- 「ゲートドライバICって何のためにあるの?」
- 「マイコンのGPIOから直接MOSFETを動かせないの?」
- 「ハイサイド駆動ってなぜ難しいの?」
- 「ブートストラップ回路って何をしているの?」
- ゲートドライバICが必要な「3つの理由」
- マイコン直結がダメな物理的な理由
- ハイサイド駆動の難しさと解決策
- ブートストラップ回路の仕組み
パワーエレクトロニクスを学び始めると、必ず出会うのが「ゲートドライバIC」という部品です。
「MOSFETのゲートに信号を入れるだけでしょ?マイコンから直接つなげばいいじゃん」と思ったことはありませんか?
実は、それではまともに動かないのです。この記事では、なぜゲートドライバICが必要なのか、その「物理的な理由」をイメージ重視で完全図解します。
目次
そもそもMOSFETはどうやってON/OFFするのか?
ゲートドライバを理解するには、まずMOSFETの動作原理を押さえる必要があります。
MOSFETは「電圧」でON/OFFするスイッチ
MOSFETには3つの端子があります。ゲート(G)・ドレイン(D)・ソース(S)です。
ゲート(G)
「門番」のような存在。ここに電圧をかけると、ドレイン→ソース間に電流が流れるようになる。
ドレイン(D)・ソース(S)
「電流の入口と出口」。ゲートがONになると、ここを大電流が流れる。
ゲート-ソース間電圧がしきい値を超えるとONになる
つまり、MOSFETをONにするには「ゲートに電圧をかける」だけでOK…と思いきや、実はそう単純ではありません。
MOSFETのゲートは「コンデンサ」である
ここが最重要ポイントです。MOSFETのゲートは、電気的には「コンデンサ」と同じ構造をしています。
MOSFETの内部構造
ゲート-ソース間は
コンデンサ構造
コンデンサには「電荷を蓄えないと電圧が上がらない」という性質があります。
つまり、MOSFETをONにするには電圧だけでなく「電荷」を供給する必要があるのです。この電荷を「ゲート電荷(Qg)」と呼びます。

なぜマイコン直結ではダメなのか?【3つの理由】
ここからが本題です。なぜマイコンのGPIOから直接MOSFETを駆動できないのか、3つの理由を解説します。
理由①:マイコンのドライブ能力が足りない
MOSFETを高速にON/OFFするには、ゲート容量を素早く充放電する必要があります。これには大きな電流が必要です。
IG:必要な駆動電流 Qg:ゲート電荷 tsw:スイッチング時間
具体的な数値で見てみましょう。
| 条件 | ゲート電荷 Qg | スイッチング時間 | 必要な電流 |
|---|---|---|---|
| 小型MOSFET | 10nC | 100ns | 100mA |
| 中型MOSFET | 50nC | 50ns | 1A |
| 大型IGBT | 500nC | 100ns | 5A! |
一方、マイコンのGPIOが出せる電流はどれくらいでしょうか?
マイコンGPIO
10〜20mA
典型的な出力電流
ゲートドライバIC
1〜10A
ピーク駆動電流
ゲート容量の充電に時間がかかり、MOSFETがゆっくりON/OFFします。その結果、スイッチング中に大電流と高電圧が同時にかかり、発熱・効率低下・最悪は素子破壊につながります。

理由②:電圧レベルが合わない
マイコンとMOSFETでは、必要な電圧レベルが異なります。
| 項目 | マイコン出力 | MOSFET要求 |
|---|---|---|
| Highレベル電圧 | 3.3V または 5V | 10〜15V |
| Lowレベル電圧 | 0V | 0V(または負電圧) |
なぜMOSFETには10〜15Vが必要なのでしょうか?
🔑 ゲート電圧とオン抵抗の関係
VGS = 5V
オン抵抗:高い
発熱大・損失大
VGS = 10V
オン抵抗:中程度
動作はするが…
VGS = 12〜15V
オン抵抗:最小
効率最大!
MOSFETは「ONになればいい」のではなく、「しっかりONにする」ことが重要です。ゲート電圧が不十分だとオン抵抗が高くなり、発熱と損失が増加します。
理由③:ハイサイド駆動ができない
これが最も重要で、多くの初心者がつまずくポイントです。
まず、「ハイサイド」と「ローサイド」という用語を理解しましょう。
ハイサイドスイッチ
電源側(上側)に配置されたスイッチ。負荷の「上」で電流をON/OFFする。
ローサイドスイッチ
GND側(下側)に配置されたスイッチ。負荷の「下」で電流をON/OFFする。
ローサイドスイッチは比較的簡単です。ソースがGNDに接続されているため、マイコンの電圧を基準にしてゲートを駆動できます。
問題はハイサイドスイッチです。
🚨 ハイサイド駆動の問題点
ハイサイドMOSFETのソースは、負荷に接続されているため、GNDではありません。しかも、スイッチがONするとソース電位が電源電圧付近まで上昇します。
MOSFETをONにするには、ゲートをソースより10〜15V高くする必要があります。つまり…
マイコンの3.3Vや5Vでは、到底この電圧は作れません。これが「マイコン直結ではハイサイドを駆動できない」根本的な理由です。

