電力科目の解説

【電験三種・電力】たるみ(弛度)の計算|公式D=WS²/8Tを「洗濯物干し」で完全理解する

😣 こんな経験はありませんか?
  • D=WS²/8T の公式は知ってるけど、「W」「S」「T」が何を表すのかパッと出てこない
  • 「たるみ」と「実長」の公式が2つあって、どっちがどっちか混同する
  • 「風圧荷重」が出てきた瞬間に、Wに何を入れればいいかわからなくなる
  • 温度変化でたるみが変わる問題で、線膨張係数の計算が追えない
✅ この記事でわかること
  • たるみの公式 D=WS²/8T の 各記号の意味 と「なぜこの形になるのか」
  • 電線の実長 L=S+8D²/3S の使い方
  • 風圧荷重が加わったときの 合成荷重の求め方
  • 温度変化でたるみが変わる問題の 解法パターン
  • 全パターンを 途中式を省略せず 計算例で解説

電験三種の電力科目で、ほぼ毎回出題される計算テーマがあります。

それが「電線のたるみ(弛度)」の計算です。

公式自体はシンプルなのに、なぜか得点できない。その原因は「公式を丸暗記しているけど、意味がわかっていない」から。記号の意味がわかっていないと、問題文の数値をどこに代入すればいいか迷い、時間切れになります。

この記事では、たるみの計算を「洗濯物干し」のイメージで直感的に理解してから、実際の計算パターンを途中式付きで一つずつ潰していきます。

📘 前提知識
【電験三種・電力】架空送電線の構造|電線・がいし・鉄塔・架空地線を完全図解 →

架空送電線の構成要素(ACSR・鉄塔など)を先に理解しておくと、この記事がスムーズに読めます。

そもそも「たるみ(弛度)」とは何か?

あなたの家のベランダにある洗濯物干しのロープを思い浮かべてください。

ロープの両端を2本の柱に結ぶと、重力でロープの中央が下にたわみますよね。あの「たわみ」こそが、「たるみ(弛度)」です。

送電線もまったく同じです。2本の鉄塔に電線を張ると、電線の自重で中央が下にたるみます。この鉄塔の取付け点と電線の最も低い点との高さの差を、弛度(ちど)D [m]と呼びます。

👕

洗濯物干し

柱と柱の間にロープを張る → 重力で中央がたるむ → 洗濯物を掛けるとさらにたるむ

🗼

架空送電線

鉄塔と鉄塔の間に電線を張る → 自重で中央がたるむ → 風や氷でさらにたるむ

たるみに登場する4つの用語を先に整理する

公式を見る前に、まず用語を確認しましょう。これを知らないまま公式に進むと確実に混乱します。

用語 記号 単位 洗濯物干しで言うと?
弛度(たるみ) D m ロープの中央が柱の結び目から何m下がっているか
径間 S m 柱と柱の間の水平距離
水平張力 T N ロープをピンと引っ張る力(強く引っ張るほどたるみが減る)
荷重 W N/m ロープ1mあたりの重さ(洗濯物を掛けると重くなる=W増加)
💡 ポイント
「Wが大きい=重い=たるみが増える」「Tが大きい=強く引っ張る=たるみが減る」——この直感を持っていれば、公式を忘れても「WとTの位置関係」が思い出せます。

たるみの公式① D = WS² / 8T

📐 たるみの公式

D =
WS²
8T
[m]

D:たるみ [m] W:電線1mあたりの荷重 [N/m] S:径間 [m] T:水平張力 [N]

