~サイコロから学ぶ、最もフェアな確率分布~
目次
🎲 はじめに:「公平さ」を数学で表現すると?
「サイコロを振ったとき、1から6のどの目が出る確率も同じ」 「ルーレットで、どの番号に止まる可能性も等しい」 「くじ引きで、どのくじを引いても当たる確率は同じ」
このような「すべて等しい確率」の状況を数学的に表現したものが一様分布(いちようぶんぷ)です。
一様分布は確率分布の世界で最もシンプルでありながら、他のすべての分布を理解するための重要な出発点となります。
🎯 一様分布って何?
基本的な考え方
一様分布 = 「みんな平等」の分布
- すべての値が同じ確率で起こる
- どれも特別扱いしない
- 完全に公平な状況を表現
日常生活での一様分布
✅ 一様分布の例:
・サイコロの各面 (1,2,3,4,5,6)
・コイン投げ (表,裏)
・ルーレットの各番号
・公正なくじ引き
・デジタル時計の秒表示 (0〜59秒)
❌ 一様分布ではない例:
・人間の身長 (平均付近が多い)
・テストの点数 (中間点が多い)
・年収 (低所得者が多い)
・交通事故件数 (0件の日が多い)
🔢 2つのタイプ:離散と連続
一様分布には2つのタイプがあります。
1. 離散一様分布:「数えられる」世界
特徴:
- 取りうる値が飛び飛び(1, 2, 3, 4, 5, 6...)
- 各値が同じ確率を持つ
🎲 サイコロの例
値: 1 2 3 4 5 6
確率: 1/6 1/6 1/6 1/6 1/6 1/6
グラフ:
確率
1/6 |■ ■ ■ ■ ■ ■
|
+---+---+---+---+---+---+--- 値
1 2 3 4 5 6
公式:
n個の値がある場合
各値の確率 = 1/n
🏫 学籍番号での例
クラス30人の出席番号1〜30番
各番号が選ばれる確率 = 1/30
期待値(平均) = (1+2+...+30) ÷ 30 = 15.5
2. 連続一様分布:「切れ目のない」世界
特徴:
- 取りうる値が連続的(例:0.0001, 0.0002...)
- ある区間内で一定の確率密度
⏰ 時計の針の例
0時から12時までの時刻
12時 |________________________| 0時
↑どの時刻も等しい確率で到着
確率密度関数:
密度
1/12|■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
|
+-------------------------------- 時刻
0 12
公式:
区間[a, b]での連続一様分布
確率密度 = 1/(b-a)
🚌 バス到着時間の例
バスが0〜20分の間にランダムに到着する場合
確率密度 = 1/(20-0) = 1/20 = 0.05
10分以内に到着する確率 = 10 × 0.05 = 0.5 (50%)
📊 期待値と分散:一様分布の数学
離散一様分布の場合
期待値(平均)
「真ん中の値」が期待値
サイコロ(1,2,3,4,5,6)の場合:
期待値 = (1+2+3+4+5+6) ÷ 6 = 3.5
一般公式:
値が1,2,...,nの場合
期待値 = (n+1)/2
分散
「ばらつきの程度」
サイコロの場合:
分散 = (6²-1)/12 = 35/12 ≈ 2.92
一般公式:
値が1,2,...,nの場合
分散 = (n²-1)/12
連続一様分布の場合
期待値
「区間の真ん中」
区間[0,10]の場合:
期待値 = (0+10)/2 = 5
一般公式:
区間[a,b]の場合
期待値 = (a+b)/2
分散
「区間の長さに比例」
区間[0,10]の場合:
分散 = (10-0)²/12 = 100/12 ≈ 8.33
一般公式:
区間[a,b]の場合
分散 = (b-a)²/12
🎮 身近な例で理解を深めよう
例1:🎲 サイコロゲーム
問題: 公正なサイコロを振るとき、平均的に何の目が出る?
