- ハイサイドのVgsを測ろうとしたら、波形がめちゃくちゃになった、あるいはヒューズが飛んだ
- 「ハイサイドは受動プローブで測るな」と言われたが、なぜダメなのか理由がわからない
- 差動プローブ・絶縁プローブ、どれを選べばいいか判断できない
- ハイサイドVgsを受動プローブで測ってはいけない本当の理由
- 正しい3つの測定手段(差動プローブ・絶縁プローブ・ICモニタ)の使い分け
- 差動プローブを選ぶときに見るべきスペック
ハイサイドのVgsは、受動プローブで測ってはいけません。受動プローブのGNDはオシロを通じてコンセントのアースと共通のため、ハイサイドのソース(GND基準ではない点)にグランドを当てると回路をショートさせ、基板やデバイスを破損します。正しい手段は3つです。①差動プローブでゲートとソースの2点間を直接測る、②絶縁プローブやバッテリ駆動オシロで測定系を浮かせる、③ゲートドライバICのVgsモニタ機能を使う。最も汎用的なのは差動プローブで、帯域・耐圧・CMRRを確認して選びます。
目次
そもそもハイサイドのVgsとは?
ハイサイドのVgsとは、ハーフブリッジなどの上側に位置するスイッチング素子(FET/IGBT)の、ゲート(G)とソース(S)の間の電圧のことです。問題は、このソースの電位がGND(0V)に固定されておらず、スイッチングのたびに0Vと入力電圧の間を高速で行き来する点にあります。
ローサイドとハイサイドの決定的な違い
ローサイド(下側)のFETは、ソースがGNDに繋がっています。そのため、ゲートの電圧をGND基準で測れば、それがそのままVgsになります。受動プローブで普通に測れる、ありがたい場所です。
一方ハイサイド(上側)のFETは、ソースがGNDではなく「スイッチングノード」に繋がっています。ここはオフのとき0V、オンのとき入力電圧(たとえば400V)まで跳ね上がります。つまりハイサイドのソースは「動く基準点」であり、ここをGND基準で測ろうとすると話がまったく変わってきます。
ローサイドFET
- ソースがGNDに固定
- 受動プローブで測れる
- 基準が動かないので安全
ハイサイドFET
- ソースがスイッチングノードに繋がる
- 受動プローブは厳禁(ショートする)
- 基準が0V〜入力電圧で動く

なぜ受動プローブで測ってはいけないのか
受動プローブでハイサイドのVgsを測ってはいけない理由は、受動プローブのGND(グランドリード)がオシロを通じてコンセントのアース(0V)と共通だからです。ハイサイドのソースは0Vではないので、そこにグランドを当てた瞬間、ソースとアースが直結され、回路をショートさせてしまいます。
ワニ口を当てた瞬間に何が起きるか
ハイサイドのソース(スイッチングノード)にグランドリードを当てると、その点が強制的に0V(アース)に引き下げられます。すると、ローサイドFETがオンしている瞬間には、入力電圧→ハイサイドのソース→グランドリード→オシロのアース、という巨大な短絡電流の経路ができます。この電流でグランドリードが焼ける、FETが壊れる、ヒューズが飛ぶ、最悪は基板が燃えます。
ハーフブリッジのハイサイドVgsを受動プローブのワニ口でソースに当てた瞬間、ローサイドFETのドレインとオシロのアースが短絡経路を作り、保護ヒューズが飛びました(DSO-X 3024A、5V/div、500ns/div)。回路は正常で、原因は完全に「測り方」でした。
この「GND共通」という構造の危険性は、ハイサイド測定に限らず受動プローブ全般の弱点です。詳しくは 受動プローブのGNDは"共通"|基板が焼ける本当の理由 で解説しています。
「電圧が低い回路(5Vなど)なら受動プローブでも大丈夫では?」という質問が多いですが、電圧の高低ではなく「ソースがGNDに繋がっているか」が問題です。低電圧でもハイサイドはハイサイドであり、グランドを当てればショート経路ができます。

ハイサイドVgsの正しい測り方・3つの手段
ハイサイドのVgsを安全に測る手段は3つです。汎用性が高い順に、差動プローブ、絶縁(フローティング)プローブやバッテリ駆動オシロ、ゲートドライバICのモニタ機能です。最も実務で使われるのは差動プローブです。
手段①:差動プローブ(最も汎用的)
差動プローブは、2点間の電位差だけを測るプローブです。ゲートに+リード、ソースに−リードを当てれば、ソースがどれだけ動いていても「ゲートとソースの差(=Vgs)」だけを取り出せます。アースと繋がらないので、ショートの心配がありません。ハイサイドVgs測定の第一選択です。
手段②:絶縁プローブ/バッテリ駆動オシロ
光絶縁プローブや、バッテリ駆動でアースから切り離されたオシロを使う方法です。測定系そのものを「浮かせる」ことで、コモンモードの経路を根本から断ちます。高電圧・高速の現場や、差動プローブの帯域・耐圧が足りないときに有効です。
手段③:ゲートドライバICのモニタ機能
最近のゲートドライバICには、Vgsを内部で監視し、異常を検出する機能を持つものがあります。波形そのものをオシロで見るわけではありませんが、量産品の保護や状態監視には有効です。設計段階では差動プローブ、運用ではICモニタ、という棲み分けになります。
| 手段 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 差動プローブ | 大半のハイサイド測定 | 帯域・耐圧・CMRRを確認 |
| 絶縁プローブ/バッテリ駆動 | 高電圧・高速・差動が苦手な帯域 | 高価・バッテリ管理が必要 |
| ICモニタ機能 | 量産品の保護・状態監視 | 波形そのものは見えない |
差動プローブと絶縁オシロのより細かい使い分けは 絶縁オシロと差動プローブの使い分け で解説しています。