公式の「意味」を直感で理解する

この公式を丸暗記する前に、「なぜこの形になるのか」を直感で理解しましょう。公式を分解すると、非常にシンプルな構造が見えてきます。

公式の要素 意味 直感的な理解
W(分子) 電線1mあたりの荷重 重いほど、たるみは大きくなる(分子↑ → D↑)
S²(分子) 径間の2乗 鉄塔の間隔が広いほど、たるみは急激に大きくなる(2乗で効く)
T(分母) 水平張力 強く引っ張るほど、たるみは小さくなる(分母↑ → D↓)
8(分母) 定数 電線の曲線を放物線で近似したときに出てくる定数(導出は微分を使いますが、試験では暗記でOK)
💡 覚え方
W(重さ)とS²(距離の2乗)が大きいほど、たるみは増える。T(張力)が大きいほど、たるみは減る。」——この因果関係さえ覚えていれば、W・S²が分子、Tが分母ということは自然に思い出せます。あとは定数の8を覚えるだけです。

計算例①:基本パターン

📝 例題

径間 S = 200 m、電線1mあたりの荷重 W = 15 N/m、水平張力 T = 30,000 N のとき、電線のたるみ D [m] を求めよ。

✏️ 解法

公式にそのまま代入します。

D =
WS²
8T
=
15 × 200²
8 × 30,000
=
15 × 40,000
240,000
=
600,000
240,000
= 2.5 m

答え:D = 2.5 m

🎯 試験のコツ
S²の計算でミスしやすいので、先にS²を計算してからW倍するのが鉄則です。200² = 40,000 → 15 × 40,000 = 600,000 → 600,000 ÷ 240,000 = 2.5。焦って一気に計算すると桁ミスします。

たるみの公式② L = S + 8D² / 3S(電線の実長)

鉄塔間の水平距離が S [m] です。しかし、電線はたるんでいるため、実際の電線の長さ(実長)は S よりも長くなります。この「実際の電線の長さ」を求める公式が2つ目の公式です。

📐 電線の実長の公式

L = S +
8D²
3S
[m]

L:電線の実長 [m] S:径間(水平距離) [m] D:たるみ [m]

この公式の「意味」

この公式を分解すると、とてもシンプルです。

L = S + 8D²/3S

= 水平距離 たるみのせいで余分に長くなった分

つまり、「実長」=「水平距離」+「たるみによる余分な長さ」

たるみが0なら L = S(直線で結んだ長さ)。たるみがあると、電線がU字に曲がった分だけ、Sより長くなる。その「U字の分」が 8D²/3S です。

計算例②:実長を求める

📝 例題

径間 S = 250 m、たるみ D = 5 m のとき、電線の実長 L [m] を求めよ。

✏️ 解法

L = S + 8D² / 3S
= 250 + 8 × 5² / (3 × 250)
= 250 + 8 × 25 / 750
= 250 + 200 / 750
= 250 + 0.267
≈ 250.27 m

💡 気づきましたか?
径間250mでたるみ5mもあるのに、実長との差はたった27cmしかありません。電線はものすごくなだらかなカーブを描いているため、「実長と水平距離の差」は意外なほど小さいのです。これを知っていると「計算結果が数百メートルも長くなった」というとき、計算ミスに気づけます。

2つの公式の使い分け|「求めるもの」で選ぶ

ここまでで2つの公式が出てきました。混同しやすいので、「何を求めたいか」で使い分けるルールを整理します。

求めたいもの 使う公式 必要な情報
たるみ D D = WS² / 8T 荷重W、径間S、張力T
張力 T T = WS² / 8D 荷重W、径間S、たるみD(公式を変形するだけ)
電線の実長 L L = S + 8D² / 3S 径間S、たるみD
🎯 試験のコツ
問題文で「たるみを求めよ」→ D = WS²/8T。「張力を求めよ」→ D = WS²/8T をTについて変形して T = WS²/8D。「電線の実長を求めよ」→ L = S + 8D²/3S。問題文の「求めよ」を見た瞬間に、使う公式が決まります。

