- 「相互インダクタンスM」と言われても、何が"相互"なのかイメージできない
- 「結合係数k」の公式 M = k√(L₁L₂) を丸暗記しているけど、意味がわからない
- 和動接続・差動接続で「+2M」「-2M」のどっちだっけ?と毎回迷う
- 自己インダクタンスは理解できたのに、相互になった瞬間にわからなくなる
- 相互インダクタンスMとは「2つのコイルの磁気的つながりの強さ」
- 結合係数kとは「磁束の何%が相手に届いているか」
- 和動接続・差動接続の公式の"意味"と覚え方
- 計算例つきで、試験問題を自力で解けるようになる
相互インダクタンスMは「コイル1が作った磁束のうち、コイル2まで届いた分」を数値化したものです。2つのコイルを直列接続すると、磁束が強め合う「和動接続」ではMがプラスに働き、打ち消し合う「差動接続」ではMがマイナスに働きます。結合係数kは「磁束の届き具合(0〜100%)」を表すパーセンテージのようなもの。これらを「磁束の行き先」のイメージで理解すれば、公式の丸暗記から卒業できます。
前回の記事では、自己インダクタンスLについて学びました。コイル1個が「自分で作った磁束で、自分に電圧を誘導する」という現象でしたね。
今回は、その発展形。コイルが2個になったときに何が起きるのか?を徹底解説します。
変圧器(トランス)の原理そのものであり、電験三種では和動接続・差動接続の計算問題が繰り返し出題されている超頻出テーマです。この記事で確実にマスターしましょう。
目次
🔗 「相互誘導」とは何か?|自己誘導との違い
自己誘導=一人芝居、相互誘導=キャッチボール
自己インダクタンスの記事で学んだ「自己誘導」は、コイル1個が自分自身に電圧を誘導する現象でした。いわば「一人芝居」です。
一方、「相互誘導」は2つのコイルの間で起きる現象です。コイル1が作った磁束がコイル2を貫き、コイル2に電圧が発生する。まさに磁束のキャッチボールです。
相互誘導
- コイル 2個
- 一方の磁束でもう一方に電圧発生
- 強さ → 相互インダクタンスM
- イメージ:「磁束のキャッチボール」
相互誘導のメカニズム(4ステップ)
コイル1に電流 i₁ を流す
→ コイル1の周りに磁束 Φ₁ が発生する
磁束 Φ₁ の一部がコイル2を貫く
→ この「届いた磁束」を Φ₁₂ と呼ぶ(1→2に届いた磁束)
コイル1の電流 i₁ が変化する
→ コイル2を貫く磁束 Φ₁₂ も変化する
コイル2に電圧(起電力)が発生!
→ ファラデーの法則により、磁束の変化が電圧を生む
工場のライン1(コイル1)が稼働すると「振動」(磁束)が発生しますよね。その振動が床を伝わって隣のライン2(コイル2)にも伝わり、ライン2の計器が反応する——これが「相互誘導」のイメージです。振動の伝わり方が強いほど、相互インダクタンスMが大きいということです。
相互誘導の最も身近な応用は変圧器(トランス)です。1次コイルの電流変化が磁束を通じて2次コイルに電圧を生む。これが変圧器の原理そのものです。詳しくは変圧器の基本原理の記事で解説しています。

📐 相互インダクタンスMとは?|定義と公式
Mの定義式
M:相互インダクタンス [H] N₂:コイル2の巻数 Φ₁₂:コイル1→2に届いた磁束 [Wb] I₁:コイル1の電流 [A]
この式を言葉にすると——
「コイル1に1Aの電流を流したとき、コイル2にどれだけの磁束鎖交が届くか」
つまりMは、2つのコイルの「磁気的なつながりの強さ」を数値化したものです。
自己インダクタンスLとの比較で理解する
| 項目 | 自己インダクタンス L | 相互インダクタンス M |
|---|---|---|
| 定義 | L = NΦ / I | M = N₂Φ₁₂ / I₁ |
| 意味 | 自分→自分への磁束鎖交 | 自分→相手への磁束鎖交 |
| たとえ | 「自分の声が自分の耳に響く」 | 「自分の声が隣の人に届く」 |
| 単位 | [H](ヘンリー) | [H](ヘンリー)← 同じ |
| コイルの数 | 1個 | 2個 |
相互誘導起電力の公式
コイル1の電流が変化したとき、コイル2に誘導される電圧は次の式で表されます。
e₂ = -M × (di₁/dt)
e₂:コイル2に発生する起電力 [V] M:相互インダクタンス [H]
di₁/dt:コイル1の電流の時間変化率 [A/s]
自己誘導起電力の公式 e = -L(di/dt) と形がそっくりですよね。違いは「Lの代わりにM」「自分の電流変化ではなく、相手の電流変化」という2点だけです。
マイナスの意味はレンツの法則と同じ。「磁束の変化を打ち消す向き」に電圧が発生します。試験では大きさ(絶対値)を問われることが多いので、符号を気にしすぎる必要はありません。

