実験計画法

【実験計画法】「繰り返し」と「反復」の違いは?実験順序で変わる誤差の罠

こんにちは、シラスです。

実験計画法(DOE)の計画を立てるとき、あるいは部下に実験を指示するとき、こんなふうに言っていませんか?

「データの信頼性を上げたいから、同じ条件で3回測っておいて

この「3回測る」という指示。実は、やり方によって「全く別の意味」になってしまうことをご存知でしょうか?

英語では明確に区別されています。

  • Repetition(繰り返し)
  • Replication(反復)

日本語に訳すとどちらも似たような意味ですが、統計学的には「計算に含まれる誤差の種類」が決定的に違います。ここを混同すると、実験データから誤った結論(偽陽性)を導き出す原因になります。

今日は、現場で絶対に間違えてはいけないこの2つの違いを、実務的な視点で解説します。

結論:セッティングを「変える」か「変えない」か

まずは定義の違いを明確にしましょう。違いは「段取り替え(再セット)」をするかどうかにあります。

📊 2つの測定の違い
🔹 繰り返し(Repetition)
段取りを変えず、連続して測定すること。
順序例:A1 → A2 → A3 → B1...
🔹 反復(Replication)
一度セッティングを崩し、時間を置いて一からやり直して測定すること。
順序例:A1 → B1 → A2 → B2...(ランダム)

例え話:コーヒーの味見

エンジニアの実務に近いイメージを持つために、「コーヒーの抽出温度と味の関係」を調べる実験で考えてみましょう。

ケースA:繰り返し(Repetition)

  1. コーヒーを1回ドリップする。
  2. そのポットから、カップに3杯注ぐ。
  3. 3杯それぞれの味を測る。

これで分かるのは、「注ぎ方のバラつき」や「味覚センサーの測定ブレ」だけです。「ドリップそのもののブレ」は分かりませんよね?

ケースB:反復(Replication)

  1. コーヒーをドリップして、1杯目を測る。
  2. 器具を洗って片付ける。
  3. もう一度豆を挽いてドリップし、2杯目を測る。
  4. また片付けて、3回目をドリップする…。

こちらの場合、毎回「お湯の温度」や「豆の挽き方」「蒸らし時間」が微妙に変わります。つまり、「プロセス全体のバラつき」を含んだデータが取れます。

なぜこれが「罠」になるのか?

ここからが統計の話です。なぜ実験計画法(DOE)ではこの違いが重要なのでしょうか?

それは、「誤差(Error)の大きさ」が変わってしまうからです。

⚠️ 含まれる誤差の違い

繰り返し(Repetition)の誤差:
極小 = 測定器の精度、短期的なノイズ

反復(Replication)の誤差:
= 測定器 + セッティング誤差 + 環境変動(日差)

失敗するパターン:「繰り返し」で検定してしまう

もし、本当は「プロセスの安定性」を見たいのに、手抜きをして「繰り返し(連続測定)」のデータを使って分散分析をしたらどうなるでしょうか?

分母となる「誤差(E)」が、本来あるべき値よりも極端に小さくなってしまいます。

誤差(分母)が小さいと、F値(シグナル÷ノイズ)は計算上、巨大になります。 その結果、「本当は大した差ではないのに、統計的には『有意差あり』と判定されてしまう」というミス(第一種の過誤)を犯します。

「実験では成功したのに、量産したらバラついてダメでした」 この失敗の原因の多くが、実は**「反復すべきところを、繰り返しで済ませてしまった」**ことにあるのです。

実務での使い分け:どっちを使えばいい?

では、常に「反復(Replication)」しなきゃいけないの?というと、そうではありません。目的によります。

1. 「繰り返し(Repetition)」を使うとき

  • 測定器の実力を知りたいとき: 製品は同じままで、測定器がどれくらいブレるか(Gage R&R)を知りたい場合。
  • 測定精度が悪すぎるとき: 測定器の値が信用できないので、その場で3回測って平均値を取り、それを「1つのデータ」として扱いたい場合。

2. 「反復(Replication)」を使うとき

  • 実験計画法(DOE)を実施するとき: 基本的にこちらです。条件を変えたことによる効果を知りたいなら、セッティング誤差や環境誤差を含んだ「真の実力」で比較しなければなりません。
  • ランダム化が必要なとき: 「時間の経過」によるドリフト(室温変化や工具摩耗)を相殺したい場合。

まとめ:手間を惜しまず「バラす」勇気を

実験現場では、「セッティングを変える(段取り替え)」のは非常に面倒です。 「温度を変えると安定するまで時間がかかるから、同じ温度で3回連続で測っちゃおうよ」と言いたくなる気持ちは痛いほど分かります。

しかし、そこで楽をして得られたデータは、「井の中の蛙」のデータです。

✅ 測定器のブレを見たいなら「繰り返し」
✅ プロセスの実力を見たいなら「反復」

実験計画法の目的が「量産で通用する条件を見つけること」ならば、面倒でも一度セッティングを崩し、時間を空けて(ランダム順序で)測定する「反復」を選んでください。

その「手間」こそが、データの信頼性を保証する担保になるのです。

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