- 「単純無作為抽出」「層別抽出」「クラスター抽出」…種類が多すぎて違いがわからない
- 標本平均の分散の公式が複雑すぎて、丸暗記になっている
- 2段抽出の問題が出ると、何から手をつけていいかわからない
- 「有限母集団修正」が出てくると、急に難しく感じる
- 4つのサンプリング法の特徴と使い分けがイメージでわかる
- 標本平均の分散公式が「なぜこうなるか」を図解で完全理解
- 2段抽出の問題を5ステップで確実に解く手順がわかる
- 実際の計算例で手を動かして身につく
「サンプリング(標本抽出)」と聞くと、なんだか難しそうに感じますよね。
でも実は、私たちは日常生活で無意識にサンプリングをしています。味噌汁の味見がまさにそれです。鍋全体を飲み干さなくても、ひとさじ味見すれば「ちょっと薄いかな」とわかりますよね。
この記事では、統計学で登場する4つの主要なサンプリング法を、味噌汁やクラスの健康診断といった身近な例で徹底図解します。公式を「丸暗記」するのではなく、「なぜこの式になるのか」がスッキリわかる内容になっています。
本記事では、公式の導出過程をすべて図解しています。「なんとなく」ではなく「だからこうなる」を完全理解できます。
目次
サンプリング(標本抽出)とは?|なぜ全部調べないのか
まず「サンプリングとは何か」を確認しておきましょう。
サンプリングの定義|「一部を調べて全体を推測する」
サンプリング(標本抽出)とは、母集団(調べたい全体)から一部のデータ(標本)を取り出すことです。
母集団(N個)→ 標本(n個)を抽出 → 標本から母集団を推測
なぜ全部調べないのでしょうか?理由は3つあります。
| 理由 | 具体例 |
|---|---|
| ① コストが高い | 1億人の国民全員に調査するのは現実的ではない |
| ② 時間がかかる | 新製品の品質検査を全数行うと、発売が遅れる |
| ③ 破壊検査 | 電球の寿命検査は、点灯し続けて壊れるまで調べる |
特に③の破壊検査は重要です。全数検査をしたら、売る製品がなくなってしまいますよね。だからこそ、「一部を調べて全体を推測する」サンプリングが必要なのです。
サンプリングの目的|「推測の精度」を上げたい
サンプリングの最終目的は、できるだけ少ないサンプルで、できるだけ正確に母集団を推測することです。
ここで重要なのが「推測の精度」です。統計学では、推測の精度を「標本平均の分散」で測ります。
標本平均の分散が小さい = 推測のバラつきが小さい = 精度が高い
サンプリング法の良し悪しは、「同じサンプル数で、どれだけ分散を小さくできるか」で決まります。
これから紹介する4つのサンプリング法は、それぞれ分散を小さくする工夫が異なります。この視点を持って読み進めると、各手法の特徴がスッキリ理解できます。
分散と標準偏差|「バラつき」を数値化する魔法の公式 →
4つのサンプリング法の全体像|特徴と使い分け
統計学で登場する主要なサンプリング法は、大きく分けて4種類あります。まずは全体像を把握しましょう。
| サンプリング法 | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| ① 単純無作為抽出 | くじ引きのように、完全にランダムに選ぶ | 母集団が均質な場合 |
| ② 層別抽出 | グループ分けしてから、各グループから抽出 | 母集団に明らかな層がある場合 |
| ③ クラスター抽出 | グループをまるごと選び、その中を全数調査 | コスト削減が重要な場合 |
| ④ 2段抽出 | グループを選び、その中からさらに一部を抽出 | 大規模調査で精度とコストを両立 |
「層別抽出」と「クラスター抽出」は正反対の発想です。
・層別:「層内は似ている」ので、各層から少しずつ取る
・クラスター:「群内は多様」なので、群をまるごと取る
この違いを理解すれば、2つを混同しなくなります。

