現場の品質管理

FMEAとは?設計FMEAと工程FMEAの違い・作り方を様式例(テンプレート)つきで解説

FMEAとは何か。設計FMEAと工程FMEAの違い・作り方

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こんな経験はありませんか?
  • 上司に「この工程のFMEAやっといて」と言われたが、何から手をつけていいかわからない
  • Excelのテンプレートを埋めてはみたものの、「故障モード」がどうしても思いつかない
  • RPNの点数をつけたら「全部100以下だから問題なし」で終わってしまい、形骸化している
  • AIAG-VDA統合FMEAの「7ステップ」「AP(処置優先度)」が何のことかわからない
○ この記事でわかること
  • 工程FMEA(PFMEA)を作る7つのステップと、各ステップで「何を書くか」の具体例
  • 影響度(S)・発生度(O)・検出度(D)の評価基準表(10段階)
  • RPN計算の具体例(「溶接工程の溶け込み不足」を題材に)
  • 従来のRPNと、最新のAP(処置優先度)の違いと使い分け
  • FMEAが「形だけ」になる3つの原因と、その対策

「FMEAをやってください」と言われたとき、品質管理の教科書的な定義はなんとなくわかっていても、いざExcelを前にすると手が止まる──そんな経験はありませんか。

特に工程FMEA(PFMEA)は、設計FMEAと違って「製造ラインで起こりうる不具合」をすべて洗い出す必要があるため、現場経験が浅いほど何を書けばいいか悩みます。結果として、前任者のExcelをコピペして点数をなんとなく埋めるだけの「儀式」になりがちです。

この記事では、「溶接工程で溶け込み不足が発生する」という製造業の具体例を1つ取り上げ、FMEAシートの左端から右端まで一気通貫で埋める全手順を解説します。数値の入れ方、RPNの計算例、最新のAP(処置優先度)との違いまで、この1記事で工程FMEAの実務がわかる構成にしました。

FMEAの記事(全4本)
  1. FMEAとは(設計と工程)(この記事)
  2. 設計FMEA(DFMEA)
  3. AIAG-VDA FMEA
  4. FTA(FMEAとの違い)
結論|まず30秒でわかる答え

FMEAは、起こりうる故障モードを事前に洗い出し、影響度(S)・発生度(O)・検出度(D)を評価して、対策の優先順位を決める手法です。製品の設計段階で故障を扱うのが設計FMEA、製造工程の不具合を扱うのが工程FMEAです。従来はRPN=S×O×Dで優先度を決めてきましたが、影響度の高い項目を見落とさないよう、AP(処置優先度)が導入されています。

知りたいことから読む
  • FMEAのやり方:計画→構造→機能→故障→リスク→対策→文書化の7ステップ(7ステップへ)
  • FMEAの様式(Excelのテンプレート):左から「工程→故障モード→影響→S→原因→O→管理→D→RPN/AP→処置」の順(列の一覧と記入例へ)
  • 設計FMEAと工程FMEAの違い:設計は製品の故障、工程は作り方の不具合を扱う(違いの表へ)
  • RPNとAPの違い:RPNは掛け算の点数、APは影響度を先に見る高・中・低の判定(RPNの限界へ)

FMEAとは?|30秒でわかる答えと「DFMEA/PFMEA」の違い

「作り方の前に、まずFMEAが何なのかを一言で知りたい」──そんな方のために、ここだけ読めば全体像がつかめる要約を用意しました。30秒で読めるので、まずはここを押さえてから7ステップに進んでください。

FMEAとは?(一言で言うと)

FMEA(Failure Mode and Effects Analysis/故障モード影響解析)とは、
「起こりうる故障を先に洗い出し、点数化して対策の優先順位をつける手法」です。

つまり、問題が起きてから直すのではなく、起きる前に「どこから潰すか」を決める地図。点数は「影響度(S)× 発生度(O)× 検出度(D)= RPN」で計算します。

① 洗い出す
どう壊れるか(故障モード)を全部並べる
② 点数化する
S・O・Dを各10段階で評価しRPNを算出
③ 順番を決める
点数が高い順に、先手で対策を打つ

