回路設計

【完全図解】RCDスナバ回路の設計|エネルギー回生型でロスを減らす

😣 こんな悩みはありませんか?
  • RCスナバ回路の損失が大きすぎて、抵抗が熱くなって困っている…
  • RCDスナバって聞いたことあるけど、RCスナバと何が違うの?
  • ダイオードを追加するだけで本当に損失が減るの?
✅ この記事でわかること
  • RCDスナバ回路が「エネルギーを捨てずに回生する」仕組み
  • RCスナバとRCDスナバの決定的な違い
  • RCDスナバの設計手順と部品選定のポイント

前回の記事で、RCスナバ回路の設計計算について解説しました。しかし、RCスナバには「毎回のスイッチングでエネルギーを熱として捨てる」という宿命的な欠点があります。

スイッチング周波数が高くなればなるほど、損失は増大します。100kHzで動作させると、小さなスナバ回路でも数ワット〜数十ワットの発熱になることも珍しくありません。

この問題を解決するのが、今回紹介する「RCDスナバ回路」です。ダイオード(D)を1つ追加するだけで、捨てていたエネルギーを電源に返すことができます。

📘 前提知識
【完全図解】RCスナバ回路の設計計算|抵抗値とコンデンサ容量の決め方 →

RCスナバの基本を理解してから読むと、違いがよくわかります。

RCスナバの「もったいない」問題

まず、RCスナバ回路が抱える根本的な問題を理解しましょう。

RCスナバのエネルギーの流れ

RCスナバ回路では、以下のサイクルが毎回のスイッチングで繰り返されます。

STEP 1
スイッチOFF → サージ発生

寄生インダクタンスに蓄えられたエネルギーがサージ電圧として現れる

STEP 2
コンデンサCが吸収

サージエネルギーがコンデンサに充電される

STEP 3
抵抗Rで放電 → 熱に変換

コンデンサに溜まったエネルギーが抵抗ですべて熱として消費される

STEP 4
スイッチON → STEP 1へ戻る

このサイクルがスイッチング周波数の回数だけ繰り返される

🔥 問題点:エネルギーを毎回「捨てている」
RCスナバでは、吸収したサージエネルギーを100%熱に変換しています。これは「せっかく集めたお金を毎回シュレッダーにかけている」ようなものです。スイッチング周波数が高いほど、この「もったいない」が積み重なります。

損失の計算式をおさらい

RCスナバの損失は、以下の式で計算できました。

📐 RCスナバの損失
PRC =
1
2
× C × V² × fsw

例えば、C = 10nF、V = 400V、fsw = 100kHz の場合、

PRC = 0.5 × 10 × 10⁻⁹ × 400² × 100 × 10³

PRC = 0.5 × 10 × 10⁻⁹ × 160000 × 100000

PRC = 80 W !

80Wもの損失が、たった1つのスナバ回路から発生します。これを熱として捨て続けるのは、あまりにも非効率です。

RCDスナバ回路とは?|ダイオードで「回生」する

RCDスナバ回路は、RCスナバにダイオード(D)を1つ追加した回路です。このダイオードが「エネルギーの一方通行」を作り出し、捨てていたエネルギーを電源に戻します。

RCDスナバの動作原理

RCDスナバには主に2つの構成がありますが、ここでは最も一般的な「放電クランプ型」を解説します。

STEP 1
スイッチOFF → サージ発生

ここまではRCスナバと同じ。サージエネルギーがコンデンサCに充電される

STEP 2
ダイオードDが導通

コンデンサ電圧が電源電圧を超えると、ダイオードが導通

STEP 3
エネルギーが電源に「回生」

コンデンサに溜まったエネルギーが電源側に戻る(熱にならない!)

STEP 4
スイッチON → STEP 1へ

エネルギーを回生しながらサイクルが繰り返される

💡 「回生」のイメージ
電車のブレーキを想像してください。普通のブレーキは運動エネルギーを熱として捨てます(RCスナバ)。一方、電車の「回生ブレーキ」はブレーキ時のエネルギーを電気に変換して架線に戻します(RCDスナバ)。捨てるのではなく、再利用するのです。

なぜダイオード1つで回生できるのか?

