⚠️ ちょっと待ってください。
オシロを使うとき、あの黒いワニ口クリップ、なんとなく「近くの金属」とか「適当な部品の足」に挟んでいませんか?
実はその「なんとなく」が、ある日突然「バチッ」という火花とともに、基板を黒焦げにする原因になるんです。私自身、若いころに一度やってしまったことがあります。MOSFETが一瞬で煙を上げて、隣にいた先輩に「あ〜、それやっちゃった?」と苦笑いされた、苦い思い出です。
この記事では、なぜそんなことが起きるのか、何がそんなに危険なのかを、図と「現場でよく起きるシチュエーション」を使って、できるだけわかりやすくお話しします。読み終わるころには、もう同じ事故は絶対に起こさなくなるはずです。
受動プローブの黒いワニ口クリップは、見た目はただのクリップですが、実はオシロ本体 → 電源コード → コンセントの大地アースまで全部つながっています。だから「0Vではない場所」にこのワニ口を繋いだ瞬間、コンセント経由で大電流がドカッと流れ、基板が焼けます。特にハイサイドMOSFETのソースのような場所には、絶対にワニ口を繋いではいけません。
目次
そもそも、あの黒いワニ口クリップって何者?
オシロのプローブには、先っぽの「針みたいなところ」と、そこから垂れ下がっている「黒いワニ口クリップ」がついていますよね。あれ、なんのためにあるかご存知でしょうか?
答えを言うと、あれは「ここを0Vとして測ってください」とオシロに教えるための基準点です。
電圧って、必ず「どこを基準にしているか」を決めないと測れません。たとえば「東京タワーの高さは333m」と言うとき、それは「地面から測って333m」という意味ですよね。地球の中心から測ったらもっと高くなる。基準点を決めないと、高さも電圧も意味を持たないんです。
オシロも同じで、「ここが0Vだよ」という基準点を教えてあげる必要があります。それを伝えるのが、あの黒いワニ口クリップというわけです。
💡 つまり、ワニ口クリップを挟んだ場所が「オシロにとっての0V」になります。ここをどこに挟むかで、測定結果が全部変わる──というよりも、最悪の場合、基板が燃えます。

衝撃の事実:あのワニ口、実はコンセントまでつながっています
ここからが本題です。あの黒いワニ口クリップ、見た目はただの小さなクリップですが、中を辿っていくとビックリするほど遠くまでつながっています。
順番に辿ってみましょう。
🔗 ワニ口クリップ
⬇ 同軸ケーブルの外側の網(シールド)
⬇ オシロのBNCコネクタの外側
⬇ オシロ本体の金属シャーシ(外側のケース)
⬇ 電源コードのアース線(緑か緑黄の線)
⬇ コンセントのアース端子
⬇ 建物の大地アース(地球!)
そう、地球までつながっているんです。これを電気の世界では「大地アース」とか「フレームグランド」と呼びます。
さらに重要なポイント。同じコンセントから電源を取っている機器は、全部この大地アースを共有しています。つまり、あなたのオシロの黒いワニ口は、隣の人のPCのアースとも、実験室の他の機械のアースとも、全部つながっているということです。
💡 この「全部つながっている共通の0V地点」のことを、英語で「共通GND(コモングランド)」と呼びます。受動プローブのワニ口は、この共通GNDに直結している、というのが今日いちばん大事なポイントです。

