測定技術

受動プローブのGNDが共通って知ってた?知らずに使うと基板が一瞬で焼ける話

受動プローブのGNDは共通。知らずに測ると基板を壊す理由

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測定・計測の技術 > 第3章 プローブの完全攻略
第3章 - 第4回 / 全12回 シリーズ全体: 19 / 69記事
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ちょっと待ってください。

オシロを使うとき、あの黒いワニ口クリップ、なんとなく「近くの金属」とか「適当な部品の足」に挟んでいませんか?

実はその「なんとなく」が、ある日突然「バチッ」という火花とともに、基板を黒焦げにする原因になるんです。

この記事では、なぜそんなことが起きるのか、何がそんなに危険なのかを、図と「現場でよく起きるシチュエーション」を使って、できるだけわかりやすくお話しします。読み終わるころには、もう同じ事故は絶対に起こさなくなるはずです。

公開日:2026-05-24 / 最終更新日:2026-05-24
○ 結論(30秒で答え)

受動プローブの黒いワニ口クリップは、見た目はただのクリップですが、実はオシロ本体 → 電源コード → コンセントの大地アースまで全部つながっています。だから「0Vではない場所」にこのワニ口を繋いだ瞬間、コンセント経由で大電流がドカッと流れ、基板が焼けます。特にハイサイドMOSFETのソースのような場所には、絶対にワニ口を繋いではいけません。

そもそも、あの黒いワニ口クリップって何者?

オシロのプローブには、先っぽの「針みたいなところ」と、そこから垂れ下がっている「黒いワニ口クリップ」がついていますよね。あれ、なんのためにあるかご存知でしょうか?

答えを言うと、あれは「ここを0Vとして測ってください」とオシロに教えるための基準点です。

電圧って、必ず「どこを基準にしているか」を決めないと測れません。たとえば「東京タワーの高さは333m」と言うとき、それは「地面から測って333m」という意味ですよね。地球の中心から測ったらもっと高くなる。基準点を決めないと、高さも電圧も意味を持たないんです。

オシロも同じで、「ここが0Vだよ」という基準点を教えてあげる必要があります。それを伝えるのが、あの黒いワニ口クリップというわけです。

つまり、ワニ口クリップを挟んだ場所が「オシロにとっての0V」になります。ここをどこに挟むかで、測定結果が全部変わる──というよりも、最悪の場合、基板が燃えます。

基準点(基準電位)の考え方の図。東京タワーの高さ333mは地面を基準に決まり、電気回路の5VはGND(0V)を基準に決まる。基準が違うと比べられない
電圧は基準点を決めて初めて意味を持つ

衝撃の事実:あのワニ口、実はコンセントまでつながっています

ここからが本題です。あの黒いワニ口クリップ、見た目はただの小さなクリップですが、中を辿っていくとビックリするほど遠くまでつながっています。

順番に辿ってみましょう。

ワニ口クリップ

同軸ケーブルの外側の網(シールド)

オシロのBNCコネクタの外側

オシロ本体の金属シャーシ(外側のケース)

電源コードのアース線(緑か緑黄の線)

コンセントのアース端子

建物の大地アース(地球!)

そう、地球までつながっているんです。これを電気の世界では「大地アース」とか「フレームグランド」と呼びます。

さらに重要なポイント。同じコンセントから電源を取っている機器は、全部この大地アースを共有しています。つまり、あなたのオシロの黒いワニ口は、隣の人のPCのアースとも、実験室の他の機械のアースとも、全部つながっているということです。

この「全部つながっている共通の0V地点」のことを、英語で「共通GND(コモングランド)」と呼びます。受動プローブのワニ口は、この共通GNDに直結している、というのが今日いちばん大事なポイントです。

オシロスコープのワニ口クリップが地球までつながる経路の図。①ワニ口クリップ、②プローブの同軸ケーブルのシールド、③BNCコネクタの外側リング、④オシロスコープの筐体、⑤電源コードのアース線、⑥壁のコンセントの接地端子、⑦地球(大地)まで全部つながっている
プローブのワニ口は電源コードを通して大地とつながっている
合わせて読みたい(同章の前記事)
受動プローブの構造|10:1減衰の仕組みと入力容量・補償調整で波形が変わる理由 →

