機械科目の解説

同期発電機の等価回路とベクトル図|無負荷誘導起電力E₀の求め方

😣 こんな経験はありませんか?
  • 「同期インピーダンス」「無負荷誘導起電力」──漢字だらけで読む気が失せる
  • ベクトル図を見た瞬間「矢印が何本も出ていて意味不明」と投げ出した
  • 過去問で「E₀を求めよ」と出たが、等価回路からどう立式すればいいかわからない
✅ この記事でわかること
  • 同期発電機の等価回路が「電池+抵抗」と同じだと腹落ちする
  • ベクトル図の描き方を5ステップで完全マスター
  • V と E₀ の位置関係を「腕の角度」のたとえで直感的に理解
  • 実際の数値を入れた計算例で手を動かして定着

ベクトル図は、機械科目の中で最も「苦手」と感じる人が多いテーマです。

でも、安心してください。同期発電機の等価回路は、中学理科で習った「電池+抵抗の直列回路」と本質的に同じです。そこにベクトル(矢印)の概念を足すだけ。

この記事では、「ベクトル図って何?」という状態の方でも理解できるように、たとえ話と5ステップの手順で丁寧に解説します。

📘 前回の記事(同期機シリーズ第1回)
同期機の構造と原理|回転界磁形はなぜ主流なのか? →

等価回路は「電池+抵抗」と同じ構造

まず、同期発電機の等価回路を中学理科の回路と対比させて理解しましょう。

🔋

中学理科の回路

┌── 抵抗 R ──┐
電池 E             端子電圧 V
└─────────────┘
E = V + RI

同期発電機の等価回路

┌── jXs ──┐
E₀              端子電圧 V
└─────────────┘
E₀ = V + jXsI

お気づきですか? 構造はまったく同じです。違いはたった2つ。

中学理科の回路 同期発電機 何が変わった?
電池 E E₀(無負荷誘導起電力) 回転する磁石が生む交流電圧。直流機の「E」の交流版。
抵抗 R jXs(同期リアクタンス) コイルのインピーダンス。「j」は電流を90°遅らせる効果。抵抗 ra は小さいので無視する場合が多い。
💡 ポイント
同期発電機の等価回路の本質は「E₀ という交流電池から、jXs という"交流専用の抵抗"を通して、端子電圧 V を取り出す」──これだけです。中学理科の「E = V + RI」が「E₀ = V + jXsI」に変わっただけ。怖がる必要はありません。

各記号の意味を整理する

等価回路に登場する記号を一覧表で整理します。ベクトル図を描くとき「この記号なんだっけ?」となったら、ここに戻ってきてください。

記号 名前 単位 意味(たとえ付き)
E₀ 無負荷誘導起電力 V 負荷をつなぐ前に発電機が作り出す電圧。「電池の起電力」に相当。界磁電流 If を変えると E₀ が変わる。
V 端子電圧 V 負荷に実際に供給される電圧。「電池の端子電圧」に相当。E₀ より必ず小さい(電圧降下があるため)。
I 電機子電流(負荷電流) A 回路を流れる電流。交流なので大きさと位相角の2つの情報を持つ。
Xs 同期リアクタンス Ω 「交流専用の抵抗」。コイルの性質(自己インダクタンス+電機子反作用)による電圧降下。電流を90°遅らせる効果を持つ。
ra 電機子抵抗 Ω 巻線の銅線による抵抗。Xs に比べて非常に小さいため、多くの問題で無視する
Zs 同期インピーダンス Ω ra と Xs の合成。Zs = ra + jXs。ra を無視すると Zs ≈ jXs
φ 力率角 ° 端子電圧 V と電流 I の位相差。cosφ が力率。
δ 負荷角(内部相差角) ° E₀ と V の位相差。発電機がどれだけ「頑張っている」かを示す角度。次回の記事で詳しく解説。
🔑 最重要の式

試験で使う等価回路の式は、ra を無視した場合、たった1本です。

E₀ = V + jXs I

(ベクトル式。大きさだけでなく「向き」も含む)

なぜ「ベクトル図」が必要なのか?