① 単純無作為抽出(SRS)|すべてのサンプリングの基本
単純無作為抽出とは?|「くじ引き」で選ぶ
単純無作為抽出(Simple Random Sampling: SRS)は、母集団から完全にランダムに標本を選ぶ方法です。
イメージは「くじ引き」です。箱の中に全員の名前が書かれた紙を入れて、目をつぶって引く。このとき、誰が選ばれるかは完全に運次第で、全員が同じ確率で選ばれます。
① 等確率性:どの個体も同じ確率で選ばれる
② 独立性:ある個体が選ばれても、他の選ばれやすさに影響しない(復元抽出の場合)
③ 偏りなし:系統的な偏りが入り込まない
標本平均の分散公式|なぜこの式になるのか?
単純無作為抽出で得た標本の平均 x̄ の分散は、以下の式で表されます。
σ²:母分散、n:標本サイズ
【図解】なぜ σ²/n になるのか?
この式の意味を、図解で理解しましょう。
ステップ1:1個のデータのバラつき
母集団から1個のデータを取り出すとき、そのデータのバラつき(分散)は σ² です。これが「1回のくじ引きで、どれくらいハズレの可能性があるか」に相当します。
ステップ2:n個の平均を取ると…
n個のデータの平均を取ると、バラつきは「打ち消し合い」が起きます。あるデータが大きめでも、別のデータが小さめなら、平均すると真ん中に近づきます。
ステップ3:分散は n で割れる
独立なデータの平均の分散は、元の分散を n で割った値になります。これは「分散の加法性」と呼ばれる性質から導かれます。
非復元抽出と有限母集団修正(FPC)
実際の調査では、同じ人を2回選ぶことはありません(非復元抽出)。このとき、公式に有限母集団修正(FPC: Finite Population Correction)が加わります。
FPC = (N-n)/(N-1) … 有限母集団修正
【図解】なぜ FPC が必要なのか?
FPCの意味を、トランプで例えましょう。
52枚のトランプから10枚引くとき、復元抽出(引いたら戻す)と非復元抽出(引いたら戻さない)では、後者のほうが「バラつきが小さく」なります。
なぜでしょうか?非復元抽出では、同じカードを2回引くことがないため、「極端に偏った標本」が出にくくなるのです。
| 抽出率 n/N | FPC の値 | 分散への影響 |
|---|---|---|
| 1% | 約 0.99 | ほぼ影響なし |
| 10% | 約 0.90 | 分散が10%減少 |
| 50% | 約 0.50 | 分散が半分に |
| 100%(全数) | 0 | 分散ゼロ(当然!) |
抽出率が5%未満(n/N < 0.05)なら、FPCは無視してOKです。FPC ≈ 1 になるため、復元抽出の公式をそのまま使えます。
② 層別抽出(Stratified Sampling)|「分けてから取る」で精度アップ
層別抽出とは?|「似た者同士」をグループ化
層別抽出(Stratified Sampling)は、母集団を「層(Stratum)」と呼ばれるグループに分け、各層から一定数ずつサンプルを取る方法です。
イメージは「りんごの品質検査」です。
農園からりんごをサンプリングするとき、「Sサイズ」「Mサイズ」「Lサイズ」でまず分けてから、各サイズから同じ割合で取ります。こうすると、たまたまSサイズばかり選ばれる、という偏りを防げます。
① 層内は均質:同じ層の中は、特性が似ている
② 層間は異質:層と層の間には、明確な差がある
③ 各層から抽出:すべての層から必ずサンプルを取る
なぜ層別すると精度が上がるのか?|分散の分解で理解
層別抽出が単純無作為抽出より精度が高くなる理由を、分散の分解で説明します。
【図解】分散は「層間」と「層内」に分解できる
母集団全体の分散 σ² は、以下のように分解できます。
σ²(全分散)= σ²_B(層間分散)+ σ²_W(層内分散)
・σ²_B:層の平均値同士のバラつき
・σ²_W:各層内でのバラつきの加重平均
層別抽出のポイントは、「層間分散を消せる」ことです。
単純無作為抽出では、たまたま特定の層に偏ることがあります。しかし層別抽出では、各層から確実にサンプルを取るため、層間のバラつきが標本に反映されません。
層別抽出では、層内分散 σ²_W だけが標本平均の分散に影響します。
層内が均質(σ²_W が小さい)なほど、層別抽出の効果が高くなります。
比例配分と最適配分|各層から何個取るか
層別抽出では、「各層から何個ずつサンプルを取るか」を決める必要があります。主に2つの方法があります。
| 配分方法 | 考え方 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 比例配分 | 層の大きさに比例してサンプル数を決める | 層内分散が同程度のとき |
| 最適配分 (ネイマン配分) |
バラつきが大きい層から多く取る | 層ごとにバラつきが違うとき |
・Nₕ:層hのサイズ
・σₕ:層hの標準偏差
⇒「大きくてバラつく層」から多く取るのが最適