応用編①|風が吹くと「W」が変わる——合成荷重の計算

ここからが、多くの受験生がつまずくポイントです。

公式 D = WS²/8T の「W」は「電線1mあたりの荷重」でした。無風のときは、Wは電線の自重だけです。しかし、風が吹くと話が変わります。

電線にかかる力は「2方向」ある

電線には2種類の力がかかります。

⬇️

自重(重力荷重)w₁

電線自身の重さ。真下に向かってかかる。常にかかっている力。

➡️

風圧荷重 w₂

風が電線を押す力。水平方向にかかる。風が吹いているときだけ。

自重は「下向き」、風圧は「横向き」。この2つの力は直角に交わっています。直角に交わる2つの力を合わせた「合力」を合成荷重 Wと呼びます。

合成荷重の求め方|「三平方の定理」で合わせる

2つの力が直角なので、合成荷重は三平方の定理(ピタゴラスの定理)で求められます。中学校の数学で習った「a² + b² = c²」と同じです。

📐 合成荷重の公式

W = √(w₁² + w₂²) [N/m]

w₁:電線の自重 [N/m](真下向き)
w₂:風圧荷重 [N/m](水平向き)

計算例③:風圧荷重がある場合のたるみ

📝 例題

径間 S = 300 m、電線の自重 w₁ = 12 N/m、風圧荷重 w₂ = 9 N/m、水平張力 T = 25,000 N のとき、たるみ D [m] を求めよ。

✏️ 解法

STEP 1:合成荷重 W を求める
W = √(w₁² + w₂²) = √(12² + 9²) = √(144 + 81) = √225 = 15 N/m

STEP 2:たるみの公式に代入する
D = WS² / 8T = 15 × 300² / (8 × 25,000)
= 15 × 90,000 / 200,000
= 1,350,000 / 200,000
= 6.75 m

⚠️ 最大のミスポイント
風圧荷重があるのに自重だけでDを計算してしまうミスが非常に多いです。問題文に「風圧荷重」が書いてあったら、必ずSTEP 1で合成荷重Wを計算する工程を入れてください。直接w₁を代入するのではなく、W = √(w₁² + w₂²) を経由するのが鉄則です。

応用編②|温度が変わるとたるみも変わる

電験三種では、「温度が変わったときの新しいたるみを求めよ」という問題もよく出ます。これは少し手順が増えますが、ステップを踏めば必ず解けます。

なぜ温度でたるみが変わるのか?

金属は温度が上がると膨張します(線膨張)。電線も金属なので、夏の暑い日には電線が伸び、その分たるみが大きくなります。逆に冬は縮んでたるみが小さくなります。

💡 イメージ
夏にアスファルトの道路が「うねうね」するのと同じ原理です。道路のコンクリートが熱で膨張して、逃げ場がなくなって波打つ。送電線も同じで、膨張した分の長さが「たるみの増加」として現れます。

解法のステップ|「実長→新実長→新たるみ」の3段階

温度変化の問題は、以下の3ステップで解きます。

STEP 1

元の温度での電線の実長 L₁ を求める
L₁ = S + 8D₁² / 3S

STEP 2

温度変化後の新しい実長 L₂ を求める
L₂ = L₁ × (1 + α × Δt)
α:線膨張係数 [1/℃]、Δt:温度変化量 [℃]

STEP 3

新しいたるみ D₂ を求める
L₂ = S + 8D₂² / 3S をD₂について解く
→ D₂ = √[ 3S(L₂ − S) / 8 ]

計算例④:温度変化のパターン

📝 例題

径間 S = 200 m の送電線で、温度10℃のとき、たるみ D₁ = 4 m であった。温度が40℃に上昇したとき、たるみ D₂ [m] を求めよ。ただし、線膨張係数 α = 20 × 10⁻⁶ /℃ とし、張力による電線の伸縮はないものとする。

✏️ 解法

STEP 1:元の実長 L₁ を求める
L₁ = S + 8D₁² / 3S
= 200 + 8 × 4² / (3 × 200)
= 200 + 8 × 16 / 600
= 200 + 128 / 600
= 200 + 0.2133
= 200.2133 m

STEP 2:温度変化後の実長 L₂ を求める
温度変化 Δt = 40 − 10 = 30 ℃
L₂ = L₁ × (1 + α × Δt)
= 200.2133 × (1 + 20 × 10⁻⁶ × 30)
= 200.2133 × (1 + 0.0006)
= 200.2133 × 1.0006
= 200.3335 m