📊 結合係数kとは?|磁束の「到達率」
kは「磁束が何%相手に届いたか」を表す
コイル1が作った磁束Φ₁のうち、すべてがコイル2に届くとは限りません。一部は空気中に漏れてしまいます。
この「届いた割合」を表すのが結合係数kです。
k:結合係数(0 ≤ k ≤ 1) L₁, L₂:各コイルの自己インダクタンス [H]
kの値が意味すること
| kの値 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| k = 1 | 磁束が100%相手に到達(漏れゼロ) | 理想的な鉄心入り変圧器 |
| 0 < k < 1 | 磁束の一部が漏れている | 実際の変圧器(k ≈ 0.95〜0.99) |
| k = 0 | 磁束がまったく届かない(結合なし) | 2つのコイルが遠く離れている |
k = 1 は、ライン1の振動が床を通じて100%ライン2に伝わる状態。k = 0.5 は、途中の防振ゴムで半分吸収されて50%しか伝わらない状態。kが大きいほど「コイル同士の磁気的な絆が強い」と覚えてください。
① 鉄心を使って磁束の通り道を作る(漏れ磁束が減る)
② 2つのコイルを近づける
③ 2つのコイルを同じ鉄心に巻く(変圧器の構造)

🎯 磁束の「行き先」を整理しよう|漏れ磁束と結合磁束
相互インダクタンスと結合係数を深く理解するカギは、磁束の行き先を追いかけることです。
コイル1が作る磁束の内訳
コイル1に電流 i₁ を流すと、磁束 Φ₁ が発生します。この磁束には2つの「行き先」があります。
磁束の総量
Φ₁ = Φ₁₂ + Φ漏れ
結合係数 k = Φ₁₂ / Φ₁ (=届いた割合)
k = 1 なら Φ漏れ = 0(全部届く)。k = 0 なら Φ₁₂ = 0(全部漏れる)。この「磁束の行き先」のイメージさえ持てば、結合係数の問題は怖くありません。
「Φ₁ = 0.01Wb、そのうち Φ₁₂ = 0.008Wb がコイル2に鎖交した。結合係数kを求めよ。」
→ k = 0.008 / 0.01 = 0.8 このタイプの問題は磁束の行き先を整理するだけで解けます。

⚡ 和動接続・差動接続|2つのコイルを直列につなぐ2つの方法
ここからが電験三種で最も出題される部分です。2つのコイルを直列に接続する方法は2種類あり、磁束の向きによって合成インダクタンスがまったく違う値になります。
和動接続=磁束が「味方同士」で強め合う
2つのコイルが作る磁束が同じ方向を向く接続が「和動接続」です。磁束が互いに強め合うので、合成インダクタンスは大きくなります。
和動接続の合成インダクタンス
L和 = L₁ + L₂ + 2M
磁束が強め合う → Mの分だけプラス
差動接続=磁束が「敵同士」で打ち消し合う
2つのコイルが作る磁束が反対方向を向く接続が「差動接続」です。磁束が互いに打ち消し合うので、合成インダクタンスは小さくなります。
差動接続の合成インダクタンス
L差 = L₁ + L₂ - 2M
磁束が打ち消し合う → Mの分だけマイナス
一覧表で比較する
| 項目 | 和動接続 | 差動接続 |
|---|---|---|
| 磁束の向き | 同じ方向(→→) | 反対方向(→←) |
| 磁束の関係 | 強め合う | 打ち消し合う |
| 合成インダクタンス | L₁ + L₂ + 2M | L₁ + L₂ - 2M |
| Mの効果 | +2M(増える) | -2M(減る) |
| 合成値の大小 | 大きい | 小さい |
「2」が付く理由は、相互作用が双方向だからです。コイル1→コイル2 と コイル2→コイル1 の2方向で磁束が影響し合うため、Mが2倍になります。これは抵抗の直列接続(R₁ + R₂)と違い、コイルには「お互いに影響し合う」という特別な関係があるためです。
「和動 = 和(わ)= +(プラス)」「差動 = 差(さ)= -(マイナス)」
「和」は足す、「差」は引く。名前の中に答えが入っています。これだけで一生忘れません。

