測定技術

測定器の全体像|オシロ・テスタ・電力計・LCR・ネットアナの使い分け早見表

測定器の全体像。オシロ・テスタ・電力計・LCR・ネットアナの使い分け早見表

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれています。

測定・計測の技術 > 第1章:測定の基礎思想
第1章 - 第2回 / 全7回 シリーズ全体: 2 / 69記事
進捗 3%
こんな経験はありませんか?
  • 実験室に大量の測定器があるが、どれをいつ使うかわからない
  • 「コンデンサの容量を測りたい」と言ったら「LCRメータ使えば?」と返されて、それが何か知らなかった
  • 客先から「絶縁抵抗の測定データ提出してください」と言われ、テスタで測ろうとして先輩に止められた
  • 設計部の若手に「効率測るには何使えばいい?」と聞かれて答えられなかった
○ この記事でわかること
  • 製造業の現場にある主要な測定器15種類の用途と特徴
  • 「何を測りたいか」から「どの測定器を使うか」が一発でわかる早見表
  • 各測定器の価格帯と精度の目安(数千円〜数百万円まで)
  • 客先監査で「なぜこの測定器を選んだか」を根拠を持って答える方法

結論:測定器は「何を測りたいか」で選ぶ

結論を先に言います。測定器の選び方の答えはシンプルです。

測定器選びの3つの軸
① 何を測るか(電圧/電流/抵抗/容量/波形/温度/振動…)
② どんな信号か(直流/交流/高速変化/微小信号)
③ どんな精度が必要か(ざっくり/実用/高精度/校正用)

この3つを決めれば、使うべき測定器は自動的に絞られます。逆に「とりあえずテスタで測る」と全部やろうとすると、嘘の値を読むことになります。

測定器は5つのファミリーに分けて覚える

製造業の現場にある測定器は、ざっくり5つのファミリーに分類できます。これさえ覚えれば、どんな現場に行っても迷いません。

ファミリー①

基本電気量の測定器(電圧・電流・抵抗)
代表選手:テスタ(DMM)、絶縁抵抗計(メガー)
使うシーン:日常点検、回路の動作確認、絶縁検査

ファミリー②

波形の測定器(時間変化する信号)
代表選手:オシロスコープ、ロジックアナライザ、データロガー
使うシーン:スイッチング波形の確認、ノイズ解析、長時間記録

ファミリー③

電力・効率の測定器
代表選手:電力計、電源アナライザ、クランプメータ
使うシーン:インバータの効率測定、消費電力評価、力率測定

ファミリー④

部品・素子の測定器
代表選手:LCRメータ、ネットワークアナライザ、半導体カーブトレーサ
使うシーン:コンデンサ容量・ESR測定、フィルタ特性評価、部品の良否判定

ファミリー⑤

物理量(電気以外)の測定器
代表選手:熱電対・温度ロガー、サーモグラフィ、加速度センサ、トルクセンサ
使うシーン:放熱設計、振動解析、効率測定の補助

【完全早見表】何を測りたい? から逆引きする測定器

この記事のメインコンテンツです。田中さんが現場で「何を測りたい」と思ったとき、どの測定器を選べばいいかを一覧化しました。ブックマークするならここです。

測定したいもの 最適な測定器 代用品 注意点
直流電圧 / 抵抗 デジタルマルチメータ(DMM) アナログテスタ レンジ間違いに注意
交流電圧(商用電源) 真の実効値DMM アナログ電圧計 「平均値型」では歪み波で誤差
電流(大電流/配線あり) クランプメータ DMMの電流レンジ DMM電流は配線切断必要
波形(時間変化する信号) オシロスコープ データロガー(低速のみ) プローブ選定が命
デジタル信号(0/1) ロジックアナライザ オシロ(多chモデル) 電圧波形は見えない
電力(W、有効電力) 電力計・パワーメータ V×I×cosθ手計算 力率を別途測定する手間
電力変換効率 電源アナライザ 電力計2台で入出力同時 同時測定でないと誤差
コンデンサ容量・ESR LCRメータ DMMの容量レンジ(簡易) 測定周波数で値が変わる
インダクタL値 LCRメータ なし(必須) DCバイアス時の特性は別測定
フィルタ特性(高周波) ネットワークアナライザ スペアナ+トラジェネ 校正(キャリブレーション)必須
周波数スペクトル スペクトラムアナライザ オシロのFFT機能 EMC測定では専用機が必要
絶縁抵抗(MΩ〜GΩ) 絶縁抵抗計(メガー) なし(必須) 高電圧印加するため安全注意
温度(点測定) 熱電対+温度ロガー サーミスタ・Pt100 取り付け方で大きく誤差
温度(面分布) サーモグラフィ 放射温度計(点) 放射率設定で値が変わる
振動・加速度 加速度センサ+FFT ハンディ振動計 取り付け方法で結果が激変
現場の声
この表を印刷して測定器の保管棚に貼っておくと、新人や他部署からの相談に「あ、これならこれ使ってね」と即答できるようになります。田中さんが部署内で頼られる存在になる第一歩です。
関連記事
「測ろうとした瞬間に対象が変わる」プローブ効果の理解がない状態で測定器を選んでも、嘘の値を読みます。シリーズ第1話を先に読むと、この記事の重みがより伝わります。 【入門】電気の測定はなぜ難しいのか?プローブ効果の正体 →

