測定技術

ハイサイドVgsの測り方|受動プローブが危険な理由と正解3つ

📚 測定・計測の技術第4章 正しい波形を撮る実践技術
第4章 - 第3回 / 全8回 シリーズ全体: 30 / 69記事
進捗 43%
😣 こんなことで困っていませんか?
  • ハイサイドのVgsを測ろうとしたら、波形がめちゃくちゃになった、あるいはヒューズが飛んだ
  • 「ハイサイドは受動プローブで測るな」と言われたが、なぜダメなのか理由がわからない
  • 差動プローブ・絶縁プローブ、どれを選べばいいか判断できない
✅ この記事でわかること
  • ハイサイドVgsを受動プローブで測ってはいけない本当の理由
  • 正しい3つの測定手段(差動プローブ・絶縁プローブ・ICモニタ)の使い分け
  • 差動プローブを選ぶときに見るべきスペック
✅ 結論(30秒で答え)

ハイサイドのVgsは、受動プローブで測ってはいけません。受動プローブのGNDはオシロを通じてコンセントのアースと共通のため、ハイサイドのソース(GND基準ではない点)にグランドを当てると回路をショートさせ、基板やデバイスを破損します。正しい手段は3つです。①差動プローブでゲートとソースの2点間を直接測る、②絶縁プローブやバッテリ駆動オシロで測定系を浮かせる、③ゲートドライバICのVgsモニタ機能を使う。最も汎用的なのは差動プローブで、帯域・耐圧・CMRRを確認して選びます。

そもそもハイサイドのVgsとは?

ハイサイドのVgsとは、ハーフブリッジなどの上側に位置するスイッチング素子(FET/IGBT)の、ゲート(G)とソース(S)の間の電圧のことです。問題は、このソースの電位がGND(0V)に固定されておらず、スイッチングのたびに0Vと入力電圧の間を高速で行き来する点にあります。

ローサイドとハイサイドの決定的な違い

ローサイド(下側)のFETは、ソースがGNDに繋がっています。そのため、ゲートの電圧をGND基準で測れば、それがそのままVgsになります。受動プローブで普通に測れる、ありがたい場所です。

一方ハイサイド(上側)のFETは、ソースがGNDではなく「スイッチングノード」に繋がっています。ここはオフのとき0V、オンのとき入力電圧(たとえば400V)まで跳ね上がります。つまりハイサイドのソースは「動く基準点」であり、ここをGND基準で測ろうとすると話がまったく変わってきます。

ローサイドFET

  • ソースがGNDに固定
  • 受動プローブで測れる
  • 基準が動かないので安全

ハイサイドFET

  • ソースがスイッチングノードに繋がる
  • 受動プローブは厳禁(ショートする)
  • 基準が0V〜入力電圧で動く

なぜ受動プローブで測ってはいけないのか

受動プローブでハイサイドのVgsを測ってはいけない理由は、受動プローブのGND(グランドリード)がオシロを通じてコンセントのアース(0V)と共通だからです。ハイサイドのソースは0Vではないので、そこにグランドを当てた瞬間、ソースとアースが直結され、回路をショートさせてしまいます。

ワニ口を当てた瞬間に何が起きるか

ハイサイドのソース(スイッチングノード)にグランドリードを当てると、その点が強制的に0V(アース)に引き下げられます。すると、ローサイドFETがオンしている瞬間には、入力電圧→ハイサイドのソース→グランドリード→オシロのアース、という巨大な短絡電流の経路ができます。この電流でグランドリードが焼ける、FETが壊れる、ヒューズが飛ぶ、最悪は基板が燃えます。

🔥 実際に起きた失敗
ハーフブリッジのハイサイドVgsを受動プローブのワニ口でソースに当てた瞬間、ローサイドFETのドレインとオシロのアースが短絡経路を作り、保護ヒューズが飛びました(DSO-X 3024A、5V/div、500ns/div)。回路は正常で、原因は完全に「測り方」でした。

この「GND共通」という構造の危険性は、ハイサイド測定に限らず受動プローブ全般の弱点です。詳しくは 受動プローブのGNDは"共通"|基板が焼ける本当の理由 で解説しています。

⚠️ よくある誤解
「電圧が低い回路(5Vなど)なら受動プローブでも大丈夫では?」という質問が多いですが、電圧の高低ではなく「ソースがGNDに繋がっているか」が問題です。低電圧でもハイサイドはハイサイドであり、グランドを当てればショート経路ができます。

ハイサイドVgsの正しい測り方・3つの手段

ハイサイドのVgsを安全に測る手段は3つです。汎用性が高い順に、差動プローブ、絶縁(フローティング)プローブやバッテリ駆動オシロ、ゲートドライバICのモニタ機能です。最も実務で使われるのは差動プローブです。

手段①:差動プローブ(最も汎用的)

差動プローブは、2点間の電位差だけを測るプローブです。ゲートに+リード、ソースに−リードを当てれば、ソースがどれだけ動いていても「ゲートとソースの差(=Vgs)」だけを取り出せます。アースと繋がらないので、ショートの心配がありません。ハイサイドVgs測定の第一選択です。

手段②:絶縁プローブ/バッテリ駆動オシロ

光絶縁プローブや、バッテリ駆動でアースから切り離されたオシロを使う方法です。測定系そのものを「浮かせる」ことで、コモンモードの経路を根本から断ちます。高電圧・高速の現場や、差動プローブの帯域・耐圧が足りないときに有効です。

手段③:ゲートドライバICのモニタ機能

最近のゲートドライバICには、Vgsを内部で監視し、異常を検出する機能を持つものがあります。波形そのものをオシロで見るわけではありませんが、量産品の保護や状態監視には有効です。設計段階では差動プローブ、運用ではICモニタ、という棲み分けになります。

