こんにちは、シラスです。
実験計画法(DOE)を勉強し始めると、必ずぶつかる壁があります。それが「交互作用(Interaction)」です。
分散分析表に出てくる「A×B」という文字。「AとBの掛け合わせ」ということはなんとなく分かっても、いざデータを解釈しようとすると迷子になりがちです。
「グラフがバッテン(交差)になっていたら交互作用あり」 「平行なら交互作用なし」
教科書にはそう書いてありますが、「なぜ交差するのか?」「現実世界ではどういう現象なのか?」 をイメージできていないと、現場での対策を間違えてしまいます。
今日は、難しい数式は一切使いません。この少し厄介な「交互作用」を、料理の例えを使って直感的に攻略しましょう。
目次
1. 結論:交互作用を一言でいうと?
まずは定義から押さえましょう。交互作用とは、一言で言えばこれだけのことです。
これだけではまだピンとこないと思うので、グラフの見方と具体的な現象を見ていきます。
2. グラフの見方:平行か、交差か?
実験計画法では、2つの因子の関係を見るために「二元配置図(交互作用プロット)」というグラフを描きます。 見るべきポイントはたった一つ。「2本の線が平行かどうか」です。
パターンA:平行なら「交互作用なし」
これは「足し算」の世界です。 お互いが干渉せず、それぞれの効果が素直に足し合わされる状態です。
【例え話:ハンバーガー】 ハンバーガーショップのメニュー開発を想像してください。
- パティ(肉): 1枚より2枚の方が満足度が高い。
- チーズ: 無しより有りの方が満足度が高い。
この時、「パティを2枚にしたせいで、チーズが不味くなる」なんてことは起きませんよね? 「肉の効果」と「チーズの効果」は独立しています。だから、両方入れれば最高に美味しくなります。
グラフに描くと、肉ありの線と肉なしの線は、きれいに平行になります。これが「交互作用なし」です。
パターンB:交差(または平行でない)なら「交互作用あり」
これが今回の主役、「掛け算(相乗効果・相殺効果)」の世界です。 ここでは、単純な足し算が通用しません。
【例え話:クッキーの焼き加減】 「オーブンの温度」と「焼く時間」の関係で考えてみましょう。
- 低温(160℃)の場合: 時間を長くすると、中まで火が通って美味しくなります。(右肩上がり)
- 高温(220℃)の場合: 時間を長くすると、黒焦げになって不味くなります。(右肩下がり)
グラフに描くとどうなるでしょうか? 片方は上がり、片方は下がるため、線は「X(エックス)」の字に交差します。これが交互作用の正体です。
「時間を長くすればいい」とは一概に言えません。
なぜなら、「温度が低温なら長くすべきだが、高温なら短くすべき」だからです。
時間の効果が、温度のご機嫌(水準)によってコロッと変わってしまう。
この「条件付き」の状態こそが、交互作用があるということです。
3. 現場で交互作用を見逃すとどうなる?
もし、あなたがこの交互作用(グラフの交差)に気づかず、別々にデータを解析してしまったらどうなるでしょうか?
「全体の平均を見ると、高温の方が評価が高かったから、温度は高温にしよう」 「全体の平均を見ると、時間は長い方が評価が高かったから、時間は長時間にしよう」
そして「高温 × 長時間」で量産を開始した結果……待っているのは「大量の黒焦げクッキー(不良品)」です。
それぞれの平均点だけを見ていては気づけない「魔物」が、この組み合わせの中に潜んでいます。実験計画法でグラフを描く最大の理由は、この「最悪の組み合わせ」を回避し、「最強のレシピ(低温×長時間)」を見つけるためなのです。
4. 交互作用がある時の正しい対処法
では、自分のデータのグラフが交差していたら(交互作用があったら)、どうすればいいのでしょうか? 答えはシンプルです。
「Aは高い方がいい」という言い方をやめましょう。
「Aを高くするなら、Bは低くする」
というように、必ず2つの条件をセットにして最強の組み合わせを選んでください。
まとめ:交差点にこそ「技術」がある
交互作用は、一見すると解析を複雑にする厄介者です。 しかし、見方を変えれば「他社が真似できない独自のノウハウ」の源泉でもあります。
単に「良い材料を使えば美味しくなる(交互作用なし)」という単純な商品は、誰にでも真似できます。 しかし、「温度と時間を絶妙なバランスで調整した時だけ生まれる美味しさ(交互作用あり)」は、簡単には真似されません。
グラフが交差していたら、面倒だと思わずにこう考えてみてください。 「お、ここには単純な足し算ではない、面白い現象が隠れているぞ」と。
その交差点(バッテン)の中心にこそ、エンジニアとしての腕の見せ所があるのです。