③ クラスター抽出(Cluster Sampling)|「グループごと」取る
クラスター抽出とは?|コスト削減の切り札
クラスター抽出(Cluster Sampling)は、母集団を「クラスター(群)」に分け、いくつかのクラスターをまるごと選んで全数調査する方法です。
イメージは「学校の健康診断」です。
全国の中学生の平均身長を調べたいとき、全員を測るのは無理です。そこで、ランダムに選んだ学校の生徒を全員測るという方法が考えられます。これがクラスター抽出です。
層別抽出:「すべての層から少しずつ」取る → 層内は均質
クラスター抽出:「一部のクラスターをまるごと」取る → クラスター内は多様
発想が正反対であることに注意してください。
クラスター抽出のメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 調査コストが大幅に下がる | 単純無作為より精度が落ちることが多い |
| 移動コストを削減できる | クラスター間の差が大きいと偏りやすい |
| 名簿がなくてもクラスター単位で調査可能 | クラスターサイズが不揃いだと計算が複雑 |
クラスター内が「母集団の縮図」になっているとき、効果的です。
例:各クラスに、勉強が得意な子も苦手な子もいる → クラスは学校の縮図
④ 2段抽出(Two-Stage Sampling)|精度とコストの最適バランス
2段抽出とは?|「群を選んで、その中からさらに選ぶ」
2段抽出(Two-Stage Sampling)は、クラスター抽出の発展形です。
クラスター抽出では、選んだ群を「全数調査」しましたが、2段抽出では選んだ群の中からさらに一部を抽出します。
【1段目】N個の群から n 個の群を抽出(1次抽出単位)
【2段目】選んだ各群から M 個中 m 個を抽出(2次抽出単位)
【具体例】全国学力調査
全国の中学3年生の学力を調査するケースで考えてみましょう。
| 段階 | 抽出単位 | 具体例 |
|---|---|---|
| 1段目 | 群(1次単位) | 全国1万校からランダムに100校を選ぶ |
| 2段目 | 個体(2次単位) | 各校から30人ずつランダムに選ぶ |
こうすると、100校 × 30人 = 3,000人の調査で、全国の傾向を把握できます。

2段抽出における標本平均の分散公式
2段抽出の標本平均の分散は、以下の式で表されます。これが本記事の最重要公式です。
V(x̄) =
σ²_B / n × (1 − n/N)
+
σ²_W / (nm) × (1 − m/M)
■ 青:群間由来の分散| ■ 緑:群内由来の分散| ■ 橙:有限母集団修正(FPC)
【図解】なぜこの式になるのか?
この公式は、「分散の加法性」から導かれます。2段抽出では、誤差が2つの段階で発生します。
🎯 誤差の2つの源泉
【第1項】群を選ぶ段階で生じる誤差
→ たまたま「平均点が高い学校」ばかり選ばれると、全体平均を過大推定してしまう
→ これが σ²_B / n × FPC₁
【第2項】群内から個体を選ぶ段階で生じる誤差
→ 各学校内で、たまたま「成績が良い子」ばかり選ばれると、学校平均を過大推定
→ これが σ²_W / (nm) × FPC₂
【合計】2つの誤差は独立なので、足し合わせる
→ V(x̄) = 第1項 + 第2項
【計算例】2段抽出の分散を求める
具体的な数値で計算してみましょう。
📝 問題設定
- 母集団:N = 10 の工場、各工場に M = 50 人の従業員
- 抽出:n = 4 工場を選び、各工場から m = 10 人を調査
- 群間分散:σ²_B = 20
- 群内分散:σ²_W = 80
- 抽出方法:ともに非復元抽出
Step 1:第1項(群間由来の分散)を計算
= 5 × 0.6 = 3.0
Step 2:第2項(群内由来の分散)を計算
= 2 × 0.8 = 1.6
Step 3:合計して標本平均の分散を求める
V(x̄) = 3.0 + 1.6 = 4.6
この結果から、群間由来の分散(3.0)のほうが、群内由来(1.6)より大きいことがわかります。
つまり、「どの工場を選ぶか」のほうが、「工場内で誰を選ぶか」より、推定精度への影響が大きいのです。

サンプリング法の選び方フローチャート
「どのサンプリング法を使えばいいの?」と迷ったときのために、選び方のフローチャートをまとめました。
| 条件 | 推奨サンプリング法 |
|---|---|
| 母集団が均質で、リスト(名簿)がある | 単純無作為抽出 |
| 母集団に明確な「層」があり、層内は均質 | 層別抽出 |
| コスト制約が厳しく、群単位でアクセス可能 | クラスター抽出 |
| 大規模調査で、精度とコストを両立したい | 2段抽出 |

まとめ|サンプリング法の本質は「分散を減らす工夫」
この記事では、4つのサンプリング法の特徴と、公式の導出原理を解説しました。
- 単純無作為抽出:くじ引きの原理。すべての基本
- 層別抽出:「層内は均質」を活用。層間分散を消せる
- クラスター抽出:群をまるごと調査。コスト削減に有効
- 2段抽出:群を選び、さらに一部を抽出。精度とコストを両立
- 公式の本質は「分散の加法性」と「有限母集団修正」
サンプリング法を「丸暗記」するのではなく、「なぜそうなるのか」を理解すれば、応用問題にも対応できます。
ぜひ、計算例を自分で手を動かして解いてみてください。「頭でわかる」と「解ける」は別物です。
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