ダイオードの役割は「電流の一方通行」を作ることです。

🔄

RCスナバ(ダイオードなし)

コンデンサに溜まったエネルギーは抵抗を通って放電するしかない。
→ 結果:すべて熱に変換

➡️

RCDスナバ(ダイオードあり)

ダイオードが電源への「帰り道」を作る。コンデンサ電圧が電源電圧を超えたら、ダイオード経由で電源に戻る。
→ 結果:エネルギー回生

水道で例えると、RCスナバは「排水溝に流すしかない」状態。RCDスナバは「逆流防止弁を使って、余った水をタンクに戻せる」状態です。

📘 参考書籍のご紹介

「カラー徹底図解 パワーエレクトロニクス」は、この記事の内容を実際の回路設計に活かしたい方に最適な一冊です。オールカラーで図解が豊富なので、初心者でもスムーズに理解できます。

RCスナバ vs RCDスナバ|徹底比較

ここで、RCスナバとRCDスナバの違いを整理しましょう。

比較表:RCスナバ vs RCDスナバ

比較項目 RCスナバ RCDスナバ
構成部品 R + C(2点) R + C + D(3点)
エネルギーの行方 100% 熱に変換 大部分を電源に回生
損失 大きい 小さい
発熱 大きい(抵抗が熱くなる) 小さい
コスト 安い やや高い(ダイオード追加)
設計の複雑さ シンプル やや複雑
高周波動作 損失増大で不利 有利
主な用途 低周波・小電力 高周波・大電力

RCDスナバのメリット

✅ 損失が大幅に減る

エネルギーを熱に変換せず電源に戻すため、損失を50〜80%削減できることも

✅ 抵抗の発熱が減る

抵抗の定格を下げられるため、部品の小型化が可能

✅ 効率が向上する

回生したエネルギーは再利用されるため、システム全体の効率UP

RCDスナバのデメリット

❌ 部品点数が増える

ダイオードが追加されるため、コストと実装面積が増加

❌ ダイオードの選定が必要

高速・高耐圧のダイオードが必要で、選定を間違えると効果が出ない

❌ 設計がやや複雑

ダイオードの順方向電圧降下やリカバリ特性を考慮する必要あり

💡 どちらを選ぶべき?
RCスナバが向いているケース:低周波(〜数十kHz)、小電力、コスト重視、設計をシンプルにしたい

RCDスナバが向いているケース:高周波(100kHz〜)、大電力、効率重視、発熱を抑えたい

RCDスナバ回路の設計手順

RCDスナバ回路の設計は、基本的にはRCスナバと同じ考え方です。ただし、ダイオードの選定が追加されます。

設計フロー

📋
STEP 1
パラメータ把握
🔋
STEP 2
C の決定
🔥
STEP 3
R の決定
STEP 4
D の選定

STEP 1〜3:C と R の設計(RCスナバと同じ)

コンデンサ容量Cと抵抗値Rの計算は、RCスナバと基本的に同じです。

コンデンサ容量 C

C = L × I² / ΔV²

抵抗値 R(臨界減衰)

R = 2 × √(L / C)
⚠️ RCDスナバでの R の役割
RCDスナバでは、Rの役割が少し変わります。エネルギーはダイオード経由で回生されるため、Rは主に「リンギングの減衰」「コンデンサ電圧のリセット」のために使われます。そのため、RCスナバより小さめの抵抗値でも動作することが多いです。

STEP 4:ダイオード D の選定

RCDスナバで最も重要なのがダイオードの選定です。以下のポイントを確認しましょう。

チェック項目 確認内容 推奨
逆耐圧 VR Vmax 以上か Vmax × 1.5倍以上
順方向電流 IF ピーク電流に耐えられるか I × 2倍以上
逆回復時間 trr スイッチング速度に追従できるか 高速リカバリ品(trr < 100ns)
順方向電圧 VF 損失に影響 低いほど良い(ショットキー推奨)
📌 ダイオード選定の鍵は「速さ」
RCDスナバでは、スイッチング速度に追従できる「高速ダイオード」が必須です。汎用ダイオード(1N400xシリーズなど)は遅すぎて使えません。ファストリカバリダイオードショットキーバリアダイオードを選びましょう。

