- データシートに「X7R、10μF」と書いてあるが、X5Rでも良いのか判断できない
- 部品表にC0G・X5R・X7Rが混在していて、なぜ使い分けるのかわからない
- 先輩に「タイミング回路にX5Rは使うな」と言われたが、理由を説明できない
- 温度特性コード(X5R・X7R・C0Gなど)の読み方と意味
- 種類1(温度補償用)と種類2(高誘電率系)の違いと「なぜ容量が変わるのか」の物理的メカニズム
- 回路用途別の選定フローチャート(パスコン・タイミング・電源・フィルタ)
- X5RとX7Rの「本当の差」と、どちらを選ぶべきかの判断基準
セラミックコンデンサ(MLCC)を選定するとき、容量と耐圧だけ決めて終わっていませんか? 実は、同じ「10μF/25V」でも温度特性コードが違えば、まったく別の部品です。
X5Rで設計すべき場所にC0Gを入れようとすると「そんな容量は存在しない」とカタログで壁にぶつかり、C0Gが必要な場所にX5Rを入れると「温度変化で周波数がズレた」とクレームが返ってきます。
この記事では、温度特性コードの「読み方」「なぜそうなるのか」「回路用途別の正しい選び方」を初心者向けに徹底解説します。この1記事を読めば、セラコンの温度特性で迷うことはなくなります。
目次
温度特性コードの読み方|3文字に隠された「温度範囲」と「容量変化率」
X5R、X7R、C0Gなどの記号は、EIA(米国電子工業会)が定めた温度特性コードです。セラミックコンデンサを大きく2つのグループに分け、それぞれ異なるルールでコードが付与されています。
種類2(高誘電率系)のコード:X5R・X7R・Y5Vなど
X5RやX7Rなどの3文字のコードは、それぞれの文字が「使用温度の下限」「使用温度の上限」「その範囲での容量変化率」を表しています。
-55℃
+125℃
±15%
つまり「X7R」とは、「-55℃~+125℃の温度範囲で、容量が±15%以内に収まることを保証する」という意味です。
| 1文字目:下限温度 | 2文字目:上限温度 | 3文字目:容量変化率 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| X | -55℃ | 5 | +85℃ | R | ±15% |
| Y | -30℃ | 6 | +105℃ | S | ±22% |
| Z | +10℃ | 7 | +125℃ | U | +22%/-56% |
| 8 | +150℃ | V | +22%/-82% | ||
種類1(温度補償用)のコード:C0G(NP0)など
C0Gは種類2とは異なる独自のコード体系です。使用温度範囲は-55℃~+125℃で、容量変化は±30ppm/℃。ppmは100万分の1ですから、100℃変化しても容量変化はわずか0.3%。事実上「温度で容量が変わらないコンデンサ」です。
C0GとNP0は実質的に同じ特性です。C0GはEIA規格のコード、NP0はMIL規格のコード。データシートでどちらが使われていても、同じ「±30ppm/℃」と理解してOKです。TDKではNP0のみ上限を+150℃に拡大しています。

【一覧表】X5R・X6S・X7R・X8R・C0Gを徹底比較
実務でよく出会う温度特性コードを、1つの表で横並び比較します。「結局どれを選べばいいか」の判断材料として活用してください。
| 温度特性 | 分類 | 温度範囲 | 容量変化率 | DCバイアス 特性 |
容量範囲 (目安) |
代表的な用途 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| C0G (NP0) | 種類1 温度補償用 |
-55~+125℃ | ±30ppm/℃ (≈±0.3%) |
なし ✅ | ~数十nF | 発振、タイミング、 フィルタ、共振 |
| X8R | 種類2 高誘電率系 |
-55~+150℃ | ±15% | あり ⚠️ | ~数μF | 車載エンジンルーム |
| X7R | 種類2 高誘電率系 |
-55~+125℃ | ±15% | あり ⚠️ | ~数十μF | パスコン、電源周り (高温対応) |
| X6S | 種類2 高誘電率系 |
-55~+105℃ | ±22% | あり ⚠️ | ~数十μF | 車載ボディ系、 大容量バイパス |
| X5R | 種類2 高誘電率系 |
-55~+85℃ | ±15% | あり ⚠️ | ~数百μF | 大容量バイパス、 民生機器電源 |
| Y5V | 種類2 高誘電率系 |
-30~+85℃ | +22%/-82% | 非常に大 ⚠️ | ~数百μF | ⚠️ 電源回路には不適切 |
日本のデータシートでは「B特性」「R特性」「CH特性」といったJISコードも使われます。大まかに、CH ≒ C0G、B ≒ X5R相当、R ≒ X7R相当と覚えておけば実務では困りません。ただしJISのBは温度範囲が-25~+85℃と狭いため、EIAのX5R(-55~+85℃)と完全に同一ではありません。

