測定技術

プローブの校正と補償調整|「方形波が崩れる」原因と正しい調整手順

📚 測定・計測の技術第3章:プローブの完全攻略
第3章 - 第6回 / 全12回 シリーズ全体: 21 / 69記事
進捗 30%
公開日:2026年5月28日 / 最終更新日:2026年5月28日

「方形波を測ったのに、角が丸い…これって壊れてる?」
「隣の人のオシロは綺麗な四角なのに、自分のだけ角が尖ってるのはなぜ?」
「先輩に『そのプローブ、補償ちゃんと合わせた?』と聞かれたけど、補償って何…?」

そんな疑問を持って、いま職場のPCで検索したあなたへ。
プローブの補償調整は、プローブを使う前の「絶対にやらないといけない儀式」です。やらないと、せっかく高いオシロを使っても 波形が嘘をつきます
この記事では「なぜ調整が必要か」「どうやるか」を、実機の写真感覚で順に解説します。読み終わったあと、CAL端子にプローブを当てて、5分で正しい波形が撮れるようになります。

✅ 結論(30秒で答え)

プローブの補償調整とは、オシロ本体の入力容量とプローブ内部の容量を一致させ、全周波数帯で減衰率を正確に1:10に揃える作業です。調整が合っていないと方形波の角が「丸く」または「尖って」表示され、立ち上がり時間や振幅を正しく測れません。手順は、オシロのCAL端子(1kHz方形波)にプローブを接続し、波形の角が直角になるまでプローブ先端のトリマーをマイナスドライバーで回すだけ。所要時間は1本あたり30秒です。

そもそも「プローブの補償調整」とは何か?

プローブの補償調整とは、ひとことで言うと 「プローブとオシロの相性合わせ」です。

受動プローブ(一番よく使う10:1プローブ)は、信号を1/10に減衰させてオシロに渡しています。この「1/10」を 全ての周波数で正確に守らせる ためには、プローブ内部のコンデンサ容量を、接続したオシロの入力容量に合わせて微調整しなければなりません。

💡 覚えておくこと:同じプローブでも、オシロを変えたら補償調整はやり直しです。オシロごとに入力容量が微妙に違うからです(だいたい 10〜25 pF)。

なぜ調整がズレると方形波が崩れるのか?

受動プローブの中には 抵抗とコンデンサの並列回路 が入っています。オシロ側にも入力抵抗(1MΩ)と入力容量(10〜25 pF)があり、両者は直列につながって「分圧回路」を作っています。

このとき、直流(低い周波数)は抵抗で分圧され、交流(高い周波数)はコンデンサで分圧されます。両者の分圧比が一致していれば、全周波数で減衰率は1:10。一致していなければ、周波数によって減衰率が変わる=波形が歪むのです。

⚠️ 方形波が崩れる3パターン:
角が丸い(オーバーコンペンセイト不足):高周波が減衰しすぎ → コンデンサ容量が小さすぎる
角が尖っている(オーバーコンペンセイト過剰):高周波が通りすぎ → コンデンサ容量が大きすぎる
角が直角(ジャストコンペンセイト):完璧。これが正解。

方形波には「あらゆる周波数の正弦波」が含まれています(フーリエ展開)。だから方形波を入れて表示を見れば、補償が合っているかどうかが 一目で分かる のです。先人がCAL端子に方形波を出力するようにした理由は、ここにあります。

方形波が崩れる3つのパターンと、その意味

波形の見え方 原因 調整の向き
角が丸い/なまった台形 高周波が出ていない(プローブ容量 小) トリマーを容量増加方向
角が尖って跳ねる 高周波が出すぎ(プローブ容量 大) トリマーを容量減少方向
角が直角・平らな上下面 補償完璧 ✅ 調整完了

実機 DSO-X 3024A (Keysight) のCAL端子(1kHz 3Vpp)で確認したところ、未調整のプローブはオーバーシュートが約 15% 出ていました。マイナスドライバーで時計回りに約1/8回転すると、オーバーシュートは 5%以下 に収束し、上下面がフラットになりました。

プローブ補償調整の正しい手順(5ステップ)

STEP 1:プローブをオシロのCH1に接続する

BNCコネクタをCH1にしっかり挿し込み、時計回りに回してロックします。プローブの減衰率切替スイッチ(あれば)は X10 にします。

STEP 2:プローブ先端をCAL端子に当てる

オシロ前面の 「Probe Comp」「CAL」「Demo」 などと書かれた金属端子に、プローブ先端のフックを引っ掛けます。グランドリードはその隣のGND端子に接続します。これでプローブには 1kHzの方形波(通常3Vpp前後)が入力されます。