主要測定器15種|価格・精度・用途の一覧表

「で、結局いくらするの?」「うちの会社に必要?」という疑問に答えるために、主要な測定器15種の価格帯と用途を一覧化しました。

測定器 価格帯 主用途 必要度
アナログテスタ 2千〜1万円 ざっくり電圧・抵抗
デジタルマルチメータ 5千〜30万円 電圧・電流・抵抗・容量
クランプメータ 1〜10万円 配線を切らずに電流測定
絶縁抵抗計(メガー) 2〜20万円 絶縁不良の検出
オシロスコープ(汎用) 20〜200万円 波形観測の万能ツール
オシロスコープ(高速) 300万〜1千万円 GHz級信号の解析
差動プローブ 15〜100万円 フローティング測定
電流プローブ 10〜80万円 オシロで電流波形
電力計・パワーメータ 30〜300万円 有効電力・力率
電源アナライザ 200万〜1千万円 効率の高精度測定
LCRメータ 10〜200万円 L・C・R・ESR測定
ネットワークアナライザ 100万〜数千万円 高周波特性評価
スペクトラムアナライザ 50万〜数千万円 周波数分析・EMC
サーモグラフィ 10〜200万円 温度分布の可視化
FFTアナライザ 30〜300万円 振動・騒音の周波数解析

必要度は「製造業の一般的なエンジニアにとって」の主観的な目安です。自動車Tier1のような業界なら、サーモグラフィや差動プローブは必須レベル()です。

校正とは?測定器の校正の意味・調整との違い・トレーサビリティ
あわせて読みたい
校正とは?測定器の校正の意味・調整との違い・トレーサビリティ

校正とトレーサビリティとは?

測定器選びでよくある3つの失敗パターン

測定器選びの失敗には、典型的なパターンがあります。これらを避けるだけで、現場での信頼性が一段階上がります。

失敗①:テスタで何でも測ろうとする

「とりあえずテスタ」は、新人エンジニアあるあるです。しかしテスタは「直流電圧」「直流に近い交流」「抵抗」を測るための機械です。

例えばインバータの出力波形(PWM波形)をテスタで測ると、メーカーによって表示値がバラバラになります。「真の実効値(True RMS)」対応のDMMでも、PWMのようにデューティが時々変化する波形では誤差が出ます。波形のあるものはオシロで見るのが鉄則です。

失敗②:オシロで電力を計算しようとする

「電圧波形と電流波形をオシロで撮って、掛け算して電力を出せばいいのでは?」これも初心者がやりがちですが、いくつも罠があります。

オシロの電圧プローブと電流プローブには遅延差(スキュー)があり、これを補正しないと有効電力の計算がずれます。さらにオシロの確度は電力計より一段悪い(典型的にDC精度1〜3%程度)ため、効率99%の電源を測ろうとしたら誤差で「効率101%」みたいな結果になります。

電力計算は電力計・電源アナライザ専用機を使うのが鉄則です。

失敗③:LCRメータの「測定周波数」を見ない

「コンデンサの容量を測ったら、データシートと違う値が出た」というのは、多くの場合、測定周波数の違いが原因です。

例えばアルミ電解コンデンサは、JIS規格で「120Hzで容量を測定する」と決まっています。一方、機能性高分子コンデンサは「100Hzで容量、100kHzでESR」を測ります。LCRメータの設定を変えると、同じコンデンサでも全然違う値が出ます。「測定条件をデータシートと合わせる」のが鉄則です。

注意
客先監査で「この容量、データシートと違いますね」と指摘されたとき、「測定周波数が違うので比較できません」と即答できれば信頼度爆上がりです。逆に「あれ、おかしいですね」と狼狽すると終わります。

