- オシロの波形に、信号とは関係のない細かいギザギザやウネリが乗ってしまう
- プローブの当て方を変えると、ノイズの大きさが変わってしまい、どれが「本当の波形」かわからない
- 「コモンモードノイズ」という言葉は聞くが、なぜ波形に乗るのか仕組みが腑に落ちない
- コモンモードノイズが波形に乗る本当の原因(カギは「アースの取り方」)
- グランドリード・GND点の見直しだけでノイズを減らす具体的な手順
- 差動プローブ・絶縁オシロをどう使い分けるか
コモンモードノイズは、オシロのGNDと被測定回路のGNDに電位差があるとき、その差電圧がプローブのグランドリードを通って波形に重畳する現象です。原因の大半は「アースの取り方」にあります。グランドリードを短くする、測定点とGND点を近づける、それでも消えなければ差動プローブや絶縁オシロを使う、という3段階で波形のノイズは大きく減ります。受動プローブはオシロのGNDと電源アースが共通のため、コモンモードに弱い点を理解しておくことが第一歩です。
目次
そもそもコモンモードノイズとは?
コモンモードノイズとは、信号線とGND線の「両方に・同じ向きで」乗ってくるノイズのことです。これに対して、信号線とGND線で「逆向き(行きと帰り)」に乗るノイズをノーマルモードノイズと呼びます。この2つを区別できると、なぜオシロの波形が汚れるのかが一気に見えてきます。
「行きと帰りが同じ向き」が厄介な理由
電気は通常、行き(信号)と帰り(GND)でペアになって流れます。ノーマルモードノイズは行きと帰りで逆向きなので、回路の中で打ち消し合いやすい性質があります。ところがコモンモードノイズは行きも帰りも同じ向きに揺れるため、回路全体が一緒に「上下にユサユサ揺れる」ような状態になります。揺れる土台の上で波形を見ているようなもので、これがオシロ画面に細かいノイズやウネリとして現れます。
ノーマルモード=行きと帰りで逆向き(打ち消しやすい)。コモンモード=行きと帰りで同じ向き(基準が丸ごと揺れる)。波形を汚す犯人の多くは後者です。
コモンモードとノーマルモードの違いそのものについては コモンモードノイズとノーマルモードノイズの違い で詳しく解説しています。

なぜコモンモードノイズが波形に乗るのか
コモンモードノイズが波形に乗る根本原因は、オシロのGNDと被測定回路のGNDの間に「電位差」があり、その差がプローブのグランドリード(GND線)を通って測定値に足し算されてしまうことです。つまり、ノイズ源は回路の中だけでなく「アースの取り方」そのものにあります。
オシロのGNDはコンセントのアースと繋がっている
見落とされがちですが、一般的なオシロスコープのGNDは、電源コードの3本目の足(保護接地)を通じてコンセントのアースに繋がっています。プローブのワニ口クリップ(グランドリード)を回路のどこかに繋いだ瞬間、「回路のその点」と「コンセントのアース」が電気的に直結されます。
スイッチング電源やインバータのように高速でON/OFFする回路は、GNDの電位自体が高速でわずかに揺れています。この揺れている点とコンセントのアース(ほぼ動かない基準)を繋ぐと、その電位差がそのままノイズ電流となってグランドリードを流れ、波形に重畳します。これがコモンモードノイズの正体です。
「ノイズが乗るのは回路設計が悪いから」と決めつけるのは早計です。多くの場合、回路は正常で、測り方(アースの取り方)がノイズを作り出しています。プローブを当てる前と後で波形が変わるなら、それは測定系が原因のサインです。

受動プローブがコモンモードに弱い理由
標準で付属する受動プローブは、グランドリードがオシロのGND(=コンセントのアース)と共通になっています。この「GND共通」という構造のせいで、受動プローブはコモンモードノイズに構造的に弱く、ハイサイド(GNDに繋がっていない高い側)の測定では特に大きなノイズや誤った波形を出します。
受動プローブ(GND共通)
- グランドリードがオシロのGND=アースと直結
- 回路GNDとアースの電位差がそのまま波形に乗る
- ハイサイド測定では最悪の場合ショート・基板破損も
差動プローブ(GND非依存)
- 2点間の「電位差」だけを測る
- アースとの電位差(コモンモード)を除去できる
- ハイサイドや高電圧でも安全に測れる
受動プローブのGNDが共通であることの危険性は 受動プローブのGNDは"共通"|基板が焼ける本当の理由 で詳しく解説しています。あわせて読むと、なぜアースの取り方が命取りになるのかがよくわかります。
スイッチングのスピード(dV/dt)が速いほど、GNDの揺れも大きくなり、コモンモードノイズは増えます。スイッチング電源がそもそもノイズの塊である理由は そもそもノイズとは何か? でも触れています。