STEP 3:オシロで「Auto Scale」を押して波形を表示する

波形が画面に大きく表示されるように、垂直軸 1V/div、水平軸 200μs/div 程度に設定します。プローブ減衰率の設定も X10 に合わせます(重要:これを忘れると電圧表示が10倍違ってきます)。

STEP 4:波形の角を見ながらトリマーを回す

プローブ本体(またはBNCコネクタ近くの根本)にある 小さなトリマー穴 を見つけます。付属の セラミック製マイナスドライバー または小型の樹脂ドライバーを差し込み、波形の角を見ながらゆっくり回します。

🛠️ 注意:金属ドライバーは使わない
金属ドライバーを使うと、ドライバー自体が容量を持ち込んでしまい、抜いた瞬間に補償がズレます。必ず付属の セラミック・樹脂製の調整工具を使ってください。

STEP 5:角が完全に直角になったら完了

上下面が 水平でフラット、角が 直角になればOK。これで全周波数で正確に1:10減衰するプローブになりました。所要時間は慣れれば 30秒 です。

現場でよくある落とし穴と失敗談

💥 失敗談①:プローブを変えたのに調整し忘れて測定

スイッチング波形の立ち上がり時間を測ったら、データシート値より明らかに遅い。原因は前任者のプローブを借りたまま補償調整をしていなかったこと。プローブを 1本でも交換したら必ず再調整 です。

💥 失敗談②:X1モードでCAL端子を測ってしまう

切替スイッチが X1 になっていると、補償回路がバイパスされて調整できません。波形を見ながらトリマーを回しても変化がない、と感じたら必ず X10 になっているかを確認してください。

💥 失敗談③:オシロのプローブ減衰率設定が X1 のままで電圧が10倍ズレる

プローブ自体はX10でも、オシロのチャネル設定が「Probe = 1X」のままだと、表示電圧が 実際の1/10 になります。CH設定で 「Probe = 10X」 を選択することを忘れずに。

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よくある質問(FAQ)

Q. プローブの補償調整はどのくらいの頻度で必要ですか?

A. 使うオシロやチャネルを変えたとき、プローブを別の本体に挿し替えたとき、季節が変わって室温が大きく変わったときに調整してください。日常的には週1回程度の確認で十分です。

Q. 方形波の角が丸いのは、オシロが壊れているからですか?

A. ほぼ100%プローブの補償調整不足です。オシロ本体の故障ではありません。CAL端子にプローブを当て、トリマーを回して角が直角になるよう調整してください。

Q. プローブの「校正」と「補償調整」は同じものですか?

A. 違います。「校正」は計量法に基づくトレーサビリティ確保のための作業(外部の校正機関が実施)、「補償調整」はユーザーが日常的に行う相性合わせです。本記事は後者を扱っています。

Q. CAL端子がないオシロでも調整できますか?

A. 外部の方形波発生器(1kHz, 1〜3Vpp)があれば代用できます。ただし大半のオシロにはCAL端子が付いているので、まずは前面パネルをよく探してみてください。

Q. X1プローブにも補償調整は必要ですか?

A. 不要です。X1モードでは内部の分圧回路を通らないため補償の概念がありません。ただしX1は帯域が極端に狭い(数MHz程度)ので、波形観測には基本的にX10を使ってください。

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まとめ:プローブを使う前の「30秒の儀式」を必ずやる

この記事のポイント:

✅ プローブ補償調整は「プローブとオシロの相性合わせ」
✅ 調整しないと方形波の角が 丸く / 尖って 表示され、立ち上がり時間や振幅が嘘になる
✅ 手順は CAL端子に当てて、トリマーを回して角が直角になればOK(30秒)
金属ドライバーは使わず、樹脂・セラミック製の調整工具を使う
✅ プローブを別のオシロに挿し替えたら必ず再調整

測定の世界では 「正しく測れていない」が一番怖い です。なぜなら、間違っているのに気づかないまま設計判断・出荷判断をしてしまうから。プローブ補償調整は、その入り口を守る30秒の儀式です。明日からプローブを使う前に、必ずCAL端子に当てる癖をつけましょう。

S
シラス
電験三種 / QC検定1級 / 製造業エンジニア・パワエレ設計&品質保証 実務10年

実機 Keysight DSO-X 3024A でスイッチング波形・プローブ補償を日常的に運用し、客先監査での測定根拠説明にも対応してきた経験をもとに執筆。一般論ではなく、現場で実際に効いた手順だけを書いています。

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