設計FMEA(DFMEA)と工程FMEA(PFMEA)の違い

FMEAには大きく2種類あります。「モノの設計を疑う」のがDFMEA、「作り方を疑う」のがPFMEAです。まずは表で棲み分けを確認してください。

比較項目 設計FMEA
DFMEA(Design FMEA)
工程FMEA
PFMEA(Process FMEA)
何を疑う? 製品の設計(部品・構造・材料) 製品の作り方(工程・設備・作業)
問いかけ 「この部品はどう壊れる?」 「この工程はどう失敗する?」
故障モードの例 はんだ部が熱で劣化 → 導通不良 溶接電流の設定ミス → 溶け込み不足
主担当 設計部門 生産技術・品質管理部門
作るタイミング 先(図面が固まる前) 後(工程フローが決まってから)
つながる文書 設計検証計画(DVP&R) コントロールプラン/QC工程表

この記事で扱うのは工程FMEA(PFMEA)です。「製造現場でどんな作業ミス・設備トラブルが起きうるか」を洗い出し、不良が顧客に届く前に潰すための手法です。QC工程表が「管理項目の一覧」なのに対し、PFMEAは「なぜその項目を管理するのか(リスクの根拠)」を記録する、補完関係にある文書です。

DFMEAを作る人はこちら
【完全図解】設計FMEAの作り方|工程FMEAとの違いと設計段階でリスクを潰す手順

設計段階の故障モードの立て方、DVP&Rへのつなぎ方まで解説。「PFMEAではなくDFMEAを頼まれた」方はまずこちらへ。

設計FMEAの作り方を見る →

FMEAとFTAの違い|「積み上げ」か「掘り下げ」か

FMEAとよく混同されるのがFTA(故障の木解析)です。違いはたった一つ、考える方向が逆なだけです。

FMEA
ボトムアップ
部品・工程という「下」から出発し、「これが壊れたら何が起きる?」と積み上げる。
網羅的に漏れなく洗い出すのが得意。
FTA
トップダウン
「火災発生」など最悪の結果という「上」から出発し、「なぜ?」で掘り下げる。
原因の組み合わせ分析が得意。

実務での使い分け
まずFMEAで全工程の故障モードを網羅し、RPNやAPが高かった重大リスクだけをFTAで深掘りする。この二段構えが、限られた工数で最も効きます。

FTA側から理解を深める
FTA(故障の木解析)とは?|AND/ORゲートとミニマルカットセットの求め方

論理ゲートの書き方から、システムの弱点(シングルポイント)を見つけるミニマルカットセットの計算まで図解しています。

FTAとの違いを詳しく見る →
設計FMEAと工程FMEAの図。設計FMEAは図面の段階で部品の故障を、工程FMEAは製造ラインで工程の不具合を事前に洗い出す
設計FMEAは図面、工程FMEAは製造ラインを対象にする
おすすめの本

FMEAを、APQPやコントロールプランなどほかのコアツールとのつながりの中で理解したいときに向いています。IATF 16949のコアツール(APQP・コントロールプラン・PPAP・FMEA・SPC・MSA)を、図解で解説した本です。第4版は、APQP参照マニュアル第3版とコントロールプラン参照マニュアル第1版に対応しています(日科技連出版社、岩波好夫 著)。

FMEA で故障の原因を考えるときに、原因を深掘りする手法として「なぜなぜ分析」もよく使われます。

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工程FMEAの作り方|7ステップの全体像

AIAG-VDA統合FMEAハンドブック(2019年版)では、FMEAを7つのステップで進めることが推奨されています。従来の「いきなりExcelに故障モードを書く」やり方と比べて、最初の3ステップ(構造→機能→故障の解析)が追加されているのが最大の変更点です。

このステップを踏むことで、「故障モードの洗い出しが甘い」「抜け漏れがある」という形骸化の最大の原因を防ぐことができます。

STEP 1 計画と準備

FMEAの対象範囲(どの工程を解析するか)とチームメンバーを決める。

STEP 2 構造解析

工程を「システム → サブシステム → 要素」に分解する。プロセスフロー図を作成。

STEP 3 機能解析

各工程要素に「機能」と「要求仕様」を割り当てる。「この工程は何をすべきか?」を明文化。

STEP 4 故障解析

機能が果たされない場合の「故障モード」「故障影響」「故障原因」を洗い出す。

STEP 5 リスク解析

影響度(S)・発生度(O)・検出度(D)を評価し、RPN or AP(処置優先度)を算出する。

STEP 6 最適化

リスクが高い項目に対して改善策を立案し、実施後に再評価する。

STEP 7 結果の文書化

FMEAシートを完成させ、関連部門に共有。「生きた文書」として定期更新する仕組みを作る。

ポイント
STEP 2~4(構造→機能→故障解析)は、従来のFMEA第4版にはなかった「新しい前工程」です。この3ステップをスキップすると、結局「思いつきで故障モードを並べる」状態に戻ります。面倒に感じても、ここを丁寧にやることがFMEAを「形だけ」にしない最大のコツです。

