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- RCDスナバでも損失が気になる…もっと効率を上げたい
- 「アクティブクランプ」って聞いたことあるけど、どんな仕組み?
- パッシブスナバとアクティブスナバの違いがわからない
- アクティブクランプ回路が「ほぼ損失ゼロ」で動作する仕組み
- RCスナバ・RCDスナバとの決定的な違い
- アクティブクランプの設計ポイントと注意点
前回の記事で、RCDスナバ回路(放電阻止形)が、コンデンサを毎回空にしないことで損失を減らせることを解説しました。しかし、RCDスナバでもクランプでも、漏れインダクタンスや配線にたまったサージのエネルギーは、抵抗で熱になります。
「もっと損失を減らしたい」「究極の高効率を目指したい」——そんな要求に応えるのが、今回紹介する「アクティブクランプ回路」です。
アクティブクランプは、クランプのダイオードと抵抗の代わりにMOSFET(クランプスイッチ)とコンデンサを使い、熱にしていたエネルギーをためて出力へ送り返します。近年の高効率電源やGaN/SiCデバイスを使った設計では、標準的な手法になりつつあります。
スナバ回路の進化の歴史
まず、スナバ回路がどのように進化してきたかを整理しましょう。アクティブクランプの価値がよくわかります。
スナバ回路の3世代
サージエネルギーを100%熱に変換。シンプルだが損失大。
コンデンサを毎回空にしないので損失は減るが、サージのエネルギーは抵抗で熱になる。
クランプスイッチとコンデンサでエネルギーをため、出力側へ送り返す(TI は「ほぼ損失なし」と説明)。
「パッシブ」と「アクティブ」の違い
スナバ回路は大きく「パッシブ」と「アクティブ」に分類されます。
パッシブスナバ
- 受動部品のみで構成
- R、C、ダイオードなど
- 制御回路が不要
- 例:RCスナバ、RCDスナバ
アクティブスナバ
- 能動部品(スイッチ)を使用
- MOSFETやIGBTなど
- 制御回路が必要
- 例:アクティブクランプ
「アクティブ」とは、「能動的に制御する」という意味です。パッシブスナバは部品を置くだけで自動的に動作しますが、アクティブスナバはタイミングを見計らってスイッチをON/OFFします。この「賢い制御」が高効率の秘密です。

アクティブクランプ回路の動作原理
フライバックコンバータでは、トランスの漏れインダクタンス LLK にたまったエネルギーが、メインスイッチがオフした瞬間にサージ電圧になります。ふつうは RCD クランプやダイオードのクランプで吸収しますが、TI のアプリケーションノートが説明しているとおり、このやり方はエネルギーを熱にして捨てるので、スイッチング周波数を上げるほど損失が増えます。
PCLAMP = VCLAMP / (VCLAMP − (NP/NS)·VOUT) × ½ × LLK × IP² × fSW
VCLAMP:クランプの電圧、(NP/NS)·VOUT:出力が1次側に映った電圧、IP:1次側のピーク電流。たとえば LLK=2μH、IP=2A、VCLAMP=150V、映った電圧=100V とすると、次のようになります。
½ × 2×10⁻⁶ × 2² = 4μJ(1回にたまる漏れのエネルギー)
fSW=100kHz:4μJ × 100×10³ × 150/(150−100) = 1.2 W
fSW=300kHz:同じ計算で 3.6 W(周波数に比例して増える)
アクティブクランプは「熱にせず、ためて送り返す」
アクティブクランプは、RCD クランプの代わりにクランプスイッチ QC(MOSFET)とクランプコンデンサ CC を入れた回路です。QC は電流を両方向に流せるので、CC にためた漏れインダクタンスのエネルギーを、毎サイクル、トランスを通して出力へ送り返せます。TI はこれを「クランプがほぼ損失なしになる」と説明しています。
効率が上がる理由は、ダイオードの電圧降下と MOSFET のオン抵抗の差ではありません。TI の説明では、次の2つです。
- 漏れインダクタンスのエネルギーを捨てずに回収する(RCD クランプでは熱になっていた分)
- メインスイッチをゼロ電圧でオンできる(ZVS):クランプコンデンサのエネルギーで逆向きの1次電流を作り、スイッチの電圧を0V近くまで下げてからオンする。スイッチング損失が減る
動作の流れ(フライバックの場合)
トランスの1次側に電流が流れ、エネルギーがたまる。クランプスイッチ QC はオフ。
漏れインダクタンスの電流が QC のボディダイオードを通ってクランプコンデンサ CC に流れ込み、Q1 の電圧を CC の電圧のところで抑える。
ボディダイオードに電流が流れている間に QC をオンするので、QC もほぼ0Vでオンできる。漏れインダクタンスと CC が共振し、ためたエネルギーがトランスを通って出力へ送られる。
コントローラが QC のオン時間を調整して逆向きの1次電流を作る。QC をオフするとこの電流がスイッチノードの容量を放電し、Q1 は電圧がほぼ0Vになってからオンする。
TI は「アクティブクランプは、うまく制御しないと効率がかえって悪くなる」としています。QC のオン時間や切り替えのタイミングを、負荷や入力電圧に合わせて調整する専用のコントローラを使うのはこのためです。
IGBT の保護回路で「アクティブクランプ」と呼ぶものは、コレクタとゲートの間にツェナーダイオードを入れ、サージ電圧がツェナー電圧に近づくと IGBT を少しオンさせて電圧を抑える回路です(富士電機のマニュアル)。この記事のフライバックのアクティブクランプとは別の回路です。

