- 指数分布の期待値 E[X] = 1/λ は覚えたけど、なぜこの式になるのかがわからない
- 分散 V[X] = 1/λ² の導出で「部分積分」が出てきて手が止まる
- 試験で P(X ≧ 1) の積分計算を聞かれたとき、手順に自信がない
- 「結局、公式を覚えるだけでいいの? 導出まで理解すべき?」と迷っている
- E[X] = 1/λ を部分積分で一歩ずつ導出する全手順
- V[X] = 1/λ² を同じテクニックで導出する全手順
- P(X ≧ a) = e−λa の積分計算を手を動かして完全マスター
- 試験本番で「秒で解く」ための3つのショートカット
指数分布の公式、こんな風に覚えていませんか?
「E[X] = 1/λ、V[X] = 1/λ²。はい、暗記!」
正直に言うと、丸暗記でも試験問題の6〜7割は解けます。「平均は?」と聞かれたら 1/λ と答えればいいだけですからね。
でも、こんな問題が出たらどうでしょう?
「確率密度関数 f(x) = λe−λx に従う確率変数Xについて、P(X ≧ 1) を求めよ。ただし、E[X] = 1.25 である。」
この問題を解くには、「E[X] = 1/λ = 1.25 だから λ = 0.80」と逆算し、そこから積分で P(X ≧ 1) = e−0.80 を導く必要があります。公式の「意味」を理解していないと、この逆算ステップが出てこないんです。
この記事では、指数分布の期待値と分散が「なぜその式になるのか」を、部分積分を1行ずつ追いかけて完全導出します。数学が苦手な方でも大丈夫。「なぜ部分積分を使うのか?」という動機の部分から丁寧に説明しますね。
指数分布の基本(確率密度関数の形、グラフのイメージ)は別記事で解説しています。「指数分布って何?」という方は、先にこちらを読んでから戻ってきてください。
目次
🔧 準備:指数分布の確率密度関数を確認する
まず、今回の主役である指数分布の確率密度関数を確認しましょう。
λ(ラムダ)はパラメータで、「1単位時間あたりに事象が起こる頻度」を表します。λが大きいほど「すぐ起こりやすい」、小さいほど「なかなか起こらない」というイメージです。
グラフの形は右肩下がりの曲線で、x = 0 のときに最も高く(f(0) = λ)、時間が経つにつれてゼロに近づいていきます。
🎯 この記事のゴール:3つの公式を「導出」する
この記事で導出するのは、以下の3つです。
| 番号 | 公式 | 意味 |
|---|---|---|
| ① | E[X] = 1/λ | 期待値(平均) |
| ② | V[X] = 1/λ² | 分散 |
| ③ | P(X ≧ a) = e−λa | a以上になる確率 |
①②は部分積分を使います。③は通常の積分だけでOKです。それでは順番に導出していきましょう。
📐 導出①:期待値 E[X] = 1/λ を証明する
まず「連続型の期待値」の定義を確認
連続型確率変数の期待値は、次の積分で定義されます。
離散型では「値 × 確率」の合計でしたよね。連続型はそれを積分に置き換えただけです。「x の値」×「その値をとる確率密度 f(x)」を、すべての範囲で足し合わせる(積分する)イメージです。
指数分布は x < 0 で f(x) = 0 なので、積分範囲は 0 から ∞ になります。
さて、この積分をどう計算するか? ここが最大のポイントです。
なぜ「部分積分」を使うのか?
「x · λe−λx」をじっと見てください。x(一次関数)と λe−λx(指数関数)の2つがかけ算されています。
こういう「2種類の関数のかけ算」を積分するとき、そのまま計算する方法はありません。そこで登場するのが部分積分というテクニックです。
部分積分は、「重い荷物を2人で持つ」ようなものです。
x(一次関数)= 力持ちだけど不器用な人(微分すると「1」になってシンプルになる)
e−λx(指数関数)= 器用だけど疲れやすい人(積分しても形が変わらない)
部分積分は「力持ちの人(x)に微分してもらって荷物を軽くし、器用な人(e−λx)に積分してもらう」作戦です。こうすると、次のステップの積分がずっと簡単になるんです。
部分積分の公式を確認
u を微分、v' を積分して、残りの積分を簡単にする
E[X] の導出:1行ずつ追いかける
それでは、実際に計算していきます。
【STEP 1】u と v' を決める
| 役割 | 選んだ関数 | 操作後 |
|---|---|---|
| u(微分する方) | x | u' = 1 |
| v'(積分する方) | λe−λx | v = −e−λx |
λe−λx を積分すると、なぜ −e−λx になるのか?
