- 「ブートストラップ回路って何をしているの?」
- 「なぜハイサイドMOSFETの駆動が難しいの?」
- 「ブートストラップコンデンサの容量はどう決める?」
- 「100%デューティで駆動できないのはなぜ?」
- ハイサイド駆動の「電源問題」の正体
- ブートストラップ回路の動作原理(充電→保持→放電)
- ダイオードとコンデンサの役割と選び方
- ブートストラップの限界と注意点
前回の記事で「ゲートドライバICが必要な理由」を解説しました。その中で登場した「ブートストラップ回路」について、今回はさらに深掘りします。
ブートストラップ回路は、ハイサイドMOSFETを駆動するための「魔法のような仕組み」です。この記事では、その動作原理をエレベーターの比喩を使って、誰でも直感的に理解できるように解説します。
目次
まず理解すべき「ハイサイド駆動の電源問題」
ブートストラップ回路を理解するには、まず「なぜハイサイド駆動が難しいのか」を正確に理解する必要があります。
MOSFETをONにする条件のおさらい
NチャネルMOSFETをONにするには、ゲート電圧をソース電圧より10〜15V高くする必要があります。
ゲート-ソース間電圧が十分に高いとONになる
ここで重要なのは、「ソース電圧を基準にして」ゲート電圧を決めるという点です。
ローサイドは簡単、ハイサイドは難しい
ローサイドとハイサイドで、何が違うのか比較してみましょう。
ローサイドMOSFET
ソース電位:常に0V(GND固定)
必要なゲート電圧:12V(GND基準)
→ 普通の12V電源でOK!簡単!
ハイサイドMOSFET
ソース電位:0V〜48V(変動する!)
必要なゲート電圧:12V〜60V(ソース基準)
→ 電源電圧より高い電圧が必要!困った…
「浮いた電源」が必要になる
ハイサイドMOSFETの問題を整理すると、こうなります。
🚨 ハイサイド駆動の電源問題
| 電源電圧が48Vのとき | 必要なゲート電圧 |
| ソース電位 = 48V | 48V + 12V = 60V! |
GND基準の12V電源では、ゲートを60Vにできない…
つまり、ハイサイドMOSFETを駆動するには、「ソース電位を基準にした12V電源」が必要になります。これを「フローティング電源」と呼びます。
フローティング電源 = 「GNDから浮いた、ソースと一緒に上下する電源」。これを実現する最も安価でシンプルな方法がブートストラップ回路です。

ブートストラップ回路の構成要素
ブートストラップ回路は、たった2つの部品で構成されます。
ブートストラップコンデンサ
(CBOOT)
電荷を蓄えてフローティング電源の役割を果たす。ソースと一緒に電位が上下しても、12Vを維持し続ける。
ブートストラップダイオード
(DBOOT)
コンデンサへの一方通行の門。充電時だけ電流を通し、放電時は逆流を防ぐ。
回路構成のイメージ
ハーフブリッジ回路のブートストラップ構成
VB端子はブートストラップ電源の「+側」、VS端子は「−側(基準)」です。CBOOTはこの2点間に接続され、常にVB − VS ≈ 12Vを維持しようとします。

ブートストラップの動作原理を「エレベーター」で理解する
ブートストラップ回路の動作は、「エレベーターに乗ったバッテリー」をイメージすると理解しやすくなります。
エレベーターの比喩
🔋 バッテリー = CBOOT
12Vの電圧を蓄えた「持ち運べる電源」
🛗 エレベーター = VS端子
0V〜48Vの間を上下するハイサイドのソース電位
🔌 充電ステーション = VCC
1階(GND近く)にある12V電源
STEP 1:1階で充電(ローサイドON時)
🟢 ローサイドMOSFET:ON
ローサイドがONすると、VS端子(ハイサイドのソース)がほぼGND電位(≈0V)に引き下げられます。
これは「エレベーターが1階に降りてきた」状態です。
🔋 CBOOTが充電される
VS ≈ 0Vなので、VCC(12V)からダイオードを通じて電流が流れ、CBOOTが12Vに充電されます。
「1階の充電ステーションでバッテリーを満タンにする」イメージです。
STEP 1 の電圧関係
| VCC = | 12V |
| VS ≈ | 0V |
| VB = VS + 12V = | 12V |
STEP 2:エレベーターが上昇(ローサイドOFF時)
🔴 ローサイドMOSFET:OFF
ローサイドがOFFすると、VS端子は負荷電流の経路によって電位が変化し始めます。
「エレベーターが上昇を開始」する状態です。
🔋 CBOOTは電圧を保持
ダイオードが逆方向になるため、VCCからの電流は遮断。しかし、CBOOTは12Vを保持したまま。
「バッテリーを持ったままエレベーターで上昇」するイメージです。
CBOOTはVS端子を「−側の基準」として12Vを蓄えています。だから、VS端子の電位が上昇しても、VB − VS = 12Vという関係は変わりません。バッテリーがエレベーターと一緒に上昇するのと同じです。
STEP 3:最上階でゲートを駆動(ハイサイドON時)
🟢 ハイサイドMOSFET:ON
ハイサイドがONすると、VS端子は電源電圧付近(≈48V)まで上昇します。
「エレベーターが最上階に到着」した状態です。
⚡ ゲートを60Vで駆動!
CBOOTの電圧を使って、ゲートをVS + 12V = 60Vに持ち上げられます。
「最上階でバッテリーの電力を使う」イメージです。
STEP 3 の電圧関係
| 電源電圧 = | 48V |
| VS ≈ | 48V |
| VB = VS + 12V = | 60V |
| VGS = VB − VS = | 12V ✓ |

