統計学基礎

第15回:指数分布 - 連続的な待ち時間分布

はじめに

「電車を待っている時間って、なんでこんなにバラつくんだろう?」「新しく買ったスマホ、いつまで使えるかな?」「コンビニのレジ待ち、今日は長そう...」

こんな日常の疑問、実は皆さんも感じたことがあるのではないでしょうか?これらの「待ち時間」や「寿命」には、実は共通したパターンがあるんです。

今日学ぶ「指数分布」は、そんな身の回りの時間を数学で表現したものです。「次に何かが起こるまでの時間」を予測したり、「どのくらい長持ちするか」を計算したりと、私たちの生活に密着した実用的な分布なんです。

指数分布って何?身近な例で理解しよう

こんな場面で指数分布が登場します

日常生活の「待ち時間」

🚌 バス停でバスを待つ時間
📞 コールセンターにつながるまでの時間  
🍔 ファストフード店で注文を受け取るまでの時間
📧 次のメールが届くまでの時間

製品の「寿命」

💡 電球が切れるまでの時間
📱 スマホが故障するまでの時間
🔋 バッテリーが切れるまでの時間
💻 パソコンが壊れるまでの時間

指数分布の基本的な計算式

指数分布の基本公式は意外とシンプルです!

基本の公式

P(T > t) = e^(-λt)

T:待ち時間(何時間、何日など)
λ:発生率(1時間に何回、1日に何回など)
t:具体的な時間
e:約2.718(電卓にある「e」ボタン)

平均時間の公式

平均時間 = 1 ÷ λ

例:1時間に平均3回起こる → 平均20分間隔
  1日に平均2回起こる → 平均12時間間隔

「忘れっぽい」分布?無記憶性を理解しよう

無記憶性って何?

指数分布の最大の特徴は「無記憶性」です。これを身近な例で説明してみましょう。

例1:スマホの故障

👤 友人A:「俺のスマホ、もう2年使ってるから、そろそろ壊れそう」
👤 友人B:「私のスマホ、まだ買ったばかりだから安心」

📊 指数分布では:
・2年使ったスマホも
・買ったばかりのスマホも
・明日壊れる確率は同じ!

例2:バス待ち

😤 「もう10分も待ってるんだから、そろそろバスが来るはず」

📊 指数分布では:
・10分待った後にさらに5分待つ確率
・最初から5分待つ確率
・これが全く同じ!

実際に計算してみよう!

例1:コンビニのレジ待ち

設定

🏪 平日昼間のコンビニ
👥 1時間に平均12人の客が来る
⏰ 次の客が来るまでの時間は?

ステップ1:発生率λを求める

λ = 12人/時間 = 0.2人/分

ステップ2:平均間隔を計算

平均間隔 = 1 ÷ 0.2 = 5分

ステップ3:具体的な確率を計算

2分以内に次の客が来る確率:
P(T ≤ 2) = 1 - e^(-0.2×2) = 1 - e^(-0.4) = 1 - 0.67 = 0.33 = 33%

5分以内に次の客が来る確率:
P(T ≤ 5) = 1 - e^(-0.2×5) = 1 - e^(-1) = 1 - 0.37 = 0.63 = 63%

10分以上客が来ない確率:
P(T > 10) = e^(-0.2×10) = e^(-2) = 0.14 = 14%

計算結果の表

時間客が来る確率客が来ない確率店員の実感
2分以内33%67%よくあること
5分以内63%37%だいたいこのくらい
10分以内86%14%まあ普通
15分以上-5%珍しい

例2:スマホの寿命予測

設定

📱 あるスマホの平均寿命:3年
🔧 故障までの時間を予測したい

ステップ1:発生率λを求める

λ = 1 ÷ 3年 = 0.333/年

ステップ2:具体的な生存確率を計算

1年後も使える確率:
P(T > 1) = e^(-0.333×1) = e^(-0.333) = 0.72 = 72%

2年後も使える確率:
P(T > 2) = e^(-0.333×2) = e^(-0.666) = 0.51 = 51%

3年後も使える確率:
P(T > 3) = e^(-0.333×3) = e^(-1) = 0.37 = 37%

計算結果の実用表

使用期間生存確率故障確率感覚的な表現対策
6ヶ月85%15%ほぼ安心特になし
1年72%28%まだ大丈夫念のため注意
2年51%49%半々の確率買い替え検討
3年37%63%結構危険買い替え準備
4年26%74%かなり危険早急に買い替え

例3:電車の遅延予測

設定

🚃 某路線の遅延:平均30分に1回発生
⏰ 今から1時間、遅延しない確率は?