解答:
期待値 = (1+2+3+4+5+6) ÷ 6 = 3.5
意味:長期的には「3.5」付近の値が平均
(実際には3.5は出ないが、3と4の間の値として理解)
例2:🎯 ルーレット
設定: 0〜36の数字があるルーレット
計算:
期待値 = (0+1+2+...+36) ÷ 37 = 18
分散 = (37²-1) ÷ 12 = 114
解釈:平均的には18付近、ばらつきは大きい
例3:💻 乱数生成
コンピュータでの0〜1の乱数
期待値 = (0+1) ÷ 2 = 0.5
分散 = (1-0)² ÷ 12 = 1/12 ≈ 0.083
プログラミングでの応用:
・ランダムな色の生成
・ゲームでのランダムイベント
・シミュレーションの初期値
例4:🚌 バス待ち時間
設定: バスが10分間隔で来る、ランダムなタイミングで到着
計算:
待ち時間の範囲:0〜10分
期待値 = (0+10) ÷ 2 = 5分
分散 = (10-0)² ÷ 12 = 8.33
解釈:平均5分待つ、ばらつきは約2.9分(標準偏差)
🔧 一様分布の実用的な応用
1. 品質管理での活用
製品の寸法管理
目標:ネジの長さ 50±1mm
許容範囲:49〜51mm
一様分布で近似した場合:
期待値 = 50mm
製品のばらつき具合を評価
2. ゲーム業界での使用
RPGゲームのダメージ計算
基本攻撃力:100
変動範囲:±20 (80〜120)
期待ダメージ = 100
プレイヤーの戦略計算に活用
3. 金融での利用
モンテカルロシミュレーション
初期乱数として一様分布を使用
↓
他の分布(正規分布等)に変換
↓
株価変動のシミュレーション
🏗️ 他の分布の基礎としての役割
一様分布は「確率分布の出発点」として重要です。
1. 他の分布への変換
一様分布 → 正規分布(Box-Muller変換)
一様分布 → 指数分布(逆変換法)
一様分布 → 任意の分布(受容棄却法)
2. 中心極限定理の基礎
多数の一様分布の合計 → 正規分布に近づく
サイコロ1個:一様分布
サイコロ2個の合計:三角分布っぽく
サイコロ10個の合計:正規分布っぽく
3. 統計的検定の基盤
p値の計算基礎
帰無仮説が正しい場合
検定統計量は一様分布に従う
↓
p値の正しい解釈が可能
⚠️ 一様分布使用時の注意点
1. 現実では稀な分布
現実の多くの現象は一様分布ではない
❌ 人間の身長(正規分布に近い)
❌ 収入分布(対数正規分布)
❌ 事故件数(ポアソン分布)
✅ 人工的に設計された公平なシステム
2. 範囲の設定が重要
間違った範囲設定の例
❌ 「人の寿命は0〜150歳で一様分布」
→ 明らかに現実的でない
✅ 「サイコロの目は1〜6で一様分布」
→ 物理的に妥当
3. 連続性の仮定
離散データを連続一様分布で近似する危険性
例:学年(1年,2年,3年)を0〜3の連続一様分布で近似
→ 2.5年生のような意味不明な値が出る
🎯 まとめ:一様分布の重要ポイント
基本概念
- すべて等確率の最もシンプルな分布
- 離散型と連続型の2種類
- 公平性を数学的に表現
計算公式
離散一様分布(1〜n):
期待値 = (n+1)/2
分散 = (n²-1)/12
連続一様分布(a〜b):
期待値 = (a+b)/2
分散 = (b-a)²/12
実用的な価値
- 乱数生成の基礎
- シミュレーションの出発点
- 他の分布への変換基盤
- 公平性が求められる場面での活用
注意すべき点
- 現実では稀な分布
- 範囲設定が重要
- 人工的なシステムでの利用が適切
💡 次回予告
次回は「二項分布」について学びます!
- コイン投げを何回も繰り返したら?
- 品質検査で不良品は何個見つかる?
- アンケート調査で「はい」と答える人は何人?
一様分布の「すべて等確率」から一歩進んで、「成功と失敗の繰り返し」の世界を探検します。実用性抜群の二項分布をお楽しみに!