では、ここから各ステップを「溶接工程」を題材にした具体例つきで順番に解説していきます。

工程FMEAの7ステップの全体像の図。準備(チーム会議・システム分解・機能図)、解析(故障モード・リスク評価)、改善(改善アクション・文書化)
工程FMEAの7ステップ:準備・解析・改善

FMEAの様式|Excelテンプレートの列と記入例

FMEAの様式(フォーマット)は、左から「どの工程で→何が起きて→どれだけ重くて→なぜ起きて→今どう防いで→何点で→次に何をするか」の順に列が並ぶ1枚の表です。下の14列を Excel の1行目に写せば、そのままテンプレートとして使えます。記入例は、この記事で使う「溶接工程の溶け込み不足」です。

列見出し書くこと記入例(溶け込み不足)
1工程番号・工程名どの工程の話かST30 本溶接
2工程の機能・要求その工程が果たすべきこと(例)母材を決めた溶け込み深さで接合する
3故障モードどういう状態になるか溶け込み不足
4故障の影響お客さま・次工程で何が起きるか接合強度不足 → 走行中の部品脱落
5影響度 S影響の重さ(1〜10)9
6故障の原因なぜその状態になるか溶接電流の設定ミス
7現行の予防管理原因を起こさないための今の管理(例)溶接条件の設定票と段取り時の確認
8発生度 O原因の起こりやすさ(1〜10)4
9現行の検出管理起きたときに見つける今の管理溶接後の電流・電圧のモニタリング(SPC)
10検出度 D見つけにくさ(1〜10)5
11RPNS×O×D(従来の様式)9×4×5=180
12AP(処置優先度)S・O・D の組み合わせで高・中・低(AIAG-VDA の様式)ハンドブックの表で引く
13推奨処置・責任者・期日次に何を、だれが、いつまでにSTEP 6 の改善策を書く
14処置の結果と再評価処置のあとの S・O・DSTEP 7 で書き直す

Excel で作るときの注意は3つです。S・O・D の列は入力規則で1〜10の整数だけにする、RPN の列は手で打たずに S×O×D の式にする、予防管理と検出管理は1つのマスにまとめず、管理がないときも空欄にせず「なし」と書く。空欄は「まだ考えていない」のか「管理がない」のかを後から見分けられないためです。空欄は残さない。

従来の様式と AIAG-VDA の様式の違いは、①左側に構造解析・機能解析の列が増える、②予防管理と検出管理を別の列に分ける、③優先順位を RPN ではなく AP(高・中・低)で決める、の3点です。お客さまから様式を指定されている場合は、その様式が優先です。迷ったら、お客さまの様式に合わせます。

STEP 1~3:「何を解析するか」を決める前工程

STEP 1:計画と準備|「どこを・誰と・いつまでに」を決める

FMEAは一人で黙々と作るものではありません。最低でも以下の3つを決めてからスタートします。

決めること 具体例(溶接工程の場合)
対象範囲 「サブフレームの溶接工程」(前工程のプレス、後工程の塗装は除外)
チーム編成 生産技術(リーダー)、品質管理、製造現場、設計、保全 → 3〜7名が理想
スケジュール STEP 2~4を2時間×3回、STEP 5~7を2時間×2回(計約10時間)
現場の声
「FMEAは一人でExcel埋める仕事でしょ?」と思われがちですが、それが形骸化の第一歩です。最低限「設計」「品管」「製造」の3者がテーブルにつかないと、故障モードの洗い出しに抜け漏れが発生します。

