部品選定

【完全図解】逆回復時間(trr)とは?シャッターの閉まる遅さで全て決まる

😣 こんな経験はありませんか?
  • 設計レビューで先輩が「このダイオード、trr遅いから損失でかいよ」と言っていて、わかったフリをして頷いた
  • データシートに「trr = 35ns」と書いてあるけど、これが大きいとどうマズいのか言葉にできない
  • 「FRD(ファストリカバリダイオード)使え」と指示されたけど、普通のダイオードと何が違うのか聞けない
  • 「リカバリ電流でMOSFETが壊れた」と聞いて、ダイオードのせいで隣の部品が壊れる意味がわからない
✅ この記事でわかること
  • 逆回復時間(trr)の正体を「シャッターの閉まる遅さ」で直感的に理解できる
  • なぜtrrが大きいとスイッチング損失が増えるのか、波形レベルで説明できる
  • FRD・SBD・GaN/SiCの違いと、どこで使い分けるかがわかる
  • データシートの「trr」「Qrr」「IRRM」を読めるようになる

こんにちは、シラスです。客先のレビューで「このダイオード、trr遅いから熱くなるよ」と先輩が指摘したとき、隣で「あ、はい…」と頷くしかなかった経験、ありませんか?

trrは「ダイオードがOFFになるまでの遅れ時間」のこと。たったそれだけです。でも、この「遅れ」がスイッチング電源の効率・発熱・ノイズ・隣のMOSFETの寿命まで決めてしまう、超重要なパラメータなんです。

この記事では、trrを「シャッターの閉まる遅さ」というたとえで完全図解します。読み終わる頃には、データシートのtrr値を見ただけで「あ、この回路では損失が〇〇Wくらい出るな」と概算できるようになりますよ。

目次

結論:trrは「ダイオードが閉まりきるまでの遅れ時間」です

最初に結論を言います。

📐 trr(Reverse Recovery Time)の定義
順方向に電流を流していたダイオードに、急に逆電圧をかけたとき、電流が完全にゼロになるまでの遅れ時間のこと。単位はns(ナノ秒)。

普通のダイオードは「電気を一方通行にする部品」と習いますよね。でも実は、それは ゆっくり動かしたときだけ の話。

スイッチング電源のようにマイクロ秒単位でON/OFFを繰り返す世界では、ダイオードは「閉まれと言われてもすぐに閉まれない」のです。閉まりきるまでの数十ナノ秒の間、なんと逆向きにも電流が流れてしまいます

この「閉まりきるまでの時間」がtrrです。ここから先で、その仕組みをじっくり見ていきましょう。

trrを「店のシャッター」で完全理解する

trrの正体を一発で理解するために、たとえ話をします。コンビニのシャッターを想像してください。

シャッターは「閉めろ」と言われてもすぐ閉まらない

営業中(=ダイオードON、順方向電流が流れている状態)から、店長が「閉店!シャッター閉めて!」と叫んだとします(=逆電圧をかけた瞬間)。

理想のシャッターなら一瞬で閉まります。でも現実のシャッターはどうでしょう?

⚠️ 現実のシャッターは…
  1. ガラガラと降りる途中で、駆け込みのお客さんが「ちょっと待って!」と逆方向に通り抜けてしまう
  2. シャッターが床に着くまでに数秒かかる
  3. 完全に閉まりきって、ようやく「人の出入りゼロ」になる

このうち 「閉めろ」と叫んでから完全に閉まりきるまでの時間がtrrです。そして逆方向に通り抜けてしまうお客さんがリカバリ電流(逆回復電流、IRRM)の正体です。

💡 ポイント
ダイオードの「逆方向に電流を流してしまう瞬間」は、シャッター閉店中の「逆走お客さん」と同じ。短ければ短いほど良いダイオードです。

なぜ「逆方向にも電流が流れる」のか?少数キャリアの話

「シャッターの逆走お客さん」のたとえはわかったとして、なぜ物理的にそんな現象が起きるのか?その正体は少数キャリアの蓄積です。

PN接合の中に「お客さん」が溜まっている

ダイオードに順方向電流を流しているとき、PN接合の境界付近には大量のキャリア(電子と正孔)がたまっています。これがあるからこそ電流が流れているのですね。

ここで急に逆電圧をかけると、何が起きるか?

