基板設計

ノイズを減らすパターン設計|電流ループ面積を小さくする部品配置と配線の手順

ノイズを減らすパターン設計。電流ループ面積を小さくする部品配置と配線の手順

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれています。

こんな悩みはありませんか?
  • 「ループ面積を小さく」って言われるけど、どこのループ?
  • 部品配置の「良い例」「悪い例」がイメージできない
  • 入力コンデンサはどれくらい近づければいいの?
  • ハイサイドとローサイドのMOSFET、どう配置すればいい?
○ この記事でわかること
  • 「電流ループ」を「水道管」で直感的にイメージ
  • スイッチング時に流れる電流の経路を完全理解
  • 入力コンデンサの最適な配置位置
  • ハイサイド・ローサイドMOSFETの配置ルール
  • NG配置とOK配置の違いを図解で比較

「ループ面積を小さくしろ」

パワエレ設計で100回は聞くこのアドバイス。
でも、「どこのループ?」「どれくらい小さく?」がわからなくて困っていませんか?

この記事では、電流ループの概念を「水道管」のイメージで徹底的にわかりやすく解説します。
読み終わる頃には、「あ、だからこの配置なのか!」と納得できるはずです。

電流ループとは?|「水道管」で完全理解

まず「ループ」という言葉を理解する

電流は「行って、帰ってくる」ものです。
電源から出発して、回路を通り、また電源に戻ってきます。

この「行き」と「帰り」の経路で囲まれた領域が「ループ面積」です。

電流ループの基本イメージ
電源
→→→
回路
→→→
電源に戻る
↑ この経路で囲まれた面積 = ループ面積

水道管でイメージする「電流ループ」

電流を「水の流れ」、配線を「水道管」に例えてみましょう。

水道管で考える電流ループ
電気の世界 水道管の例え
電源 ポンプ(水を送り出す)
電流 水の流れ
配線 水道管
MOSFET(スイッチ) バルブ(水を止める/流す)
ループ面積 配管で囲まれた面積

ポンプから出た水は、配管を通って各所に届けられ、また別の配管を通ってポンプに戻ってきます。
この「行き」と「帰り」の配管で囲まれた面積がループ面積です。

なぜループ面積が大きいとノイズが出るのか?

ここが最も重要なポイントです。
前回の記事で学んだ「V = L × dI/dt」を思い出してください。

ノイズ発生の基本式
V = L × dI/dt
ノイズ電圧 = インダクタンス × 電流の急変

そして、インダクタンス(L)はループ面積に比例します。

重要な関係
ループ面積 ↑ → L ↑ → ノイズ ↑

つまり、ループ面積を小さくすれば、インダクタンスが減り、ノイズが減るのです。

水道管のイメージで理解する「ウォーターハンマー」

水道管でも同じことが起きます。

× 配管が長い・面積が大きい
長い配管 = 水の量が多い
バルブを急に閉じると…
↓
大量の水が急停止
↓
「ドン!!」大きなウォーターハンマー
○ 配管が短い・面積が小さい
〇
短い配管 = 水の量が少ない
バルブを急に閉じても…
↓
少量の水が急停止
↓
「コツン」小さな衝撃で済む
ポイント
配管で囲まれた面積が大きい = 中を流れる水の量が多い = 急に止めた時の衝撃が大きい

電気回路でも同じ!
ループ面積が大きい = 電流の「慣性」が大きい = 急に止めた時のノイズが大きい
関連記事
【図解】スイッチングノイズはなぜ出る?|ループ面積とdI/dtの関係 →
電流ループを水道管にたとえた図。ポンプ(電源)とバルブ(MOSFET)をつなぐ管が囲む面積が大きいとノイズが多く、小さいとノイズが少ない
電流ループの面積が大きいほどノイズが増える