STEP 2:構造解析|工程を「ツリー構造」で分解する

対象工程を「大きなかたまり」から「小さな作業要素」まで3階層で分解します。これにより、後のSTEP 4で故障モードを洗い出す「粒度」が揃います。

溶接工程の構造解析の例

階層 名称 具体例
レベル1(システム) 溶接工程全体 サブフレーム溶接ライン
レベル2(サブシステム) 工程ステーション ST10:部品セット → ST20:仮付け → ST30:本溶接 → ST40:外観検査
レベル3(要素) 4M+1E ST30の場合:Man(作業者のスキル)、Machine(溶接ロボット)、Material(ワイヤー・シールドガス)、Method(溶接条件)、Measurement(電流・電圧モニタ)

STEP 3:機能解析|「この工程は何をすべきか」を言語化する

構造解析で分解した各要素に対して、「その工程が果たすべき機能」と「要求仕様(合格基準)」を書き出します。ここを曖昧にすると、次のSTEP 4で「故障モード」が出てきません。なぜなら、故障モードとは「機能が果たされない状態」のことだからです。

工程要素 機能 要求仕様
ST30:本溶接 2つの鋼板を所定の強度で接合する 溶け込み深さ ≥ 3mm、ビード幅 5±1mm、外観欠陥なし
溶接ロボット(Machine) 設定条件どおりに溶接トーチを移動し、通電する 電流200±10A、電圧22±1V、速度30cm/min
シールドガス(Material) 溶接部を大気から遮断し、酸化を防ぐ CO₂流量 20±2 L/min
ポイント
「機能」を書くコツは、「〇〇を△△する」という動詞形で書くこと。「溶接する」だけでは曖昧すぎます。「所定の強度で接合する」と書けば、「強度が足りない」という故障モードが自然と導き出されます。
FMEAのSTEP1〜3の図。チーム編成、溶接機を電源ユニット・ワイヤー送給・制御装置に分けるシステム分解、アーク生成・溶融接合・材料供給の機能と、安定した電流・十分な溶込み・一定の速度の要求事項を整理する機能展開
STEP1〜3:チーム編成・システム分解・機能展開

STEP 4:故障解析|「何がどう失敗するか」を3つのセットで書き出す

FMEAの核心部分です。STEP 3で定義した「機能」に対して、それが果たされない場合の①故障モード、②故障影響(顧客への影響)、③故障原因(なぜ起きるか)を3点セットで書き出します。

故障モード・影響・原因の3点セットとは?

故障モード
「どう失敗するか」
溶け込み不足
→
故障影響
「顧客にどう困る?」
走行中に部品脱落
→
故障原因
「なぜ起きる?」
溶接電流の設定ミス

具体例:溶接工程(ST30:本溶接)の故障解析

1つの工程に対して、故障モードは複数出てきます。「溶け込み不足」だけでなく、「スパッタ過多」「ビード蛇行」「ブローホール」など、起こりうるすべてを列挙するのがポイントです。以下は代表的な3パターンを示した例です。

故障モード 故障影響(顧客視点) 故障原因
溶け込み不足 接合強度不足 → 走行中に部品脱落の可能性(安全に影響) ①溶接電流の設定ミス
②ワイヤー送給速度の異常
③ガス流量不足による酸化
スパッタ過多 外観不良 → 顧客からのクレーム(外観品質低下) ①電圧が高すぎる
②シールドガスの種類が不適切
ビード蛇行 溶接品質のばらつき → 疲労強度低下の恐れ ①ロボットのティーチング精度不良
②治具のクランプ力不足
よくあるミス
「故障モード」と「故障原因」を混同しがちです。故障モードは「どういう状態になるか」(溶け込み不足)、故障原因は「なぜその状態になるか」(電流の設定ミス)です。「電流の設定ミス」を故障モード欄に書いてしまうのは典型的な間違いです。
故障解析の流れの図。故障モード(溶接の割れ)から故障影響(車への影響)、故障原因(設備の不具合)へとつなげる
故障モード→故障影響→故障原因