🧮 試験テクニック|和動と差動の式からMを求める方法
電験三種では「和動接続のインダクタンスと差動接続のインダクタンスが与えられて、Mやkを求める」パターンが頻出です。このテクニックは必ず押さえておきましょう。
和動と差動の「差」からMが求まる
和動接続と差動接続の式を並べてみます。
L和 = L₁ + L₂ + 2M … ①
L差 = L₁ + L₂ - 2M … ②
① - ② を計算すると:
L和 - L差 = 4M
和動と差動のインダクタンスが分かれば、Mは引いて4で割るだけ!
同様に L₁ + L₂ も求まる
① + ② を計算すると:
L和 + L差 = 2(L₁ + L₂)
∴ L₁ + L₂ = (L和 + L差) / 2
この2つのテクニックをセットで覚えておけば、和動・差動の値からM、L₁+L₂、さらにkまですべて芋づる式に求められます。
引き算(① - ②) → M が求まる
足し算(① + ②) → L₁ + L₂ が求まる
この「引き算=M、足し算=L」のペアで覚えましょう。

🧮 計算例①|基本問題:合成インダクタンスを求める
自己インダクタンスがそれぞれ L₁ = 8H、L₂ = 2H の2つのコイルがあり、相互インダクタンスは M = 3H である。
(1)和動接続の合成インダクタンスを求めよ。
(2)差動接続の合成インダクタンスを求めよ。
解答(1)和動接続
L和 = L₁ + L₂ + 2M
L和 = 8 + 2 + 2×3
L和 = 10 + 6
L和 = 16 H
解答(2)差動接続
L差 = L₁ + L₂ - 2M
L差 = 8 + 2 - 2×3
L差 = 10 - 6
L差 = 4 H
必ず L和 > L差 になるはずです(Mは正の値なので)。もし L差 > L和 になったら、どこかで符号を間違えています。
今回:16H > 4H → ✅ 正しい。
ちなみに、検算として先ほどのテクニックを使うと——
M = (L和 - L差) / 4 = (16 - 4) / 4 = 3H ✅ 問題文と一致!

🧮 計算例②|試験頻出:和動・差動から結合係数kを求める
環状鉄心に2つのコイルが巻いてある。端子の接続を変えて測定したところ、
和動接続のインダクタンス L和 = 22 mH
差動接続のインダクタンス L差 = 2 mH
であった。自己インダクタンスが L₁ = 10 mH、L₂ = 2 mH のとき、結合係数 k を求めよ。
解答:ステップバイステップ
M = (L和 - L差) / 4
M = (22 - 2) / 4
M = 20 / 4
M = 5 mH
k = M / √(L₁ × L₂)
k = 5 / √(10 × 2)
k = 5 / √20
k = 5 / 4.47...
k ≈ 1.12 → あれ?k > 1 になってしまった!
k > 1 は物理的にあり得ません(0 ≤ k ≤ 1)。答えが1を超えた場合は、L₁ と L₂ の値を問題文からそのまま使ってはいけないケースです。
実際の試験(R4上期問3)では、コイルの配置から和動・差動のどちらかを見抜き、連立方程式で L₁, L₂ を求める必要がありました。問題文をよく読み、与えられた条件を正確に整理することが大切です。
ここでは、正しいL₁, L₂が与えられた場合の計算手順を確認しましょう。
L₁ = 8 mH、L₂ = 4 mH、M = 5 mH のとき、kを求めよ。
k = M / √(L₁ × L₂)
k = 5 / √(8 × 4)
k = 5 / √32
k = 5 / 5.66
k ≈ 0.884 ✅(0 ≤ k ≤ 1 の範囲内)
√の計算が面倒なときは、√(L₁×L₂) の部分を先に二乗で検算する。k = M / √(L₁L₂) → k² = M² / (L₁L₂) とすれば、ルートを避けて検算できます。
上の例:k² = 25/32 = 0.781 → k = √0.781 ≈ 0.884

📌 まとめ|公式チートシート
📋 相互インダクタンス・結合係数 公式一覧
| 公式名 | 式 |
|---|---|
| 相互インダクタンス(定義) | M = N₂Φ₁₂ / I₁ [H] |
| 相互誘導起電力 | e₂ = -M(di₁/dt) [V] |
| 結合係数 | M = k√(L₁L₂) → k = M / √(L₁L₂) |
| 和動接続 | L和 = L₁ + L₂ + 2M |
| 差動接続 | L差 = L₁ + L₂ - 2M |
| MをL和・L差から求める | M = (L和 - L差) / 4 |
🎯 この記事のポイント3つ
① 相互インダクタンスM=「2つのコイルの磁気的つながりの強さ」。コイル1の磁束がコイル2にどれだけ届くかを表す。
② 結合係数k=「磁束の到達率(0〜100%)」。k=1なら全部届く、k=0なら全部漏れる。
③ 和動(+2M)・差動(-2M)=「和」は足す、「差」は引く。名前の中に答えがある。
相互インダクタンスと結合係数は、変圧器の理解にも直結する重要概念です。今回学んだ「磁束の行き先を追いかける」イメージを忘れずに、交流回路の学習を進めましょう。
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