スイッチング時の電流経路|「どこを電流が流れるか」を知る

ループ面積を小さくするには、まず「どこを電流が流れるか」を正確に把握する必要があります。

ハーフブリッジ回路の基本構成

パワエレで最も基本的な回路「ハーフブリッジ」を例に説明します。

ハーフブリッジ回路の構成要素
Vin
入力電源
Q1
ハイサイドFET
Q2
ローサイドFET
Cin
入力コンデンサ

スイッチング時の電流経路を追跡する

ハイサイドFET(Q1)がONの瞬間、電流はどこを流れるでしょうか?
1ステップずつ追いかけてみましょう。

Q1(ハイサイド)ON時の電流経路
STEP 1

入力電源(Vin+)から電流がスタート
→ 電源のプラス側から電流が出発します

STEP 2

Q1(ハイサイドFET)を通過
→ ONしているので電流が流れます

STEP 3

負荷(Load)に電力を供給
→ モーターやLEDなどに電力が届きます

STEP 4

Q2のボディダイオードを通過(Q2はOFF)
→ または、Q2がONなら直接通過

STEP 5

入力電源(Vin-)に戻る
→ 電源のマイナス側に帰還して1周完了!

ここが重要!「急変する電流」のループ

さて、ここからが核心です。

スイッチングの瞬間、電流は「ゼロ」から「定格値」に急変します。
この「急変する電流」が流れるループこそが、ノイズの発生源なのです。

最も重要なループ
Vin+ → Q1 → Q2 → Vin-

このループで囲まれた面積が、ノイズの大きさを決める!
入力コンデンサ(Cin)は、このループに電流を供給する役割があります。

つまり、Vin(入力コンデンサ)・Q1・Q2 で囲まれる面積を最小にすることが、ノイズ対策の鍵なのです。

スイッチング時の電流ループの図。入力コンデンサCinとハイサイドQ1・ローサイドQ2を回る電流ループの面積が大きいとノイズの原因になるので、寄生インダクタンスを減らす
スイッチングの電流ループは面積を小さく

入力コンデンサの配置|「直近」が絶対ルール

入力コンデンサの役割を理解する

入力コンデンサ(Cin)は、「電流の供給源」として働きます。

スイッチングは非常に高速(数十ns〜数μs)なので、遠くにある電源からは電流が追いつきません。
そこで、すぐ近くにあるコンデンサから電流を供給するのです。

入力コンデンサの役割
遠くの電源
「ちょっと待って!
そんな速く電流送れない…」
→
近くのコンデンサ
「任せろ!
俺が即座に供給する!」
→
「助かった!
安定して動ける!」

距離による違いを比較

入力コンデンサがMOSFETからどれくらい離れているかで、ノイズは劇的に変わります。

×
距離: 5cm以上
ループ面積が非常に大きい。
論外レベルのノイズが発生。
NG
距離: 1〜3cm
まだ遠い。ノイズは出る。
低周波では何とかなるが、高周波では厳しい。
要改善
○
距離: 5mm以下
ループ面積が小さい。
ノイズが大幅に低減。
GOOD
距離: 可能な限りゼロ(隣接配置)
MOSFETの端子に直接隣接。
ループ面積を最小化。これがベスト!
BEST!
設計の鉄則
入力コンデンサは「ミリ単位で近づける」のが鉄則。
「近いかな?」と思ったら、もっと近づけられないかを検討しましょう。
悪い配置と良い配置の比較図。Cinが遠く長い配線だとループ面積が大きく高インピーダンスでノイズが増え、Q1・Q2の直近に置いて短い配線にするとループ面積が小さくノイズが減る
Cinをスイッチ素子の近くに置いてループを小さく

ハイサイド・ローサイドの配置|三角形を小さく!

最小ループを実現する配置の考え方

電流ループは「Cin → Q1 → Q2 → Cin」という経路を通ります。
この3つの部品(Cin、Q1、Q2)で「三角形」が形成されます。

ループ面積を最小にするには、この三角形を可能な限り小さくすることが重要です。

ループは「三角形」で考える
× 大きい三角形
Cin
Q1
Q2
ノイズ大
○ 小さい三角形
Cin
Q1
Q2
ノイズ小

最適配置のパターン

具体的にどう配置すればいいか、パターンを見てみましょう。

パターン①:横一列配置

Cin
入力C
Q1
ハイサイド
Q2
ローサイド
Cin → Q1 → Q2 を横に並べて隣接させる。
シンプルで実装しやすい。

パターン②:コの字配置

Q1
ハイサイド
Q2
ローサイド
Cin
入力コンデンサ
Q1・Q2を上に、Cinを下に配置。
Cinの両端がQ1・Q2に最短距離で接続できる。

パターン③:三角配置(究極形)

