こんにちは、シラスです。
品質管理(QC)の現場では、2種類の「悪いデータ」を扱います。
この2つの違い、あなたは説明できますか?
- 🅰️ 不良率(不適合品率): 5%
- 🅱️ 欠点数(不適合数): 5個
「似たようなものでしょ?」と思うかもしれませんが、統計学的には「使う分布(住む世界)」が全く違います。
ここを混同すると、QC検定で計算式を間違えるだけでなく、実務でもトンチンカンな分析をしてしまいます。
今日は、計数値検定の後半戦。
「ポアソン分布」を使った、母不適合数(欠点数)の検定について解説します。
目次
1. 「腐ったリンゴ」か「虫食いリンゴ」か
まず、用語の違いを直感的に理解しましょう。
箱に入ったリンゴの検査をイメージしてください。
「このリンゴは売り物になるか?(〇か×か)」
1個のリンゴに対して、結果は「合格」か「不合格」の2択しかありません。
(分布:二項分布)
「このリンゴに虫食い穴は何個あるか?(0, 1, 2...)」
1個のリンゴの中に、キズや穴は理論上いくつでも発生し得ます。
(分布:ポアソン分布)
今回扱うのは、後者の「個数(カウントデータ)」です。
- 基板上のホコリの数
- 1枚の鋼板にあるキズの数
- 1ヶ月間の事故件数
これらは全て「滅多に起きないけれど、たまにポツポツ発生する」という特徴があり、ポアソン分布に従います。
2. 計算式:ポアソン分布の「奇跡」
ポアソン分布には、統計学的に見て「奇跡」とも言える便利な性質があります。
$$ \text{平均} = \text{分散} = \lambda $$
つまり、「発生数($\lambda$)」さえ分かれば、自動的に「バラつき(分散)」も分かってしまうのです。
検定統計量 Z の式
そして、発生数がある程度大きい(目安:$\lambda \ge 5$)とき、ポアソン分布は正規分布に近似できます。
正規分布にできるなら、あの「Z検定」の出番です。
- $c$:今回カウントした不適合数
- $\lambda_0$:基準となる不適合数
- $\sqrt{\lambda_0}$:標準偏差(分散 $\lambda_0$ のルート)
「ズレを標準偏差で割る」。
構造は平均値の検定と全く同じですね。
3. 実践:キズの数は異常か?
具体的なデータで計算してみましょう。
ある塗装工程では、製品100枚あたり平均して$\lambda_0 = 10$ 個のピンホール(気泡)が発生します。
今日、同じように100枚検査したところ、$c = 18$ 個のピンホールが見つかりました。
「今日の発生数18個は、いつもより多い(異常)と言えるか?」
(有意水準 5% 片側検定)
ステップ1:近似条件の確認
基準値 $\lambda_0 = 10$ です。
$10 \ge 5$ なので、正規分布近似を使ってOKです。
ステップ2:Z値を計算する
公式に代入します。
(※分母は「基準値」のルートであることに注意!)
Z値は 2.53 でした。
ステップ3:判定(1.64の壁)
「増えたかどうか(片側検定)」を見たいので、正規分布の片側5%点 1.645 と比較します。
- 計算値: 2.53
- 基準値: 1.645
2.53 > 1.645 なので、基準を超えています。
判定:有意差あり(異常発生)。
「いつもは10個なのに18個も出た。これは偶然のバラつきとは考えにくい。工程に何かトラブルがあるはずだ!」と結論づけられます。
まとめ
今回は「基準値(10個)」と「現状(18個)」を比較しました。
では、もし以下のようなケースだったらどう検定すればいいでしょうか?
分母(生産量)が違うと、単純に「5個 vs 8個」で比べるわけにはいきません。
次回は、この問題を解決する「母不適合数の差の検定」について解説します。
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