STEP 1

順方向電流が流れていて、PN接合付近に大量の少数キャリアが蓄積されている状態

STEP 2

逆電圧がかかる。でも、蓄積したキャリアが「掃き出される」まで時間がかかる

STEP 3

掃き出される間、逆方向に電流が流れる(これがリカバリ電流 IRRM)

STEP 4

キャリアが全部いなくなって、ようやく電流ゼロ。これでダイオードが「閉まりきった」状態

このSTEP2〜4までの時間が trr(逆回復時間)。STEP3で逆向きに流れる電流のピーク値が IRRM(逆回復電流ピーク値)。そして逆向きに流れた電流の総量(時間で積分した値)が Qrr(逆回復電荷)です。

🔧 現場の声
覚えなくていいですが、PN接合内の少数キャリアの寿命(τ)が長いダイオードほどtrrは長くなります。普通の整流ダイオード(1N4007など)はτが長く、trrは数μs。一方、FRDはτを短くする工夫(ライフタイムコントロール)がされていて、trrを数十nsまで短縮しています。

trr・IRRM・Qrrの波形を読めるようになろう

データシートには必ず「逆回復波形」のグラフが載っています。これを読めるようになると、ダイオード選定が一気にラクになります。

波形の3つの重要パラメータ

記号 名前 意味 単位
trr 逆回復時間 逆電流が流れ始めてから0に戻るまでの時間 ns
IRRM 逆回復電流ピーク値 逆向きに流れる電流の最大値 A
Qrr 逆回復電荷 逆向きに流れた電荷の総量(=波形の面積) nC(ナノクーロン)
📐 3つの関係式(ざっくり)
Qrr ≈ (1/2) × IRRM × trr
※三角形の面積として近似

要するに、Qrrは「逆向きに流れた電流の量」、つまりどれだけ無駄なエネルギーが発生したかを表す指標です。後で出てきますが、スイッチング損失はこのQrrにほぼ比例します。

なぜtrrが大きいとスイッチング損失が増えるのか?

ここが本記事の山場です。trrが大きいと「なんとなく損失が増える」ではなく、具体的にどこで損失が発生するのかを見ていきましょう。

ダイオード側の損失:自分自身が発熱する

逆方向に電流が流れている間、ダイオードには「逆電圧 × 逆電流」の電力が消費されます。これが熱に変わります。

📐 ダイオードのリカバリ損失
P_rr ≈ (1/2) × VR × Qrr × fsw
VR:逆電圧、Qrr:逆回復電荷、fsw:スイッチング周波数

ポイントは、この式に スイッチング周波数fswが掛かっていること。100kHzで動くなら1秒間に10万回、500kHzなら50万回、この損失が発生します。

MOSFET側の損失:もっと厄介な「巻き添え被害」

実は、trrの問題はダイオード本体より、その隣で頑張っているMOSFETの方が深刻です。

降圧コンバータを例に考えましょう。ハイサイドMOSFETがONになる瞬間、対向のフリーホイールダイオード(FWD)はOFFに切り替わろうとします。でも、trrの間ダイオードはまだ「閉まりきっていない」ので、逆向きに電流が流れています。

⚠️ 何が起きるか
ONになりかけのMOSFETに、本来流したい負荷電流に加えて、ダイオードのリカバリ電流(IRRM)まで流れ込んでくる。MOSFETは「本来の電流 + リカバリ電流」のダブルパンチを食らい、ターンON損失が急増します。

これが「ダイオードのtrrが大きいと、MOSFETが熱くなる」という現象の正体。隣の部品のせいで自分が壊れるという、なんとも理不尽な世界です。

ダイオードの種類とtrrの目安(覚えるならコレ)

実務で使うダイオードは大きく4種類。それぞれtrrの桁が違うので、用途別に覚えておきましょう。

種類 trrの目安 用途 代表例
一般整流ダイオード 数μs(=数千ns) 商用50/60Hzの整流のみ 1N4007
ファストリカバリ(FRD) 数百ns 中速スイッチング電源 FR207
超高速(UFRD) 数十ns 高周波スイッチング電源 MUR系
SBD(ショットキー) ほぼゼロ 低電圧・高速 SS34
SiC SBD ほぼゼロ 高電圧・高速(600V〜) C3D系
💡 ポイント:SBDがtrrほぼゼロな理由
ショットキーバリアダイオード(SBD)は、PN接合ではなく金属-半導体接合を使った構造。少数キャリアの蓄積がそもそも発生しないので、trrがほぼゼロです。ただし耐圧が低い(普通は100V以下)のが弱点。これを高電圧でも実現したのがSiC SBDで、最近のEV用充電器や太陽光パワコンで主役になっています。

ダイオードの種類とtrrの目安(覚えるならコレ)

