統計学基礎

第11回一様分布:すべてが等確率の世界

~サイコロから学ぶ、最もフェアな確率分布~


🎲 はじめに:「公平さ」を数学で表現すると?

「サイコロを振ったとき、1から6のどの目が出る確率も同じ」 「ルーレットで、どの番号に止まる可能性も等しい」 「くじ引きで、どのくじを引いても当たる確率は同じ」

このような「すべて等しい確率」の状況を数学的に表現したものが一様分布(いちようぶんぷ)です。

一様分布は確率分布の世界で最もシンプルでありながら、他のすべての分布を理解するための重要な出発点となります。


🎯 一様分布って何?

基本的な考え方

一様分布 = 「みんな平等」の分布

  • すべての値が同じ確率で起こる
  • どれも特別扱いしない
  • 完全に公平な状況を表現

日常生活での一様分布

✅ 一様分布の例:
・サイコロの各面 (1,2,3,4,5,6)
・コイン投げ (表,裏) 
・ルーレットの各番号
・公正なくじ引き
・デジタル時計の秒表示 (0〜59秒)

❌ 一様分布ではない例:
・人間の身長 (平均付近が多い)
・テストの点数 (中間点が多い)
・年収 (低所得者が多い)
・交通事故件数 (0件の日が多い)

🔢 2つのタイプ:離散と連続

一様分布には2つのタイプがあります。

1. 離散一様分布:「数えられる」世界

特徴:

  • 取りうる値が飛び飛び(1, 2, 3, 4, 5, 6...)
  • 各値が同じ確率を持つ

🎲 サイコロの例

値:    1    2    3    4    5    6
確率: 1/6  1/6  1/6  1/6  1/6  1/6

グラフ:
確率
1/6 |■    ■    ■    ■    ■    ■
    |
    +---+---+---+---+---+---+--- 値
        1   2   3   4   5   6

公式:

n個の値がある場合
各値の確率 = 1/n

🏫 学籍番号での例

クラス30人の出席番号1〜30番

各番号が選ばれる確率 = 1/30
期待値(平均) = (1+2+...+30) ÷ 30 = 15.5

2. 連続一様分布:「切れ目のない」世界

特徴:

  • 取りうる値が連続的(例:0.0001, 0.0002...)
  • ある区間内で一定の確率密度

⏰ 時計の針の例

0時から12時までの時刻

12時 |________________________| 0時
     ↑どの時刻も等しい確率で到着

確率密度関数:
密度
1/12|■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
    |
    +-------------------------------- 時刻
    0                              12

公式:

区間[a, b]での連続一様分布
確率密度 = 1/(b-a)

🚌 バス到着時間の例

バスが0〜20分の間にランダムに到着する場合

確率密度 = 1/(20-0) = 1/20 = 0.05
10分以内に到着する確率 = 10 × 0.05 = 0.5 (50%)

📊 期待値と分散:一様分布の数学

離散一様分布の場合

期待値(平均)

「真ん中の値」が期待値

サイコロ(1,2,3,4,5,6)の場合:
期待値 = (1+2+3+4+5+6) ÷ 6 = 3.5

一般公式:
値が1,2,...,nの場合
期待値 = (n+1)/2

分散

「ばらつきの程度」

サイコロの場合:
分散 = (6²-1)/12 = 35/12 ≈ 2.92

一般公式:
値が1,2,...,nの場合
分散 = (n²-1)/12

連続一様分布の場合

期待値

「区間の真ん中」

区間[0,10]の場合:
期待値 = (0+10)/2 = 5

一般公式:
区間[a,b]の場合
期待値 = (a+b)/2

分散

「区間の長さに比例」

区間[0,10]の場合:
分散 = (10-0)²/12 = 100/12 ≈ 8.33

一般公式:
区間[a,b]の場合
分散 = (b-a)²/12

🎮 身近な例で理解を深めよう

例1:🎲 サイコロゲーム

問題: 公正なサイコロを振るとき、平均的に何の目が出る?