プローブの中身がどうなっているのかを先に知っておくと、GND問題の理解がさらに深まります。

じゃあ何が問題なの?基板が焼ける「その瞬間」を再現してみる

「ワニ口がアースとつながっているのは分かった。で、それの何が問題なの?」と思いますよね。

ここからが核心です。具体的なシチュエーションで考えてみましょう。

シチュエーション:ハイサイドMOSFETのVgsを測りたい

たとえば、24V電源で動くハーフブリッジ回路があったとします。上側のMOSFET(これを「ハイサイドMOSFET」と呼びます)のゲート電圧を測ろうとしたとしましょう。

このとき、ゲートとソースの間の電圧(Vgs)が知りたいので、初心者が真っ先にやりがちなのは:

× やってしまいがちな、超危険な接続

・プローブの針 → ハイサイドMOSFETの「ゲート」へ

・ワニ口クリップ → ハイサイドMOSFETの「ソース」へ

理屈で言えば、これで「ゲート − ソース」の電圧が見えるはず。間違ってないように思えますよね?

ですが、これをやった瞬間に何が起きるか。

「バチッ!」
一瞬の火花。煙。焦げた匂い。
MOSFETかシャント抵抗、もしくはパターンが黒焦げになって、回路が動かなくなる。
隣の先輩が「あ〜……」と呆れた顔で振り返る。

これは現場で起こりがちな、典型的な事故です。なぜこうなるのか、次のセクションで解説します。

すべての機器が同じ0Vを共有する図。オシロスコープ・PC・信号発生器・はんだごてのGND端子がアース線で大地アースにつながり、機器間の電位差をなくしている
作業台の機器はみな大地アースの0Vを共有している
絶対NGの接続例。24V電源のハイサイドMOSFETのゲートにプローブ先端を当て、ワニ口クリップ(GND)をハイサイドのソースにつなぐと、ソースが大地とショートしてオシロスコープを破損するおそれがある
ハイサイドのソースにワニ口をつなぐとショートする

なぜ焼けるのか?「ワニ口がショート線になる」恐怖

さっきの危険な接続で何が起きていたか、ゆっくり追いかけてみましょう。

ハイサイドMOSFETのソースは、回路が動いている瞬間によっては24Vになっています(上側がONのとき)。一方、オシロのワニ口クリップは、さっきお話したとおり大地アースと同じ0Vです。

このワニ口を、24Vになっているソース端子に挟むと、何が起きるか──

起きていること

回路の24Vの場所と、地球(0V)が、たった1本の細いワニ口クリップとケーブルで直結されてしまう。

→ 24Vの電源から見ると、これは「電源プラスとマイナスを針金1本でショートさせた」のと同じ状態。

→ 電源は「あれっ、抵抗ゼロ?じゃあめちゃくちゃ電流流せる!」と、数A〜数十Aの大電流を流す。

→ 電流の通り道(プローブのGND線、基板のパターン、シャント抵抗、MOSFETなど)の中でいちばん弱い部分が真っ先に焼け落ちる。

わかりやすいたとえで言うと、「家のコンセントの穴に、ピンセットの両端を突っ込んだ」みたいなものです。当然、ピンセットは赤熱して曲がるか、ブレーカーが落ちるか、もっと悪いことが起きますよね。それと同じことが、回路の中で起きているわけです。

これが「ワニ口が共通GNDだから起きる事故」の正体です。「測定するつもり」が、「ショート回路を作るつもり」に変わってしまったわけですね。

ハーフブリッジ回路でのショート電流の経路の図。①24V+からハイサイドMOSFETを通り、②ソースにつないだワニ口クリップ、③プローブのシールド線、④オシロスコープの筐体、⑤電源コードのアース線、⑥大地を通って⑦回路GNDへ戻る。電源のプラスとマイナスを針金1本で短絡したのと同じ
ワニ口からオシロと大地を通るショート電流の経路

