こんにちは、シラスです。
長かった一元配置実験の計算も、今回でついに完結です。
前回、私たちは実験データから「F値 = 24.0」という数字を弾き出しました。
これは、「温度の効果(シグナル)」が「誤差(ノイズ)」の24倍もあることを意味しています。
感覚的にはそう思います。
しかし、統計学は「感覚」を嫌います。
もしF値が「5.0」だったらどうでしょう? 「3.0」なら?
どこからが「意味のある差」で、どこまでが「誤差の範囲」なのか。
今日は、その境界線を引くための物差し「F分布表」の使い方と、最終的な「判定」の手順を解説します。
1. 判定の道具:「F分布表」を用意する
合否判定には、教科書の巻末にある「F分布表」を使います。
この表は、「偶然だけでF値がどこまで大きくなるか?」の限界ラインが書かれたリストです。
表を引くために必要な情報は3つです。
- ① 分子の自由度($f_1$): 要因(温度)の自由度 → 1
- ② 分母の自由度($f_2$): 誤差の自由度 → 4
- ③ 有意水準($\alpha$): 判定の厳しさ(通常は 5% か 1%)
※自由度の数字は、前回の「分散分析表」から持ってきます。
2. 境界線(棄却限界値)を探す
では、実際に表を見てみましょう。
(※ここでは5%の表を使います)
| 分母 $f_2$ \ 分子 $f_1$ | 1 | 2 | 3 |
|---|---|---|---|
| 3 | 10.13 | 9.55 | 9.28 |
| 4 | 7.71 | 6.94 | 6.59 |
| 5 | 6.61 | 5.79 | 5.41 |
横の「1」と、縦の「4」が交差するところ。
「7.71」という数字が見つかりました。
これが今回の「合格ライン(棄却限界値)」です。
- F値が 7.71 より小さければ、誤差の範囲(不合格)。
- F値が 7.71 より大きければ、意味のある差(合格)。
3. 最終判定:勝負あり!
いよいよ決着です。
計算したF値 ($F_0$) vs 限界値 ($F_{0.05}$)
判定:有意である(**)
圧勝です。
私たちの実験結果(24.0)は、基準値(7.71)を遥かに超えていました。
統計学的な結論はこうなります。
「帰無仮説(温度の効果はない)を棄却する。
すなわち、温度を変えることによって、強度は確実に変化していると言える(危険率5%で)」
これでようやく、上司に向かって自信満々に報告ができます。
「データ分析の結果、温度の効果は有意でした!温度管理を徹底しましょう!」と。
4. もし「不合格」だったら?
逆に、もし計算したF値が「5.0」くらいだったらどうなっていたでしょうか?
- $5.0 < 7.71$ なので、判定は「有意差なし」になります。
- これは「効果がない」と断定されたわけではありません。
- 「今のデータ数($N=6$)では、誤差と区別がつかない」という意味です。
この場合、諦める前に「データ数を増やして再実験(追試)」を行います。
データ数が増えれば、分母の自由度($f_2$)が増え、表の基準値(7.71)がもっと小さくなる(ハードルが下がる)からです。
まとめ:一元配置実験、完結!
長かった一元配置実験の旅も、これにて終了です。
これが実験計画法の基本的な流れです。
どんなに複雑な実験(L18直交表など)になっても、やっていることの本質はこの「一元配置実験」と同じです。
さて、検定で「温度には効果がある!」と分かりました。
しかし、現場のエンジニアが本当に知りたいのはその先です。
「で、具体的に強度はいくつになるの? 100MPaは超えるの?」
次回は、解析の総仕上げ。
最適な条件を選んだ時の実力を予測する、「母平均の推定(点推定・区間推定)」について解説します。
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