解答:

期待値 = (1+2+3+4+5+6) ÷ 6 = 3.5

意味:長期的には「3.5」付近の値が平均
(実際には3.5は出ないが、3と4の間の値として理解)

例2:🎯 ルーレット

設定: 0〜36の数字があるルーレット

計算:

期待値 = (0+1+2+...+36) ÷ 37 = 18
分散 = (37²-1) ÷ 12 = 114

解釈:平均的には18付近、ばらつきは大きい

例3:💻 乱数生成

コンピュータでの0〜1の乱数

期待値 = (0+1) ÷ 2 = 0.5
分散 = (1-0)² ÷ 12 = 1/12 ≈ 0.083

プログラミングでの応用:
・ランダムな色の生成
・ゲームでのランダムイベント
・シミュレーションの初期値

例4:🚌 バス待ち時間

設定: バスが10分間隔で来る、ランダムなタイミングで到着

計算:

待ち時間の範囲:0〜10分
期待値 = (0+10) ÷ 2 = 5分
分散 = (10-0)² ÷ 12 = 8.33

解釈:平均5分待つ、ばらつきは約2.9分(標準偏差)

🔧 一様分布の実用的な応用

1. 品質管理での活用

製品の寸法管理

目標:ネジの長さ 50±1mm
許容範囲:49〜51mm

一様分布で近似した場合:
期待値 = 50mm
製品のばらつき具合を評価

2. ゲーム業界での使用

RPGゲームのダメージ計算

基本攻撃力:100
変動範囲:±20 (80〜120)

期待ダメージ = 100
プレイヤーの戦略計算に活用

3. 金融での利用

モンテカルロシミュレーション

初期乱数として一様分布を使用
↓
他の分布(正規分布等)に変換
↓
株価変動のシミュレーション

🏗️ 他の分布の基礎としての役割

一様分布は「確率分布の出発点」として重要です。

1. 他の分布への変換

一様分布 → 正規分布(Box-Muller変換)
一様分布 → 指数分布(逆変換法)
一様分布 → 任意の分布(受容棄却法)

2. 中心極限定理の基礎

多数の一様分布の合計 → 正規分布に近づく

サイコロ1個:一様分布
サイコロ2個の合計:三角分布っぽく
サイコロ10個の合計:正規分布っぽく

3. 統計的検定の基盤

p値の計算基礎

帰無仮説が正しい場合
検定統計量は一様分布に従う
↓
p値の正しい解釈が可能

⚠️ 一様分布使用時の注意点

1. 現実では稀な分布

現実の多くの現象は一様分布ではない

❌ 人間の身長(正規分布に近い)
❌ 収入分布(対数正規分布)
❌ 事故件数(ポアソン分布)
✅ 人工的に設計された公平なシステム

2. 範囲の設定が重要

間違った範囲設定の例

❌ 「人の寿命は0〜150歳で一様分布」
→ 明らかに現実的でない

✅ 「サイコロの目は1〜6で一様分布」
→ 物理的に妥当

3. 連続性の仮定

離散データを連続一様分布で近似する危険性

例:学年(1年,2年,3年)を0〜3の連続一様分布で近似
→ 2.5年生のような意味不明な値が出る

🎯 まとめ:一様分布の重要ポイント

基本概念

  • すべて等確率の最もシンプルな分布
  • 離散型連続型の2種類
  • 公平性を数学的に表現

計算公式

離散一様分布(1〜n):
期待値 = (n+1)/2
分散 = (n²-1)/12

連続一様分布(a〜b):
期待値 = (a+b)/2
分散 = (b-a)²/12

実用的な価値

  • 乱数生成の基礎
  • シミュレーションの出発点
  • 他の分布への変換基盤
  • 公平性が求められる場面での活用

注意すべき点

  • 現実では稀な分布
  • 範囲設定が重要
  • 人工的なシステムでの利用が適切

💡 次回予告

次回は「二項分布」について学びます!

  • コイン投げを何回も繰り返したら?
  • 品質検査で不良品は何個見つかる?
  • アンケート調査で「はい」と答える人は何人?

一様分布の「すべて等確率」から一歩進んで、「成功と失敗の繰り返し」の世界を探検します。実用性抜群の二項分布をお楽しみに!

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