- 「鉄損=ヒステリシス損+渦電流損」は暗記したが、それぞれ何なのかイメージできない
- 変圧器の効率計算で「鉄損は一定、銅損は負荷の2乗に比例」と覚えているが、なぜ一定なのかわからない
- 渦電流損を「減らす対策」を問われて「成層鉄心にする」と答えたが、なぜそれで減るのか説明できない
- ヒステリシスループ(B-H曲線)の図は見たことがあるが、なぜ面積が損失になるのかピンとこない
- 渦電流損=「鉄心の中に渦巻き電流が流れて発熱する」メカニズム
- ヒステリシス損=「磁区の方向転換で摩擦熱が生じる」メカニズム
- それぞれの損失公式と、周波数・磁束密度との関係
- 対策(成層鉄心・珪素鋼板)の理由を原理から説明できるようになる
鉄損とは、交流磁界の中で鉄心(磁性体)が発熱して失われるエネルギーのことです。原因は2つ。渦電流損は「磁束変化で鉄心内に電流が発生し、ジュール熱として消費される損失」。ヒステリシス損は「磁束の向きが繰り返し変わるたびに、鉄心内部の磁区が方向転換する際の摩擦による損失」。前者はファラデーの法則、後者は磁性体の性質に起因します。
鉄損は理論科目の「電磁気」分野で出題されるだけでなく、機械科目の変圧器や誘導機の損失計算にも直結する科目横断テーマです。
この記事では、2つの損失の発生メカニズムを「原理 → イメージ → 公式 → 対策」の順番で丁寧に解説します。
目次
🔥 鉄損とは?|「鉄心が熱くなる」損失の全体像
まずは「鉄損」の全体像を把握しましょう。
鉄損(iron loss)とは、交流磁界の中に置かれた鉄心(磁性体)で発生するエネルギー損失のこと。失われたエネルギーは熱に変わる。
鉄損 = 渦電流損 + ヒステリシス損
これが鉄損の「家族構成」です。原因がまったく異なる2種類の損失が、たまたま同じ鉄心で発生しているだけなのです。
なぜ鉄損は「交流」のときだけ発生するのか?
ポイントは「磁束が時間的に変化すること」です。
直流(磁束一定)の場合、渦電流もヒステリシスの繰り返しも発生しないため、鉄損は原理的にゼロです。交流では磁束が常に変化し続けるから、鉄損が発生します。
鉄損は電圧(=磁束)に依存し、負荷電流には依存しない。
変圧器の効率計算で「鉄損=一定」となるのは、電圧が一定なら磁束も一定だからです。一方、銅損は電流の2乗に比例。この違いは変圧器の損失と効率の計算で必ず使います。

🌀 渦電流損とは?|「鉄心の中に電流が渦巻く」
渦電流が発生するメカニズム
ファラデーの法則を思い出してください。「磁束が変化すると、電圧(起電力)が発生する」でしたね。
コイルに限らず、鉄心も「電気を通す物体(導体)」です。鉄心の中で磁束が変化すると、鉄心の内部にも起電力が誘導され、鉄心自体に電流が流れてしまうのです。
交流電流がコイルに流れ、鉄心の中の磁束Φが時間的に変化する
ファラデーの法則により、鉄心内部に起電力が誘導される
鉄心は導体なので、誘導された起電力によって鉄心内部に電流が「渦巻き状」に流れる → これが渦電流
渦電流が鉄心の電気抵抗を通るとき、ジュール熱(I²R)が発生 → これが渦電流損
お風呂の栓を抜くと、水が渦を巻きながら排水口に流れていきますよね。あの「渦」を想像してください。
鉄心の中でも、磁束の変化に引きずられて電流が渦巻き状に流れます。水の渦が排水口の壁にぶつかって熱を生むように、電流の渦が鉄心の抵抗にぶつかって熱を生む。これが渦電流損です。
渦電流損の公式
Pₑ ∝ f² × Bₘ² × t²
f:周波数 [Hz] Bₘ:最大磁束密度 [T] t:鉄板の厚さ [m]
| 要素 | 影響 | 理由 |
|---|---|---|
| 周波数 f | f² に比例 | 磁束の変化速度が速い → 誘導起電力が大きい → 電流も大きい |
| 磁束密度 Bₘ | Bₘ² に比例 | 磁束の振幅が大きい → 変化量も大きい → 起電力も大きい |
| 鉄板の厚さ t | t² に比例 | 厚い → 渦電流のループが大きい → 電流が増える |
渦電流損を減らす最も効果的な方法は鉄板を薄くすることです。厚さを半分にすれば損失は1/4になる。だから変圧器の鉄心は、分厚い鉄の塊ではなく、薄い鉄板を何枚も重ねた「成層鉄心」を使うのです。