実務で使うダイオードは大きく4種類。それぞれtrrの桁が違うので、用途別に覚えておきましょう。

種類 trrの目安 用途 代表例
一般整流ダイオード 数μs(=数千ns) 商用50/60Hzの整流のみ 1N4007
ファストリカバリ(FRD) 数百ns 中速スイッチング電源 FR207
超高速(UFRD) 数十ns 高周波スイッチング電源 MUR系
SBD(ショットキー) ほぼゼロ 低電圧・高速 SS34
SiC SBD ほぼゼロ 高電圧・高速(600V〜) C3D系
💡 ポイント:SBDがtrrほぼゼロな理由
ショットキーバリアダイオード(SBD)は、PN接合ではなく金属-半導体接合を使った構造。少数キャリアの蓄積がそもそも発生しないので、trrがほぼゼロです。ただし耐圧が低い(普通は100V以下)のが弱点。これを高電圧でも実現したのがSiC SBDで、最近のEV用充電器や太陽光パワコンで主役になっています。

ダイオードの種類とtrrの目安(覚えるならコレ)

実務で使うダイオードは大きく4種類。それぞれtrrの桁が違うので、用途別に覚えておきましょう。

種類 trrの目安 用途 代表例
一般整流ダイオード 数μs(=数千ns) 商用50/60Hzの整流のみ 1N4007
ファストリカバリ(FRD) 数百ns 中速スイッチング電源 FR207
超高速(UFRD) 数十ns 高周波スイッチング電源 MUR系
SBD(ショットキー) ほぼゼロ 低電圧・高速 SS34
SiC SBD ほぼゼロ 高電圧・高速(600V〜) C3D系
💡 ポイント:SBDがtrrほぼゼロな理由
ショットキーバリアダイオード(SBD)は、PN接合ではなく金属-半導体接合を使った構造。少数キャリアの蓄積がそもそも発生しないので、trrがほぼゼロです。ただし耐圧が低い(普通は100V以下)のが弱点。これを高電圧でも実現したのがSiC SBDで、最近のEV用充電器や太陽光パワコンで主役になっています。

データシートのtrr表記の読み方(落とし穴あり)

データシートに「trr = 35ns」とだけ書いてあったら要注意です。実はこの値、測定条件によって何倍にも変わります

trrは「測定条件」とセットで読む

trrは以下の3つの条件で大きく変わります。

IF(順方向電流)

流していた電流が大きいほどtrrは長くなる(蓄積キャリアが多いから)

📉

dIF/dt(電流の変化率)

急に切るほどtrrは短く見えるが、IRRMは大きくなる

🌡️

Tj(接合温度)

温度が高いほどtrrは長くなる。125℃では25℃の2〜3倍になることも

⚠️ よくある落とし穴
データシートのtrrは「Tj = 25℃、IF = 1A」のような条件のいい状態で測定されていることが多いです。実機の動作温度100℃、IF = 5Aだと、trrは公称値の2〜3倍に膨れ上がります。設計のときは 「データシート値 × 2〜3倍」で見積もるのが安全です。
🔧 現場の声
実務では「trrよりQrrで比較しろ」と言われます。なぜならtrrは測定条件で変わりますが、Qrrは「逆向きに流れた電荷の総量」なので、損失計算に直結する指標だからです。データシートにQrrが書いてあるダイオードは、メーカーが「ちゃんとスイッチング用途を考えて作ってる」証拠でもあります。

実際に計算してみよう:100kHz降圧コンバータでの損失

具体的な数字を入れて、リカバリ損失がどれくらい出るのか計算してみます。理屈だけでなく「何ワット熱が出るのか」を実感することが、エンジニアとして大事です。

条件設定

入力電圧 Vin 48V
スイッチング周波数 fsw 100kHz
使用ダイオードA FRD(Qrr = 100nC)
使用ダイオードB SiC SBD(Qrr = 15nC)

計算:P_rr = (1/2) × VR × Qrr × fsw

📐 ダイオードA(FRD)の損失
P_rr = 0.5 × 48V × 100nC × 100kHz
    = 0.5 × 48 × 100×10⁻⁹ × 100×10³
    = 0.24 W
📐 ダイオードB(SiC SBD)の損失
P_rr = 0.5 × 48V × 15nC × 100kHz
    = 0.5 × 48 × 15×10⁻⁹ × 100×10³
    = 0.036 W

たった0.2Wの差ですが、これが 隣のMOSFETの損失も同時に増やすので、トータルでは数W単位の差になります。さらにfswを500kHzに上げると、損失は5倍。高周波化を狙うほど、ダイオードのQrr選定がシビアになるのはこういう理由です。

🔧 現場の声
「Qrrが1/6になっても、損失は0.2W程度しか変わらない。じゃあ安いFRDで十分?」と思うかもしれません。でも、リカバリ電流(IRRM)はノイズの主要発生源でもあります。EMC試験で引っかかったら設計やり直し。トータルで考えるとSiC SBDの方が安く済むこともあります。