推奨ダイオードの種類

🔹 ファストリカバリダイオード

  • trr : 20〜100ns
  • 耐圧:〜600V程度まで対応
  • コスト:比較的安価
  • 用途:汎用的に使える

🔸 ショットキーバリアダイオード

  • trr : ほぼゼロ(超高速)
  • 耐圧:〜100V程度が限界
  • VF : 低い(0.3〜0.5V)
  • 用途:低電圧・高効率向け

RCDスナバの損失計算

RCDスナバでは、どれくらい損失を削減できるのでしょうか?計算式を見てみましょう。

RCDスナバの損失内訳

RCDスナバの損失は、主に以下の3つから構成されます。

① 抵抗での損失(大幅に減少)

クランプ電圧と電源電圧の差分のエネルギーのみ熱に変換

② ダイオードの順方向損失

VF × 回生電流による損失(小さい)

③ ダイオードのスイッチング損失

逆回復時の損失(高速品なら小さい)

損失の比較計算

理想的なRCDスナバでは、コンデンサに充電されたエネルギーのうち「電源電圧を超えた分」だけが熱になります。

📐 RCDスナバの損失(概算)
PRCD
1
2
× C × (Vclamp − VDC)² × fsw

Vclamp:クランプ電圧(サージのピーク電圧)

計算例:損失の比較

以下の条件で、RCスナバとRCDスナバの損失を比較してみましょう。

コンデンサ容量 C 10 nF
電源電圧 VDC 300 V
クランプ電圧 Vclamp 400 V
スイッチング周波数 fsw 100 kHz

🔥 RCスナバの損失

P = ½ × C × V² × f

P = 0.5 × 10×10⁻⁹ × 400² × 100×10³

PRC = 80 W

♻️ RCDスナバの損失

P = ½ × C × ΔV² × f

P = 0.5 × 10×10⁻⁹ × 100² × 100×10³

PRCD = 5 W

🎉 損失を 80W → 5W に削減!
94% の損失削減を実現

実際にはダイオードの損失なども加わりますが、それでもRCスナバに比べて大幅な損失削減が可能です。

💡 なぜこんなに差が出る?
RCスナバでは「400V分のエネルギー」を毎回捨てていました。RCDスナバでは「400V − 300V = 100V分のエネルギー」だけを捨て、残りの300V分は電源に戻しています。つまり、電源電圧を超えた「オーバーシュート分」だけが損失になるのです。

設計時の注意点とトラブルシューティング

よくある失敗パターンと対策

❌ 失敗①:遅いダイオードを使った

症状:回生が間に合わず、RCスナバと同等の損失

対策:trr < 100ns のファストリカバリ品に変更

❌ 失敗②:ダイオードの向きが逆

症状:まったく回生されない、最悪の場合素子破壊

対策:回路図と実装を再確認

❌ 失敗③:ダイオードの耐圧不足

症状:ダイオードがブレークダウン、発熱・破壊

対策:Vmax × 1.5倍以上の耐圧品を選定

❌ 失敗④:配線が長すぎる

症状:配線のインダクタンスで回生効率が低下

対策:スナバ部品はスイッチ素子の近くに配置

設計チェックリスト

✅ RCDスナバ設計の確認項目

  • コンデンサ C:サージエネルギーを吸収できる容量か
  • □ コンデンサ C:定格電圧は Vmax × 1.5倍以上か
  • □ コンデンサ C:セラミック or フィルムコンデンサか(電解×)
  • □ 抵抗 R:リンギングを抑制できる値か
  • □ 抵抗 R:無誘導タイプか(巻線×)
  • ダイオード D:逆耐圧は Vmax × 1.5倍以上か
  • □ ダイオード D:trr < 100ns の高速品か
  • □ ダイオード D:向きは正しいか
  • □ 配線:スイッチ素子の近くに配置しているか

まとめ

RCDスナバ回路について、RCスナバとの違いから設計のポイントまで解説しました。

📌 この記事のポイント

  • RCスナバ:エネルギーを100%熱に変換(損失大)
  • RCDスナバ:ダイオードでエネルギーを電源に回生(損失小)
  • RCDスナバでは損失を50〜90%削減できることも
  • ダイオードは高速リカバリ品(trr < 100ns)を選ぶ
  • 高周波・大電力の用途ではRCDスナバが有利
🔥

RCスナバ

シンプル・低コスト
低周波・小電力向け

♻️

RCDスナバ

高効率・低発熱
高周波・大電力向け

どちらのスナバを選ぶかは、スイッチング周波数・電力・コスト・熱設計のバランスで決まります。用途に合わせて最適なスナバ方式を選択してください。

🔧 パワエレ設計シリーズ
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