じゃあワニ口はどこに繋げばいいの?「回路のGNDだけ」が答え

ここまで読んで、「えっ、じゃあワニ口どこに繋げばいいの…?」と不安になったかもしれません。安心してください。ルールはとてもシンプルです。

○ ワニ口を繋いでいい場所

測定している回路の「GND(0V)」と同じ電位の場所だけ

理由はシンプルで、回路のGNDなら、もともと0Vだから、大地アースの0Vと繋いでもショートにならないからです。同じ電位どうしを繋いでも、何も流れません。

具体的には:

○ 電源の「−(マイナス)」端子

○ 基板にプリントされている「GND」「PGND」と書かれたパッド

○ 大きなベタGNDの銅箔エリア

○ GND端子台、テストポイント「TP-GND」

逆に、絶対に繋いではいけないのは:

× ハイサイドMOSFETのソース(電源プラスに近い電位になることがある)

× 信号が出ている配線の途中

× AC電源回路の「ライブ側」(最悪、命に関わります)

× 「ここ何Vかわからないな…」と思った場所すべて

迷ったときの鉄則は、「測る前にテスタでその場所の電圧を確認する」。これだけで、ほとんどの事故は防げます。

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ワニ口の誤接続をコンセントにピンセットを差すことにたとえた図。回路の中で起きることは同じで、大きな電流が流れ、部品の破損・発煙・発火、感電・火災の原因になる
ワニ口の誤接続はコンセントにピンセットを差すのと同じ

「でもハイサイドのVgsをどうしても測りたい!」というあなたへ

ここで疑問が湧きますよね。「じゃあハイサイドMOSFETのVgsはどうやって測ればいいの?」と。

答えは、「受動プローブでは無理。別の道具を使う」です。代表的な方法は3つあります。

① 差動プローブを使う
2本の信号線の「差」を測る専用プローブ。GNDに縛られないので、どこでも安全に測れます。値段は数万円〜数十万円とちょっと高いですが、ハイサイド測定をやるなら必須の道具です。

② 絶縁オシロを使う
各チャンネルがオシロ本体と電気的に切り離されているオシロ。これも安全にハイサイドが測れます。HantekやMicsigなどから比較的安価なモデルが出ています。

③ 数学演算「A−B」を使う
受動プローブを2本使い、それぞれのソース電位とゲート電位をオシロのGND基準で測って、オシロの演算機能で「CH1 − CH2」を表示する方法。安く済みますが、コモンモードノイズに弱く、精度が落ちます。

詳しい使い分けは、この第3章の後半(差動プローブ編)で改めて解説しますので、今はとにかく「受動プローブのワニ口を、GND以外には絶対に挟まない」ということだけ覚えて帰ってください。

別カテゴリで関連する記事
FG・SG・LG・PGNDの違い|なぜグランドを分けないと機器が壊れるのか →

この記事で出てきた「大地アース」「回路GND」の違いを、もう一歩深く理解したい方へ。GNDの種類が整理できます。

基板でGNDに接続してよい場所と、いけない場所の図。電源マイナス端子・GNDテストポイント・ベタGND銅箔・GNDパッドは安全、ハイサイドMOSFETのソース・信号線の途中・AC100Vのライブ側・電位不明な場所はつなぐと基板が焼ける
ワニ口は電源マイナス端子やGNDパッドにつなぐ
ハイサイドを測定する3つの方法の図。①差動プローブ(確実・安全だが値段が高め)、②絶縁オシロ(本体ごと絶縁、中価格)、③2本のプローブのA−B演算(安いが精度が低い)
ハイサイドの測定:差動プローブ・絶縁オシロ・A−B演算