なぜ温度で容量が変わるのか?「誘電体の性格」で理解する
温度特性の違いを「コードの暗記」で終わらせず、「なぜそうなるのか」まで理解しましょう。原因は、コンデンサの中に使われている誘電体(セラミック素材)の性格の違いです。
🔬 種類1(C0G)=「常誘電体」=温度に鈍感な優等生
C0Gの誘電体はジルコン酸カルシウム系の常誘電体(パラエレクトリクス)です。この材料は結晶構造がシンプルで安定しており、温度が変わっても比誘電率がほとんど変化しません。
身近な例で言えば、C0Gは「温度変化に動じない石の壁」のようなもの。暑くても寒くても厚みが変わらない。だから静電容量もほぼ一定です。その代わり、比誘電率が低いため大きな容量を作ることが難しく、数十nFが実用上の上限です。
🔬 種類2(X5R/X7R)=「強誘電体」=温度に敏感な暴れ馬
X5RやX7Rの誘電体はチタン酸バリウム(BaTiO₃)系の強誘電体(フェロエレクトリクス)です。この材料は比誘電率が非常に高く、小型で大容量を実現できます。しかし、結晶内部の「自発分極」が温度によって活動度が変わるため、比誘電率(=容量)が温度とともに大きく変動します。
こちらは「温度で柔らかさが変わるゴムの壁」のようなもの。暖かいとよく伸びる(容量が増える)が、冷えると硬くなる(容量が減る)。さらにキュリー温度(約125℃)付近で比誘電率がピークを迎えた後に急落するため、高温域で容量が急減します。
C0G = 石の壁
常誘電体(ジルコン酸カルシウム系)
温度が変わっても比誘電率が安定
→ 容量ほぼ一定(±0.3%)
→ だが大容量が作れない(~nF)
X5R/X7R = ゴムの壁
強誘電体(チタン酸バリウム系)
温度で自発分極の活動度が変わる
→ 容量が±15%も変動する
→ だが大容量が作れる(~数百μF)
容量が安定するC0Gは大容量が作れない。大容量が作れるX5R/X7Rは容量が安定しない。この物理的なトレードオフが、温度特性の使い分けが必要な根本的理由です。「全部C0Gにすればいいじゃないか」は原理的に不可能なのです。