STEP 5:リスク解析|影響度(S)・発生度(O)・検出度(D)の評価基準

いよいよ点数をつけるステップです。故障モードごとに以下の3つの指標を1~10の10段階で評価します。数字が大きいほどリスクが高いことを意味します。

① 影響度(Severity:S)の評価基準

「もしその故障が起きたら、顧客にどれだけ影響があるか」を評価します。安全に関わる場合は最高ランクの9~10、外観のみの問題なら2~3というイメージです。

ランク 影響の程度 判断基準(工程FMEAの場合)
10 安全問題(警告なし) 法規制に違反。予告なく使用者の安全を脅かす
9 安全問題(警告あり) 法規制に違反の可能性。事前に警告があるが使用者に危険
8 主機能喪失 製品が使用不能になる。100%不良として返品
7 主機能低下 製品の主要性能が著しく低下。大半の顧客が不満
6 副機能喪失 副次機能が使用不能。顧客は不便を感じる
5 副機能低下 副次機能の性能低下。半数以上の顧客が不満を感じる
4 外観・異音(中程度) 大半の顧客(75%超)が気づく不具合
3 外観・異音(軽微) 半数の顧客(50%程度)が気づく不具合
2 ほとんど影響なし 注意深い顧客だけが気づく微小な不具合
1 影響なし 顧客に影響がないレベル

② 発生度(Occurrence:O)の評価基準

「その故障原因がどれくらいの頻度で発生するか」を評価します。過去の不良データや工程能力指数(Cpk)がある場合はそれを根拠にします。

ランク 発生の程度 判断基準の目安
10 極めて高い 2個に1個以上(≥ 50%)。管理不能
8〜9 高い 20個に1個程度(Cpk < 0.67)
6〜7 やや高い 100個に1個程度(Cpk ≈ 0.83〜1.00)
4〜5 中程度 2,000個に1個程度(Cpk ≈ 1.00〜1.17)
2〜3 低い 15万個に1個程度(Cpk ≈ 1.33〜1.50)
1 極めて低い 100万個に1個以下(Cpk ≥ 1.67)。ほぼゼロ
関連記事
【QC検定】工程能力指数とは?Cp・Cpkの違いと計算式を例題で図解|判定の目安つき →

発生度の根拠となるCpk値の計算方法はこちらで詳しく解説しています

③ 検出度(Detection:D)の評価基準

「その故障が発生したとき、出荷前に発見できる確率はどれくらいか」を評価します。注意点として、数字が大きいほど「見つけにくい」です。つまり、検出が難しい=リスクが高い、という評価になります。

ランク 検出の程度 判断基準
10 検出ほぼ不可能 検出手段なし。不良品がそのまま出荷される
8〜9 検出困難 目視検査のみ。検出率が低い
6〜7 検出しにくい 抜取検査や手動での計測。見逃す可能性あり
4〜5 中程度の検出力 統計的管理(SPC)で異常を検知。ただし100%ではない
2〜3 検出しやすい 自動検査機で全数検査。高い検出率
1 確実に検出 ポカヨケにより故障そのものが発生不可能な構造
影響度S・発生度O・検出度Dの評価基準の図。それぞれ1〜10点で、影響度は軽微から重大、発生度はまれから頻繁、検出度は容易から困難
影響度S・発生度O・検出度Dを1〜10点で評価

RPN計算の具体例|「溶け込み不足」のリスクを数値化する

ここまでの情報を使って、実際にRPN(Risk Priority Number:リスク優先度数)を計算してみましょう。RPNは3つの評価値を掛け合わせるだけです。

RPNの計算式
RPN = 影響度(S)× 発生度(O)× 検出度(D)
最小値:1×1×1 = 1、最大値:10×10×10 = 1,000

計算例:故障モード「溶け込み不足」(原因:溶接電流の設定ミス)

評価項目 評価ランク 根拠
影響度(S) 9 溶け込み不足 → 接合強度不足 → 走行中の部品脱落(安全に関わる)
発生度(O) 4 過去1年で同種不良が3件/10万個。Cpk ≈ 1.10。「中程度」と判定
検出度(D) 5 溶接後に電流・電圧のモニタリング(SPC)で管理しているが、全数の非破壊検査は未実施
RPN = 9 × 4 × 5 = 180

一般にRPN ≥ 100〜125は「要対策」とされることが多い → 改善が必要

同じ工程の他の故障モードもまとめてRPN算出

故障モード 故障原因 S O D RPN 優先度
溶け込み不足 溶接電流の設定ミス 9 4 5 180
スパッタ過多 電圧が高すぎる 3 5 3 45
ビード蛇行 ロボットのティーチング不良 7 3 6 126

このように、RPN値が高い順に並べることで、「まず何から手を打つべきか」の優先順位が一目瞭然になります。溶け込み不足(RPN=180)が最優先で対策すべきリスクだとわかりました。

