こんにちは、シラスです。
前回、実験データ全体のバラつきである「総平方和($S_T$)」を計算しました。
しかし、この「28」という数字(前回の計算結果)だけを見ても、実験が成功したのか失敗したのかは分かりません。
- 「温度を変えたからデータが良くなったのか?」(効果)
- 「単に測定ミスや偶然でズレただけなのか?」(誤差)
この2つがごちゃ混ぜになっているからです。
今日は、この塊($S_T$)を、手術用メスのように鋭い計算式を使って、「効果($S_A$)」と「誤差($S_e$)」の2つにきれいに解体します。
これができれば、実験の全貌が手に取るように分かるようになります。
目次
1. 分解のイメージ:「テストの点数」
計算に入る前に、「何を分けようとしているのか」をイメージで掴みましょう。
ある塾で、AクラスとBクラスの生徒のテストの点数を比べるとします。
生徒全員の点数のバラつき($S_T$)は、以下の2つの理由で起きています。
-
① 先生の教え方の違い($S_A$)
「Aクラスの先生は教え方が上手いから、クラス全体の平均点が高いよね」(=実験の効果) -
② 生徒個人の実力差($S_e$)
「同じクラスの中でも、できる子とできない子がいるよね」(=偶然の誤差)
実験計画法の目的は、全体のバラつきの中から①(先生の実力)だけを抽出することです。
もし①が大きければ、「この先生の教え方には効果がある!」と証明できます。
数式で書くとこうなります。
全体($S_T$)から、効果($S_A$)と誤差($S_e$)に分ける。
とても美しい関係式ですね。
2. 群間平方和($S_A$)の計算
では、具体的な計算に入りましょう。
まずは主役である「効果($S_A$)」を計算します。
定義は「各水準の平均値と、全体平均とのズレ」ですが、実務では以下の「一発公式」を使います。
群間平方和($S_A$)の公式
手順:
1. 各クラスの合計点($T$)を二乗して、生徒数($n$)で割る。
2. それらを全部足す。
3. 最後に修正項($CT$)を引く。
実践計算(前回のデータ)
前回のデータ(プラスチック強度)を使います。
- 修正項 $CT = 216$
- 温度A1(低温): 3, 4, 5
→ 合計 $T_1 = 12$、個数 $n_1 = 3$ - 温度A2(高温): 7, 8, 9
→ 合計 $T_2 = 24$、個数 $n_2 = 3$
公式に当てはめます。
$S_A = 24$。
これが「温度を変えたこと(先生の違い)によって生まれたズレのエネルギー」です。
3. 群内平方和($S_e$)の計算
次に、残りの「誤差($S_e$)」を計算します。
本来なら「各データと、そのグループ平均とのズレ」を計算するのですが、そんな面倒なことはしません。
なぜなら、私たちはすでに「全体($S_T$)」と「効果($S_A$)」を知っているからです。
引き算で出す(残差)
「全体から、分かっている効果を引けば、残りは全部ノイズ(個人の実力差)だよね」という考え方です。
これが一番早くて正確です。
実践計算
- 総平方和 $S_T = 28$ (前回計算済み)
- 群間平方和 $S_A = 24$ (さっき計算した)
あっという間に求まりました。
$S_e = 4$。これが「温度とは関係のない、偶然のバラつき」です。
4. 結果の解釈:シグナルとノイズ
計算結果を並べてみましょう。
| 成分 | 平方和 ($S$) | 意味 |
|---|---|---|
| 全体 ($S_T$) | 28 | 総エネルギー |
| 温度 ($S_A$) | 24 | シグナル(デカい!) |
| 誤差 ($S_e$) | 4 | ノイズ(小さい) |
どうでしょうか。
全体の「28」のうち、大部分の「24」は温度によるもので、誤差はたったの「4」しかありません。
この比率を見ただけでも、直感的に「あ、これは温度の影響がめちゃくちゃ強いな(実験成功だな)」と感じませんか?
この直感を、統計的に「合格!」と証明するのが、次のステップである「分散分析(ANOVA)」です。
まとめ
これで、分散分析表を作るための「材料($S$)」は全て揃いました。
次回、これらを一枚の表にまとめ上げ、ついに「F値(シグナル ÷ ノイズ)」を算出します。
実験計画法のゴールまで、あと一歩です。
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