実務でのダイオード選定フロー

ここまでの内容を、選定フローにまとめます。次に回路設計するときは、このフローに沿って選んでみてください。

STEP 1

動作周波数を確認:商用50/60Hzなら一般整流ダイオードでOK。10kHz以上ならFRD以上が必須

STEP 2

耐圧を確認:逆電圧の2倍以上を選ぶ(マージン込みで)。100V以下ならSBDが候補、それ以上はFRDかSiC SBD

STEP 3

Qrrで候補を比較:データシートにQrrが書かれているものを優先。同じ耐圧・電流ならQrrが小さい方が高性能

STEP 4

Vf(順方向電圧)も確認:導通損失とのトレードオフ。SiC SBDはVfがやや高めなので、低周波では普通のSBDが有利な場合も

STEP 5

温度マージンを取る:実機温度でのtrr・Qrrは公称値の2〜3倍と見積もる

trrが大きいと起きる「3つの副作用」

損失だけがtrrの問題ではありません。実は、設計現場で本当にやっかいなのはこの3つの副作用です。

①EMIノイズの主要発生源になる

リカバリ電流は急峻に立ち上がって、急に消えます。この 「鋭い電流波形」が高周波ノイズの塊。EMC試験で30MHz〜100MHzあたりのノイズが規格オーバーしたら、まずダイオードのtrrを疑いましょう。

②MOSFETの破壊リスク

リカバリ電流が大きすぎると、MOSFETのON電流が瞬間的に定格を超えることがあります。特にハーフブリッジ構成では「上下アームの片方のボディダイオードのtrrが原因で、対向側MOSFETが壊れる」という事故が頻発します。

③出力電圧リップルの増加

リカバリ電流が出力コンデンサに流れ込むと、出力電圧に高周波のリップルが乗ります。アナログ回路やセンサ系の電源では、これが原因で誤動作することも。

⚠️ 注意
「効率は出てるのにノイズで困る」「実機が壊れる原因がわからない」と悩んだとき、9割はリカバリ電流が原因です。オシロでダイオードのカソード電流を見てください。逆向きに鋭いヒゲがあれば、それがリカバリ電流です。

よくある疑問Q&A

Q1. SBDなら全部解決じゃない?なぜFRDがまだ使われるの?

SBDは耐圧が低い(普通100V以下)のと、Vfが高めという弱点があります。SiC SBDなら高耐圧でも使えますが、価格がFRDの数倍。コストと性能のバランスでFRDが選ばれる場面はまだ多いです。

Q2. MOSFETのボディダイオードのtrrはどう確認する?

MOSFETのデータシートに「Reverse Recovery Characteristics」の項目があります。同期整流回路を組むときは、必ずここを確認してください。同じMOSFETでも、シリーズによってtrrが10倍違うことも。

Q3. ソフトリカバリとハードリカバリの違いは?

リカバリ電流が「ゆるやかにゼロに戻る」のがソフトリカバリ、「急に切れる」のがハードリカバリ。ハードの方がtrrは短いですが、急峻な変化でノイズが出やすい。EMCを気にするならソフトリカバリ品を選ぶのが定石です。

Q4. ダイオードを並列接続したらtrrは半分になる?

なりません。並列にすると電流は分散しますが、各ダイオードのtrr自体は変わりません。むしろ個体差で片方に電流が集中するリスクもあります。素直にQrrの小さい大電流品を1個使う方が確実です。

まとめ:trrは「シャッターの閉まる遅さ」で全て決まる

最後にこの記事のポイントをまとめます。

💡 この記事のまとめ
  • trrは「ダイオードが閉まりきるまでの遅れ時間」。シャッターが閉まる途中に逆走するお客さんが、リカバリ電流(IRRM)の正体
  • 正体は少数キャリアの蓄積。逆電圧をかけてもキャリアが掃き出されるまで逆向きに電流が流れる
  • スイッチング損失はP_rr ≈ (1/2) × VR × Qrr × fsw。fswが高いほど効いてくる
  • 本当の被害者は隣のMOSFET。リカバリ電流がそのままMOSFETのターンON損失になる
  • 選定はQrrで比較。SBD・SiC SBDが高速スイッチングの主役
  • データシートのtrrは実機では2〜3倍に膨らむ。温度マージンを取って設計する

trrは地味なパラメータですが、スイッチング電源の効率・ノイズ・信頼性を全部決めてしまう超重要指標です。次に回路設計するとき、データシートのtrrの欄を「ふーん」と読み飛ばさず、ぜひこの記事の選定フローで確認してみてくださいね。

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