- 「スナバ回路って何のためにあるの?」
- 「サージ電圧ってどこから出てくるの?」
- 「スナバがないと何が壊れるの?」
- 「RCスナバ、RCDスナバ、いろいろあって違いがわからない…」
- サージ電圧が発生する「物理的な理由」
- スナバ回路が電圧を吸収する仕組み
- 代表的なスナバ回路の種類と使い分け
- スナバがないとどうなるか?の具体例
パワーエレクトロニクスの世界で「スナバ回路」という言葉を聞いたことはありますか?
スナバ回路は、スイッチング素子(MOSFET、IGBT、ダイオードなど)をサージ電圧から守る「ボディガード」のような存在です。
この記事では、「なぜサージ電圧が発生するのか?」という根本原因から、スナバ回路がどうやってそれを吸収するのかまで、イメージ重視で完全図解します。数式は最小限、直感的な理解を目指しましょう。
目次
そもそも「サージ電圧」とは何か?
スナバ回路を理解するには、まず「サージ電圧」の正体を知る必要があります。
サージ電圧 = 「急ブレーキ」で発生する衝撃
サージ電圧を理解するために、「水道管のウォーターハンマー」をイメージしてください。
水道管の場合
蛇口を急に閉めると、流れていた水が行き場を失い、「ドン!」という衝撃音が発生。これがウォーターハンマー。
電気回路の場合
スイッチを急にOFFにすると、流れていた電流が行き場を失い、高電圧のスパイクが発生。これがサージ電圧。
サージ電圧は「電流の急ブレーキ」によって発生します。流れを急に止めようとすると、そのエネルギーが「電圧」という形で暴れ出すのです。

なぜ電流を止めると電圧が発生するのか?
ここが最も重要なポイントです。答えは「インダクタンス(L)」にあります。
電気回路には、配線やコイルに「インダクタンス」という性質があります。これは「電流の変化を嫌う性質」と言い換えられます。
V:発生する電圧 L:インダクタンス dI/dt:電流の変化速度
この公式が意味することを、日本語で言い換えると…
具体的な数値で見てみましょう。
| 条件 | L(インダクタンス) | dI/dt(電流変化) | 発生する電圧 |
|---|---|---|---|
| ゆっくりOFF | 100nH | 10A / 1μs | 1V |
| 普通にOFF | 100nH | 10A / 100ns | 10V |
| 高速でOFF | 100nH | 10A / 10ns | 100V! |
スイッチング速度が10倍速くなると、サージ電圧も10倍になります。最新のSiC-MOSFETやGaN-FETは超高速スイッチングが可能ですが、その分サージ電圧も大きくなりやすいのです。

スナバ回路の役割 = 「衝撃を吸収するクッション」
ここでいよいよ「スナバ回路」の登場です。
スナバ(Snubber)とは、英語で「急に止める・抑える」という意味。つまりスナバ回路は、「サージ電圧を抑える回路」です。
スナバ回路 = 「電気のエアバッグ」
車の衝突を例に考えてみましょう。
エアバッグなし
衝突時の衝撃がすべて人体に伝わる→ 大ダメージ
エアバッグあり
衝突時の衝撃をエアバッグが吸収→ ダメージ軽減
電気回路も同じです。
スナバなし
サージ電圧がスイッチング素子に直撃→ 素子破壊の危険
スナバあり
サージ電圧をスナバ回路が吸収→ 素子を保護
スナバ回路がサージを吸収する仕組み
では、スナバ回路はどうやってサージ電圧を吸収するのでしょうか?
答えは「電流の逃げ道を作る」ことです。
🔑 スナバの原理
① スイッチがOFFになる瞬間
→ 電流は急に止まれない(インダクタンスの性質)
② 行き場を失った電流は…
→ スナバ回路のコンデンサに流れ込む
③ コンデンサが電流を受け入れる
→ 電圧の急上昇(サージ)が抑えられる
④ 溜まったエネルギーは抵抗で熱に変換
→ 次のスイッチングに備えてリセット
スナバ回路は「急ブレーキ」を「ゆっくりブレーキ」に変えてくれる装置です。電流の急変を緩やかにすることで、サージ電圧を抑えます。
スナバ回路がないとどうなる?
「スナバ回路がないと本当に壊れるの?」という疑問にお答えします。
スナバなしで起こる3つの問題
MOSFETやIGBTには「耐圧」という限界値があります。例えば耐圧600VのMOSFETに800Vのサージが加わると、絶縁破壊を起こして一瞬で壊れます。
耐圧以下でも、繰り返しサージにさらされると素子は徐々に劣化します。「数ヶ月後に突然壊れる」という厄介な故障モードの原因になります。
サージ電圧は高周波成分を含むため、電磁ノイズ(EMI)の原因になります。周囲の回路を誤動作させたり、EMC規格に不合格になることも。
「試作では動いていたのに、量産で壊れる」という問題の多くは、サージ電圧の管理不足が原因です。試作段階ではたまたまサージが小さかったり、個体差で耐えていただけ、というケースが少なくありません。
サージ電圧はどこで発生する?
サージ電圧は「電流が流れる配線すべて」で発生する可能性がありますが、特に注意すべき場所は以下の通りです。
| 発生場所 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 主回路の配線 | 配線インダクタンス | 配線を短く太く、スナバ追加 |
| モーター・トランス | 巻線インダクタンス | スナバ回路は必須 |
| リレー・コンタクタ | コイルのインダクタンス | フライホイールダイオード |