∫ λe−λx dx = λ × (−1/λ) × e−λx = −e−λx
e−λx の積分は (−1/λ)e−λx です。それに λ がかかっているので、λ と −1/λ が打ち消し合って −e−λx になります。
【STEP 2】部分積分の公式に当てはめる
E[X] = ∫0∞ x · λe−λx dx
= [x · (−e−λx)]0∞ − ∫0∞ 1 · (−e−λx) dx
↑ u·v の部分 ↑ 残りの積分
【STEP 3】第1項 [x · (−e−λx)]0∞ を計算する
x → ∞ のとき:x · (−e−λx) = −x / eλx
→ 分子の x は「ゆっくり増える」、分母の eλx は「爆速で増える」
→ よって 0 に収束(指数関数の圧勝!)
x = 0 のとき:0 · (−e0) = 0 · (−1) = 0
∴ 第1項 = 0 − 0 = 0
「xn × e−λx は x → ∞ で必ず 0 になる」。これは指数分布の計算で何度も使う事実です。どんなに x が大きくなっても、e−λx の「急激な減少」にはかなわない、ということです。
【STEP 4】第2項を計算する
− ∫0∞ (−e−λx) dx
= ∫0∞ e−λx dx
= [−(1/λ) e−λx]0∞
= (0) − (−1/λ)
= 1/λ
【結論】
λが大きい(頻繁に起こる)→ 平均待ち時間は短い
λが小さい(めったに起こらない)→ 平均待ち時間は長い
たとえば、1時間に平均2回故障する機械(λ = 2)なら、故障間隔の平均は E[X] = 1/2 = 0.5時間(30分)です。直感的にも納得できますよね。

📐 導出②:分散 V[X] = 1/λ² を証明する
分散の計算に使う「裏ワザ公式」
分散の定義は V[X] = E[(X − μ)²] ですが、これを直接計算すると非常に面倒です。そこで、次の公式を使います。
「二乗の期待値」から「期待値の二乗」を引く
E[X] = 1/λ はさっき求めました。あとは E[X²] を計算すれば分散が出せる、ということです。
E[X²] の導出:部分積分を「2回」使う
E[X²] の定義は次の通りです。
E[X²] = ∫0∞ x² · λe−λx dx
今度は x² と λe−λx のかけ算です。x² は微分すると 2x になり、もう1回微分すると 2 になります。つまり、部分積分を2回使えばxが消えるんです。
【STEP 1】1回目の部分積分
| 役割 | 選んだ関数 | 操作後 |
|---|---|---|
| u(微分する方) | x² | u' = 2x |
| v'(積分する方) | λe−λx | v = −e−λx |
E[X²] = ∫0∞ x² · λe−λx dx
= [x² · (−e−λx)]0∞ − ∫0∞ 2x · (−e−λx) dx
第1項:x² · (−e−λx) → x→∞ で 0、x=0 で 0 ∴ 第1項 = 0
= 0 + ∫0∞ 2x · e−λx dx
= 2 ∫0∞ x · e−λx dx …… ★
★の積分 ∫0∞ x · e−λx dx は、さっき E[X] を求めたときの積分(からλを外したもの)と同じ形です!
E[X] = ∫0∞ x · λe−λx dx = 1/λ
したがって ∫0∞ x · e−λx dx = 1/λ × (1/λ) = 1/λ²
(λが外にあった分だけ、1/λを余分にかける必要があります)
【STEP 2】E[X²] を確定させる
E[X²] = 2 × (1/λ²) = 2/λ²
【STEP 3】分散を求める
V[X] = E[X²] − {E[X]}²
= 2/λ² − (1/λ)²
= 2/λ² − 1/λ²
= 1/λ²
標準偏差は √(1/λ²) = 1/λ つまり「期待値と標準偏差が同じ」!