動作サイクルのまとめ
ブートストラップ回路は、「充電 → 保持 → 放電」のサイクルを繰り返すことで、ハイサイドMOSFETを駆動し続けます。
CBOOTに12V充電
電圧を維持したまま上昇
ゲートを駆動
ローサイドONで再充電
このサイクルが高速で繰り返されることで、CBOOTは常に十分な電荷を保ち、ハイサイドMOSFETを安定して駆動できます。
ブートストラップダイオードの役割
ブートストラップダイオード(DBOOT)は、一見地味な部品ですが、なくてはならない重要な役割を担っています。
ダイオードがない場合に起きる問題
🚨 ダイオードなしの場合
ハイサイドがONしてVS = 48Vになったとき、VB = 60Vになります。
もしダイオードがなければ、VB(60V)→ VCC(12V)へ電流が逆流してしまいます。
→ VCC電源の破壊、または回路の異常動作
ダイオードの役割まとめ
| 状態 | VCC vs VB | ダイオードの動作 |
|---|---|---|
| ローサイドON (充電時) |
VCC(12V) > VB(≈0V) | 順方向 → 導通 CBOOTを充電 |
| ハイサイドON (駆動時) |
VCC(12V) < VB(60V) | 逆方向 → 遮断 逆流を防止 |

ブートストラップコンデンサの選び方
CBOOTの容量は、大きすぎても小さすぎてもダメです。適切な値を選ぶための考え方を解説します。
容量を決める要因
CBOOTは、ハイサイドMOSFETがONしている間、以下の電流を供給し続ける必要があります。
📊 CBOOTから流出する電流
| ① ゲート電荷 Qg | MOSFETをONにするために必要な電荷 |
| ② ゲートドライバICの消費電流 | IC内部の動作電流(IQBSなど) |
| ③ 漏れ電流 | ダイオードの逆方向漏れ電流など |
容量の計算式
QTOTAL:1サイクルで消費される総電荷 ΔV:許容電圧降下(通常0.5〜1V)
実務では、計算値の10〜15倍を目安にするのが一般的です。
🔢 計算例
| ゲート電荷 Qg | 50nC |
| IC消費電流 × ON時間 | 10nC |
| 漏れ電流等 | 5nC |
| QTOTAL | 65nC |
| 許容電圧降下 ΔV | 0.5V |
| 計算値 | 130nF |
| 推奨値(×10) | 1μF以上 |
ハイサイドON期間中にCBOOTの電圧が低下し、VGSが不足してMOSFETが完全にONしなくなります。結果としてオン抵抗増加 → 発熱 → 効率低下を招きます。
充電に時間がかかり、起動時や低デューティ時に問題が発生することがあります。また、部品サイズ・コストも増加します。0.1μF〜10μFの範囲で選定するのが一般的です。

ブートストラップの限界と注意点
ブートストラップ回路は安価で便利ですが、万能ではありません。いくつかの重要な制約があります。
制約①:100%デューティで駆動できない
これがブートストラップ最大の制約です。
🚨 なぜ100%デューティ不可なのか?
CBOOTの充電は「ローサイドがONのとき」だけ行われます。
もしハイサイドを100%デューティ(常時ON)で駆動すると…
- ローサイドがONする機会がない
- CBOOTを再充電できない
- 電荷が徐々に減少
- VGSが低下してMOSFETがOFFしてしまう
✅ 動作可能
デューティ比 0〜95%程度
(定期的にローサイドがONする)
❌ 動作不可
デューティ比 100%
(ハイサイド常時ON)
制約②:起動時のプリチャージが必要
電源投入直後、CBOOTは空っぽです。最初にローサイドをONして充電する「プリチャージシーケンス」が必要になります。
📋 起動シーケンスの例
① 電源投入 → まだCBOOTは空
② ローサイドをON → CBOOTを充電(数μs〜数十μs)
③ 充電完了を確認 → UVLOがリリース
④ 通常動作開始 → PWM制御スタート
制約③:高温での漏れ電流増加
ダイオードの漏れ電流は温度とともに増加します。高温環境では、CBOOTの電圧低下が早くなるため、最大ON時間が短くなる点に注意が必要です。
ブートストラップが使えない場合の代替手段
| 方式 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|
| 絶縁型ゲートドライバ | トランスやフォトカプラで絶縁 | 100%デューティ、高電圧 |
| フローティング電源 | 独立した絶縁DC-DC電源 | 大型インバータ、車載 |
| チャージポンプ内蔵IC | IC内部で昇圧 | ハイサイドスイッチ用 |
まとめ:ブートストラップは「エレベーターに乗るバッテリー」
📝 この記事のポイント
① ハイサイド駆動には「ソース基準の電源」が必要(電源電圧より高い電圧が必要)
② ブートストラップ回路は「コンデンサ+ダイオード」の2部品で構成
③ ローサイドON時に充電し、ハイサイドON時に放電してゲートを駆動
④ ダイオードは逆流防止のために必須
⑤ 100%デューティ不可がブートストラップ最大の制約
🛗 覚え方
ブートストラップ = 「1階で充電したバッテリーを持って、エレベーターで最上階に上がる」
バッテリー(CBOOT)の電圧は、どの階にいても一定(12V)を維持!
ブートストラップ回路は、シンプルながらも非常に巧妙な仕組みです。この「エレベーターに乗るバッテリー」というイメージを持っておけば、ハイサイド駆動で困ることはなくなるでしょう。
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ゲート駆動以外にも必要な周辺回路の全体像を把握できます
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