迷ったらこれ|測定器選び判定フロー

「結局何を選べばいいかわからない」というとき、以下のフローで決められます。

Q1

「時間で変化する波形」を見たい?
YES → オシロスコープ(プローブ選定が次の課題)
NO → Q2へ

Q2

「平均値・実効値の電圧/電流/抵抗」を測りたい?
YES → デジタルマルチメータ(DMM)
NO → Q3へ

Q3

「電力(W)/力率/効率」を測りたい?
YES → 電力計・電源アナライザ
NO → Q4へ

Q4

「コンデンサ容量/インダクタンス/ESR」を測りたい?
YES → LCRメータ
NO → Q5へ

Q5

「絶縁の良否」を確認したい?
YES → 絶縁抵抗計(メガー)
NO → Q6へ

Q6

「温度/振動/騒音」など電気以外を測りたい?
YES → 第6・7・8章の専用測定器(熱電対・加速度センサ・騒音計など)
NO → 「測りたいもの」を1行で明確にすることから始めましょう

関連記事
測定器を「使いこなす」前に「測定システムとして信頼できるか」を評価する手法がMSA(測定システム解析)です。QC検定でも頻出。 【完全保存版】MSA入門|ゲージR&Rの計算手順をExcelで完全再現 →

測定器の購入稟議を書くとき、上司を説得する5要素

田中さんが現場で「この測定器を買いたい」と稟議を書くとき、山田課長(仮)を説得するには、以下の5つを明文化する必要があります。

要素 記載すべき内容
① 用途 具体的な測定対象(例:「インバータ出力のスイッチング波形 ±600V/20kHz」)
② 必要スペック 帯域・分解能・耐圧などの数値(例:「帯域200MHz以上、CMRR 80dB以上」)
③ 既存設備で代替不可な理由 「現有の受動プローブではフローティング測定不可」など、技術的根拠
④ 投資対効果 「不良流出1件で○○万円の損失。本測定器導入で発見可能」
⑤ 比較検討した代替案 他メーカー2〜3社の比較表(価格・スペック・サポート体制)
ポイント
「客先から要求された測定なのでこれが必要です」という外圧の根拠があると、稟議は一発で通ります。客先監査の指摘事項を引用するのは、社内で測定器を買うときの最強の武器です。

測定器ごとの詳細記事へ|あなたが今、深掘りすべき記事

この記事は全体マップです。各測定器の詳細は、シリーズ内の専用記事で深掘りしていきます。あなたが今、最も知りたい測定器の記事を選んでください。

あなたの状況 次に読むべき記事
オシロを使いこなしたい 第2章「オシロスコープの基礎」全8記事
プローブで失敗したくない 第3章「プローブの完全攻略」全12記事
電力測定の精度を上げたい 第5章 電力計・電源アナライザの記事
温度測定が雑だと言われた 第6章「温度・熱の測定」全8記事
振動・ベアリング異常を見つけたい 第7章 FFTアナライザ・加速度センサの記事

まとめ:測定器を制す者が、ものづくりを制す

この記事のポイント
  • 測定器は5つのファミリーで覚える:基本電気量/波形/電力/部品素子/物理量
  • 「何を測りたいか」から逆引きする:早見表を保管棚に貼っておくと現場で即答できる
  • 主要測定器15種の価格は数千円〜数千万円:必要度を見極めて稟議を書く
  • よくある失敗:①テスタで何でも測る ②オシロで電力計算 ③LCRメータの周波数を見ない
  • 稟議の5要素:用途/必要スペック/代替不可な理由/投資対効果/比較検討

「正しい測定器を、正しい使い方で」これがものづくりエンジニアの基本動作です。シリーズの次の記事から、いよいよ各測定器の中身に踏み込んでいきます。

シリーズ内ナビゲーション

この記事の理解を深める本と道具
おすすめの道具

使い分けがわかったら、波形を見られるオシロスコープが1台あると測定の幅が広がります。RIGOLのデジタル・オシロスコープ DHO804です。周波数帯域70MHz・4チャンネルで、12ビットの垂直分解能をもちます。

おすすめの道具

回路の電圧や導通を自分の手で確かめるなら、手元にテスターが1台あると便利です。三和電気計器のデジタルマルチメータ(テスター)CD772です。電圧や抵抗などを測れます。

おすすめの本

「測定器の全体像」を、工場の設備保全や生産技術の仕事で使う知識につなげたい人に向いています。設備保全や生産技術で働く電気エンジニアが、1年目に押さえたい基本をカラーの図解でまとめた本です(技術評論社)。

キャリア
設計の経験を、次のキャリアに活かすなら

回路・熱・測定の設計経験は、メーカーをはじめ多くの企業で求められています。今の職場で経験を積むのも、より広く経験を活かせる職場を探すのも、ひとつの道です。エンジニア向けの転職支援サービスでは、経験を棚卸ししながら求人を探せます。

自分らしく働けるエンジニア転職を目指すなら【strategy career】

S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーで回路設計・生産技術(品質改善)の実務

メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

テーマ別に、もっと深く学ぶ

気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめて学ぶ人向けにやさしく書いています。

つまずきやすい「違い」を一気に解決
計算力アップ・資格対策

タグ

-測定技術
-,