🛡️ 渦電流損の対策|なぜ「成層鉄心」にするのか?
対策①:成層鉄心(薄い鉄板を積み重ねる)
渦電流損を減らす最も一般的な対策が成層鉄心です。
分厚い鉄心(1枚板)
渦電流が大きなループで流れる
→ 電流大 → 発熱大
損失:大
薄い鉄板の積み重ね(成層鉄心)
各層で渦電流のループが小さくなる
→ 電流小 → 発熱小
損失:小
広い川(太い鉄心)に大きな渦が発生するのを防ぐために、川を細い水路に分割する(薄い鉄板に分ける)イメージです。各水路では小さな渦しかできないので、全体のエネルギー損失が大幅に減ります。
さらに、各鉄板の表面には絶縁被膜(ワニスなど)が塗られています。これにより、鉄板間を電流が流れるのを防ぎ、渦電流をさらに抑制します。
対策②:珪素鋼板(電気抵抗を上げる)
もう一つの対策は、鉄にケイ素(Si)を添加して電気抵抗を大きくすることです。
渦電流損は I²R のジュール熱ですが、抵抗Rが大きいと電流Iが流れにくくなり、結果として損失が減ります。変圧器や電動機の鉄心に「珪素鋼板」が使われるのはこのためです。
「渦電流損を低減する方法として正しいものを選べ」→ 答えは「鉄心を薄い珪素鋼板の成層鉄心にする」。「薄い」(ループを小さく)+「珪素」(抵抗を上げる)の2つのキーワードをセットで覚えましょう。

🔄 ヒステリシス損とは?|「磁区の方向転換の摩擦」
まず「磁区」を知ろう
ヒステリシス損を理解するには、鉄の内部構造を知る必要があります。
鉄などの強磁性体の内部には、「磁区(じく)」と呼ばれる小さな領域がたくさんあります。各磁区は小さな磁石のように、それぞれの方向を向いています。
体育館に100人がコンパスを持って立っていると想像してください。最初は全員バラバラの方向を向いています(磁化されていない状態)。
ここで「全員北を向け!」と号令をかけると、みんながザワザワと体の向きを変えます。この方向転換するときの「人と人のぶつかり合い」がヒステリシス損のイメージです。
ヒステリシス損が発生するメカニズム
外部磁界Hをかける → 磁区が磁界の方向に揃い始める
磁界の方向が反転する(交流なので) → 磁区が反対方向に向きを変える
方向転換のたびに、磁区同士が「摩擦」を起こす → エネルギーが熱として消費される
これが1サイクルごとに繰り返される → 周波数が高いほど繰り返し回数が増える → 損失も増える
ヒステリシスループ(B-H曲線)と損失の関係
磁界H(横軸)と磁束密度B(縦軸)の関係をグラフにすると、交流1サイクルでループ状の曲線を描きます。これが「ヒステリシスループ」です。
ヒステリシスループの面積 = 1サイクルあたりのヒステリシス損
ループが太い(面積が大きい)→ 損失が大きい
ループが細い(面積が小さい)→ 損失が小さい
ヒステリシス損の公式
Pₕ ∝ f × Bₘ1.6
f:周波数 [Hz] Bₘ:最大磁束密度 [T]
(スタインメッツの実験式。指数1.6は材料によって異なる)
渦電流損:Pₑ ∝ f² × Bₘ²(周波数が2乗で効く)
ヒステリシス損:Pₕ ∝ f × Bₘ¹·⁶(周波数は1乗)
→ 周波数が高くなると、渦電流損のほうが急激に増える。だから高周波で使う鉄心ほど、渦電流損の対策(薄い鉄板)が重要になります。