プローブの中身がどうなっているのかを先に知っておくと、GND問題の理解がさらに深まります。
じゃあ何が問題なの?基板が焼ける「その瞬間」を再現してみる
「ワニ口がアースとつながっているのは分かった。で、それの何が問題なの?」と思いますよね。
ここからが核心です。具体的なシチュエーションで考えてみましょう。
シチュエーション:ハイサイドMOSFETのVgsを測りたい
たとえば、24V電源で動くハーフブリッジ回路があったとします。上側のMOSFET(これを「ハイサイドMOSFET」と呼びます)のゲート電圧を測ろうとしたとしましょう。
このとき、ゲートとソースの間の電圧(Vgs)が知りたいので、初心者が真っ先にやりがちなのは:
❌ やってしまいがちな、超危険な接続
・プローブの針 → ハイサイドMOSFETの「ゲート」へ
・ワニ口クリップ → ハイサイドMOSFETの「ソース」へ
理屈で言えば、これで「ゲート − ソース」の電圧が見えるはず。間違ってないように思えますよね?
ですが、これをやった瞬間に何が起きるか。
「バチッ!」
一瞬の火花。煙。焦げた匂い。
MOSFETかシャント抵抗、もしくはパターンが黒焦げになって、回路が動かなくなる。
隣の先輩が「あ〜……」と呆れた顔で振り返る。
これは私自身がやらかしたことのある、典型的な事故です。なぜこうなるのか、次のセクションで解説します。


なぜ焼けるのか?「ワニ口がショート線になる」恐怖
さっきの危険な接続で何が起きていたか、ゆっくり追いかけてみましょう。
ハイサイドMOSFETのソースは、回路が動いている瞬間によっては24Vになっています(上側がONのとき)。一方、オシロのワニ口クリップは、さっきお話したとおり大地アースと同じ0Vです。
このワニ口を、24Vになっているソース端子に挟むと、何が起きるか──
⚡ 起きていること
回路の24Vの場所と、地球(0V)が、たった1本の細いワニ口クリップとケーブルで直結されてしまう。
→ 24Vの電源から見ると、これは「電源プラスとマイナスを針金1本でショートさせた」のと同じ状態。
→ 電源は「あれっ、抵抗ゼロ?じゃあめちゃくちゃ電流流せる!」と、数A〜数十Aの大電流を流す。
→ 電流の通り道(プローブのGND線、基板のパターン、シャント抵抗、MOSFETなど)の中でいちばん弱い部分が真っ先に焼け落ちる。
わかりやすいたとえで言うと、「家のコンセントの穴に、ピンセットの両端を突っ込んだ」みたいなものです。当然、ピンセットは赤熱して曲がるか、ブレーカーが落ちるか、もっと悪いことが起きますよね。それと同じことが、回路の中で起きているわけです。
🔥 これが「ワニ口が共通GNDだから起きる事故」の正体です。「測定するつもり」が、「ショート回路を作るつもり」に変わってしまったわけですね。

じゃあワニ口はどこに繋げばいいの?「回路のGNDだけ」が答え
ここまで読んで、「えっ、じゃあワニ口どこに繋げばいいの…?」と不安になったかもしれません。安心してください。ルールはとてもシンプルです。
✅ ワニ口を繋いでいい場所
測定している回路の「GND(0V)」と同じ電位の場所だけ
理由はシンプルで、回路のGNDなら、もともと0Vだから、大地アースの0Vと繋いでもショートにならないからです。同じ電位どうしを繋いでも、何も流れません。
具体的には:
✅ 電源の「−(マイナス)」端子
✅ 基板にプリントされている「GND」「PGND」と書かれたパッド
✅ 大きなベタGNDの銅箔エリア
✅ GND端子台、テストポイント「TP-GND」
逆に、絶対に繋いではいけないのは:
❌ ハイサイドMOSFETのソース(電源プラスに近い電位になることがある)
❌ 信号が出ている配線の途中
❌ AC電源回路の「ライブ側」(最悪、命に関わります)
❌ 「ここ何Vかわからないな…」と思った場所すべて
迷ったときの鉄則は、「測る前にテスタでその場所の電圧を確認する」。これだけで、ほとんどの事故は防げます。

