から修正項を引きます。

$$ S_T = 244 - 216 = \mathbf{28} $$

出ました。「28」
これが、この実験データ全体が持っている「バラつきの総エネルギー」です。

まとめ:これはまだ「塊(かたまり)」だ

総平方和($S_T$)は、実験データのバラつきの総量。
$\sum x^2 - CT$ という公式を使えば一発で出る。
✅ これが全ての計算の「分母(全体)」になる。

しかし、これだけでは「バラついてるね(28だね)」ということしか分かりません。
私たちが知りたいのは、「そのバラつきのうち、どれくらいが『温度(シグナル)』のせいで、どれくらいが『誤差(ノイズ)』なのか?」です。

次回、この「28」という数字をナイフで切り分けます。

「群間平方和($S_A$)」「群内平方和($S_e$)」
この2つに分解できたとき、ついに実験の全貌が見えてきます。

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