AIAG-VDA FMEAとは?7ステップと旧FMEAとの違い、AP(処置優先度)を図解
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AIAG-VDA FMEAの7ステップとAPへの変更点

RPNの計算例の図。溶け込み不足のリスクをS=9×O=4×D=5=180のRPNで数値化する
RPN=S×O×D=180の計算例

RPNの限界と、最新のAP(処置優先度)との違い

RPNは「掛け算の結果」だけで優先順位を決めるため、実は重大な弱点があります。以下の2つの故障モードを比べてください。

故障モード S O D RPN
A:安全に関わる不良(検出しやすい) 10 3 2 60
B:外観不良(検出しにくい) 3 4 8 96

RPNだけで見ると、B(外観不良)のほうが96で高いため優先対策になります。しかし、A(安全に関わる不良)は影響度10で、人命に関わるのに、RPNが低いだけで後回しにされてしまう──これがRPNの最大の問題です。

AP(Action Priority:処置優先度)とは?

2019年のAIAG-VDA統合FMEAハンドブックでは、この問題を解決するためにRPNに代わるAP(Action Priority:処置優先度)が導入されました。APは、S・O・Dの値を個別に精査した上で、H(高)・M(中)・L(低)の3段階で判定します。

H
High(高)
必ず対策が必要
M
Medium(中)
対策を検討すべき
L
Low(低)
現状の管理で可

APの判定では、影響度(S)が最も重視されます。先ほどの例では、故障モードA(S=10)は単純な掛け算ではなく「安全に関わる重大な影響がある」という事実がAPの判定に直接反映されるため、H(高)と判定されます。

比較項目 RPN(従来方式) AP(AIAG-VDA方式)
計算方法 S × O × D(1〜1,000) S・O・Dの組み合わせ表から H/M/L を判定
弱点 S=10でもO・Dが低ければRPNが低くなり、安全リスクを見逃す 判定基準表がやや複雑。チーム内での認識合わせが必要
推奨される場面 社内で長年使われている場合はそのまま運用可 自動車業界のOEM向け、新規にFMEAを構築する場合
実務のアドバイス
「RPNとAPのどちらを使うべきか」は、取引先(OEM)の要求仕様や社内ルールに従うのが現実的です。ただし、RPNを使い続ける場合でも、「S=9〜10の故障モードはRPNに関係なく必ず対策する」というルールを追加するだけで、RPNの弱点をかなりカバーできます。
RPNとAP(アクション優先度)の比較図。RPN法は数値が大きいリスクが優先されて重大な安全問題が見過ごされることがあり、AP法では安全上重要な項目は自動的にH(高)と判定される
RPN法の落とし穴とAP法の優先順位

STEP 6~7:改善策の立案と再評価、そして「生きた文書」にする

STEP 6:最適化|RPNが高い項目の改善策を立案する

RPNが高い(またはAPがH/M)と判定された故障モードに対して、S・O・Dのどれを下げるかを検討します。改善策を実施した後に再度S・O・Dを評価し、RPNが目標値以下になったかを確認します。

先ほどの「溶け込み不足(RPN=180)」に対する改善策の例を見てみましょう。

改善の方向 具体策 狙い 改善後の値
O(発生度)を下げる 溶接条件をPLCにプリセット。作業者による手動設定を廃止 設定ミスの根本原因を断つ O:4 → 2
D(検出度)を下げる 超音波探傷検査(UT)を全数に適用。溶け込み不足を100%検出する体制に 万が一発生しても流出を防ぐ D:5 → 2
改善前
RPN = 9 × 4 × 5 = 180

改善後
RPN = 9 × 2 × 2 = 36

180 → 36 に改善。RPN < 100 をクリア

注意
影響度(S)は設計変更をしない限り基本的に下がりません。「溶け込み不足で部品が脱落するリスク」は、溶接という接合方法を変えない限り存在し続けます。そのため、改善策はO(発生度を下げる=発生させない)またはD(検出度を下げる=見逃さない)にフォーカスするのが基本です。

STEP 7:結果の文書化|FMEAを「生きた文書」にする

FMEAシートは「一度作ったら終わり」ではなく、以下のタイミングで更新する「生きた文書(Living Document)」です。

更新タイミング 具体例
設計変更が入ったとき 材料がSPCCからGA材に変わった → 溶接条件が変わる → 故障モードの再洗い出し
市場クレームが発生したとき 想定していなかった故障モードが市場で発見された → FMEAに追記
定期レビュー(年1回など) 改善策の効果確認。O・D値の再評価を行い、RPNの変化を記録