ゲートドライバICが解決する3つの問題
ゲートドライバICは、上記の3つの問題をすべて解決してくれる「通訳」兼「増幅器」です。
ゲートドライバICの主な機能
| 機能 | 説明 | 解決する問題 |
|---|---|---|
| 電流増幅 | 10mA → 数Aに増幅 | 理由①:ドライブ能力 |
| レベルシフト | 3.3V → 12Vに変換 | 理由②:電圧レベル |
| ハイサイド駆動 | 浮いたソースを基準に駆動 | 理由③:ハイサイド |
| デッドタイム生成 | 上下同時ONを防止 | 貫通電流防止 |
| 絶縁 | 制御回路と主回路を分離 | 安全性・ノイズ耐性 |

ハイサイド駆動の仕組み:ブートストラップ回路
ハイサイドMOSFETを駆動するために、ゲートドライバICは「ブートストラップ回路」という巧みな仕組みを使います。
ブートストラップ = 「自分で自分を持ち上げる」
「ブートストラップ」という言葉は、「自分の靴紐を引っ張って自分を持ち上げる」という意味から来ています。物理的には不可能ですが、電気回路では可能なのです。
🔄 ブートストラップ回路の動作原理
ローサイドMOSFETがONすると、ハイサイドのソース電位がほぼGNDになる。
このとき、ブートストラップダイオードを通じてブートストラップコンデンサ(C_BOOT)が充電される。
ローサイドがOFFすると、ハイサイドのソース電位が上昇を始める。
しかし、C_BOOTはソースを基準に12Vを保持している。
C_BOOTの電圧を使って、ハイサイドMOSFETのゲートをソースより12V高く駆動できる!
ソースが48Vでも、ゲートを60Vに持ち上げられる。
ブートストラップ回路は「ローサイドがONの期間に充電する」ため、ローサイドが長時間OFFのままだとC_BOOTの電圧が下がってしまいます。これが「100%デューティで駆動できない」理由です。
ブートストラップの限界と代替手段
ブートストラップ方式は安価で広く使われますが、いくつかの制約があります。
| ❌ ブートストラップの制約 | ✅ 代替手段 |
|
・100%デューティ不可 ・起動時に充電シーケンス必要 ・高電圧では漏れ電流が問題 |
・絶縁型ゲートドライバ ・フローティング電源 ・チャージポンプ方式 |

デッドタイム:上下同時ONを防ぐ
ハーフブリッジやフルブリッジ回路では、上下のスイッチが同時にONになると大事故が起きます。
貫通電流 = 「電源をショートさせる」
ハイサイドとローサイドが同時にONすると、
電源 → ハイサイドMOSFET → ローサイドMOSFET → GND
という経路で短絡電流(貫通電流)が流れる!
→ 素子破壊・基板焼損・最悪は発火
これを防ぐために、ゲートドライバICは「デッドタイム」を挿入します。
📊 デッドタイムのイメージ
ハイサイド信号
ローサイド信号
デッドタイムは通常数十ns〜数百ns程度です。短すぎると貫通電流が流れ、長すぎると効率が低下します。多くのゲートドライバICは、外付け抵抗でデッドタイムを調整できます。
ゲートドライバICの種類
用途に応じて、様々なタイプのゲートドライバICがあります。
| 種類 | 特徴 | 用途例 |
|---|---|---|
| ローサイド専用 | シンプル・安価 | LED駆動、ヒーター制御 |
| ハイサイド専用 | ハイサイドスイッチ用 | 電源スイッチ、負荷切替 |
| ハーフブリッジ | 上下1組を駆動 | DC-DCコンバータ |
| 3相ブリッジ | 6個のスイッチを駆動 | モーター駆動(BLDC) |
| 絶縁型 | 制御と主回路を絶縁 | 高電圧インバータ、車載 |
まとめ:ゲートドライバICは「通訳」であり「増幅器」
📝 この記事のポイント
① MOSFETのゲートはコンデンサ。ONにするには電荷(電流)が必要
② マイコン直結がダメな理由:電流不足・電圧不足・ハイサイド駆動不可
③ ゲートドライバICは電流増幅・レベルシフト・ハイサイド駆動を担当
④ ハイサイド駆動にはブートストラップ回路が使われる
⑤ デッドタイムで貫通電流を防止する
ゲートドライバICは、マイコンの「か弱い信号」をMOSFETが理解できる「力強い信号」に変換してくれる、まさに「通訳」兼「増幅器」です。
パワーエレクトロニクスの世界では、主役のMOSFETやIGBTに目が行きがちですが、脇役のゲートドライバこそが回路の安定動作を左右すると言っても過言ではありません。
「MOSFETが壊れる」「発熱がひどい」「ノイズが出る」といったトラブルの多くは、実はゲート駆動回路に原因があることが少なくありません。スイッチング素子を選ぶときは、必ずゲートドライバも一緒に検討しましょう。
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ゲートドライバ以外にも必要な周辺回路の全体像を把握できます
ゲートドライバで駆動するスイッチング素子の特徴を復習できます
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