直流機では E = V + RaIaそのまま数値で足し算できました。200 = 190 + 10 のように。

でも交流では同じことができません。なぜなら、交流には「大きさ」だけでなく「タイミング(位相)」があるからです。

💪 「腕の角度」のたとえで理解しよう

あなたが右腕をまっすぐ前に伸ばしている(= 端子電圧 V)とします。

ここで左腕を使って「V にjXsI を足す」のですが、左腕はVと同じ方向には伸ばせません。交流の電圧降下 jXsI には「90°ずれる」という性質があるので、左腕は右腕から角度をつけて伸ばす必要があります。

そして、右肩から左手の指先までの距離が E₀ です。

右肩
(起点)
──→
右手
V(端子電圧)
左手の指先
jXsI の先端
右肩 → 左手の指先までの距離 = E₀

V と jXsI は角度がついているから、E₀ は単純な足し算ではなくベクトルの合成(三角形の斜辺)で求める必要がある。これがベクトル図を描く理由です。

💡 ポイント
直流:E = V + RI → 数値の足し算でOK
交流:E₀ = V + jXsI → 向きが違うから、ベクトル(矢印)で足し算する必要がある

これが「なぜベクトル図が必要か」の答えです。

ベクトル図の描き方──5ステップで完全マスター

ここからが本題です。同期発電機のベクトル図を、手順通りに描けば必ず完成する5ステップで解説します。

ここでは最も出題頻度が高い「遅れ力率(誘導性負荷)」の場合で説明します。

STEP 1:基準となる V を水平に描く

ベクトル図の第一歩は、基準を決めること。

端子電圧 V を水平右向き(→)に描きます。これが「東」のような基準方向です。

長さ = V の大きさ(例:100V なら長めに描く)

STEP 1
────→
V

STEP 2:電流 I を V から φ だけ遅らせて描く

遅れ力率の場合、電流 I は V よりφ(力率角)だけ時計回りに遅れています。

V の方向から時計回りにφ°だけ傾けた方向に I を描きます。

「遅れ」= 時計回り(下向き)と覚える。

STEP 2
───→ V
  ↘ I(φだけ遅れ)

STEP 3:jXsI を描く(I を90°進める)

jXsI は、電流 I の方向から反時計回りに90°回転させた方向に描きます。

「j」の意味は「90°反時計回りに回す」。これだけです。

長さ = Xs × I の大きさ。

STEP 3
I の向き →
jXsI の向き ↑(I から90°反時計回り)
🔑 「j = 90°回転」これだけ覚えればOK

「j って何?虚数?複素数?」と難しく考える必要はありません。ベクトル図を描くときの j の意味は「矢印を反時計回りに90°回す」、これだけです。

STEP 4:V の先端から jXsI を足す

E₀ = V + jXsI なので、V の矢印の先端を起点として、そこから jXsI の矢印を描き足します。

これはベクトルの足し算の基本ルール:「先端→先端で繋ぐ」です。

STEP 5:原点から終点を結ぶ → それが E₀

原点(V の始点)から、jXsI の先端(終点)に向かって矢印を引く。この矢印の長さが E₀ の大きさ、V との角度が負荷角 δ です。

これでベクトル図の完成です。

STEP 1
V を水平
STEP 2
I をφ遅れ
STEP 3
jXsI
= I から90°
STEP 4
V先端に
足す
STEP 5
原点→終点
= E₀

完成したベクトル図(遅れ力率の場合)

5ステップで描いたベクトル図を、全体像として見てみましょう。

⚡ 同期発電機のベクトル図(遅れ力率 cosφ)

ra 無視(Xs のみ考慮)

O
V
I(φ遅れ)
jXsI
E₀
φ
δ
ベクトル 意味
V 端子電圧。基準なので水平。負荷に届けられる電圧。
I 橙(破線) 電流。V から時計回りにφだけ遅れている。jXsI の方向を決めるための補助線。
jXsI 同期リアクタンスによる電圧降下。I から90°反時計回り。V の先端から描き足す。
E₀ 無負荷誘導起電力。原点 → jXsI の先端。これがゴール(求めるもの)
🔧 現場の声
「遅れ力率」は工場で最もよくあるケースです。工場の負荷はモータ(誘導機)が大半で、モータは遅れ力率の負荷だからです。だから試験でも「遅れ力率」のベクトル図が最も出題されます。まずはこの1パターンを確実にマスターしましょう。