指数分布は E[X] = 1/λ、標準偏差 = 1/λ で、期待値と標準偏差が完全に一致します。これは他の分布にはない珍しい性質です。つまり「平均待ち時間」と「待ち時間のバラつき」が等しいということ。試験では「分散は期待値の二乗」と覚えておくと便利です。
📐 導出③:P(X ≧ a) = e−λa を証明する
最後に、試験で最もよく出る計算パターンを導出します。「確率変数Xが a 以上になる確率」を求める積分です。
「余事象」を使うのがコツ
P(X ≧ a) を直接積分してもいいのですが、余事象を使う方が楽です。
【STEP 1】∫0a λe−λx dx を計算する
∫0a λe−λx dx
= [−e−λx]0a
= (−e−λa) − (−e0)
= −e−λa + 1
= 1 − e−λa
これは「0 から a までの間に事象が起こる確率」です。
【STEP 2】余事象を使って P(X ≧ a) を出す
P(X ≧ a) = 1 − (1 − e−λa)
= e−λa
信頼性工学では「信頼度関数 R(t) = e−λt」と呼ばれる、超重要な公式
この公式は「部分積分すら不要」で、普通の積分だけで導けます。試験ではこの形がそのまま出ることが多いので、丸暗記してしまってもOKです。
🧮 例題で手を動かしてみよう
ここまでの3つの公式を使って、実際の問題を解いてみましょう。
例題:製品の起動時間に関する問題
ある製品の起動時間 X は、確率密度関数 f(x) = λe−λx(x ≧ 0)に従う確率分布をとる。起動時間の平均が 1.25 分であるとわかっているとき、以下を求めよ。
(1)パラメータ λ の値
(2)起動に1分以上かかる確率 P(X ≧ 1)
(1)λ を求める
指数分布の期待値の公式を書く:E[X] = 1/λ
「平均が1.25分」という条件を代入:1/λ = 1.25
両辺を逆数にする:λ = 1/1.25 = 0.80
試験では「平均が○○」と先に与えられ、λを自分で求める問題が非常に多いです。「平均の逆数がλ」とセットで覚えておきましょう。
(2)P(X ≧ 1) を求める
余事象を使う:P(X ≧ 1) = 1 − P(0 ≦ X < 1)
P(0 ≦ X < 1) を積分:1 − e−λ×1 = 1 − e−λ
代入して計算:P(X ≧ 1) = 1 − (1 − e−λ) = e−λ
ここに(1)で求めた λ = 0.80 を代入すれば、P(X ≧ 1) = e−0.80 ≈ 0.449(約45%)と数値が出ます。
選択式問題では「e−λ」のまま答えるケースと、数値を代入して「e−0.80」まで求めるケースの両方があります。問題文の指示をよく読みましょう。

⚡ 試験で「秒で解く」ための3つのショートカット
導出の過程を理解したうえで、試験本番では以下の3つを瞬時に使えるようにしておきましょう。
ショートカット一覧
| # | ショートカット | 使う場面 |
|---|---|---|
| ① | E[X] = 1/λ → λ = 1/E[X] | 平均が与えられてλを逆算する |
| ② | P(X ≧ a) = e−λa | 「○○以上の確率」を一発で出す |
| ③ | V[X] = {E[X]}² | 分散を期待値から即座に出す |
③が特に便利です。指数分布では「分散 = 期待値の二乗」が成り立つので、期待値さえ分かれば分散も自動的に決まります。
🗺️ 指数分布の公式を俯瞰する:全体マップ
最後に、この記事で導出した公式と、既存記事で学べる内容を1枚のマップにまとめます。
| カテゴリ | 公式 | 解説記事 |
|---|---|---|
| 確率密度関数 | f(x) = λe−λx | 指数分布とは? |
| 期待値 | E[X] = 1/λ | 📍 この記事 |
| 分散 | V[X] = 1/λ² | 📍 この記事 |
| a以上の確率 | P(X ≧ a) = e−λa | 📍 この記事 |
| 信頼度関数 | R(t) = e−λt | 指数分布とは? |
| 無記憶性 | P(T>s+t|T>s)=P(T>t) | 指数分布とは? |
| 故障率とMTBF | λ = 1/μ | 指数分布とは? |

📝 まとめ
- E[X] = 1/λ は、∫ x·λe−λx dx を部分積分1回で導出できる
- V[X] = 1/λ² は、E[X²] = 2/λ² を求めてから V = E[X²] − {E[X]}² で導出
- P(X ≧ a) = e−λa は、余事象と通常の積分だけで導出できる
- 部分積分の核心は「xを微分して消す」こと。e−λxは積分しても形が変わらない
- 指数分布は「期待値 = 標準偏差」という珍しい性質を持つ
- 試験では「平均の逆数がλ」→「P(X ≧ a) = e−λa」の流れが頻出
指数分布の期待値と分散は、「部分積分」さえ使えれば10行以内で導出できます。丸暗記に頼るのも悪くありませんが、一度自分の手で導出しておくと、試験で「あれ、1/λだっけ?1/λ²だっけ?」と迷ったときに自力で復元できます。
次は、指数分布と表裏一体の関係にある「ポアソン分布」を学ぶのがおすすめです。指数分布は「次に起きるまでの時間」、ポアソン分布は「ある期間内に起きる回数」を表す分布で、λが共通のパラメータとして登場します。
📚 次に読むべき記事
指数分布の基本概念・グラフの形・無記憶性・信頼度関数を解説。この記事の前提知識です。
指数分布と表裏一体の関係にある「回数」を扱う分布。λが同じパラメータとして登場します。
指数分布が実務でどう使われるか?MTBF・故障率・バスタブカーブを体系的に学べます。