STEP 3:新しいたるみ D₂ を求める
L₂ = S + 8D₂² / 3S の式から D₂ を求めます。

8D₂² / 3S = L₂ − S
8D₂² / (3 × 200) = 200.3335 − 200
8D₂² / 600 = 0.3335
8D₂² = 0.3335 × 600 = 200.1
D₂² = 200.1 / 8 = 25.01
D₂ = √25.01
≈ 5.0 m

💡 結果の確認
温度が10℃→40℃に上がっただけで、たるみが4m→5mに1mも増加しています。たった30℃の変化でこれだけ変わるのです。夏場に送電線が地面に近づく(限界に達する)のを防ぐため、設計時には最高温度時のたるみを基準に鉄塔の高さを決めています。

なぜ「張力を大きくしてたるみを0にする」ことはできないのか?

公式 D = WS²/8T を見ると、T(張力)を大きくすればたるみDは小さくなります。「じゃあ思いっきり引っ張ればいいじゃん」と思いますよね。

しかし、それには重大なリスクがあります。

⚠️ 張力を上げすぎると起きる3つの問題

① 電線が切れる 電線にも「引っ張り強度の限界」があります。限界を超えると断線します。
② 鉄塔が壊れる 張力は鉄塔にも伝わります。鉄塔の強度を超えると倒壊のリスクがあります。
③ 風で振動する 張力が高いピンと張った電線は、風で「ギャロッピング」や「微風振動」と呼ばれる振動が発生しやすくなり、金属疲労による断線の原因になります。

つまり、送電線の設計は「たるみを小さくしたい」と「張力を上げすぎてはいけない」のバランスを取る必要があります。この「ちょうどいい落としどころ」を数値で求めるのが、たるみの計算なのです。

🎯 試験で狙われるポイント
正誤問題で「たるみを小さくするためには張力を大きくすればよいが、電線の安全率や鉄塔への荷重を考慮する必要がある」→ 正しい。また「電線を強く張りすぎると微風振動が発生しやすくなる」も正誤問題の定番です。

試験に出る3つの計算パターン|早見表

たるみの計算問題は、大きく3パターンに分類できます。どのパターンが出ても対応できるよう、ここで整理しておきましょう。

パターン 問われること 解法の流れ
パターン1
基本
W, S, T が与えられて
→ D または T を求める
D = WS²/8T をそのまま使う(またはTについて変形)
パターン2
風圧あり
自重 w₁ と風圧荷重 w₂ が別々に与えられて
→ D を求める
① W = √(w₁² + w₂²)で合成荷重を求める
② D = WS²/8T に代入
パターン3
温度変化
温度が変わったときの
→ 新しいD₂を求める
① L₁ = S + 8D₁²/3S(元の実長)
② L₂ = L₁(1 + αΔt)(新実長)
③ D₂ = √[3S(L₂ − S) / 8]

まとめ|たるみ計算の全公式と試験直前チェックリスト

📐 この記事で学んだ公式一覧

たるみ D [m] D = WS² / 8T
電線の実長 L [m] L = S + 8D² / 3S
合成荷重 W [N/m] W = √(w₁² + w₂²)
温度変化後の実長 L₂ = L₁(1 + αΔt)

試験直前チェックリスト

D = WS²/8T のW・S・Tが何を意味するか説明できる
☑ Wが大きい→D増加、Tが大きい→D減少、Sは2乗で効く
☑ 風圧荷重がある場合は W = √(w₁² + w₂²) で合成荷重を先に求める
☑ 実長の公式 L = S + 8D²/3S は「水平距離+たるみ分の余分な長さ」
☑ 温度変化の問題は ①実長→②新実長→③新たるみ の3ステップ
☑ 張力を上げすぎると微風振動のリスクがある
☑ 計算では 先にS²を計算 してからW倍する(桁ミス防止)

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