- スナバ回路って何のためにあるの?
- RCスナバ、RCDスナバ、クランプ回路…種類が多すぎて混乱する
- ゲートドライバICって必要?直接マイコンで駆動できないの?
- 保護回路はどこまで入れればいいの?
- パワエレに必要な周辺回路の全体像を把握
- スナバ回路の種類と使い分けを「なぜ必要か」から理解
- ゲート駆動回路の役割と設計ポイント
- 保護回路の種類と実装の考え方
「MOSFETを使った回路を設計したけど、周辺回路って何が必要なの?」
パワエレ回路では、スイッチング素子(MOSFET、IGBT等)だけでは動きません。
主役を支える「名脇役」たちがいて、初めて安全・安定に動作するのです。
この記事では、パワエレ設計に必要な周辺回路を「なぜ必要か」という視点から体系的に解説します。
目次
パワエレ周辺回路の全体像|主役を守る「名脇役」たち
周辺回路の分類
パワエレ回路の周辺回路は、大きく3つのカテゴリに分類できます。
周辺回路の一覧表
| カテゴリ | 回路名 | 役割 |
|---|---|---|
| スナバ回路 | RCスナバ | 基本形。サージ電圧を吸収 |
| RCDスナバ | 高効率。エネルギーを回生 | |
| クランプ回路 | 電圧を一定値に制限 | |
| アクティブクランプ | エネルギーを電源に回生 | |
| ゲート駆動 | ゲートドライバIC | 制御信号を増幅・絶縁 |
| ゲート抵抗 | スイッチング速度を調整 | |
| デッドタイム回路 | 上下アーム同時ONを防止 | |
| 保護回路 | 過電流保護(OCP) | 電流が閾値を超えたら停止 |
| 過電圧保護(OVP) | 電圧が閾値を超えたら停止 | |
| 過熱保護(OTP) | 温度が閾値を超えたら停止 | |
| 低電圧保護(UVLO) | 電源電圧が低下したら停止 |
それでは、各回路を詳しく見ていきましょう。
スナバ回路|サージ電圧から素子を守る「盾」
なぜスナバ回路が必要なのか?
前回の記事で解説した通り、スイッチング素子がOFFする瞬間、V = L × dI/dtによってサージ電圧(スパイク)が発生します。
このサージ電圧が素子の耐圧を超えると、素子が破壊されます。
スナバ回路は、このサージ電圧を吸収・抑制するための回路です。
↓
サージ電圧が直撃 ⚡
↓
耐圧オーバー
↓
素子破壊 💥
↓
スナバがエネルギー吸収 🛡️
↓
サージ電圧が抑制
↓
素子は安全 ✅
Snubber(スナバ)は英語で「抑制するもの」という意味。
電圧スパイクを「抑え込む」役割からこの名前がついています。
スナバ回路の種類と特徴
① RCスナバ(基本形)
最もシンプルなスナバ回路。抵抗(R)とコンデンサ(C)の直列接続です。
│ │
└────────────────┘
| 動作原理 | サージ電圧をCに吸収し、Rで熱として消費 |
| メリット | 構成がシンプル、低コスト、設計が容易 |
| デメリット | エネルギーを熱で捨てるため損失が大きい |
| 用途 | 小電力回路、ダイオードの逆回復ノイズ抑制 |
② RCDスナバ(高効率型)
RCスナバにダイオード(D)を追加した回路。エネルギーの一部を回収できます。
スイッチング素子 ──┼────────┼── C ──┐
└── R ──┘ │
│
─────────────────┘
| 動作原理 | OFF時はDを通じてCに急速充電、ON時はRを通じてゆっくり放電 |
| メリット | RCスナバより損失が少ない |
| デメリット | 部品点数が増える、ダイオードの選定が必要 |
| 用途 | 中〜大電力のスイッチング回路、フライバックコンバータ |
③ クランプ回路(電圧制限型)
ツェナーダイオードやTVS(過渡電圧サプレッサ)を使い、電圧を一定値に「切り取る」回路です。
| 動作原理 | 電圧がクランプ電圧を超えると、ツェナーが導通して電圧を制限 |
| メリット | 確実に電圧を制限できる、応答が速い |
| デメリット | クランプ時の損失が大きい、連続動作には不向き |
| 用途 | 過電圧保護、誘導負荷のフリーホイール |
スナバ回路の選び方
小電力・シンプル重視 → RCスナバ
中〜大電力・効率重視 → RCDスナバ
確実な電圧制限が必要 → クランプ回路
高効率・エネルギー回生 → アクティブクランプ

ゲート駆動回路|スイッチを確実に動かす「司令塔」
なぜゲートドライバが必要なのか?
「マイコンのGPIOで直接MOSFETを駆動できないの?」
よくある疑問ですが、答えは「できるけど、やらない方がいい」です。
その理由を見ていきましょう。
理由①:電流供給能力が足りない
MOSFETのゲートにはゲート容量(Ciss)があります。
この容量を高速に充放電するには、大きな電流が必要です。
| 項目 | マイコンGPIO | ゲートドライバIC |
|---|---|---|
| 出力電流 | 数mA〜数十mA | 数A〜数十A(ピーク) |
| スイッチング速度 | 遅い | 速い |
| スイッチング損失 | 大きい | 小さい |
(弱い)
(増幅)
(重いドア)
理由②:絶縁が必要な場合がある
ハーフブリッジやフルブリッジ回路では、ハイサイド(上側)のMOSFETを駆動する必要があります。
ハイサイドのソース電位は変動するため、絶縁型のゲートドライバが必要です。
ハイサイドMOSFETのソースは「浮いている」ため、
ゲート電圧を基準にするにはブートストラップ回路や絶縁電源が必要です。
ゲート抵抗の役割
ゲートドライバとMOSFETの間には、ゲート抵抗(Rg)を入れるのが一般的です。
| ゲート抵抗 | スイッチング速度 | ノイズ | スイッチング損失 |
|---|---|---|---|
| 小さい | 速い ✅ | 多い ❌ | 小さい ✅ |
| 大きい | 遅い ❌ | 少ない ✅ | 大きい ❌ |
ゲート抵抗は「ノイズ」と「損失」のトレードオフを調整するパラメータです。
ノイズが問題なら抵抗を大きく、効率が重要なら抵抗を小さくします。
デッドタイム|上下アーム同時ONを防ぐ
ハーフブリッジ回路では、上アームと下アームが同時にONすると、
電源がショートして大電流が流れ、素子が破壊されます。
これを防ぐために、両方がOFFになる時間(デッドタイム)を設けます。
下アーム:░░░░░█████░░░░░█████░░░░░
↑ ↑
デッドタイム デッドタイム
デッドタイムがないと、切り替わりの瞬間に上下が同時ONになり、
電源→上アーム→下アーム→GNDの経路で短絡電流が流れます。
これを「アーム短絡」または「シュートスルー」と呼びます。