差動プローブの選び方と測定手順
差動プローブを選ぶときは、帯域・耐圧・CMRR(同相除去比)の3つを必ず確認します。実際にハーフブリッジのハイサイドVgsを測ったときは、差動プローブに替えただけで受動プローブのときに飛んでいたヒューズが飛ばなくなり、ゲート波形のミラープラトーまできれいに観測できました(DSO-X 3024A、5V/div、500ns/div)。
選定で見る3つのスペック
- 帯域:Vgsの立ち上がりを見るなら、信号周波数の5倍以上が目安。ゲート波形は数十MHz成分を含むため余裕を持たせる。
- 耐圧(同相電圧):スイッチングノードの最大電圧(例:DCリンク400V)に耐える定格を選ぶ。足りないと壊れる。
- CMRR(同相除去比):ソースが大きく動くハイサイドでは特に重要。CMRRが低いと、ソースの揺れがVgs波形に漏れ込む。
回路の電源を切った状態で、差動プローブの+をゲート、−をソースに当てる。リードはできるだけ短く、ねじって(ツイスト)配線する。
プローブのアッテネータ設定(例:×10/×100)をオシロと一致させ、ゼロ点(オフセット)を校正する。
電源を入れ、低い電圧から徐々に上げて波形を確認。Vgsのしきい値・ミラープラトー・オーバーシュートをチェックする。
ゲート波形の見方そのものは、回路設計側の ゲート駆動回路とは? とあわせて読むと、何を見るべきかがはっきりします。

現場でやりがちな落とし穴
差動プローブを使えば安全、で終わりではありません。使い方を間違えると、壊れはしなくても波形が嘘になります。
- 差動プローブのリードを長く・離して配線:ループがアンテナになり、ソースの揺れ(コモンモード)が漏れ込む。リードはツイストして最短に。
- 同相電圧の定格オーバー:「差動だから安全」と油断し、耐圧不足のプローブを高電圧に当てて破損。
- 受動プローブで「ローサイド側だけ測ってハイサイドを推測」:ハイサイドのゲート遅延やデッドタイムは推測では見えない。直接測るしかない。
差動プローブを使っても波形にノイズが乗る場合、その正体はコモンモードノイズであることが多いです。仕組みと対策は コモンモードノイズが波形に乗る原因 で解説しています。
どの手段を選ぶか・一発判断フロー
迷ったら、次の順番で判断すればまず間違いません。ハイサイドかどうか、電圧はどれくらいか、で選ぶ手段が決まります。
| 状況 | 選ぶ手段 |
|---|---|
| ローサイド(ソースがGND) | 受動プローブでOK |
| ハイサイド・中低電圧 | 差動プローブ |
| ハイサイド・高電圧/高速 | 高耐圧差動 or 絶縁プローブ |
| 量産品の状態監視 | ゲートドライバICのモニタ機能 |
「ハイサイドが出てきたら受動プローブはしまう」と覚えておけば、まず事故りません。

よくある質問
まとめ
- ハイサイドのソースはGNDに固定されておらず、0V〜入力電圧で動く「動く基準点」。
- 受動プローブはGNDがアースと共通のため、ハイサイドに当てるとショートして基板が壊れる。電圧の高低は関係ない。
- 正しい手段は3つ:差動プローブ/絶縁プローブ・バッテリ駆動オシロ/ICモニタ機能。
- 第一選択は差動プローブ。帯域・耐圧・CMRRを確認して選ぶ。
- 差動でもリードを長く離すとコモンモードが漏れ込む。ツイストして最短に。
実機 DSO-X 3024A でハーフブリッジのハイサイドVgsを測定し、受動プローブでヒューズを飛ばした失敗と、差動プローブに替えて安全に波形を取得した経験をもとに執筆しています。一般論ではなく、現場で実際に効いた手順を書いています。
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ハイサイド測定で選んだ手段を、より深く使い分けるための次のステップ。
そもそもVgs波形で何を確認すべきかを、回路設計の視点で学べる(クロスカテゴリ)。