Cin
Q1
Q2
3部品を正三角形状に配置。
すべての距離が均等で、最小ループ面積を実現。
沿面距離とは?空間距離との違いと決め方、スリットの効果を図解|判定ツール付き
あわせて読みたい
沿面距離とは?空間距離との違いと決め方、スリットの効果を図解|判定ツール付き

沿面距離と空間距離、隙間が必要な理由

入力コンデンサの配置の比較図。MOSFETから10cm離れたPOSITION1はNG、3cmのPOSITION2はまだ遠く、すぐそばのPOSITION3で電流ループを最小にするのがOK
入力コンデンサはMOSFETの直近に置く

悪い配置 vs 良い配置|Before/After で比較

NG配置の例

実際の基板設計でよく見かける「やってはいけない配置」を見てみましょう。

× NG配置の例
NG例①:入力コンデンサが遠い
Cin
← 5cm →
Q1
Q2
問題点:CinとMOSFETの間の配線が長く、ループ面積が巨大。
この配線自体が「アンテナ」となってノイズを放射する。
NG例②:行きと帰りの配線が離れている
Vin+ ─────────────────→ Q1
                            ↓
                            Q2
Vin- ←─────────────────┘
↑ この間が大きなループ面積 ↑
問題点:Vin+とVin-の配線が離れていると、その間の面積がすべてループになる。
NG例③:配線が迂回している
Cin ──┐
       │(他の部品を避けて迂回)
       └──────→ Q1
問題点:最短距離で配線せず、他の部品を避けて迂回すると、ループ面積が増大。

OK配置の例

○ OK配置の例
OK例①:入力コンデンサが直近
Cin
Q1
Q2
ポイント:Cinの端子がQ1・Q2の電源端子に最短距離で接続されている。
OK例②:行きと帰りの配線が平行・近接
Vin+ ══════════════→ Q1
Vin- ══════════════← Q2
↑ 平行に近接配置 ↑
ポイント:行きと帰りを平行に近づけると、ループ面積が最小化。
さらに、磁界が打ち消し合う効果もある。
OK例③:部品を「島」として配置
Cin
Q1
Q2
Driver
パワー段「島」
ポイント:高速スイッチングに関わる部品を「島」としてまとめて配置。
この島の中でループを閉じることで、ノイズの影響範囲を局所化。
ハイサイド・ローサイドの三角配置の図。Q1(ハイサイド)・Q2(ローサイド)・入力コンデンサCinを三角形に近く並べると、配線が短くなりループ面積とインダクタンスが最小になる
Q1・Q2・Cinを三角形に置いてループを最小に

配線の引き方|「太く・短く・平行に」

配線の3原則

部品配置が決まったら、次は配線です。
ノイズを減らすための配線には3つの原則があります。

原則①
太く
配線が太いほど
インダクタンスが下がる
原則②
短く
配線が短いほど
インダクタンスが下がる
〓
原則③
平行に
行きと帰りを近づけると
磁界が打ち消し合う

リターンパスを意識する

電流には必ず「帰り道(リターンパス)」があります。
このリターンパスがどこを通るかを意識することが重要です。

リターンパスの原則

電流は「最もインピーダンスが低い経路」を通って帰ろうとします。
高周波電流は、「行き」の配線の真下を通りたがります。

→ だからベタGND(グランドプレーン)が重要なのです。

GNDプレーンの活用

ベタGND(グランドプレーン)は、リターンパスを最短にする最強の武器です。

× GNDが細い配線
Vin+ ─────→ Q1
               ↓
GND ─────← Q2
(細い配線)
GNDが細いと、リターン電流が遠回りしてループ面積増大
○ ベタGND
Vin+ ─────→ Q1
████████████████
(ベタGND)
ベタGNDなら、リターン電流は「行き」の真下を最短で帰れる
設計のコツ
4層基板なら、内層をベタGNDにするのが定石。
2層基板でも、部品面の空きスペースはできるだけGNDで埋めるのが効果的。
この記事の理解を深める本と道具
おすすめの本

「ノイズを減らすパターン設計」を、実際の基板設計のテクニックとあわせて身につけたい人に向いています。CQ出版『トランジスタ技術SPECIAL』の、プリント基板設計の実用的なテクニックを集めた号です。