力率による3パターンの違い

ベクトル図は、負荷の力率(遅れ・力率1・進み)によって形が変わります。3パターンの違いを表で整理します。

力率 電流 I の位置 E₀ の大きさ 負荷の例
遅れ力率
(cosφ 遅れ)
V より(時計回り) 大きい(V より大幅に大きい) モータ、リアクトル(工場で最も多い)
力率1
(cosφ = 1)
V と同じ方向 中程度 抵抗負荷(ヒーターなど)
進み力率
(cosφ 進み)
V より(反時計回り) 小さめ(V に近い場合も) コンデンサ、同期調相機
💡 試験対策ポイント
遅れ力率 → E₀ が大きくなる(界磁電流を多く流す必要がある)
進み力率 → E₀ が小さくなる(界磁電流を少なくできる)

この関係は、第4回「同期発電機の特性」で学ぶ外部特性曲線に直結します。今の段階では「遅れだとE₀が大きくなる」とだけ覚えておいてください。

計算例── E₀ を実際に求めてみよう

📝 問題

三相同期発電機(1相分の等価回路で考える)。端子電圧 V = 200 V、電機子電流 I = 50 A、同期リアクタンス Xs = 4 Ω、力率 cosφ = 0.8(遅れ)。電機子抵抗は無視する。無負荷誘導起電力 E₀ [V] を求めよ。

解法:ベクトル図から三角関数で求める

⚠️ 解法の考え方
ra を無視すると E₀ = V + jXsI。これはベクトル式なので、直角三角形を使って E₀ の大きさを求めます。ベクトル図の中に直角三角形を見つけるのがコツです。
STEP 1

sinφ を求める

cosφ = 0.8 → sinφ = 0.6(三平方の定理:sin²φ + cos²φ = 1)

STEP 2

XsI の大きさを求める

XsI = 4 × 50 = 200 V

STEP 3

ベクトル図から E₀ の大きさを求める公式に代入

ベクトル図の三角形から、以下の公式が得られます(導出は図を見ると直感的にわかります)。

E₀² = (Vcosφ + XsI sinφ) ² + (Vsinφ …ではなく…)

ra = 0 の遅れ力率の場合の公式は:

🏆 E₀ を求める公式(ra 無視・遅れ力率)
E₀ = √[ (Vcosφ + 0)² + (Vsinφ + XsI)² ]

ra = 0 なので、raI の項が消えてシンプルに。

STEP 4

数値を代入して計算

横方向:Vcosφ = 200 × 0.8 = 160 V

縦方向:Vsinφ + XsI = 200 × 0.6 + 200 = 120 + 200 = 320 V

E₀ = √(160² + 320²) = √(25,600 + 102,400) = √128,000

✅ 答え
E₀ ≈ 357.8 V
💡 計算のコツ
E₀ を求める計算は、突き詰めると「三平方の定理」です。ベクトル図の横成分と縦成分を求めて、斜辺の長さを計算する。中学数学の応用にすぎません。

横成分 = Vcosφ(+ raIcosφ があれば足す)
縦成分 = Vsinφ + XsI(+ raIsinφ があれば足す)
E₀ = √(横² + 縦²)

同期機シリーズ 全7記事のロードマップ

第2回 ← 今ここ

同期発電機の等価回路とベクトル図|無負荷誘導起電力E₀の求め方

第3回

同期発電機の出力と負荷角δ|P=(VE₀/Xs)sinδの意味を完全図解

第4回

同期発電機の特性|短絡比・%同期インピーダンス・無負荷飽和曲線

第5回

同期電動機の特徴とV曲線|力率改善と同期調相機の役割

第6回

同期発電機の並行運転|5つの条件と横流・同期化力を完全整理

第7回

同期機の計算パターン完全網羅|短絡比・出力・ベクトル図の解法を過去問で解説

まとめ

📐 この記事のまとめ
  • 同期発電機の等価回路は「電池(E₀)+ 交流専用の抵抗(jXs)」。中学理科の回路と本質は同じ。
  • 交流では「向き」があるため、ベクトル(矢印)で足し算する必要がある → ベクトル図。
  • ベクトル図の描き方は5ステップ:V水平 → Iをφ遅れ → jXsI(Iから90°)→ V先端に足す → 原点→終点 = E₀。
  • j の意味は「90°反時計回りに回す」。これだけ。
  • E₀ の計算は三平方の定理:E₀ = √(横成分² + 縦成分²)。
  • 遅れ力率 → E₀ が大きくなる。進み力率 → E₀ は小さくなる。

ベクトル図は、最初は「矢印だらけで意味不明」に見えますが、5ステップの手順を覚えてしまえば機械的に描けるようになります。何度か手を動かして描いてみてください。3回描けば、もう怖くなくなるはずです。

📚 次に読むべき記事

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