X5RとX7R、どっちを選ぶ?「本当の差」は温度上限だけじゃない
設計者が最も悩むのが「X5RとX7Rの使い分け」です。容量変化率は同じ±15%。では何が違うのでしょうか。
違い① 使用温度上限:85℃ vs 125℃
最も明白な違いです。X5Rは+85℃まで、X7Rは+125℃まで。基板上の温度が85℃を超える可能性がある場所(電源IC直下、車載ECUのエンジンルーム寄り、密閉筐体内など)ではX7R一択です。
違い② 大容量の入手性:X5Rが有利
同じサイズ・耐圧で比較すると、X5Rのほうが大きな容量の品番が存在します。これは、X5Rの誘電体のほうが比誘電率を高くしやすい(温度安定性の要求が緩い分、組成の自由度が高い)ためです。たとえば1608サイズ/25Vで、X5Rなら10μFが手に入りますが、X7Rでは4.7μFが上限ということがあります。
違い③ DCバイアス特性:X7Rがやや優位
同じ容量・サイズの品番で比較した場合、X7Rのほうがやや穏やかなDCバイアス特性を示す傾向があります。ただし品番ごとの差が大きいため、この点だけで選定を決めるのは危険です。必ずSimSurfingなどで個別に確認してください。
| 比較項目 | X5R | X7R | 判定 |
|---|---|---|---|
| 使用温度上限 | +85℃ | +125℃ ✅ | X7R有利 |
| 大容量の入手性 | 大容量品が豊富 ✅ | やや少ない | X5R有利 |
| DCバイアス特性 | やや大きい | やや穏やか ✅ | X7Rやや有利 |
| コスト | やや安い ✅ | やや高い | X5R有利 |
| 容量変化率 | ±15% | ±15% | 同等 |
基板温度が85℃を超える可能性があるなら → X7R
85℃以下が確実で、大容量が必要なら → X5R
迷ったら → X7Rを選んでおけば安全側(温度範囲が広い=マージンが大きい)
セラミックコンデンサのDCバイアス特性|なぜ10μFが実効2μFになるのか?容量低下の原因と正しい選び方 →
DCバイアス特性の詳細解説。温度特性と合わせて「セラコン選定の二大ポイント」です。

【即決フロー】回路用途別「どの温度特性を選ぶか」
理論はわかった。では実際の回路で何を選べばいいのか。以下のフローチャートに従えば、ほとんどの用途で迷わず温度特性を決められます。
容量精度が回路性能を直接左右するか?(タイミング回路、発振回路、フィルタの共振周波数など)
→ YES → C0G(NP0)を選ぶ。温度で容量が変わると周波数やタイミングがズレて回路が正しく動作しません。
→ NO → 判断2へ
基板温度が85℃を超える可能性があるか?(電源IC直下、車載、密閉筐体、産業機器など)
→ YES → X7R(または車載ならX8R)を選ぶ
→ NO → 判断3へ
必要な容量は数μF以上の大容量か?(DC-DC入出力、バルクバイパス、LDO安定化など)
→ YES → X5Rが大容量品の入手性・コストで有利
→ NO → X7Rで問題なし(迷ったらX7Rが安全側)
📋 用途別おすすめ早見表
| 回路用途 | 推奨 温度特性 |
理由 |
|---|---|---|
| 🔧 ICのパスコン(デカップリング) | X7R | IC直下は発熱で85℃を超えやすい。100nF程度なのでX7Rで十分な容量が確保できる |
| ⚡ DC-DCコンバータの入出力 | X5R or X7R | 大容量(10μF~)が必要ならX5R。電源IC直下で高温ならX7R。DCバイアス特性も要確認 |
| 🔔 タイミング回路(RC時定数) | C0G 必須 | 時定数τ=RCが温度で変動すると設計仕様を外す。±15%の変動は致命的 |
| 🎵 発振回路(水晶の負荷容量など) | C0G 必須 | 容量が変わると発振周波数がシフトする。クロック精度に直結 |
| 📡 LCフィルタ(共振・マッチング) | C0G 推奨 | 共振周波数 f = 1/(2π√LC) のCが変動すると帯域がズレる |
| 🔋 LDOの入出力バイパス | X5R or X7R | LDOの安定性にはESRも関わる。大容量が必要ならX5R、高温ならX7R |
| 🚗 車載ECU(エンジンルーム) | X7R or X8R | 周囲温度が125℃以上になるケースあり。X8R(+150℃)も選択肢 |
| 🔇 スナバ回路(高電圧) | C0G or X7R | 高電圧+高リップルでDCバイアス・発熱が厳しい。C0Gが理想だが容量不足ならX7R |
「迷ったらX7R」というのは先輩の名言です。X7Rは温度範囲が広く、容量範囲も広く、品番数も最多クラス。よほどの理由がない限り、まずX7Rを起点に検討し、「大容量が足りない→X5R」「精度が必要→C0G」と分岐させるのが効率的な設計プロセスです。