現場でよくある「ヒヤリハット」5選

現場で起こりがちな「ヒヤリハット」をいくつか紹介します。「あ、これ自分もやりそう」と思ったら、要注意です。

① ハイサイドのソースにワニ口
本記事の主役。スイッチング電源、モータドライバ、インバータで超頻発する事故。

② AC100Vのライブ側にワニ口
絶対NG。基板どころか、最悪人が感電します。AC1次側を測るときは絶対に絶縁オシロか差動プローブ。

③ 別電源で動いている2枚の基板を同時に測る
たとえば基板AはAC100V電源、基板Bは絶縁DC電源。それぞれのGNDをワニ口で繋ぐと、GND同士が短絡される。

④ オシロを2台使って同じ回路の別の場所を測る
2台のオシロのGNDが両方とも大地アースで繋がっているので、2か所のGND電位が違うと電流が流れる。

⑤ 「絶縁トランスでオシロを浮かせればOK」と思い込む
これ、ネットの古い情報でよく見ますが、絶対にやめてください。オシロの筐体に高電圧が乗って感電します。命に関わるアウト技です。

客先監査で「その測定、GNDの取り方は大丈夫ですか?」と聞かれたら

品質保証や設計の現場では、客先から「その測定波形、本当に正しく取れているの?」と問われることがあります。GNDの扱いは特に質問されやすいポイントです。次の3点で答えられるようにしておきましょう。

① プローブGNDの接続位置
「ワニ口クリップは、基板の◯◯ポイント(回路GND)に接続しています。事前にテスタで0V電位であることを確認済みです。」

② 測定対象がGND基準で測れるか確認済み
「測定対象はローサイド側の信号のため、受動プローブで測定可能と判断しました。ハイサイド側の測定には差動プローブを使用しています。」

③ コモンモードによるノイズ確認
「プローブGNDから測定点までの距離を最短にし、コモンモードノイズの影響を最小化しています。」

よくある質問(FAQ)

Q. 受動プローブのワニ口クリップは何と繋がっていますか?

A. オシロ本体のシャーシ、電源コードのアース、コンセントの大地アースまで全部つながっています。要するに地球と直結です。

Q. なぜハイサイドMOSFETのソースにワニ口を繋ぐと基板が焼けるのですか?

A. ソースが24Vのとき、ワニ口(0V)と繋ぐと、回路の電源プラスとマイナスをショートしたのと同じ状態になり、大電流が流れて部品が焼けるからです。

Q. ワニ口クリップはどこに繋げば安全ですか?

A. 測定対象の回路のGND(0V)と同じ電位の場所だけです。基板の「GND」「PGND」と書かれたパッドや、電源のマイナス端子が安全です。

Q. ハイサイドのVgsはどうやって測ればいいですか?

A. 差動プローブを使うのが王道です。もしくは絶縁オシロを使うか、受動プローブ2本でA−B演算する方法もあります。

Q. オシロのアース線を抜けば安全になりますか?

A. 絶対にやめてください。オシロの筐体に高電圧が乗って感電する危険があります。命に関わる典型的なNG行為です。

まとめ|「ワニ口は地球と繋がっている」を忘れない

受動プローブのワニ口は、オシロ → 電源コード → コンセントを経由して地球(大地アース)とつながっている。

そのため、回路の0V以外の場所にワニ口を挟むと、その瞬間ショート回路ができて基板が焼ける。

ワニ口を繋いでいいのは「回路のGND」だけ。迷ったらテスタで電位を確認する。

ハイサイドや絶縁回路を測りたいときは、受動プローブを諦めて差動プローブか絶縁オシロを使う。

オシロのプローブは、見た目は単なるケーブルでも、中身は「地球と直結された測定棒」です。この事実を一度しっかり頭に入れておけば、もう基板を焼くことはありません。

現場では「一回焼けば一生忘れない」と言われることもありますが、できれば焼かずに覚えていただきたいので、この記事を書きました。

受動プローブのGNDの4つの鉄則。①ワニ口は地球と直結、②0V以外につなぐとショート、③回路GNDだけがOK、④ハイサイドは差動プローブで測る
受動プローブのGNDの4つの鉄則

シリーズ内ナビゲーション

この記事の理解を深める本と道具
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電験三種・QC検定1級 / メーカーで回路設計・生産技術(品質改善)の実務

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