FMEAとFTAの違い

FMEAとよく比較される手法にFTA(故障の木解析)があります。両者の違いを理解しておきましょう。

項目 FMEA FTA
アプローチ ボトムアップ
(部品→システム)
トップダウン
(故障→原因)
出発点 各部品の故障モード トップ事象(最悪の結果)
特徴 網羅的に故障を洗い出す 原因の組み合わせを分析
出力 RPN(数値) 故障の木(図)

FMEAは「部品から積み上げて」故障を予測し、FTAは「最悪の結果から遡って」原因を探ります。両者を組み合わせて使うことで、より効果的なリスク分析ができます。

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FTAの詳細な解説はこちらの記事で行っています。FMEAと合わせて理解しておきましょう。
FMEAの改善とリビングドキュメントの図。PLCプリセットとUT検査100%実行でRPN=180がRPN=36に下がり、FMEAは継続的な改善で更新し続けるリビングドキュメント
対策でRPN180→36、FMEAは更新し続ける

FMEAが「形だけ」になる3つの原因と対策

ここまで7ステップを解説しましたが、現場でFMEAが形骸化する原因は手順の難しさではなく、運用面の問題であることがほとんどです。ここでは、よくある3つの失敗パターンとその対策を紹介します。

失敗パターン①:「一人で黙々とExcelを埋める」

FMEAは本来、複数部門のメンバーが集まって議論する「チーム作業」です。一人で書くと、自分の専門外の故障モードを見落とします。設計者は工程のトラブルを知らないし、製造は設計意図を知らない。だからこそ、3〜7名のクロスファンクショナルチームが不可欠です。

対策:最低でも「設計」「品管」「製造」の3者がテーブルにつく。1回2時間のワークショップ形式で進める。

失敗パターン②:「前任者のExcelをコピペして点数を変えるだけ」

新製品の工程FMEAを作るとき、前任者が書いた旧製品のFMEAをそのまま流用し、数値だけ微調整する──これが形骸化の典型例です。新製品には新しい工程・新しい設備・新しい材料が入っているはずなのに、故障モードが旧製品と同じになるのはおかしいのです。

対策:STEP 2(構造解析)からやり直す。特に「旧製品からの変更点」をリストアップし、変更点に紐づく新しい故障モードを必ず追加する。

失敗パターン③:「作っただけで更新しない」

量産開始前にFMEAを作成し、その後一度も更新しない。市場でクレームが発生しても、FMEAにはその故障モードが記載されていない──これでは「過去の反省が蓄積されない」状態です。

対策:STEP 7で述べたとおり、設計変更・クレーム発生・年次レビューのタイミングで必ず更新する仕組みを作る。FMEAの改訂履歴を残し、「いつ・誰が・何を変えたか」をトレースできるようにする。

現場の声
FMEAは「監査のために作る書類」ではなく、「未然防止のための武器」です。面倒くさいのは事実ですが、市場クレームが1件出たときの対策コスト(数百万〜数千万円)を考えると、FMEAに10時間投資するのは圧倒的にコスパが良い。「攻めの品質管理」の第一歩だと考えてください。
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FMEAとセットで使われるFTAの手法はこちらで解説しています

FMEAの落とし穴の図。一人で埋めるのではなくチームで検討する、コピペ流用せずその都度分析する、作って更新しないのではなく定期的に更新する
FMEAの落とし穴3つ:一人・コピペ・更新しない

FMEAのよくある質問|現場で必ず聞かれる3つ

最後に、FMEAを実際に回し始めると必ずぶつかる疑問に答えておきます。「上司に聞かれて答えられなかった」となりがちなポイントです。

Q1. RPNはいくつなら対策が必要?

A. 一般的な目安は「RPN ≧ 100〜125で要対策」。ただし絶対的なしきい値は存在しません。

RPN ≧ 100 要対策。優先的に改善を実施する
50 ≦ RPN < 100 要注意。対策を検討し、記録を残す
○ RPN < 50 許容範囲。現状の管理を維持

大切なのは、この数字を社内で明文化して統一しておくことです。「なんとなく100」で運用すると、部署ごとに判断がブレて形骸化します。

ただし、しきい値だけで判断するのは危険です。影響度 S=9〜10(安全・法規制に関わる)の故障モードは、O・Dが低くてRPNが小さくなってもRPNに関係なく必ず対策するというルールを併用してください。これがRPN最大の弱点をカバーする最短ルートです。

Q2. DFMEAとPFMEA、どちらを先に作る?