保護回路|異常から回路を守る「最後の砦」
なぜ保護回路が必要なのか?
どんなに設計を工夫しても、想定外の異常は起こりえます。
負荷の短絡、電源の異常、過負荷、放熱不良…
保護回路は、これらの異常を検知して素子や回路が壊れる前に停止させる「最後の砦」です。
保護回路の種類
① 過電流保護(OCP:Over Current Protection)
電流が閾値を超えたら、回路を即座に停止させます。
| 検出方法 |
・シャント抵抗+電流検出アンプ ・カレントトランス(CT) ・MOSFETのVds検出(Desaturation検出) |
| 保護対象 | スイッチング素子、配線、負荷 |
② 過電圧保護(OVP:Over Voltage Protection)
電圧が閾値を超えたら、回路を停止させるか、クランプします。
| 検出方法 |
・分圧抵抗+コンパレータ ・ツェナーダイオード/TVS |
| 保護対象 | スイッチング素子、電解コンデンサ、負荷 |
③ 過熱保護(OTP:Over Temperature Protection)
温度が閾値を超えたら、出力を制限または停止させます。
| 検出方法 |
・サーミスタ(NTC) ・温度センサIC ・素子内蔵の温度検出機能 |
| 保護対象 | スイッチング素子、基板、周辺部品 |
④ 低電圧誤動作防止(UVLO:Under Voltage Lock Out)
電源電圧が低下したとき、回路の誤動作を防ぐために停止させます。
| なぜ必要? | ゲート電圧が不十分だと、MOSFETが中途半端にONして発熱→破壊 |
| 実装 | 多くのゲートドライバICに内蔵されている |
保護回路の一覧まとめ
| 保護種別 | 略称 | 何を防ぐ? | 検出方法 |
|---|---|---|---|
| 過電流保護 | OCP | 短絡、過負荷 | シャント抵抗、CT、Vds検出 |
| 過電圧保護 | OVP | 耐圧オーバー | 分圧+コンパレータ、TVS |
| 過熱保護 | OTP | 熱暴走、破壊 | サーミスタ、温度センサ |
| 低電圧保護 | UVLO | 不完全ON | ドライバIC内蔵 |
| 短絡保護 | SCP | 負荷短絡 | 高速OCP、ヒューズ |
保護回路は「あれば安心」ではなく、「なければ危険」です。
特にOCP(過電流保護)は必須。短絡は「いつか必ず起こる」と思って設計しましょう。

その他の重要な周辺回路
フリーホイールダイオード(還流ダイオード)
モーターやリレーなどの誘導性負荷を駆動するときに必須の部品です。
スイッチOFF時に、インダクタに蓄えられたエネルギーを安全に逃がす経路を作ります。
スイッチON時:電流は負荷を通って流れる
スイッチOFF時:電流の行き場がなくなる → ダイオードを通じて還流
→ サージ電圧を抑制
ソフトスタート回路
電源投入時の突入電流を抑制する回路です。
大容量コンデンサへの充電電流や、モーターの起動電流を徐々に立ち上げます。
フィルタ回路(EMIフィルタ)
スイッチングノイズが電源ラインを通じて外部に漏れるのを防ぎます。
EMC規制をクリアするために必須の回路です。
まとめ|周辺回路は「保険」ではなく「必須」
この記事では、パワエレ設計に必要な周辺回路を体系的に解説しました。
- スナバ回路:サージ電圧を吸収して素子を保護(RC、RCD、クランプ)
- ゲート駆動回路:制御信号を増幅して確実にON/OFF(ドライバIC、ゲート抵抗)
- デッドタイム:上下アーム同時ONによる短絡を防止
- 保護回路:異常を検知して停止(OCP、OVP、OTP、UVLO)
- フリーホイールダイオード:誘導負荷のエネルギーを還流
周辺回路チェックリスト
| ✓ | チェック項目 | 重要度 |
|---|---|---|
| ☐ | スナバ回路は適切に設計されているか? | ★★★ |
| ☐ | ゲートドライバの電流供給能力は十分か? | ★★★ |
| ☐ | デッドタイムは適切に設定されているか? | ★★★ |
| ☐ | 過電流保護(OCP)は実装されているか? | ★★★ |
| ☐ | 過熱保護(OTP)は検討されているか? | ★★☆ |
| ☐ | 誘導負荷にフリーホイールダイオードはあるか? | ★★★ |
周辺回路は「あったら便利」ではなく、「なければ壊れる」回路です。
「動いたから大丈夫」ではなく、「異常時にも壊れない」設計を目指しましょう。
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