こんにちは、シラスです。
実験計画法を学び始めると、最初に必ず覚えるべき2つの専門用語があります。
それが「因子(いんし)」と「水準(すいじゅん)」です。
「言葉は聞いたことがあるけど、どっちがどっちだっけ?」
「設定値のこと? パラメータのこと?」
ここが曖昧なままだと、L18直交表などの高度なテクニックを使おうとしても、実験の設計図(割り付け)が書けずに挫折してしまいます。
この記事では、実験の土台となるこの2つの概念について、料理の例えや図解を交えながら、実務レベルまで掘り下げて解説します。
目次
1. 因子(Factor)とは?「原因の候補」
まずは「因子」からです。
もっと噛み砕いて言うと、
「これを変えたら、結果が変わるんじゃないか?」と睨んだ犯人候補のことです。
(英語では Factor と言います)
身近な例で考える
「実験」というと堅苦しいですが、私たちは日常的に因子を考えています。
| 実験テーマ(結果) | 因子(原因の候補) |
|---|---|
| カレー作り (おいしさ) |
・お肉の種類 ・カレールーの銘柄 ・煮込み時間 ・隠し味の有無 |
| スマホの電池持ち (稼働時間) |
・画面の明るさ ・起動しているアプリ数 ・Wi-Fiのオン/オフ ・外気温 |
実験計画法とは、これら無数にある因子の中から「特に重要そうなもの」をピックアップし、本当に犯人(効果がある)なのかを取り調べするプロセスのことです。
2. 水準(Level)とは?「具体的な設定値」
次に「水準」です。
因子が決まっただけでは、実験はできません。「具体的にどうするか」を決める必要があります。
英語では Level と言います。
「温度」が因子なら、「200℃」や「250℃」が水準です。
2種類の水準(量的と質的)
水準には、大きく分けて2つのタイプがあります。
ここを意識すると、実験の精度が上がります。
温度、時間、圧力、長さ、量など。
- 水準1: 100℃
- 水準2: 120℃
- 水準3: 140℃
材料の種類、工場の場所、作業担当者、方法など。
- 水準1: 材料A(国産)
- 水準2: 材料B(外国産)
3. 因子と水準をセットで考える
実験計画とは、結局のところ「因子と水準の組み合わせ表(マトリクス)」を作ることです。
例えば、「肉の種類(2水準)」と「スパイスの量(2水準)」を調べたい場合。
| 因子 | 水準1 (Low) | 水準2 (High) |
|---|---|---|
| A:肉の種類 | 牛肉 🐮 | 鶏肉 🐔 |
| B:スパイス | 少なめ | 多め |
これらを組み合わせると、以下の $2 \times 2 = 4$ 通りの実験条件が生まれます。
- 牛肉 × 少なめ
- 牛肉 × 多め
- 鶏肉 × 少なめ
- 鶏肉 × 多め
因子が増えれば増えるほど、この組み合わせは爆発的に増えていきます。
(例:因子が7個あったら、$2^7 = 128$ 通り!)
だからこそ、「直交表」などのテクニックを使って、効率よく実験する必要が出てくるわけです。
4. ケーススタディ:オムライスの新レシピ開発
最後に、より実践的なイメージを持つために、「究極のオムライス」を作る実験を計画してみましょう。
あなたはシェフとして、以下の3つの因子に注目しました。
📋 実験計画書
目的: ふわとろで美味しいオムライスを作りたい。
設定した因子と水準:
- 因子A(卵の種類):
- 水準1:スーパーの特売卵
- 水準2:ブランド地養卵
- 因子B(マヨネーズ添加):
- 水準1:入れない
- 水準2:入れる(小さじ1)
- 因子C(火加減):
- 水準1:中火
- 水準2:強火
このように整理することで、初めて「何を、どう変えて実験すればいいか」が明確になります。
もしこれを整理せず、「とりあえず高い卵を使って、強火でやってみるか…あ、マヨネーズ入れるの忘れた」などと行き当たりばったりでやると、何が原因で美味しくなったのか(あるいは不味くなったのか)が一生分かりません。
まとめ
実験を成功させるコツは、難しい計算をすることではありません。
実験を始める前に、「どの因子を選び、どの水準(範囲)で振るか?」を徹底的に考えることです。
ここさえ間違っていなければ、あとはデータが答えを教えてくれます。
次回は、実験の信頼性を高めるために必須の概念、「繰返し(Repetition)」について。
「なぜ同じ条件で2回も3回も実験しなきゃいけないの? 面倒じゃない?」
その疑問に、統計学的な理由でお答えします。
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