A. 原則、DFMEA(設計FMEA)が先です。理由は、DFMEAのアウトプットがPFMEAのインプットになるからです。

DFMEA(設計のリスクを潰す)
↓
特殊特性・重要保安部品が確定
↓
PFMEA(その特性を作り込む工程のリスクを潰す)
↓
コントロールプラン(管理方法として落とし込む)

設計で「この寸法は安全に直結する」と決まって初めて、工程側は「その寸法をどう保証するか」を検討できます。順番を逆にすると、PFMEAで守るべき対象がわからないまま点数を埋めることになります。
なお、設計責任を負わない受託製造(図面支給)の場合はPFMEAのみ作成するのが通常です。その場合は顧客から提供されたDFMEA情報や特殊特性記号を必ず入力にしてください。

Q3. IATF 16949ではFMEAは必須?

A. はい、必須です。IATF 16949では、製品設計・工程設計のアウトプットとしてFMEAの実施が要求されており(設計は8.3.5.1、製造工程設計は8.3.5.2が該当)、APQP/PPAPの提出書類としても位置づけられています。

  • PFMEAは、量産を行う組織であれば実質必須。作っていなければ審査で不適合になります。
  • DFMEAは、製品設計責任を持つ組織に要求されます(図面支給のみの場合は対象外)。
  • コントロールプランとの整合が必ず見られます。PFMEAで挙げた対策が、コントロールプランの管理方法に反映されているかがチェックポイントです。

また、AIAG-VDA統合FMEAハンドブック(2019年版)への対応を求めるOEMも増えています。どの版・どの様式を使うかは顧客固有要求事項(CSR)で指定されるため、必ず取引先の要求を確認してください。※条番号や要求の詳細は必ず規格本文・最新版でご確認ください。

FMEAの「次の工程」もセットで押さえる

FMEAは単体では完結しません。「対策を管理方法に落とす」=コントロールプラン、「起きてしまった不良の原因を掘る」=なぜなぜ分析。この2つとセットで運用して初めて武器になります。

PFMEAの出口はここにつながる
コントロールプランとQC工程表の違い|IATFで求められる書き方と記載項目を徹底解説

PFMEAで決めた対策を「誰が・何を・どの頻度で管理するか」に翻訳する文書です。審査で必ず整合性を見られるペアなので、あわせて読んでおくと安心です。

コントロールプランの書き方を見る →
故障原因が「作業者のミス」で止まる人へ
なぜなぜ分析が「人のせい」で終わる理由と対策|製造業5事例で修正法を完全図解

FMEAのSTEP 4で故障原因が浅くなる最大の理由は、なぜなぜ分析が「注意不足」で止まるからです。原因を仕組みまで掘り下げる型を身につけてください。

なぜなぜ分析の正しい掘り方 →

まとめ|FMEAは「形だけ」ではなく「武器」にできる

この記事では、工程FMEA(PFMEA)の作り方を7つのステップに沿って解説しました。最後に要点を振り返ります。

この記事の要点
  • STEP 1〜3(計画・構造・機能解析)を丁寧にやることが、故障モードの洗い出し精度を決める
  • STEP 4(故障解析)では「故障モード」「故障影響」「故障原因」を3点セットで書く。故障モードと原因を混同しない
  • STEP 5(リスク解析)では影響度(S)・発生度(O)・検出度(D)を10段階で評価し、RPN = S × O × D で計算
  • RPNの弱点(影響度が高くてもRPNが低くなる)を補うために、AP(処置優先度)が導入されている
  • RPNを使い続ける場合でも、「S≥9は問答無用で対策」というルールを追加する
  • FMEAは「生きた文書」。作って終わりではなく、設計変更・クレーム・年次レビューで必ず更新する

FMEAは「やらされている」と感じた瞬間に形骸化します。しかし、本来は「自分たちの工程で起こりうるリスクを見える化し、先手を打つ」ための強力な武器です。この記事が、あなたの現場でFMEAを「生きた活動」に変えるきっかけになれば幸いです。

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シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

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