おすすめの本

パワーエレクトロニクスの基本から順に学び直したいときに向いています。パワーエレクトロニクスの基本を、つまずいている人向けにやさしく解説した入門書です(オーム社)。

キャリア
設計の経験を、次のキャリアに活かすなら

回路や基板の設計経験は、メーカーをはじめ多くの企業で求められています。今の職場で経験を積むのも、より広く経験を活かせる職場を探すのも、ひとつの道です。エンジニア向けの転職支援サービスでは、経験を棚卸ししながら求人を探せます。

自分らしく働けるエンジニア転職を目指すなら【strategy career】

実践チェックリスト|配置・配線の確認ポイント

最後に、実際の設計で使えるチェックリストをまとめます。

部品配置のチェック

チェック項目 重要度
入力コンデンサはMOSFETの直近に配置されているか?
Cin・Q1・Q2で形成される三角形は最小か?
パワー段の部品は「島」としてまとまっているか?
ゲートドライバはMOSFETの近くに配置されているか?

配線のチェック

チェック項目 重要度
大電流配線は太く・短くなっているか?
行きと帰りの配線は平行・近接しているか?
ベタGNDは十分に確保されているか?
GNDプレーンに不要なスリットはないか?
配線が迂回せず最短距離で引かれているか?

まとめ|ループ面積を制する者がノイズを制する

この記事では、ノイズを減らすパターン設計の核心「電流ループ面積の最小化」について解説しました。

この記事のまとめ
  • 電流ループ = 電流の「行き」と「帰り」で囲まれた面積
  • ループ面積 ∝ L ∝ ノイズ:面積が大きいほどノイズが増える
  • 重要なループ = Cin → Q1 → Q2 → Cin の経路
  • 入力コンデンサは「直近」配置が絶対ルール
  • Cin・Q1・Q2の三角形を最小にする
  • 配線は太く・短く・平行に
  • ベタGNDでリターンパスを最短に
設計の心構え
ノイズ対策は「設計の初期段階」で決まります。
配線を引き始める前に、まず「ループ面積を最小にする配置」を考えましょう。

「配置が7割、配線が3割」と言われるほど、部品配置が重要です。

次に読むべき記事

この記事の内容がわかったら、基板のパターン設計の次のテーマに進みましょう。続けて読むと、現場でそのまま使える知識になります。

スイッチングノイズはなぜ出る?ループ面積とdI/dtの関係を「ウォーターハンマー」で理解
まずはここから
スイッチングノイズはなぜ出る?ループ面積とdI/dtの関係を「ウォーターハンマー」で理解

スイッチングノイズはループ面積とdI/dtで決まる。

記事を読む →
この記事の続きはこちら

テーマ別に、もっと深く学ぶ

気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめて学ぶ人向けにやさしく書いています。

つまずきやすい「違い」を一気に解決
FG・SG・LG・PGNDの違い|なぜグランドを分けないと機器が壊れるのか
違いがわかる
FG・SG・LG・PGNDの違い|なぜグランドを分けないと機器が壊れるのか

FG・SG・LG・PGND、グランドを分ける理由

違いを確かめる →
コモンモードノイズとノーマルモードノイズの違い|「行きと帰りが同じ向き」が厄介な理由
違いがわかる
コモンモードノイズとノーマルモードノイズの違い|「行きと帰りが同じ向き」が厄介な理由

コモンモードとノーマルモードのノイズの違い

違いを確かめる →
伝導ノイズと放射ノイズの違い|「線を伝わるノイズ」と「空を飛ぶノイズ」を見分けて正しく対策する
違いがわかる
伝導ノイズと放射ノイズの違い|「線を伝わるノイズ」と「空を飛ぶノイズ」を見分けて正しく対策する

伝導ノイズと放射ノイズの違いと対策

違いを確かめる →
スルーホール・ビア・ブラインドビアの違い|3種類の構造とコストを図解
違いがわかる
スルーホール・ビア・ブラインドビアの違い|3種類の構造とコストを図解

スルーホール・ビア・ブラインドビアの違い

違いを確かめる →
計算力アップ・資格対策
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーで回路設計・生産技術(品質改善)の実務

メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

タグ

-基板設計
-,