こんにちは、シラスです。
統計学やQC検定の勉強をしていて、一番「頭がパンクする瞬間」はどこでしょうか?
計算そのものでしょうか? いいえ、違います。 「今の問題に対して、どの検定手法を使えばいいのか分からない」という入口の部分です。
- Z検定? t検定?
- F検定をしてからt検定? ウェルチ?
- 対応がある? ない?
- カイ二乗?
教科書は手法ごとに章が分かれているので、「手法の横断的な選び方」を教えてくれるページは意外と少ないものです。
今日は、迷宮入りしやすい検定選びを、3つの質問だけでゴールまで辿り着ける「最強の地図(フローチャート)」にまとめました。
試験直前の見直しや、実務でのハンドブックとして活用してください。
目次
質問1:データの種類は「計量値」か「計数値」か?
すべての分岐点はここから始まります。あなたが扱っているデータは、「測ったもの」ですか? それとも「数えたもの」ですか?
長さ、重さ、時間、温度、強度など。
→ 「平均値」や「バラつき」を比べたいならこっち。
不良数、欠点数、人数、〇×判定など。
→ 「比率(%)」や「回数」を比べたいならこっち。
ルートA:「計量値」の検定マップ(平均・バラつき)
大半のエンジニアが使うのがこちらです。「平均値」を検定する場合、さらに細かい分岐があります。
質問2:母分散(真のバラつき)を知っていますか?
- YES(知っている)
- Z検定を使います。
- ※ただし、これは「神様の視点」なので実務ではほぼ使いません。試験上の概念です。
- NO(知らない)
- データから標準偏差を計算しますか? ならばt検定の出番です。
- 実務も試験も、99%はこちらのルートに進みます。
質問3:2つのデータに「対応」はありますか?
t検定を行う際、ここが最大の落とし穴です。
同一の対象から取ったペアデータのことです。
例:Aさんの「ダイエット前」と「ダイエット後」の体重。
逆に「対応なし」は、全く別の個体同士の比較です。
例:A組(男子)の身長と、B組(女子)の身長。
- YES(対応あり)
- 「対応のあるt検定」へ。
- 個体差(ノイズ)を打ち消して、純粋な差を検定します。
- NO(対応なし)
- 「2標本のt検定」へ。
- ただし、ここで最後の関門があります。「2つのグループのバラつき(分散)は同じですか?」
質問4:等分散ですか?(対応なしの場合)
ここで、まず「F検定」という前座が登場します。
- F検定を行う。
- 有意差なし(等分散と言える)
- 「スチューデントのt検定」へ。(分散をプールする)
- 有意差あり(等分散と言えない)
- 「ウェルチのt検定」へ。(分散をプールしない)
ルートB:「計数値」の検定マップ(比率・度数)
こちらはデータが「数えられる」場合です。シンプルですが、サンプル数(n)の大きさで道が分かれます。
パターン1:比率(%)を検定したい
「不良率が5%から3%に減ったと言えるか?」など。
- サンプル数が多い(np>5)
- 「母比率の検定(Z検定)」へ。
- 二項分布を正規分布に近似させて解きます。QC検定の定番です。
- サンプル数が少ない
- 検定は難しいですが、あえてやるなら「フィッシャーの正確確率検定」などを使います。
パターン2:度数(回数)やズレを見たい
「サイコロの目は公平か?」「タバコと肺がんに関係はあるか?」など。
- 1つの変数の偏りを見る
- 「適合度の検定(カイ二乗検定)」へ。
- 理論値(期待度数)と実測値のズレを見ます。
- 2つの変数の関係を見る(クロス集計)
- 「独立性の検定(カイ二乗検定)」へ。
- 分割表(2×2表など)を使います。
まとめ:最強の選択フローチャート(保存版)
ここまでの話を一枚の表にまとめました。スマホに保存して、迷ったときにチラ見してください。
| データの種類 | 知りたいこと | 条件 | 使うべき検定手法 |
|---|---|---|---|
| 計量値 (連続量) |
バラつきの大きさ | 1つの群を判定 | カイ二乗検定 |
| バラつきの比較 | 2つの群を比較 | F検定 | |
| 平均値の比較 | 母分散が既知 | Z検定 | |
| 対応あり | 対応のあるt検定 | ||
| 対応なし・等分散 | t検定(Student) | ||
| 対応なし・非等分散 | ウェルチのt検定 | ||
| 計数値 (離散量) |
比率の比較 | サンプル大(np>5) | 母比率のZ検定 |
| 適合度 | 理論値とのズレ | カイ二乗検定 | |
| 独立性 | 2変数の関係性 | カイ二乗検定 |
統計的仮設検定は、計算式を覚えることよりも、「今、どの道を歩いているのか?」を把握することの方が何倍も重要です。
この地図さえ手元にあれば、どんな問題が出ても「ああ、あのルートね」と冷静に対処できるはずです。