修正項(CT)とは?なぜ T2/N を引くのか、数値例と図解で完全理解【実験計画法】
こんにちは、シラスです。
実験計画法や分散分析、あるいはQC検定の勉強を始めると、必ず登場する謎の計算式があります。
修正項(Correction Term)
教科書には「データの総和(T)を二乗して、データ数(N)で割れ」と書いてあります。そして、平方和(S)を求めるために、必ずこの CT を引き算させられます。
「計算手順は覚えたけど、これ、一体何のために引いてるの?」
「データの二乗和から引くことに、何の意味があるの?」
そんなモヤモヤを抱えている方へ。
今日は、修正項(CT)がやっている「引く作業」の正体を、具体的な数字のシミュレーションで解き明かします。
目次
1. 結論:修正項とは「下駄(ゲタ)」を脱がす作業
まずは結論からイメージしましょう。
修正項を引くという行為は、グラフの「基準線(ゼロ点)」を平均値の位置までズラす作業です。
なぜ引くの?
私たちが知りたいのは「平均値からのバラつき」だけ。
データの高さに含まれる「余計な標高(下駄)」が邪魔なので、CTを使ってキャンセルしている。
まだピンとこないかもしれません。
では、簡単な「3つの数字」を使って実験してみましょう。
2. 数値実験:データが「100」増えてもバラつきは同じ?
ここに、2つのデータセットがあります。
- データA: { 3, 4, 5 }
- データB: { 103, 104, 105 }
データBは、データAに「100」を足しただけです。
直感的に分かる通り、この2つのグループの「バラつき具合」は全く同じですよね?
(どちらも、真ん中から ±1 ズレているだけです)
では、実際に計算してみましょう。ここに「修正項」の威力が隠されています。
手順1:そのまま二乗して足してみる(Σx2)
まず、何も考えずにそれぞれのデータを二乗して合計します。
🔹 データA (3, 4, 5) の場合
32 + 42 + 52 = 9 + 16 + 25 = 50
🔹 データB (103, 104, 105) の場合
1032 + 1042 + 1052 = 10609 + 10816 + 11025 = 32,450
見てください。バラつきは同じはずなのに、データBの方は「32,450」という巨大な数字になってしまいました。
これは、データBに含まれる「100」という「底上げ分(下駄)」も一緒に二乗して合計してしまったからです。
このままでは「バラつき」の指標として使えません。そこで登場するのが修正項(CT)です。
手順2:修正項(T2/N)を計算する
修正項の公式を使います。
🔹 データA (合計12, N=3) の場合
🔹 データB (合計312, N=3) の場合
データBの修正項は、ものすごく大きな値になりました。これが「底上げ分のエネルギー」です。
手順3:引き算をする(S = Σx2 - CT)
さあ、最後に引き算(修正)をします。
- データA の平方和: 50 - 48 = 2
- データB の平方和: 32450 - 32448 = 2
なんと!どちらも「2」になりました!
修正項(CT)を引くことで、データに含まれていた「100」という邪魔な下駄がきれいに消え去り、純粋な「バラつき(2)」だけが残りました。
これが修正項の役割です。
どんなにデータが大きくても、「平均値の分のパワー」を強制的にキャンセルして、バラつきだけをあぶり出すのです。
3. そもそも、なぜこの式になるの?(数学的な証明)
「意味はわかったけど、なんで T2/N を引くことになるの?」
数式が気になる方のために、中学・高校数学レベルで丁寧に証明してみましょう。
本来、平方和(S)の定義は「偏差(平均とのズレ)の二乗の合計」です。
このカッコの中身を展開して、∑ を分配していきます。
ステップ1:カッコを展開する
これを ∑ の中に入れます。
S = ∑(x2 - 2xx + x2)
ステップ2:∑ をバラバラにする
足し算・引き算は分けて書けます。
S = ∑x2 - ∑2xx + ∑x2
ステップ3:定数を整理する(ここが重要!)
∑ に関係ない「定数」を整理します。
- 2 と x(平均値)は定数なので、∑ の外に出せます。
- 最後の項の ∑x2 は、「定数 x2 をデータ数 N 個分足す」という意味なので、N × x2 になります。
ステップ4:T(合計)と N(データ数)に置き換える
ここで、以下の関係式を使います。
- データの合計: ∑x = T
- 平均値: x = T / N
これを式に代入します。
= ∑x2 -
= ∑x2 -
ステップ5:引き算して完成
後ろの2つの項(分数の部分)を計算します。
-2個 + 1個 = -1個 ですね。
ほら!最後に出てきました。
S = (二乗和) - 修正項(CT)
この後ろの部分が、まさに修正項(CT)です。
つまり、修正項はポッと出の公式ではなく、「偏差の二乗」を展開して整理したら自然と出てきた残りカスなのです。
4. 実務での注意点:電卓計算のミスを防ぐ
修正項の意味が分かったところで、実務(QC検定など)での計算ミスを防ぐコツをお伝えします。
修正項の計算で一番多いミスはこれです。
- ❌ 間違い: 二乗してから、足す。 ∑x2
- ⭕️ 正解: 足してから、二乗する。 (∑x)2
電卓を叩くときは、以下の順番を体に染み込ませてください。
まとめ
修正項(CT)は、単なる計算手続きではありません。
- データの持っている「底上げ分(平均レベル)」をキャンセルする装置
- データを「原点中心」から「平均値中心」の視点に切り替えるスイッチ
こう考えると、毎回この計算をするのが少し楽しくなりませんか?
「よし、まずはこのデータの余計な下駄(CT)を脱がせてやるか!」と思いながら計算すれば、もう実験計画法は怖くありません。
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