スナバ回路の種類と特徴
スナバ回路には複数の種類があり、用途に応じて使い分けます。ここでは代表的な4種類を紹介します。
① RCスナバ回路(最も基本的)
抵抗(R)とコンデンサ(C)の組み合わせ。最もシンプルで広く使われるスナバです。
動作原理:
① サージ電圧発生時、電流がCに流れ込む
② Cが電荷を蓄えて電圧上昇を抑える
③ Cに溜まったエネルギーはRで熱として消費
構成イメージ
直列接続をスイッチに並列
| ✅ メリット | ❌ デメリット |
|
・部品点数が少なく安価 ・設計が比較的簡単 ・信頼性が高い |
・エネルギーを熱として捨てる(損失) ・大電力には不向き ・抵抗の発熱対策が必要 |
② RCDスナバ回路(エネルギー回生型)
RCスナバにダイオード(D)を追加したもの。コンデンサに溜まったエネルギーの一部を電源側に戻せます。
動作原理:
① サージ電流はDを通ってCに流れる(高速)
② Cの電荷はRを通って電源に戻る
③ 損失がRCスナバより少ない
構成イメージ
Dが電流の方向を制御
| ✅ メリット | ❌ デメリット |
|
・RCスナバより損失が少ない ・熱設計が楽になる ・高周波対応がしやすい |
・部品点数が増える ・ダイオードの選定が必要 ・回路がやや複雑 |
③ アクティブクランプ回路(最高効率)
サージエネルギーをほぼ100%電源に回生できる高効率スナバ。追加のスイッチング素子で能動的に制御します。
動作原理:
① サージ発生時、補助スイッチがON
② エネルギーをクランプコンデンサに蓄積
③ 適切なタイミングで電源に戻す
構成イメージ
能動制御でエネルギー回生
| ✅ メリット | ❌ デメリット |
|
・損失がほぼゼロ ・高効率電源に最適 ・大電力にも対応可能 |
・回路が複雑 ・制御ICが必要な場合も ・コストが高い |
④ TVSダイオード(クランプ型)
一定電圧以上になると導通して電圧をクランプ(固定)するダイオード。シンプルながら即効性が高い保護素子です。
動作原理:
① 通常時は電流を通さない(高抵抗)
② 設定電圧を超えると急に導通
③ サージエネルギーを熱として吸収
構成イメージ
スイッチに並列接続
| ✅ メリット | ❌ デメリット |
|
・部品1個で済む ・応答が非常に速い(ns単位) ・設計がシンプル |
・連続的なサージには弱い ・大エネルギー吸収には限界 ・クランプ電圧の選定が重要 |

スナバ回路の選び方フローチャート
「結局どのスナバを使えばいいの?」という疑問に答えるため、選び方のフローチャートを用意しました。
(損失を極限まで減らしたい)
(回路は複雑だが最高効率)
100kHz以上?
(高周波で損失を抑える)
(雷サージなど)
(瞬間的サージに最適)
(シンプルで汎用的)
迷ったらまずRCスナバから始めましょう。シンプルで失敗しにくく、効果を確認してから他の方式を検討できます。「最初から最適解を狙う」より「まず動くものを作る」が実務の鉄則です。
まとめ:スナバ回路の本質
📝 この記事のポイント
① サージ電圧は「電流の急ブレーキ」で発生する(V = L × dI/dt)
② スナバ回路は電流の「逃げ道」を作ってサージを吸収する
③ スナバがないと、素子の破壊・劣化・EMI増加のリスクがある
④ 代表的なスナバはRC、RCD、アクティブクランプ、TVSの4種類
⑤ 迷ったらRCスナバから始めるのが実務の鉄則
スナバ回路は、パワーエレクトロニクスの「縁の下の力持ち」です。目立たない存在ですが、これがなければスイッチング素子はあっという間に壊れてしまいます。
次の記事では、最も基本的な「RCスナバ回路の設計計算」を詳しく解説します。抵抗値とコンデンサ容量をどう決めるか、具体的な数値例で学んでいきましょう。
📚 次に読むべき記事
スナバ以外にも必要な周辺回路の全体像を把握できます
サージ電圧の根本原因「配線インダクタンス」を深掘りします
スナバで守るべきスイッチング素子の特徴を復習できます
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