3つのクランプ・スナバ方式を比較
RC スナバ、RCD クランプ(スナバ)、アクティブクランプの違いを、メーカーの資料の内容で整理します。
比較表:3つの方式
| 比較項目 | RCスナバ | RCDクランプ・RCDスナバ | アクティブクランプ |
|---|---|---|---|
| 分類 | パッシブ | パッシブ | アクティブ(スイッチを制御する) |
| 主要部品 | R+C | R+C+D | C+MOSFET+制御(専用コントローラ) |
| 漏れ・サージのエネルギーの行方 | 抵抗で熱 | 抵抗で熱 | コンデンサにため、出力へ送り返す |
| 損失 | 大きい(コンデンサを毎回空にする分も熱) | サージの分が熱。周波数に比例して増える | クランプはほぼ損失なし(制御が適切なとき) |
| メインスイッチの ZVS | できない | できない | できる |
| コスト・設計の難しさ | 安い・やさしい | 中くらい | 高い・難しい(ハイサイドの駆動、タイミング制御) |
| 向いている所 | 小電力・低い周波数 | 一般的なフライバックの1次側 | 周波数を上げて小型にしたい AC アダプター(TI は 200kHz 以上を例に挙げる) |
RC と RCD はどちらもエネルギーを熱にする。違いは熱にする量。アクティブクランプだけが、エネルギーを回収して出力に使い、さらに ZVS でスイッチング損失も減らせる。

アクティブクランプのメリット・デメリット
メリット
超高効率
漏れインダクタンスのエネルギーを熱にせず出力へ送り返す。周波数を上げても損失が増えにくい
発熱が極小
熱設計が楽になり、放熱部品を小型化できる
クランプ電圧を精密制御
サージのピーク電圧を正確に制限できる
ZVS動作が可能
ゼロ電圧スイッチング(ZVS)を実現し、スイッチング損失も低減
EMIノイズ低減
サージが抑制され、電磁ノイズが減少
耐圧の低い素子が使える
サージが抑制されるため、低耐圧・低オン抵抗の素子を選べる
デメリット
コストが高い
MOSFET、ゲートドライバIC、制御回路が追加で必要
設計が複雑
タイミング制御、デッドタイム設定など専門知識が必要
部品点数が増える
実装面積が増え、基板設計の難易度が上がる
同時ON(アームショート)のリスク
タイミングを間違えると素子が破壊される危険
専用ICが必要なことも
自作は難しく、アクティブクランプ対応コントローラICを使うことが多い
以下の条件に当てはまるなら、アクティブクランプを検討する価値があります:
・高周波スイッチング(100kHz〜数MHz)
・高効率が求められる(90%以上)
・発熱を最小限に抑えたい
・GaN/SiCなど次世代デバイスを使う
・コストより性能を優先できる
TVSダイオードのクランプ電圧とピーク電流

アクティブクランプの設計ポイント
アクティブクランプの設計で押さえるべきポイントを解説します。
クランプコンデンサの設計
クランプコンデンサは、サージエネルギーを一時的に蓄える役割を持ちます。
クランプコンデンサの容量は、以下の条件を満たすように選定します:
- サージエネルギーを吸収できる容量
- 電圧リップルが許容範囲内(通常5〜10%以下)
- 漏れインダクタンスとの共振の周期が、クランプスイッチのオン時間に合う容量(コントローラのデータシートの設計手順に従う)
実際の設計では、数nF〜数百nFの範囲で、シミュレーションや実測を通じて最適値を決定します。
クランプMOSFETの選定
| チェック項目 | 確認内容 | 推奨 |
|---|---|---|
| 耐圧 VDSS | クランプ電圧以上 | Vclamp × 1.5倍以上 |
| オン抵抗 RDS(on) | 損失に直結 | できるだけ低い値 |
| ボディダイオード特性 | 逆回復特性 | 高速リカバリ品 |
| ゲート電荷 Qg | 駆動損失に影響 | 小さいほど良い |
タイミング制御(デッドタイム)
アクティブクランプで最も重要なのがタイミング制御です。メインスイッチとクランプMOSFETが同時にONになると、電源がショートして素子が破壊されます。
メインMOSFETとクランプMOSFETが同時ONになると、入力コンデンサ・クランプコンデンサ→クランプMOSFET→メインMOSFETの経路でコンデンサが短絡され、大きな短絡電流が流れます。これを「アームショート」や「シュートスルー」と呼び、瞬時に素子が破壊されます。
これを防ぐために、両方のMOSFETがOFFになる期間「デッドタイム」を設けます。
デッドタイムは、MOSFETのターンオン/ターンオフ時間を考慮して設定します。
一般的には 50ns〜200ns 程度。短すぎるとショートのリスク、長すぎるとボディダイオードでの損失が増加。