コモンモードノイズを減らす具体的な手順
コモンモードノイズ対策は、お金のかからない順に試すのが鉄則です。まずグランドリードを短くし、次に測定点とGND点を近づけ、それでも消えなければ差動プローブや絶縁オシロを導入します。実際、筆者がDSO-X 3024A(5V/div、1μs/div)でスイッチング電源を測ったとき、同じ信号点なのにワニ口のグランドリードを伸ばしただけで数百mVp-pのノイズが波形に乗りました。これはグランドリードのループが大きくなったことが原因です。
グランドリードを最短にする。長いワニ口クリップを外し、プローブ先端近くのバネ状のGNDスプリングを使う。ループ面積を小さくするだけでノイズが激減することが多い。
測定点とGND点を物理的に近づける。信号点のすぐ隣のGNDにグランドを落とす。離れたところのGNDに繋ぐと、その間の電位差を拾ってしまう。
差動プローブを使う。2点間の電位差だけを測るため、アースとの電位差(コモンモード)を原理的に除去できる。ハイサイドや高速スイッチングはこれが基本。
絶縁オシロ(バッテリ駆動・フローティング)を使う。オシロ自体をアースから切り離すことで、根本からコモンモードの経路を断つ。最終手段かつ最も確実。
「短く・近く・差動で・浮かす」
グランドリードを短くする理由をもっと深く知りたい場合は グランドリードを短くする理由|ワニ口の罠 を参照してください。

現場でやりがちな落とし穴
コモンモードノイズの対策で最も多い失敗は、ノイズを「回路のせい」と思い込んでフィルタ部品を追加してしまうことです。測り方が原因なのに回路をいじると、本来不要な部品を増やすだけでなく、本当の動作までわからなくなります。
- ワニ口クリップのまま高速波形を測る:グランドリードのループがアンテナになり、コモンモードもリンギングも拾う。
- 2台のオシロのGNDを別々の点に繋ぐ:GND同士がアース経由でショートし、大電流が流れて部品が壊れることがある。
- 差動プローブのスキュー(遅延差)を無視する:複数チャネルでタイミングがずれ、誤った波形に見える。
波形のギザギザがコモンモードノイズなのか、それとも配線インダクタンスによるリンギングなのかは、見た目が似ていて混同しやすいポイントです。両者の切り分けは 波形にリンギングが出るのはなぜ? とあわせて読むと理解が深まります。
「これはコモンモードか?」を一発で見抜く方法
波形のノイズがコモンモード由来かどうかは、プローブの先端とグランドリードを「同じ1点(信号点)に両方当てる」だけで判別できます。差電圧はゼロのはずなので、それでも画面にノイズが出るなら、それは測定系が拾っているコモンモードノイズです。
| テスト | 結果 | 判定 |
|---|---|---|
| 先端とGNDを同じ点に当てる | ノイズが残る | 測定系が原因(コモンモード) |
| 先端とGNDを同じ点に当てる | ノイズが消える | 回路側に実在する信号 |
| グランドリードを短くする | ノイズが減る | ループ面積・アースが原因 |
この「先端とGNDを同じ点に当てる」テストは器材ゼロでできるので、波形を疑ったらまず試す価値があります。なお、そもそもプローブのGNDがオシロを経由してアースとどう繋がっているかは GNDとは何か?電流の帰り道である本当の理由 を読むと土台から理解できます。

よくある質問
まとめ
- コモンモードノイズは、オシロのGNDと回路GNDの電位差がグランドリードを通って波形に乗る現象。
- 原因の大半は回路ではなく「アースの取り方」。プローブを当てて波形が変わるなら測定系が犯人。
- 受動プローブはGND共通のためコモンモードに弱い。ハイサイドは差動プローブが基本。
- 対策は「短く・近く・差動で・浮かす」の順。まずグランドリードを最短にする。
- 先端とGNDを同じ点に当てれば、コモンモードか実信号かを器材ゼロで判別できる。
実機 DSO-X 3024A でスイッチング電源の波形を測定し、グランドリードの取り回しでノイズが激変する現象を実際に確認した経験をもとに執筆しています。一般論ではなく、現場で実際に効いた手順を書いています。
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