「でもハイサイドのVgsをどうしても測りたい!」というあなたへ
ここで疑問が湧きますよね。「じゃあハイサイドMOSFETのVgsはどうやって測ればいいの?」と。
答えは、「受動プローブでは無理。別の道具を使う」です。代表的な方法は3つあります。
① 差動プローブを使う
2本の信号線の「差」を測る専用プローブ。GNDに縛られないので、どこでも安全に測れます。値段は数万円〜数十万円とちょっと高いですが、ハイサイド測定をやるなら必須の道具です。
② 絶縁オシロを使う
各チャンネルがオシロ本体と電気的に切り離されているオシロ。これも安全にハイサイドが測れます。HantekやMicsigなどから比較的安価なモデルが出ています。
③ 数学演算「A−B」を使う
受動プローブを2本使い、それぞれのソース電位とゲート電位をオシロのGND基準で測って、オシロの演算機能で「CH1 − CH2」を表示する方法。安く済みますが、コモンモードノイズに弱く、精度が落ちます。
詳しい使い分けは、この第3章の後半(差動プローブ編)で改めて解説しますので、今はとにかく「受動プローブのワニ口を、GND以外には絶対に挟まない」ということだけ覚えて帰ってください。
この記事で出てきた「大地アース」「回路GND」の違いを、もう一歩深く理解したい方へ。GNDの種類が整理できます。


現場でよくある「ヒヤリハット」5選
私や周りのエンジニアが実際にやってしまった、あるいは紙一重で回避できた「ヒヤリハット」をいくつか紹介します。「あ、これ自分もやりそう」と思ったら、要注意です。
① ハイサイドのソースにワニ口
本記事の主役。スイッチング電源、モータドライバ、インバータで超頻発する事故。
② AC100Vのライブ側にワニ口
絶対NG。基板どころか、最悪人が感電します。AC1次側を測るときは絶対に絶縁オシロか差動プローブ。
③ 別電源で動いている2枚の基板を同時に測る
たとえば基板AはAC100V電源、基板Bは絶縁DC電源。それぞれのGNDをワニ口で繋ぐと、GND同士が短絡される。
④ オシロを2台使って同じ回路の別の場所を測る
2台のオシロのGNDが両方とも大地アースで繋がっているので、2か所のGND電位が違うと電流が流れる。
⑤ 「絶縁トランスでオシロを浮かせればOK」と思い込む
これ、ネットの古い情報でよく見ますが、絶対にやめてください。オシロの筐体に高電圧が乗って感電します。命に関わるアウト技です。
客先監査で「その測定、GNDの取り方は大丈夫ですか?」と聞かれたら
品質保証や設計の現場では、客先から「その測定波形、本当に正しく取れているの?」と問われることがあります。GNDの扱いは特に質問されやすいポイントです。次の3点で答えられるようにしておきましょう。
① プローブGNDの接続位置
「ワニ口クリップは、基板の◯◯ポイント(回路GND)に接続しています。事前にテスタで0V電位であることを確認済みです。」
② 測定対象がGND基準で測れるか確認済み
「測定対象はローサイド側の信号のため、受動プローブで測定可能と判断しました。ハイサイド側の測定には差動プローブを使用しています。」
③ コモンモードによるノイズ確認
「プローブGNDから測定点までの距離を最短にし、コモンモードノイズの影響を最小化しています。」
よくある質問(FAQ)
まとめ|「ワニ口は地球と繋がっている」を忘れない
📌 受動プローブのワニ口は、オシロ → 電源コード → コンセントを経由して地球(大地アース)とつながっている。
📌 そのため、回路の0V以外の場所にワニ口を挟むと、その瞬間ショート回路ができて基板が焼ける。
📌 ワニ口を繋いでいいのは「回路のGND」だけ。迷ったらテスタで電位を確認する。
📌 ハイサイドや絶縁回路を測りたいときは、受動プローブを諦めて差動プローブか絶縁オシロを使う。
オシロのプローブは、見た目は単なるケーブルでも、中身は「地球と直結された測定棒」です。この事実を一度しっかり頭に入れておけば、もう基板を焼くことはありません。
ちなみに、私が初めて基板を焼いたときの先輩の言葉は「一回焼けば一生忘れない」でした。たしかにそうなのですが、できれば焼かずに覚えていただきたいので、この記事を書きました。

メーカーで電気設計の仕事をしています。普段からオシロやテスタなどの計測器を使う毎日で、自分が現場で「これ知ってたら事故らなかったのにな」と感じたことを記事にまとめています。基板を1度焼いたことがある人間が書いているので、初心者の気持ちには寄り添えるはず…たぶん。