アクティブクランプ対応のコントローラIC
アクティブクランプのタイミングを自分で作るのは大変です。実務では、アクティブクランプ フライバック用のコントローラICを使うのが一般的です。
アクティブクランプ フライバック用のIC(例)
| メーカー | IC | 特徴(メーカーの資料から) |
|---|---|---|
| Texas Instruments | UCC28780 | アクティブクランプ フライバックのコントローラ。QC のオン時間を調整して ZVS をつくる。Si・GaN のどちらにも対応 |
| onsemi | NCP1568 | アクティブクランプ フライバックの PWM コントローラ。可変周波数で ZVS をつくる(一部の品番は生産終了なので、採用前に状況を確かめる) |
| Power Integrations | InnoSwitch4-CZ + ClampZero | スイッチと制御を1つにした IC と、アクティブクランプ用の IC の組み合わせ。USB PD 充電器など〜110W 向け |
似た名前でも別の用途の IC があります。たとえば TI の UCC24624 は LLC 共振コンバータ用の同期整流コントローラ、Infineon の XDPS21071 は低耐圧の MOSFET を使って ZVS をつくる「強制周波数共振」方式のフライバック用コントローラで、どちらもアクティブクランプのコントローラではありません。
・QC のオン時間と切り替えのタイミングを自動で調整する
・ZVS になったかを検出する機能を持つものが多い
・タイミングの設計にかかる手間を大きく減らせる
アクティブクランプの応用例
よく使われる用途
- USB PD 充電器・AC アダプター:周波数を上げてトランスを小さくしたい小型の電源。TI の評価ボード(45W・GaN)や、Power Integrations の InnoSwitch4-CZ を使った充電器がある
- ノートPC 用アダプター:onsemi は NCP1568 を使った 60W のノートPC アダプターの設計例を出している
- フォワードコンバータ:トランスのリセットにアクティブクランプを使う方式もあり、TI の UCC2891 系などの専用コントローラがある
どれも数十〜百数十W クラスの電源が中心です。数百W 以上の大きな電源では、LLC 共振コンバータなど別の方式が多く使われます。
- Texas Instruments「Increasing Power Density With the Active Clamp Flyback Controller (UCC28780)」SLUA871:パッシブクランプの損失の式、漏れエネルギーの回収と ZVS
- Texas Instruments「Intelligently Control an Active Clamp Flyback」SSZT780:制御が適切でないと効率がかえって悪くなること
- onsemi NCP1568 製品ページ:アクティブクランプ フライバックの PWM コントローラ
- 富士電機「IGBT Modules Application Manual」REH984g:第5章(IGBT のアクティブクランプ回路、RCD スナバ)
資料は改訂されることがあり、IC の供給状況も変わります。設計に使うときは、発行元の最新版で確かめてください。

パワーエレクトロニクスの全体を、図でつかみたいときに向いています。パワーエレクトロニクスを、カラーの図解で解説した本です。
回路の電圧や導通を自分の手で確かめるなら、手元にテスターが1台あると便利です。三和電気計器のデジタルマルチメータ(テスター)CD772です。電圧や抵抗などを測れます。
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まとめ
アクティブクランプ回路について、動作原理から設計ポイントまで解説しました。
この記事のポイント
- アクティブクランプ:クランプスイッチ(MOSFET)とコンデンサで漏れインダクタンスのエネルギーをため、出力へ送り返す方式
- RCDとの違い:エネルギーを抵抗で熱にせず回収し、メインスイッチの ZVS もできる
- 効率:制御が適切なら、クランプの損失はほぼなくなる(制御が悪いとかえって悪化)
- 注意点:タイミング制御(デッドタイム)が必須、アームショートに注意
- 実務:アクティブクランプ対応コントローラICを使うのが一般的
スナバ方式の選択ガイド
| RCスナバ | 低周波・小電力・コスト重視 |
| RCDスナバ | 中〜高周波・中電力・バランス重視 |
| アクティブクランプ | 高周波・高電力・効率最優先 |
アクティブクランプは設計の難易度が高いものの、GaN/SiCデバイスの普及や高効率規制の強化により、今後ますます重要な技術になっていきます。専用ICを活用しながら、ぜひチャレンジしてみてください。
次に読むべき記事
この記事の内容がわかったら、保護回路とスナバの次のテーマに進みましょう。続けて読むと、現場でそのまま使える知識になります。
テーマ別に、もっと深く学ぶ
気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめて学ぶ人向けにやさしく書いています。
スナバ回路を基礎から学びたい方は、以下の順番で読むのがおすすめです:
- スナバ回路とは?(基礎)
- RCスナバ回路の設計計算
- RCDスナバ回路の設計
- アクティブクランプ回路(この記事)
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。