やってはいけないNG選定3パターン
温度特性を誤ると、デスクでの試作は動くのに量産品や市場で不具合が出る、という最悪のパターンに陥ります。ここでは実際によくあるNG選定を紹介します。
❌ NG①:タイミング回路にX5R/X7Rを使う
RC回路の時定数 τ = R × C でタイミングを作る回路では、Cが温度で±15%変動すると、タイミングも±15%ズレます。たとえば1秒の遅延を設計したのに、0.85秒~1.15秒に振れるのです。さらにDCバイアス特性で容量が減っている場合は、設計値からさらに乖離します。
→ 対策:タイミング回路では必ずC0G(NP0)を使う。容量が足りない場合は、外付けのタイマーICや水晶発振子の使用を検討してください。
❌ NG②:車載回路にX5Rを使う
X5Rの上限温度は+85℃です。車載のECU基板、特にエンジンルーム近くでは周囲温度が100℃を超えることがあります。基板上の発熱部品付近ではさらに温度が上がります。X5Rの保証範囲を超えた場合、容量変化が規定外になるだけでなく、信頼性(絶縁抵抗の低下など)も保証されません。
→ 対策:車載用途ではX7R(+125℃)以上を基本とし、エンジンルーム直結ならX8R(+150℃)を検討。村田製作所のGCMシリーズなどAEC-Q200準拠品から選定してください。
❌ NG③:Y5Vを電源回路に使う
Y5Vは容量変化率が+22%/-82%と極めて大きく、高温で容量が8割以上失われます。さらにDCバイアス特性も最悪クラスです。安いからとY5Vを電源回路に使うと、DCバイアス+温度上昇のダブルパンチで、10μFの公称値が1μF以下になるケースも珍しくありません。
→ 対策:Y5Vは容量がおおまかに「あればいい」用途(充放電の時間が重要でないバックアップ等)に限定。電源回路には絶対に使わない。
① 容量精度が性能に直結するなら → C0G以外は禁止
② 温度環境が厳しいなら → X5Rは禁止、X7R以上
③ コスト重視でも → Y5Vは電源回路に禁止

JIS規格との対応|「B特性」「R特性」「CH特性」はEIAで何に当たる?
日本メーカーのデータシートでは、EIAコード(X5R、X7Rなど)とJISコード(B、R、CHなど)が混在していることがあります。混乱しないよう、対応関係を整理しておきましょう。
| JISコード | EIA相当 | 温度範囲 | 容量変化率 | 分類 |
|---|---|---|---|---|
| CH | ≒ C0G | -25~+85℃ | ±60ppm/℃ | 種類1(温度補償用) |
| B | ≒ X5R相当 | -25~+85℃ | ±10% | 種類2(高誘電率系) |
| R | ≒ X7R相当 | -25~+85℃ | ±15% | 種類2(高誘電率系) |
| F | ≒ Y5V相当 | -25~+85℃ | +30%/-80% | 種類2(高誘電率系) |
JISのBは温度範囲が-25~+85℃とEIAのX5R(-55~+85℃)より狭く、容量変化率も±10%とX5R(±15%)より厳しい仕様です。「B = X5R」と完全に同一視すると、低温側の保証範囲で問題が生じる可能性があります。置き換え検討時は必ず個別にスペックを確認してください。

まとめ:温度特性の選定で「失敗しない」ための3原則
- 温度特性コードは3文字で「温度範囲」と「容量変化率」を表す(種類2の場合)
- 容量が安定するC0G(種類1・常誘電体)と、大容量が作れるX5R/X7R(種類2・強誘電体)は物理的にトレードオフの関係
- C0Gは温度・DCバイアスで容量が変わらないが、nFオーダーが上限
- X5RとX7Rの違いは主に温度上限(85℃ vs 125℃)と大容量品の入手性
- 容量精度が回路性能に直結 → C0G必須
- 85℃超の環境 → X7R以上
- 迷ったらX7Rが最も汎用的で安全
- Y5Vは電源回路に使わない
温度特性は「コンデンサの性格」そのものです。容量と耐圧だけで選定を終わらせず、「この回路でこの温度特性を選んだ理由」を自分の言葉で説明できる状態を目指してください。それができれば、設計レビューで先輩に突っ込まれても、自信を持って答えられます。

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