🛡️ ヒステリシス損の対策|「ループが細い材料」を選ぶ
ヒステリシス損は鉄心の材質そのもので決まります。つまり、対策は「損失の少ない材料を選ぶ」ことです。
軟磁性体 vs 硬磁性体
| 項目 | 軟磁性体(ソフト磁性) | 硬磁性体(ハード磁性) |
|---|---|---|
| ヒステリシスループ | 細い(面積小) | 太い(面積大) |
| ヒステリシス損 | 小さい | 大きい |
| 保磁力 | 小さい(磁化しやすく消磁しやすい) | 大きい(磁化しにくく消磁しにくい) |
| 用途 | 変圧器の鉄心、モーターのコア | 永久磁石 |
| 代表例 | 珪素鋼板、パーマロイ | ネオジム磁石、フェライト磁石 |
軟磁性体はストレッチをしている柔軟な人。体の向きをスムーズに変えられるので、摩擦(損失)が少ない。
硬磁性体は筋肉質でガチガチの人。向きを変えるたびに大きなエネルギーが必要(損失が大きい)。でも一度向いた方向をしっかり維持する力は強い(→ 永久磁石に最適)。
「変圧器の鉄心には保磁力の大きい材料を使う」→ ×(保磁力が大きい=ループが太い=損失大)
「変圧器の鉄心には保磁力の小さい軟磁性体を使う」→ ○

📊 渦電流損 vs ヒステリシス損|完全比較表
2つの損失を並べて整理しましょう。この表を丸ごと頭に入れるのが最も効率的です。
| 比較項目 | 🌀 渦電流損 Pₑ | 🔄 ヒステリシス損 Pₕ |
|---|---|---|
| 発生原因 | 鉄心に流れる渦電流のジュール熱 | 磁区の方向転換の摩擦熱 |
| 物理法則 | ファラデーの法則(電磁誘導) | 磁性体の性質(ヒステリシス特性) |
| 周波数依存性 | f²(2乗) | f(1乗) |
| 磁束密度依存性 | Bₘ²(2乗) | Bₘ¹·⁶(1.6乗) |
| 主な対策 | 成層鉄心(薄い鉄板)+珪素鋼板 | 保磁力の小さい軟磁性体を選ぶ |
| B-H曲線との関係 | 直接の関係なし | ループ面積=1サイクルの損失 |
| 高周波での影響 | 急激に増加(f²) | 増加するが渦電流損ほどではない |
「渦は2乗、ヒスは1乗」
渦電流損の周波数依存が f² 、ヒステリシス損の周波数依存が f。この「2」と「1」さえ覚えれば、選択肢を絞り込めます。

🔌 変圧器の損失計算への橋渡し|鉄損=一定、銅損=可変
最後に、この知識が機械科目の変圧器にどう繋がるかを整理します。
| 損失の種類 | 別名 | 依存する要素 | 負荷との関係 |
|---|---|---|---|
| 鉄損 Pᵢ | 無負荷損 | 電圧(磁束密度)と周波数 | 一定(負荷に依存しない) |
| 銅損 Pᶜ | 負荷損 | 電流(I²R) | 電流の2乗に比例 |
なぜ鉄損が「一定」なのか?それは、電源電圧と周波数が一定なら、磁束密度Bₘも一定だからです。負荷(2次側の電流)がいくら変化しても、鉄心の磁束は変わらない。だから鉄損は負荷に依存しません。
変圧器の効率が最大になるのは「鉄損=銅損」のとき。これは機械科目の超頻出テーマです。鉄損の意味を理解していれば、この条件が「なぜそうなるか」も納得できます。詳しくは変圧器の基本原理の記事で解説しています。
📌 まとめ
🎯 この記事のポイント
① 鉄損 = 渦電流損 + ヒステリシス損。交流磁界の中で鉄心が発熱する2つの原因。
② 渦電流損=鉄心にファラデーの法則で電流が渦巻く → I²Rのジュール熱。対策は成層鉄心(薄い鉄板)+珪素鋼板。
③ ヒステリシス損=磁区が方向転換するときの摩擦熱。対策は保磁力の小さい軟磁性体を選ぶ。
④ 覚え方:「渦は2乗、ヒスは1乗」。渦電流損 ∝ f²、ヒステリシス損 ∝ f。
⑤ 変圧器では鉄損=一定(無負荷損)。銅損=電流の2乗に比例(負荷損)。最高効率は鉄損=銅損のとき。
📚 次に読むべき記事
鉄損の知識がそのまま活きる。機械科目の超頻出テーマ
渦電流が発生する根本原理「ファラデーの法則」を復習
鉄損の公式を含む理論科目の全公式を確認
勉強環境を整えたい方はこちら