こんにちは、シラスです。
これまで、L8直交表を使って「2水準(High / Low)」の実験をする方法を解説してきました。
しかし、現場ではどうしても「もっと細かく条件を振りたい」という場面が出てきます。
「L8を使いたいけど、2水準しか入らないから無理だよね…?」
諦めるのは早いです。
実は、L8直交表の「2つの列」を魔法のように結合させることで、「4水準」の因子を作り出すことができるのです。
これを「多水準作成法」と呼びます。
今日は、まるで「2進数(デジタルの住所)」のようなこのテクニックの仕組みを、3つのステップで丁寧に解説します。
目次
1. 前提知識:「2進数」で住所を作る
いきなり直交表の話をする前に、少しだけ「住所」の話をさせてください。
「1」か「2」しか選べないスイッチが1つあるとします。
これだと、「部屋A(1)」か「部屋B(2)」の2つしか区別できません。
では、スイッチが「2つ」あったらどうでしょう?
2つのスイッチの組み合わせ
- スイッチ1が「1」、スイッチ2が「1」 → 住所①
- スイッチ1が「1」、スイッチ2が「2」 → 住所②
- スイッチ1が「2」、スイッチ2が「1」 → 住所③
- スイッチ1が「2」、スイッチ2が「2」 → 住所④
スイッチ(列)を2つ使うだけで、表現できる場所(水準)が「4つ」に増えましたね。
多水準作成法は、これと全く同じことをL8直交表の上で行うテクニックなのです。
2. 仕組み:L8直交表での割り付け手順
では、実際のL8直交表を使ってやってみましょう。
「第1列」と「第2列」を合体させて、新しい「温度(4水準)」を作ります。
ステップ①:組み合わせ表を作る
第1列と第2列の数字の組み合わせを見て、以下のようにルールを決めます。
| 第1列 | 第2列 | 新しい4水準 | 具体例(温度) |
|---|---|---|---|
| 1 | 1 | → 1 | 100℃ |
| 1 | 2 | → 2 | 120℃ |
| 2 | 1 | → 3 | 140℃ |
| 2 | 2 | → 4 | 160℃ |
ステップ②:実験順序に割り当てる
このルールに従って、L8直交表の「行(実験No.)」ごとに温度を設定します。
- No.1の実験: (1, 1) なので 100℃ で実施。
- No.2の実験: (1, 1) なので 100℃ で実施。
- No.3の実験: (1, 2) なので 120℃ で実施。
- (以下同様)
これで、見かけ上は2水準の表なのに、実態は4水準の実験ができるようになりました。
3. 最大の注意点:コストは「3列分」
「なるほど!じゃあ第1列と第2列を使えばいいんだね!」
と飛びつきたくなりますが、ここで絶対に忘れてはいけないルールがあります。
2つの列(第1列、第2列)を結合すると、その子供である「交互作用の列(第3列)」も自動的に占領されてしまいます。
なぜなら、4水準の自由度は $4-1=3$ です。
直交表の1列あたりの自由度は $1$ なので、4水準因子を作るには「3列分のスペース」が必要になるのです。
消費される列のイメージ
- 第1列: 使用(温度の素①)
- 第2列: 使用(温度の素②)
- 第3列: 使用不可!(温度の一部として吸収される)
つまり、4水準の因子を1つ作ると、L8直交表のほぼ半分(3/7)を使い切ってしまうことになります。
他の因子(圧力や材料)を入れるスペースが減ってしまうので、計画段階で注意が必要です。
まとめ
「L8は2水準しかできない」という思い込みを捨てれば、実験の幅は大きく広がります。
しかし、「やっぱり列を消費しすぎるのは勿体無い…」「もっと自由に3水準を扱いたい」という場合もありますよね。
そんな時に役立つのが、品質工学(タグチメソッド)で最も愛されている「L18直交表」です。
次回は、2水準と3水準が最初から混在している、この最強の直交表の割り付けについて解説します。
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