ステップ1:発生率λを求める

λ = 1回 ÷ 30分 = 2回/時間

ステップ2:遅延しない確率を計算

1時間遅延しない確率:
P(T > 1) = e^(-2×1) = e^(-2) = 0.14 = 14%

30分遅延しない確率:
P(T > 0.5) = e^(-2×0.5) = e^(-1) = 0.37 = 37%

15分遅延しない確率:
P(T > 0.25) = e^(-2×0.25) = e^(-0.5) = 0.61 = 61%

通勤時間の計画表

余裕時間遅延しない確率実用的なアドバイス
15分61%ちょっと不安
30分37%結構リスキー
45分22%危険
60分14%非常に危険

計算を簡単にするコツ

電卓での計算方法

eの計算が面倒な時の近似

e^(-0.5) ≈ 0.6  (正確には0.61)
e^(-1) ≈ 0.4    (正確には0.37)
e^(-2) ≈ 0.1    (正確には0.14)
e^(-3) ≈ 0.05   (正確には0.05)

スマホの電卓アプリ活用

📱 iPhoneの計算機:横向きにして「e^x」ボタン
📱 Androidの計算機:「関数」モードで「exp」ボタン
💻 Google検索:「e^(-2)」と検索すれば答えが出る

暗算でできる概算

覚えやすい目安

λt = 0.5 → 約60%生存
λt = 1   → 約40%生存  
λt = 2   → 約15%生存
λt = 3   → 約5%生存

実用的な使い方

例:平均寿命10年の製品
5年後生存率 ≈ 60%(λt = 0.5)
10年後生存率 ≈ 40%(λt = 1)
20年後生存率 ≈ 15%(λt = 2)

身近な場面での指数分布

場面1:お客さんの来店パターン

カフェの店長さんの計算例

☕ 朝の通勤時間:平均2分間隔(λ = 0.5/分)

5分間お客さんが来ない確率:
P(T > 5) = e^(-0.5×5) = e^(-2.5) ≈ 0.08 = 8%

→「5分以上お客さんが来ないのは稀」
→「スタッフが手を抜く時間はほぼない」

場面2:家電の買い替えタイミング

主婦の実用計算

👩 洗濯機の平均寿命10年(λ = 0.1/年)

5年後の生存率:
P(T > 5) = e^(-0.1×5) = e^(-0.5) ≈ 0.61 = 61%

→「5年使った洗濯機の61%はまだ使える」
→「でも39%は故障している」
→「7-8年目から買い替え検討開始が妥当」

指数分布が活躍する職場

IT系の職場

システム管理者の計算例

💻 サーバーの平均故障間隔:720時間(30日)
λ = 1 ÷ 720 ≈ 0.0014/時間

1週間(168時間)無故障の確率:
P(T > 168) = e^(-0.0014×168) = e^(-0.23) ≈ 0.79 = 79%

→「週末の3連休でも79%の確率で大丈夫」
→「でも21%の確率で緊急対応が必要」

まとめ:指数分布と上手に付き合おう

指数分布の計算は、基本公式「P(T > t) = e^(-λt)」と「平均 = 1/λ」さえ覚えれば、スマホの電卓で簡単にできます。完璧な予測はできませんが、確率的な傾向を数値で把握することで、より良い準備や計画ができるようになります。

計算のポイント

🧮 計算手順

1. 平均間隔から λ を求める(λ = 1 ÷ 平均間隔)
2. 知りたい時間 t を決める
3. e^(-λt) を計算する(スマホ電卓活用)
4. 結果を%で解釈する

🎯 実用的な目安

✅ λt = 0.5 → 約60%生存(よくある状況)
✅ λt = 1 → 約40%生存(平均的な状況)
✅ λt = 2 → 約15%生存(やや稀な状況)
✅ λt = 3 → 約5%生存(かなり稀な状況)

タグ

-統計学基礎