手段 向いている場面 注意点
差動プローブ 大半のハイサイド測定 帯域・耐圧・CMRRを確認
絶縁プローブ/バッテリ駆動 高電圧・高速・差動が苦手な帯域 高価・バッテリ管理が必要
ICモニタ機能 量産品の保護・状態監視 波形そのものは見えない

差動プローブと絶縁オシロのより細かい使い分けは 絶縁オシロと差動プローブの使い分け で解説しています。

差動プローブの選び方と測定手順

差動プローブを選ぶときは、帯域・耐圧・CMRR(同相除去比)の3つを必ず確認します。実際にハーフブリッジのハイサイドVgsを測ったときは、差動プローブに替えただけで受動プローブのときに飛んでいたヒューズが飛ばなくなり、ゲート波形のミラープラトーまできれいに観測できました(DSO-X 3024A、5V/div、500ns/div)。

選定で見る3つのスペック

  • 帯域:Vgsの立ち上がりを見るなら、信号周波数の5倍以上が目安。ゲート波形は数十MHz成分を含むため余裕を持たせる。
  • 耐圧(同相電圧):スイッチングノードの最大電圧(例:DCリンク400V)に耐える定格を選ぶ。足りないと壊れる。
  • CMRR(同相除去比):ソースが大きく動くハイサイドでは特に重要。CMRRが低いと、ソースの揺れがVgs波形に漏れ込む。
STEP 1

回路の電源を切った状態で、差動プローブの+をゲート、−をソースに当てる。リードはできるだけ短く、ねじって(ツイスト)配線する。

STEP 2

プローブのアッテネータ設定(例:×10/×100)をオシロと一致させ、ゼロ点(オフセット)を校正する。

STEP 3

電源を入れ、低い電圧から徐々に上げて波形を確認。Vgsのしきい値・ミラープラトー・オーバーシュートをチェックする。

ゲート波形の見方そのものは、回路設計側の ゲート駆動回路とは? とあわせて読むと、何を見るべきかがはっきりします。

現場でやりがちな落とし穴

差動プローブを使えば安全、で終わりではありません。使い方を間違えると、壊れはしなくても波形が嘘になります。

⚠️ よくある落とし穴
  • 差動プローブのリードを長く・離して配線:ループがアンテナになり、ソースの揺れ(コモンモード)が漏れ込む。リードはツイストして最短に。
  • 同相電圧の定格オーバー:「差動だから安全」と油断し、耐圧不足のプローブを高電圧に当てて破損。
  • 受動プローブで「ローサイド側だけ測ってハイサイドを推測」:ハイサイドのゲート遅延やデッドタイムは推測では見えない。直接測るしかない。

差動プローブを使っても波形にノイズが乗る場合、その正体はコモンモードノイズであることが多いです。仕組みと対策は コモンモードノイズが波形に乗る原因 で解説しています。

どの手段を選ぶか・一発判断フロー

迷ったら、次の順番で判断すればまず間違いません。ハイサイドかどうか、電圧はどれくらいか、で選ぶ手段が決まります。

状況 選ぶ手段
ローサイド(ソースがGND) 受動プローブでOK
ハイサイド・中低電圧 差動プローブ
ハイサイド・高電圧/高速 高耐圧差動 or 絶縁プローブ
量産品の状態監視 ゲートドライバICのモニタ機能
💡 ポイント
「ハイサイドが出てきたら受動プローブはしまう」と覚えておけば、まず事故りません。

よくある質問

Q. ハイサイドのVgsを受動プローブで測るとどうなる?

A. グランドがアースと共通のため、ソースに当てた瞬間に回路がショートし、基板やFETが破損します。

Q. ハイサイド Vgs 測定に一番おすすめの手段は?

A. 差動プローブです。ゲートとソースの2点間を測るのでアースとショートせず、最も汎用的に使えます。

Q. 低電圧ならハイサイドでも受動プローブで大丈夫?

A. ダメです。電圧の高低ではなく、ソースがGNDに繋がっていないことが問題で、低電圧でもショート経路ができます。

Q. 差動プローブを選ぶとき何を見ればいい?

A. 帯域・耐圧(同相電圧)・CMRRの3つです。ハイサイドではCMRRと耐圧が特に重要になります。

まとめ

📝 この記事の要点
  • ハイサイドのソースはGNDに固定されておらず、0V〜入力電圧で動く「動く基準点」。
  • 受動プローブはGNDがアースと共通のため、ハイサイドに当てるとショートして基板が壊れる。電圧の高低は関係ない。
  • 正しい手段は3つ:差動プローブ/絶縁プローブ・バッテリ駆動オシロ/ICモニタ機能。
  • 第一選択は差動プローブ。帯域・耐圧・CMRRを確認して選ぶ。
  • 差動でもリードを長く離すとコモンモードが漏れ込む。ツイストして最短に。
S
シラス
電験三種 / QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証に従事する現役エンジニア

実機 DSO-X 3024A でハーフブリッジのハイサイドVgsを測定し、受動プローブでヒューズを飛ばした失敗と、差動プローブに替えて安全に波形を取得した経験をもとに執筆しています。一般論ではなく、現場で実際に効いた手順を書いています。

📚 次に読むべき記事

📘 測定・計測の技術 学習ロードマップ →

全69記事の全体像と読む順番がわかるシリーズの目次。迷ったらここから。

📘 絶縁オシロと差動プローブの使い分け →

ハイサイド測定で選んだ手段を、より深く使い分けるための次のステップ。

📘 ゲート駆動回路とは? →

そもそもVgs波形で何を確認すべきかを、回路設計の視点で学べる(クロスカテゴリ)。

タグ

-測定技術
-